横浜といえば、異国情緒漂う港町であり、横浜という漢字表記とともにYOKOHAMAの文字も目立つ、様々な国際文化が昔から交流してきた場所です。またここを舞台とした多くの映画が生まれてきました。インディーズ映画の発信拠点として有名な「ジャック&ベティ」など古くから映画ファンには親しみのある映画館もまだ現存するなど、映像文化発信の地としても昔から親しまれて来た場所でもあります。この横浜の湾岸地域の新興エリアである「みなとみらい」地区は、現在の横浜の中心的な商業活性地域であり、また横浜美術館など様々な文化拠点としても重要な地域になっています。もちろん映画館施設も沢山あり、横浜ブルク13、109シネマズ、そしてイオンシネマ(旧ワーナー・マイカル)の3系列のシネコンが1km以内に隣接する地域でもあります。

その一角に100名ほどの小さな劇場がいまから6年前にオープンしました。今回ご紹介する「ブリリア ショートショート シアター」は、日本初のショートフィルム専門の映画館です。

この「ブリリア ショートショート シアター」は、日本に短編上映の常設映画館がそれまでなかったことから、将来の映画界を担う新しい才能の発掘手段としての出発点として位置づけ、俳優の別所哲也さんが主宰されている、米国アカデミー賞公認の国際短編映画祭「ショートショート フィルムフェスティバル & アジア(SSFF&ASIA)」で上映されたコンテンツを中心に上映されています。国際映像文化事業としても、注目を集めるショートフィルムをメインコンテンツとして、その発信を活性化するとともに、世界各国から集められたレベルの高い映像作品を上映しています。

若手クリエイターへの支援も

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「ショートショート フィルムフェスティバル & アジア」PR/WEB・マネージャー 高橋秀幸氏

このブリリア ショートショート シアターでは、通常の常設上映と「ショートショート フィルムフェスティバル & アジア」の期間中は横浜会場として、その選出作品などを上映。その他、短編映画を制作する若手クリエイターへの支援などを目的とした、様々なイベント企画なども運営されています。経営母体はショートショート フィルムフェスティバル & アジアを主催するパシフィックボイスの関連会社、(株)ビジュアルボイスが運営管理されています。ちょうど「ショートショート フィルムフェスティバル & アジア」の開催10周年を記念して2008年にオープン、以降、年間約100本のショートフィルムが上映されています。

「ショートショートフィルムフェスティバル & アジア」PR/WEB・マネージャーである高橋秀幸氏にお話をお聞きしました。

高橋氏:ここが設立された2008年は、ちょうど横浜市が中田市長の時で、横浜市が「映像都市宣言」と称して、様々な映像企業誘致などを積極的にされていた時でした。他にも短編映画を上映する映画館もありますが、短編(ショートフィルム)を専門に上映する映画館というのは、当時もなかったですし、今現在も日本ではここだけだと思います。

当館の上映は1プログラムあたり約60分で1日8〜9回の上映があり、ショートフィルムは1本あたりが10分から15分くらいですので、1プログラムあたり4、5本という計算になります。毎月2回のプログラム更新があり、1日に始まるものと16日に始まるものがあって、1つのプログラムは1ヶ月間上映され、互い違いに入れ替わる仕組みです。プログラムはアカデミー賞の時期であれば、アカデミー賞特集であったり、また国別であったり、企画物であったりと毎回特徴的なテーマを設定してプログラムを組んでいます。

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赤に統一されたフランスキネット社のシアターシートは何か特別な感じを演出しています

コンパクトながらも特徴的な内装が魅力的な映画館で、ホワイエもちょっとしたパーティーが開催できるモダンなデザインが素敵です。シアター内の椅子はフランスのキネット社のものを採用し、130席(うち車椅子席2席)が設けられています。もちろん上映設備も本格的です。

  • スクリーンサイズ:スタンダード(1:1.37)2900mm×3973mm
  • 映写機:シンプレックス35mm映写機DLPプロジェクター(10000lm) / FULL HD規格ベータカム、デジタルベータ、HDCAM、DVCAM、DVD、ブルーレイ対応
  • 音響装置:ドルビープロセッサ Dolby社製 CP650

上映作品は現在、HDCAMに編集されて上映されていますが、ブルーレイ等からのデジタル上映も可能です。またこの映画館の特長として大きいのは、若い年齢層の客層が多いということでしょう。小さなシアターではありますが、月間平均で3,500名ほどの来場者があり、2013年の同社調べによれば、20代が36%、30代が42%、男女比でみると女性57%、男性43%、また職業別では64%が会社員という比率で、他の映画館とは少し違った若い客層が多い点からも、ショートフィルムへの世代別の興味の度合いが伺われるところでしょう。

ショートフィルムの定義とは?

ショートショート フィルムフェスティバルでの「ショートフィルム」とは、長くても25分、短いものはわずか1分という内容の映画を指しています。日本では「短編映画」と訳されますが、アメリカやショートフィルムの歴史の長いヨーロッパでは、通常の映画とは区別された、個別の映像表現のジャンルとして確立しています。ジョージ・ルーカス、フランシス・コッポラ、スティーヴン・スピルバーグ、スタンリー・キューブリック、リュック・ベッソンなど、名だたる世界の映画監督の巨匠たちもこのショートフィルムからスタートしています。

ここ近年日本でも、通常の長編映画にはない強いメッセージ性が特徴となり、次世代を担うビジュアルコンテンツとして注目を集めています。また24pで撮影できるDVカメラの登場に湧いた2000年代前半、そして2008年ごろのEOS 5D Mark IIの登場、デジタル一眼レフカメラの台頭によるデジタルビデオカメラの表現力の急速な進化とともに、毎年「ショートショート フィルムフェスティバル & アジア」で集まってくる作品のほとんどがデジタル作品になっているということです。

地域のコミュニティシアターとして

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ホワイエはレンタル時にアレンジ自由。装飾なども自由に変更可能だそうです

映画館という枠にとらわれない運営スタイルもこのブリリア ショートショート シアターの特長的なところです。自主上映などのムービー上映は、1時間単位でシアターレンタルも行っています。また上映作品とリンクしたイベントを開催できるようにホワイエを利用でき、また自分で撮ったムービー作品(ショート作品以外の長編でも上映可能)を上映しつつ、ホワイエでパーティーを開くなど、自由にアレンジできるとのことで、各種記念パーティーや発表会等の企画、オールナイトでの上映イベント、また貸し切りによるシネマウエディングといった趣向の凝った企画なども受け入れてくれます。企画によってはクリエイター支援といったスタンスで色々と相談に乗って頂けるところも魅力的なシアターです。また地域との連携という点に置いても重点を置いています。

高橋氏:横浜市には現在、文化観光局という芸術活動を推進して行くための部署が設立され、ダンス、音楽、写真など多方面で芸術に関するイベントを多数企画・運営されているのですが、そこに当館としても各企画にリンクした形で関連性のあるショートフィルム作品をプログラムに組み込んだり、また近隣マンションや地域の大学などのイベントに使って頂いたりと、地域のコミュニティシアターとしても活性化を図っていきたいと考えています。

生活の中のショートフィルム

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取材当日は、ちょうど6周年記念日の2月14日

いま一般的には、映画館での映画の見方が難しくなっている現状があります。映画を観に行くといっても情報過多に追われる多忙な時代。1日の中でたった2時間のスケジュールを割くこともなかなか難しいことかもしれません。時間の使い方が限られ、オンデマンドアクセスが可能なモバイルツールを誰もが持っているので、わざわざ時間指定されたコンテンツを見に行くというのは、24時間の中で時間の使い道のプライオリティでは低い順位になってしまいました。しかし映画館で映画を観るという行為は、何か特別な意味を持っていることは変わらないかもしれません。またそれを享受したいと思う方も多いのです。

高橋氏:先日何か記事で観ましたが、近年、映画館で映画を見る回数が減っていて、一般の方の平均的に映画館で映画を見る回数が、年間1本程度になっているそうです。その中で、当館に来場されるお客様というのは、もちろん映画好きであることは当然ながら、年間でも数本映画を観る中で、シネコンで長編のメジャー作品も観るけれども、いつもとは違う新しい何か、自分だけの何かをショートフィルムの中から新しい発見をしたいという意識やステイタスを感じて来られる方が多いように思います。どこか「恐いもの見たさ」に近い感覚というか、新たな体験を求めている方が多いと思いますね。

あと、例えば休日の使い方として、2時間の長編映画というのは観に来るという時間をきちんと決めて来ないと来られませんし、他に買い物や食事をするとなると、前後の他のスケジュールも映画の上映時間によって左右されてしまいます。当シアターの上映プログラムは60分のプログラムなので、気軽に立ち寄って観て頂けるという時間の使い方ができるという部分も強調していきたいと思っています。

カジュアルに映画館で映画を見るというのは、現状なかなか難しいかもしれませんが、あの独特の空気感を共有しながら映画を見るというのは、やはりスマホやTVで観るのとは全く違うものです。さらにメジャーな作品をシネコンで観るのとも異なるショートフィルムの世界は、これまでとは違った新たな発見があるかもしれません。むしろ映画を観るというよりも、世界各国のショートフィルムから見えてくる、60分の新たな出会いを楽しんでみる、ショーウインドウ感覚で気軽に訪れたいシアターです。

現在上映中&近日上映作品

女子道ショートフィルムプログラム(全5作品)

上映期間:上映中~3/15

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「夢は叶う!」(You will find it)
Jessie De Leeuw / 17:00 / ロマンティックコメディ / ベルギー / 2012
29歳のセリアはスーパーのレジ係。彼女はそんな現実から逃げるため、カラフルでミュージカルな世界に身を投げる。そんなある日、スーパーにイケメンがやってきた!

友情ショートフィルム(全5作品)

上映期間:3/1~3/31

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「テレポーテーション」(Teleportation)
Markus Dietrich / 13:00 / ドラマ / ドイツ / 2008
1989年11月9日、ベルリンの壁崩壊前夜。フレデリックとファビアンの計画は実行されようとしている。それはクラスメイトを一人西ベルリンにテレポートすること!果たして二人の計画はうまくいくのか?

Brillia SHORT SHORTS THEATER ブリリア ショートショート シアター
〒220-0012 横浜市西区みなとみらい5-3-1フィルミー2F
TEL:045-633-2151
営業時間:10:00-22:00
休館日:火曜日
http://www.brillia-sst.jp

WRITER PROFILE

ViewingLab

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未来の映像体験を考える有志の研究会。映画配給会社、映像作家、TV局員と会員は多岐に渡る