はじめての番組収録

子育てとレギュラー番組の立ち上げは、ちょっと似ている。はじめは手取り足取りすべての面倒をみているけれど、基本的に親(ディレクター)ができることといえば独り立ちのお手伝い。願わくばみんなに好かれる子(番組)に育つように愛情をいっぱいかけて、人との出会いによって変化をとげ、最終的には親の手を離れていく。

「お伝と伝じろう」も立ち上げ時の総合演出担当ではあるが、世界観を作った後はいろんなディレクターが入れ替わり立ち替わり回を担当する。誰が演出しても大きく印象が変わらないフォーマット作りは意外と大事だ。いつかは崩れてはいくのだからアクが強くてドロドロ純度の濃いものを作るしかない。というわけで月曜朝の子ども番組にしてはやや強烈なビジュアルの世界観ができあがった。

初めてのテレビ番組収録の日がやってきた。撮影といえば基本的にカメラ一台でカットごとに撮影する映画スタイルを踏襲しているのが私の育ったCM業界のスタイル。しかし今回はNHK局内にあるスタジオにセットを組み、三台のカメラを同時に動かして収録するテレビ業界スタイルだ。はぁ、緊張の嵐~。

「撮影」じゃなくて「収録」

そもそもが「撮影」じゃなくて「収録」という呼び名だし、「よーいスタート」ではじまるわけではなく「5秒前!3、2、1、キュー!」である。私にとっては違和感バリバリ、「キュッ…、キュー???(小声)」言葉を発するたびにニヤニヤして、みんなが笑ってないか確認してしまうほど。しかも撮影しながらスイッチングして簡易的な編集をすませてしまうスタイルって、もう…。母さん、ついてけません!

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セットを組む前のからっぽのスタジオ。セットを組んだ後のスタジオや副調整室などは余裕がないので写真がありません…

テレビ番組はカメラを3台まわしていてもすべてのカメラで収録が行われているわけではなく、二系統(本線、別線という)にのみ映像が記録され、3台のカメラのうちどのカメラの素材をテープに収録するかの取捨選択はリアルタイムで行わなくてはならない。

テレビ業界の人にとっては笑っちゃうほど当たり前だろうが、慣れない私は1カメ、2カメ、3カメと、3台のモニタを交互に眺め、「いったいどれみりゃいいの〜」意識朦朧としてくる。

もう、いままでのように一つのモニタをみてOKを出していればよいという甘い世界にはいない、私の脳みそは進化に対応せねばならんのだ。まあそのために事前にカット割りを相談し、スイッチャーという役割の人もいるわけだが、同じ映像業界とはいえ、システムの違いに慣れていくのってなかなか大変だ。

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こちらはロケ地。10分番組の中で、学校(ロケ)と伝じろうの心の中(スタジオ)の2シチュエーションあるという設定です。ロケはカメラ一台方式なので気が楽。フランクロイドライトの建築で撮影できるだけでテンションあがります

もうひとつの難関は収録をしているスタジオと、私がいる副調整室とは距離が離れているという事。モニタがたくさん並び、ボタンのたくさんついた卓の前に座っている私は、温度を感じないためか演出しているというよりオペレートしているという気分になってくる。

通常ディレクターは役者のそばで演技をみて、カットをかけるとそそくさとよっていき演技指示などをするものだが、テレビの場合のディレクターは、カメラを通して離れた場所で演技を確認し、何か指示がある場合はインカムでFD(フロアディレクター)に伝え、FDが役者に話す…。ああ、いとややこしや…。

どうしても慣れない私はカットをかけるたびにインカムを投げ捨て、螺旋階段を一階下のスタジオまでくるくると走り降りて、直接役者に話に行ってしまう。まったくいけてないが、まあしょうがない。

しかし今回の役者、お伝と伝じろう役のレ・ロマネスクも、小学生役のサトルくんも、ほぼ演技経験ゼロなもんだから、みーんないっしょに戸惑っていて、ほどよい緊張と新しい事をやる楽しさとでなかなかどうして幸せな現場であった。

「お伝と伝じろう」大評判オンエア中!

kokoro_06_03 ©NHK 「お伝と伝じろう」Eテレ毎週月曜 午前9:20~9:30放映中
http://www.nhk.or.jp/kokugo/otsuta/←これまでの放送を動画で視聴できます

初のレギュラー番組の立ち上げということで、たくさんのことを学んで、考えて、闘って、へとへとになりながらもできあがった「お伝と伝じろう」。おかげさまで大評判オンエア中。コミュニケーションが苦手な子どもと大人のみなさま、ぜひ月曜の朝、ご一緒に過ごしましょ~。

WRITER PROFILE

オースミ ユーカ

オースミ ユーカ

CMやEテレ「お伝と伝じろう」「で~きた」の演出など。母業と演出業のバランスなどをPRONEWSコラムに書いています。