脚本書きと映画の神様

ジタバタジタバタ…。家で子供とだけ向き合う日々が続くとなんだかジタバタ焦りだし「仕事カモ~ン」となる私。まったくもって仕事大好き人間じゃないんだけど、仕事に逃げ場をみつけたくなるほど子供と二人きりってのはなにかと大変だ。

そんなジタバタの日々と折り合いをつけるために脚本を書き始めた。いちど長編映画のオリジナルを書いてみたかったので、この忙しいのか暇なのかよくわからないぽっかりと浮いた時間がちょうどよかった。

週に2、3日、子供を保育室に預けては、誰にも頼まれてない脚本書きに夢中になった。なにかに没頭できるということがこんなに心地よいとは…。こうして趣味のような投資のような生産性のない時間を使うのは、母親業という側面から考えるとなんだか罪悪感がわいてしまう。う~ん、子供を預けてまで好きな事をやるって自分勝手?子供が可哀想?むむむ?

しかし、この地味にジタバタ悶絶している姿を映画の神様がみていてくれたのか、ラッキーなことに劇場用映画の脚本の仕事が舞い込んだ。

題材は「しまじろう」という幼児向けキャラクターの初の映画化。アニメーションと実写が混ざった変わった構成の中編(60分+休憩7分)映画だった。物語は完全にオリジナルの冒険モノで、監督の平林勇さんが書いた短いプロットを元に、小さな子供でも観ていて飽きない工夫を凝らした脚本を書くのが私の仕事だった。

平林監督はカンヌ、ベルリン、ベネチアなど世界中の映画祭で短編映画監督として賞を獲りまくっている異色のCMディレクターで、そんな監督が幼児向けのメジャー作品を作るなんてそもそものオファーが実験的でおもしろすぎる。

しかも映画館にやってきてくれる子供にとっては、おそらく人生で初めての体験になるであろう映画の脚本を、この私が書くなんて、わーお、責任重大!

小学生の頃からお供え物をあげるがごとく映画館に通い続けては、映画の神様にご奉仕をしてきた。そろそろ振り向いてもらいたいという思いが少し届いたのかもしれないと思うとうれしかった。

長い物語を集中して観る事ができない幼児向けの脚本を書く上で気をつけたことは以下(クライアント、監督の意向を含む)。

  • 2分に1回、場面展開など変化がある(Eテレの子供番組もそういう作り)
  • 観客にも参加をうながし、主人公たちといっしょに冒険をしている気分に
  • ストーリーの中で自然に歌って踊れる展開(映画館で静かにしてる必要なし)
  • みんなで協力して問題を解決することがクライマックスになる
  • 親もきちんと感動できる物語性をもつ

脚本の冒険旅行

kokoro_03_01-b

私は想像の羽をバタバタさせて大冒険にでた。身動きのとれない育児の日々の中、空を飛んだり、妖精にであったり、洞窟に迷い込んだりの冒険旅行を楽んだ。そして気づけば大合成を必要とするいささか(予算的に)大胆なお話ができあがっていた…。

時がたち、プロデューサーから久しぶりの連絡をもらって富士山麓で行われていた撮影現場に遊びにいく事になった。こういうとき脚本家はほぼ部外者に等しく、差し入れのどらやきを手にふらふら配り歩くくらいしかやることはないけれど、やっぱり人の撮影現場に顔を出すのは楽しい。撮影をフラットに眺められるし、責任はないから身軽だし、なにより今回は自分の書いたお話が目の前で再現されているかと思うとワクワクしちゃってたまらない。

kokoro_03_02-b

和やかなムードの撮影の中、ひときわ輝いていたのがカメラマンの女性だった。現場ではとにかくキリッとかっこいいのだが、休憩時間に話してみたらなんともやわらかいお母さんオーラを放った方で、3歳の息子を置いて一週間のロケだそう。「甘えん坊の彼にとっては試練の時だ」と笑顔で言っていたが、きっとお母さんにとっても…。

彼女は休憩が終わるとまたキリッとカメラマンの顔に戻り、CanonのデジタルシネマカメラEOS C300を使って、私が書いた無鉄砲気味の大冒険(大合成)の旅を着実にカメラにおさめていた。

ちびっ子もスクリーンに釘付け

初日の舞台挨拶、子供を連れて品川の映画館に出かけた。前のめり状態の幼児たちは60分飽きる事なくスクリーンに釘付けだった。劇場で配られるウチワを使って、洞窟で消えそうなろうそくの火を一緒に大きくしたり、風を送って砂に埋まった仲間を助けたり、大声で歌ったり、私たちの願った以上にみんながスクリーンを通して主人公とともに冒険をしていた。そこには、一方通行の映画ではなく観客参加型映画としていままでにない新しいカタチの映画ができあがっていた。そしてラストシーン、親たちは涙を流しながらスクリーンをみつめていた。うぅぅ(嬉泣)。

私にとっての映画館は今も昔も神聖な場所。立ち止まったときにはいつも映画が背中を押してくれる。映画の神様がみてくれているかと思うと、たまにはジタバタしてみるのも悪くないもんだ~。

kokoro_03_04
前のめりすぎるうちのこども

WRITER PROFILE

オースミ ユーカ

オースミ ユーカ

CMやEテレ「お伝と伝じろう」「で~きた」の演出など。母業と演出業のバランスなどをPRONEWSコラムに書いています。