txt:ふるいちやすし 構成:編集部
映像制作は道具選びから
「どのカメラを買えばいい?」とか「新発売のあのカメラっていいの?」とか、ザックリ聞かれることがよくある。よっぽど暇で機嫌が良ければそれぞれのカメラの特徴やメリット/デメリットを説明したり、「君はどんなものを撮りたいんだ?」などと相談にのったりもするが、大抵はこのPRONEWSのURLを教えるとか、大体親身になって説明を始めたところで途中で目が虚ろになり、絶対最後まで聞かないじゃないか!まぁ、最後まで聞いてくれても「これだ!」という答えは出てこないんだけどね。数字と人間の欲望が無限である限り、その答は永遠に出ない。
できる事があるとすれば欲望の方に一旦区切りをつけ、現時点で一番いいと思えるカメラを買うしかないだろう。ただ「いいと思う」という評価は人によって、撮りたいもの、作りたい作品によって、様々だ。カメラメーカーとしてはその思いのどれかをカメラという一つのパッケージに収めなければならない。そのパッケージングに満足できない人は、例えばオーディオマニアがそうするように、コンポーネントという意識で様々なユニットを買い集め、自分でパッケージングするしかないし、幸運な事に今はメーカーの壁を越えて繋げるユニット製品が多く発売されている。
カメラというパッケージは大雑把に言うとレンズ→センサー→ソフトウェア→レコーダー→モニターといったユニットの集合体だ。これをバラバラに揃えて組上げるとなると、当然、互換性やフォーマットの知識が必要になるが、ユニットを発売しているメーカーもその辺りの事はいつも研究しており、情報公開にも積極的だ。
逆に大きな利点として、時代や好みの変化に合わせてカメラ全体を買い直すのではなく、変化した所のユニットだけを買い替えればいい。買い替えなくとも、ユニットごと、例えばレンズという部分を幾つか持っておけば、被写体やプロジェクトによってそこだけ変えるという事もできる。カメラごと変えてしまうと、ソフトウェアもモニターの特性も変わってしまうが、コンポーネントだと、そこはいつも通りのやり方で、レンズだけの変化を楽しむ事ができる。
こうした微妙な変化をいつも見極める事によって、画に対する眼も同時に、高度に養われていくものなのだ。また、どこかの部分にトラブルが生じた時にも、その部分だけを交換すればいいという安心感もある。
できるだけコンパクトにまとめたMyコンポーネントシステム
今回、沖縄で4K撮影をするのに私が選んだコンポーネントは、
- レンズ:Carl Zeissの最新レンズLoxiaシリーズ(35mm/F2.0と50mm/F2.0)
- センサー/ソフトウェア:SONY α7S フルサイズセンサー
- レコーダー/モニター:ATOMOS SHOGUN
これらをできるだけコンパクトにまとめるため、リグは普通のスチル用パーツをいくつか買い集め組上げた。接続の為に使ったケーブルは短いHDMIケーブル一本だけ。この大きさだと業務用小型ビデオカメラ一台持つのと変わらないし、むしろバラバラに収納できるので何のストレスも感じない。もちろんSONY α7Sはそれ単体でカメラなので、レコーダーもモニターも備えているが、4K収録の時にはレコーダー機能は働かず、外部出力のみとなるのでセンサーとして使う事になる。ビデオカメラにはなかなか搭載されないα7Sのフルサイズセンサーは私にとってとても魅力的なものだ。そういったユーザーの声も多いのだろう。
Carl ZeissのLoxiaシリーズはEマウント/フルサイズ仕様のレンズだ。このパッケージで唯一不安なのはデュアル(同時バックアップ)レコーディングができない事だが、その為にこのフルサイズセンサーを諦める気にはなれないし、特にDSLRは放熱に対する能力もさほど高くない。必要な時にはHDMIを分割するかSHOGUNのHDMI OUTからもう一台小さなレコーダーを繋げばいいと思っているし、ディレクターやクライアントがカメラマンと別にいる場合はそこにSHOGUNをもう一台繋いでおけば、モニターにもなるし、確認のプレーバックも容易にできるはずだ。こういった色々な状況にカメラマンの環境を変えずに対応できるのもコンポーネントの利点だろう。その中で今回は特にレコーダー/ATOMOS SHOGUNについてレポートしてみよう。
亜熱帯と言う場所で〜ATOMOS SHOGUNの安心感
コンポーネントシステムにしておけばユニットごとにいくらでも買い替えられる。とはいえ、できるだけ長く使いたいというのが本音だろう。そういう意味ではSHOGUNのスペックは、少なくとも世の中の常識が8Kになってしまうまでは使い続ける事ができるだけの余裕を持っている。正直言うと、私の仕事のほとんどがまだHDで間に合っているが、これさえあれば今在るシステムのままずっと対応できるという安心感がある。
中でもHD収録時には120pまで対応できるというのは現時点でも大きな魅力だ。また、収録メディアがSSDまたはHDDというのも4K/HDで使い分けが効くし、信頼性、汎用性、コストパフォーマンスの上で安心できる。「安心」という言葉を多く使っているが、レコーダーに求められるものは、まずはこれだと思う。そういう意味ではしばしば問題になるDSLRカメラのオーバーヒートもこうしてレコーダーを別にすることによって安心できるのではないだろうか。
今回、初夏を迎えた沖縄の屋外撮影で、α7SもSHOGUNも一度も機能停止したことがなかった。二度と巡り会わないだろう貴重な撮影機会や被写体に対して、Apple ProRes HQ/4Kで撮っておけば、これまたまず安心だろう。
ただ映像表現のこととなると話はそう単純ではない。私たちが求めているのは必ずしも4Kカメラのプロモーション映像のように「どうだ、凄く細かいだろう!」というものばかりではない。一言で言ってしまえばそれは「美」なのだ。これは決して解像度に比例するものではない。凄さが美を損なうこともあるのだ。
個人的にはDVからHDに変わった時にも同じような苦しさを感じたし、その高解像度の中で自分の感じる美をどう表現すればいいのかと、随分試行錯誤したのを覚えている。その苦しみから救ってくれたのがDSLRの大判センサーでありクラシックレンズだったのだが、そういう奥の手を使いきった今また、4Kという高精細な世界がやってくる。それが一般化するのか、はたまたすぐに8K、16Kなんて時代がやってくるのかは分からないが、巨大スクリーンであろうが、家庭用のテレビが全部4Kなんて事になろうが、そこに映したい「美」というのは人によって違うし、また、15秒のCMでアッと言わせるものと2時間ぶっ通しで観てもらうものとでは全く違う。
少なくとも映画を作ろうとしている私にとってはこの高解像はやっかいで、今もまだそれをポジティブに受け入れた上での「美」を探りながら試行錯誤を始めたところだ。そういう試みを大いに助けてくれたのがα7Sのフルサイズセンサーと優れたソフトウェア(ピクチャープロファイル)とLoxiaという新しいレンズだ。私は色調やディテール感を撮影現場で作らなくては我慢できないたちなので、このピクチャープロファイルをいつも細かく調整しながら収録するが、自分の求める「美」の多くがそこにある事を再認識した。つまり高精細な画であっても色とディテールをしっかり作り込めば自分の求める「美」は存在するという事だ。
今回の高精細なまま、美を探るというテーマにはZeiss Loxiaというレンズも貢献してくれた。フルサイズでありながら、まぁ隅っこまではっきり写ってくれる。それだけなら私にとっては必ずしも良いことではなく、ベタッとした平面感を感じてしまうのだが、どことなく深みを感じる。その理由を言葉で説明するのは難しいが、これは今後の画作りの大きなヒントになりそうだ。そしてF2.0という明るさを利用して浅い被写界深度で撮ってみても、ボケた部分のスムーズさは素晴らしい。
ボカしたところの存在感が増すということは本末転倒なようだが、絞りの選択もHDとは少し違う考え方をすれば4Kならではの表現が可能になるだろうし、今、巷に溢れている4Kの映像に一番欠けている部分だとも思える。何れにしてもレンズの選択はより微妙なところまで気を使うべきなのだろう。
途中で全く同じセッティングでクラシックレンズのCarl Zeiss Jena(1950年代)に付け替えてみた。う〜〜〜ん。明らかに解像度は落ち、周辺のディストーションも増し、色も変わってしまうが、なんか、いいなぁ。その場にいた老若男女の全ての人が、こちらの方がいいと口を揃える。まぁ、全員映画の人だってこともあるのかもしれない。「高精細で美しい画を」という今回のチャレンジでは、全くナンセンスとも取れるこの組み合わせだが、ファイルフォーマットだけ4Kで残すという事に意味があるとしたら、こういうのもアリだろう。
さて、こういった微妙な色やディテール、全体の雰囲気までも現場で感じながら画作りを楽しむのになくてはならないのがしっかりしたモニターなのだが、SHOGUNのS-IPS液晶は素晴らしい。現場で感じたその小さな差異は、スタジオのモニターでもほとんど変わらない印象だった。
解像度はHD(1920×1200)仕様だが、充分すぎる位だしこの大きさでそれ以上あっても無意味だろう。各種リファレンスメーターの表示機能やタッチパネルによる操作性も完全に業務用モニターとしてのポテンシャルがあり、また、こまめにキャリブレーションを行う為に専用のツールSPYDERが発売されていることからもメーカーとしての自信がうかがえる。ピクチャープロファイルを調整している時も、レンズを変えてみた時も、その微妙な差を感じる事ができたという事が何よりの証だ。たとえレンズやセンサーが変わっても、この部分が変わらず使えるというのは重要な事なのだ。また、それがレコーダーと一体になっているという事は、確認プレビューの時にたとえ別の場所へ持って行ったとしても、カメラに触らずに行えるというメリットがある。
これはロケの進行上、かなり重要なことだ。一つ難点があるとすればモニター表面の反射だ。今回発売されたばかりの専用サンシェードを装着して撮影に臨んだのだが、ほぼ顔をつっこんだ状態でも反射が気になる。つや消しの保護フィルムでも貼ればいいのだろうが、あのザラザラがせっかくの解像度を損なってしまうのではないかと心配になる。悩ましいところだ。
今最高のカメラと画を求めて
繰り返しになるが、完璧なカメラは存在しない。理想に近づけるにはコンポーネントという考え方をするのが一番合理的だろう。その中で撮影者のもっとも身近にあるレコーダー/モニターとしてのATOMOS SHOGUNのポテンシャルは長い付き合いをするのにふさわしいものだ。ファームウェアのバージョンアップも高頻度に行われており、今後も対応するカメラが増えていくだろう。今回の私のパッケージはα7SのHDMI出力が8bitだった為、今後10bitで撮れるシステムもぜひ試してみたいと思う。
ひょっとしてLoxiaレンズに感じた「深み」が更に高まるのではないかと期待しているのだ。今はもう何の違和感もなくHDでの「美」を表現できているように、4Kの世界でも必ず美しいと思える画が作れるはずだ。“4Kだから美しい”ではなく“4Kなのに美しい”画を私は求めている。チャレンジは続く。