今年も世界最大級の家電ショーであるIFA2013がベルリンで開幕した。キーワードはやはり4Kとスマートテレビではあるのだが、これまでとは少しばかり事情が変化しているように思える。それは4Kがもはや当たり前であり、それを使って何をするかというスマートテレビは、スマートテレビというモノや機能やサービスがあるのではなく、4Kテレビとクラウドとの橋渡し役の意味になり、その役目はスマートフォンが果たすのだろうということだ。

フルHD以降のテレビのおさらい

まずはIFA2013の話をする前に、HDTV以降のテレビの流れをもういちど俯瞰してみよう。HDTVが各国でサービス開始となり、初期需要が一巡したことで、各社が次の謳い文句として3Dをこぞって選択した。テレビだけではなく、映画まで言及したカメラなどの制作環境も用意したが結果は失敗に終わったと言っていいだろう。

そこで次に登場したのが4Kだ。これは要するに4倍絵がキレイになるというシンプルな話であるので、技術的な正常進化と言える。いや、それでしかない。ゆえに、必然的に制作、伝送、表示の各レイヤーで価格が適正に、すなわちフルHDと同等になれば当たり前に普及していく。このスピードは、アナログからデジタルへの移行に要した、超えなければならない壁の克服に比べればはるかに簡単であるからだ。デジタルの世界でフルHDの4倍の情報を扱えるようになるのはあっという間であるからだ。

4Kは当たり前の領域に突入

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パナソニックの4Kコンテンツ配信サービス「Panasonic 4K Channel」

ではIFA2013では4Kはどうなっているのか。あくまでもコンシューマーベースの話ではあるが、4Kは当たり前になる一歩手前という感じである。ディスプレイに関しては各社一斉に4Kラインナップを充実させている。そして今年はパナソニックも4Kビエラを登場させ、4Kコンテンツの配信サービスも開始した。東芝はお得意の超解像技術を用いたアップスケーリングできるブルーレイプレイヤーを発表した。

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東芝のアプスケーリング機能搭載のブルーレイプレイヤー「BDX6400KE」

4Kにおいては家庭に4Kソースが無いという課題がある。これを克服するために韓国では地上波の実験放送が昨年から行われているが、ヨーロッパではユーロサットを使って今年の1月から、日本でもまもなくJSATを使った実験波が出る段取りである。日本においての放送開始は来年を予定しており、東京オリンピックの開催決定と相まって、4Kや8Kを放送で送り届けるための準備が加速することは間違いない。

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eutelsatを使った衛星による4K伝送サービスの受信機

当面アップスケーリングが地味ながらキーワード

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ソニー4K X-Realityによるアップスケーリングの比較

とはいえ、こうした放送というのは、実現まではどうしても時間がかかる。そこで待ちきれないメーカー各社は、既存のデジタル放送やブルーレイといった映像ソースをアップスケーリングしても十分綺麗にできることを訴求している。これまでに比べて2Kとアップスケーリング4Kの比較展示が目立つ。小手先の技術と言われそうだがその進化はめざましく、その昔、横長ブラウン管テレビでハイビジョンもOKと言っていたことに比べれば、はるかにまともな話である。

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LGのTru-ULTRA HD Engineによるアップスケーリング比較

スマホもついに4K

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サムスンGALAXY Note 3の4K動作設定画面

そしてなんといっても今年の注目はサムスンやAcerから4K30fpsで動画撮影が可能なスマートフォンが登場してきたことだろう。プロカメラマンの世界では4Kはフォーカス合わせが大変だという声が多い中(そのとおりだが)、4Kスマホはもちろんオートフォーカスである。

Acer SquidS2の4K動作設定画面

このようにIFAでは4Kはあらゆる点で現実の話であって、特別なものでも何でもないことを各社がアピールしているし、事実そうなることはもう間違いないことだ。

湾曲ディスプレイは案外イイ

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サムスン55インチCurved 4K OLED「KN55S9CAFXZA」

ではこうして4Kでキレイになった画面で何を見るのか、何をするのかという話が当然ながら重要になる。従来のようなテレビ番組や映画を見る場合には、その高解像度によって臨場感が確実に増す。その考え方の延長線上で、今年のIFAには湾曲したディスプレイの展示が各社からあったのも興味深い。確かに50インチを超える湾曲ディスプレイを見ると、フラットパネルに比べると没入感が増す。

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ソニー65インチCurved LED HDTV「KDL65S990A」

スマートテレビの文字がほとんど見られない会場

一方、テレビ以外、あるいはテレビをもっと楽しもうという話がスマートテレビである。今年のIFA会場には、昨年までに比べてこのスマートテレビの文字があまり見られない。もちろんもともとスマートテレビという方式や規格があるわけではない。ではスマートテレビと言われてきたものは無くなってしまったのかというと、これはそうではない。

■パナソニックは生活クラウドに向かう
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パナソニックの生活に関わるクラウドに関するデモ

パナソニックは「MY HOME」というコンセプトで、むしろスマートテレビ的なものを強化している。これはTwitterやFacebook、YouTubeやNetflix、Huluがテレビで出来るという(だけの)話から、パナソニックが持つ生活家電とクラウドを繋げて暮らしをもっと豊かにしようという話だ。テレビはAV機器というよりは生活の軸になるものになるという考え方だ。そしてそれはかつての家庭内家電ネットワークであるeHomeのコンセプトよりは圧倒的にクラウド側に重きが置かれていくようだ。

■東芝はソーシャルサービス目線
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東芝のTwitter検索の結果を視聴レコメンドに反映させるサービス

東芝はTwitterやFacebookと、番組メタデーターから番組レコメンドをするというのがひとつの方向性だ。どちらかと言うと、ネット側のサービスとテレビを直接的に結びつけようという発想であって、比較的リテラシーが高い人々にはわかりやすい。

■LGはテレビ+スマホ=スマートテレビ
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NFCタグにかざすとこの画面になり、「スマホからテレビ」なのか「テレビからスマホ」なのかを選択

LGはスマートフォンとテレビを、NFCとMiracastとWi-Fiで繋いでいこうという提案、「Tag On」が面白い。NFCタグにスマートフォンをかざすと、すぐさまテレビとスマートフォンがリンクされる。するとスマホ画面上に、スマートフォンからテレビへ、あるいはテレビからスマートフォンへのリンクの方向が選択できる。前者はMiracastで、後者はWi-Fiストリーミングだ。NFCを使うのがポイントで、他のテレビ、デジタルサイネージであってもこれは応用出来る。

ただしこれだと、現時点でのスマートフォン向けアプリやコンテンツの大部分は、家のテレビで使われるという前提には立っていない。こうした連携のニーズが明確になれば、スマホとテレビ両方を意識したものが登場する必要がある。LGは同時に従来型のテレビ内蔵タイプのスマートテレビも提案しているが、スマホでいいじゃん的な視点は、今後市場でどのように受け入れられていくのか注目したい。

■ソニーはスマホを軸に。テレビとの連携はこれから
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56インチ4K OLED(技術展示)

さて、ソニーである。ソニーの4Kテレビ群はほんとうに美しい。今年のIFAのディスプレイ的な目玉はソニーの56インチOLEDだろう。会場内のどのディスプレイよりもクリアだ。

しかし今年のソニーブースには、いわゆるスマートテレビはどこにも展示がない。それどころか、スマートフォンとテレビとの直接的連携も無い。一見するとソニーブースにはスマートテレビは見当たらないのである。

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レンズスタイルカメラ「QX10」

今回のソニーは全ての中核にスマートフォンXperiaを据えている。それが新製品Xperia Z1である。本体のスペックも秀逸であり、モノとしての質感も十分魅力的だ。さらに周辺の商品群との連携が最初からデザインされている。レンズだけのように見える円筒カメラとか、オーディオ機器などがXperia Z1とNFCを通じて連携する。そしてその先には動画や写真、音楽の配信や共有するクラウドサービスがある。一昔前のホームゲートウェイという考え方があったが、それはパーソナルな通信機器であるスマートフォンになったわけだ。先ほどAppleが新型iPhoneの発表を行ったが、NFCには非対応だ。もっとも総合AVメーカーソニーとAppleではアプローチが異なるのは当然ではある。

「Xperia Z1」

Xperiaとテレビがこの先、どうつながるのかは、今回のIFAでは言及がない。CESではMiracastのデモもあったが今回はない。これは4K Readyなディスプレイに対して、スマートフォンやクラウド側がまだソニー的には発展途上であるからではないだろうか。

テレビ側では4Kフォトギャリーや、4Kコンテンツ配信などが提案されているので、近い将来にはXperia自体が4K化し、NFCを介しての新しいサービスが始まるのではないかと見ている。

WRITER PROFILE

江口靖二

江口靖二

放送からネットまでを領域とするデジタルメディアコンサルタント。デジタルサイネージコンソーシアム常務理事などを兼務。