仕事のゴールデンタイムとは?

ボーン、ボーン、ボーン。丑三つ時の鐘がなる。考え事をするにはもってこいの静まり返った大好きな時間帯…なんて口が裂けてもいえないほど眠い。つい最近まで真夜中は私のベストタイムだったのに…。

いまや私はiPhoneと同じスピードで電池切れする。日中猛スピードで仕事をこなし、日が暮れる頃には「もうバッテリーがありません」のヘトヘト状態に。子どもをベッドで眠らせる時間には完全に体力も気力も5%以下。しかし暗がりの中でがんばって目をこじあけ、寝静まった娘の横でゾンビのように這い上がり、残りの数パーセントのエネルギーをだましだまし使って、その日終わりきらなかった作業をする。

働くお母さんにとって時間のやりくりは死活問題だ。とにかく、子どもを保育園に預けている9時から、お迎えに行く18時までフル稼働で仕事を終わらせる他ない。そんなわけでEテレ「お伝と伝じろう」の番組制作は、保育園の時間と闘いながらはじまった。

企画からはじまり、スタッフィング、オーディション、キャスティング、数々の企画打合せ、ロケハン、美術、衣装、音楽制作、ロケパートの撮影が終わり、ついにスタジオ収録が間近にやってきた。

今回大きく力を入れたのは世界観作り。特に美術セットは今までのテレビ番組とは違うものを作ってやろうと意気込んだ。ブルーバックで撮影するバーチャルCGセットが私にとってはじめての経験だったこともあり、CGセットの番組などをいろいろ観て研究したが、これといって参考にしたくなるものがみつからない。なら納得のいくものを自分で作ってみよう。

いいCGセットがみつからない最大の理由は照明。ブルーバックから人物をきれいに抜かなくてはならないために照明をフラットにあてているから、影のない=不自然な仕上がりになっているのだ。CMくらい短い尺で手間と予算がかけられるなら影も撮影して人物と合成するなどやりようもあるが、10分番組で予算もないとすると後処理の手間もほぼかけられないのでほとんどのCGセットは「合成しました!」という見た目になる。うーん、なんとかならんものか。

美しいセット作りへの道

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チェック用のCG。手前は実際のセットになるがシミュレーションで作ってくれている

美術、CGスタッフと相談していろいろ試行錯誤し、背景に密度と奥行き感のあるCGを作ることにした。ただの平面的な背景ではなく、いろいろな部分に動きを加え、大好きな絵本「ミッケ」のように何度目を凝らしても新しい発見のあるような飽きのこないCGを作ってほしいとお願いした。

そしてセットはただのブルーバックにせず、床をきちんと美術で作ってもらうことにした。とにかく合成で気になるのは人物とCGとの接地面。人物が触れる部分は全て美術セットにすることで影が落ちるから、バーチャルCGセットの違和感は少し和らいだ。

美術チームからの提案で、背景CGと美術セットをつなげたようなシームレス空間を作ることで、どこからが背景でどこかが美術セットなのかパッと見わからないようにした。これはちょっと新しい気がする…。みんながアイディアを出し合い、結果、一年間使っても飽きのこなそうな面白いセットが完成した。

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映像デザイナーが作った美術セットイメージ。背景と手前の花などはCGになる。この後予算の都合、床など少々変更になった

はじめてNHKの仕事をやらせてもらって、すばらしいなと思うところは、撮影までの準備期間がしっかりと管理されている事。学校でもカリキュラムとして取り入れられ、流れるものだから当然といえば当然だが、年間でスケジュールを決められるからこそ、準備の時間もきちんと与えられる。もちろん受信料で成り立っているため制作予算はタイトだが、そこはスタッフの知恵を結集して考えたり作ったりリサーチをする時間的な余裕があるのだ。

kokoro05_03 ©NHK 「お伝と伝じろう」Eテレ毎週月曜 午前9:20~9:30放映中
http://www.nhk.or.jp/kokugo/otsuta/←これまでの放送を動画で視聴できます

特に子育て中の身にとって、NHKの仕事は生活リズムにあっていてありがたい。朝は早くから動きだし、夜の打合せや電話などは少ない。もちろん身近なスタッフの気遣いがたくさんあるのは承知で、こういう映像制作の現場がもっともっと増えるといいなと切に願う。

子育てしながらも仕事があたりまえにできる世の中がみえれば少子化だって確実に上向きになる。子どもがいてもいなくても障害があってもなくてもいろんなハンデを持った人が普通に仕事をできる。そんなことがあたりまえのゆるやか〜な世の中になるといいなあ。

次回は、「お伝と伝じろう」の、収録現場の話を書きます。

WRITER PROFILE

オースミ ユーカ

オースミ ユーカ

CMやEテレ「お伝と伝じろう」「で~きた」の演出など。母業と演出業のバランスなどをPRONEWSコラムに書いています。