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世界最大規模のデジタルサイネージの展示会から
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LVCCの通路もガラ空き
世界最大規模のデジタルサイネージの展示会であるDigital Signage EXPO 2015(DSE)が今年も3月11日と12日(現地時間)に、ラスベガスのコンベンションセンターで開催された。筆者はたぶん日本人唯一の6年連続参加だろう。こうしたDSEの定点観測的な視点と、日本の状況とをあわせて今年のDSEのポイントを紹介してみたい。DSEは展示規模としては世界最大級であるが、来場者数は8,000名程度ということで、CESやNABと比較すると会場の外はガラ空きである。日本のデジタルサイネージジャパンが併設イベントとの合算とはいえ13万人を超えているので、来場者数で見ればこちらが世界最大である。しかし数はともかく、DSEには毎年日本展開していない企業や、製品が数多く見られるので非常に参考になる。
サムスン
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サムスンブースでは、スマートTVならぬスマートサイネージ「SMART Signage TV」を展示していた。これは40インチまたは48インチの業務用ディスプレイを搭載した、Androidベースのディスプレイである。サイネージ用のプレイヤーが搭載されており、WEBベースのCMSからコンテンツ制作や配信管理を行うことができる。コンテンツにはあらかじめ200を超える用途別のテンプレートが用意されている。1日16時間で3年間の動作保証をする。なおサムスンは現在日本国内での事業展開を行っていない。
サムスンのSMART Signage TVのデモビデオ
LG
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LGは昨年から展開をしているwebOSベースの製品がある。日本では現在、いわば簡単サイネージといった市場カテゴリーが空白状態になっており、このレベルの製品ニーズがどれくらいあり、今後どういったプレイヤーが参入してくるのか注目されている。
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LGのwebOSを搭載した業務用ディスプレイ
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WEBベースでHTML5対応を謳う
またLGは、ブース正面に98インチの4Kディスプレイを縦に4面設置して、大画面高画質とマルチディスプレイならではの演出でデジタルサイネージをアピールしていた。なかでもショーウィンドウに見立てた演出では、サイズと高画質に加えて、ベゼルの存在が逆に本物のガラス越しのように見えていたのが印象的であった。
LGの98インチ4Kディスプレイを使ったデモ
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あたかも本物のショーウインドウのように見える
インテル
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昨年からDSEに参加しているインテルブースは、事業パートナーとの共同出展形式である。なかでも目を引いたのは、いわゆる着せ替えサイネージの精度が飛躍的に上がっていたMemomi社のデジタルミラーだ。従来の同種のものと比較すると、色やテキスタイルの変化が極めて自然で驚く。またデジタル的に変化させるだけではなく、本当に複数の服を着た状態が録画され、それらを画面分割で同時に並べて再生することで比較しやすくなる機能は直球ネタであり、たしかに便利そうだ。
今回最も注目したいのが、PLANARが技術展示を行った55インチ透明OLEDである。解像度はフルHDだ。透明なディスプレイは液晶が先行しており、その透明度や発色が飛躍的に向上してきている。しかし原理的にどうしても液晶の場合はバックライトが必要になる。これに対してOLEDは自発光であるので背景や周囲に光源を必要としない。つまり透明なパネルに映像だけ表示させることができるわけだ。ベゼルも限りなく無くすことができるので、SF映画に登場するような空中に映像だけが表示されるという話が現実味を帯びてくるわけだ。技術的にはPLANAR自社ではなくサムスンのものだと思われる。今後の進化に大いに期待がかかる。
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PLANARの透明OLEDの技術展示
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発色もクリアで解像度もかなり良好
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デモは細かく分割した映像を表示していた。全画面表示はデモ行っていなかった
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透明度もまずます。デモ機のベゼル部分は透明のアクリルだった
もちろん先行する透明液晶も素晴らしい進化を遂げている。この場合は冷蔵庫の扉の周囲に光源としてLEDが埋め込まれているが、冷蔵庫のドアのようなケースであればこれで全く問題がない。あとはコスト次第で、一気に全てのコンビニの冷蔵庫に実装されるだろう。コンビニの冷蔵庫では、時間帯によって飲料の売れ筋が変化するのだが、棚の位置を変えることは事実上できない。そこで時間帯ごとの売れ筋商品の内容や位置をこうした透明LCDで表示することで、売上増に貢献することだろう。
LGの透明LCDを搭載した冷蔵庫
シャープ
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シャープブースではCESにひき続いて、曲面のLCDや世界最大の120インチ4KLCDを展示していた。
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円筒形のLCD
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世界最大の120インチ4K
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詳細スペック
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Googleは2年連続2回目の出展
またインテル同様に昨年から出展をはじめたGoogleは、こちらもパートナー企業の展示とChromeboxの仕組みを展示した。昨年のDSEで明らかになったChromeboxのデジタルサイネージへの利用であるが、どれくらいの導入利用実績があるのかは回答を得られなかった。
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Chromeboxのコーナー
E Ink/GDS
もうひとつの技術面での注目展示は、E InkとGDSが出展した32インチの電子ペーパーディスプレイである。液晶の進化によってメリットが薄れつつある電子ペーパーではあったが、一つ液晶にはマネの出来ない決定的な強みがある。
それは電源が遮断されても一定時間、直前の情報を表示ができるということ。これは緊急災害時には大きな意味を持ってくる。東日本大震災以降、緊急時におけるデジタルサイネージに対する期待値が高まり、デジタルサイネージコンソーシアムは総務省らと協力して、そうした対応について検討を進めている。またこれまでの電子ペーパーは9インチ程度のものがほとんどであったので、32インチクラスの実用化は、フルカラーLCDとは違うポジションを担うものとして期待したいと思う。
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E Ink/GDSの32インチ電子ペーパー
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解像度もコントラストも極めて良好
AOTO
テレビの世界では4Kがすっかり主流になりつつあるが、デジタルサイネージも同様の傾向だ。各ブースともいちいち「4K」を訴求することがなくなっているのであるが、ざっと半数以上の製品が4K対応と見ていいだろう。
また今回はDSEではじめて8Kを訴求したのが中国のAOTO社だ。1.2ミリピッチの480ミリ角のユニットを48台組み上げて、24ビット8K 2000カンデラの映像を展示した。もともとこのようなマルチディスプレイで大画面構成のデジタルサイネージは数多く存在しており、今後益々ニーズが高まるものと思われる。
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AOTOの1.2ミリピッチ
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48ユニット構成
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BARCOのE2で4K×2で送出
総括
このように日本とはまた違った新しい技術や製品がDSEでは見ることができる。日本人の参加者は50名くらいだろうか。興味を持っていただけたら、来年は是非現地でお会いしましょう。
※4月8日訂正本文中AOTO社の展示で、0.75ミリピッチと記載いたしましたが、正しくは1.2ミリピッチでした。お詫びして訂正いたします。
WRITER PROFILE
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