待望のアップデート!ATOMOS SHOGUN

昨年の11月に発売されたATOMOS社のSHOGUN。再生機能が実装された前回のファームから更にアップデートが行われ、つい先日ファームウェア6.2がリリースされた。前回のファームアップと併せると、再生機能の充実に加え、DNxHRのレコーディングコーデックの追加、4KからのHD-SDIダウンコン機能の追加、LUT搭載やオーディオまわりの機能充実など、かなりのメジャーアップデートとなった。これで本来期待されていた通りの「SHOGUN」が誕生したことになる。

本体価格約25万円という、決して安くは感じない機材と捉えがちではあるが、実は一度使うとこの“SHOGUN様”は手放すことのできない一台になるのだ。今流行りの多機能モニターの最先端にあるといっていいSHOGUN。現場であらゆる可能性をもたらしてくれる。今まで4Kのレコーディングと言えばAJAのKi Pro Quadなどがバッテリー駆動でフィールドでも活躍していたが、HDMI経由で4K収録できるSHOGUNは新たな扉を開けることになるだろう。

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いよいよDNxHRの再生機能が実装され、4K収録機として期待が高まるSHOGUN

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ファームウェア6.2が先日リリースされた。かなりのメジャーアップデートだ

特に4KのHDMI信号を出力するカメラとSHOGUNとの相性は最高だ。SONY α7SやPanasonic DMC-GH4とのマッチングには高い評判が集まっている。外部収録機としてProResやDNxHRコーデックで4Kを収録できるとなると、10bitの画質への期待は高まるばかりだ。もちろん内部記録がHDしか行えないα7Sにとってみれば、SHOGUNがあるからこそ4K出力をProResで記録できることになるし、H.264の8bit4:2:0/100Mbpsという4Kの記録形式をもつGH4にとってみても10bit/4:2:2の4K記録は内部記録では得られない高画質なレコーディングは理想といっていいだろう。

そもそもスチルカメラとして設計されているミラーレス一眼カメラのため、SHOGUNのような多機能モニターがあるととにかく便利である。またHD-SDIからのHDダウンコンをSHOGUNから出力できるので、ミラーレスの4K映像をHDでモニタリングできるようになるという、素晴らしいシステムをSHOGUNが可能にしてくれる。

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GH4などのミラーレス一眼との組み合わせにも注目が集まる

SDIとHDMIの入出力を搭載し、HDMIは4K/30p、SDIであればHD/120pまでの収録をカバーする次世代のレコーディングモニターであるSHOGUNには、数々の驚きの機能が搭載されている。この原稿の執筆時ファームウェア6.2が発表されたので、いろいろとSHOGUNの機能を紹介したい。

ProResの汎用性と長時間記録

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汎用のSSDを使用できるのが特徴。大容量で長時間4Kを収録できるのが嬉しい

まずは4Kの記録フォーマットがProRes LT、ProRes422、ProResHQ、DNxHR HQX、HQ、SQ、LB、の7つから選ぶことができる。そもそも4Kのデータは「大きい」ため、収録時間や使用するSSDの容量などを条件に画質を選ぶことができるのは嬉しい。ちなみにProResLTでも4Kのビットレートが30fpsでおおよそ400Mbpsあるため、その大きさはXAVCをも上回り、本線としても使用できるクオリティで収録できる。無論ProResHQによる4K収録は30fpsで800Mbpsを超えるビットレートで、大変心強い。10bit4:2:2で描かれる映像の美しさは、4Kであればなおさら評価が集まることになる。

インタビューやドキュメンタリーなどの長回しの際はLTで、CMやPVのような決め撮りの場合は422やHQを選ぶなど、シーンに応じて使い分けるといいだろう。HDの場合、480GBのSSDを使用した際HQであっても4時間半程度の記録が行え、LTの場合はなんと9時間以上のレコーディングが可能だ。これは正直驚きである。なにせ記録メディアとして汎用のSSDを使うことができるため、メディアのコストが大変安いというのも嬉しい。Intel製の480GB SSDであっても、その価格は6万円を切る。今流行りのXQDカードと比べるとコストは約1/4以下だ。ちなみにHDの場合DNxHDは220X、220、145、36から選ぶことができる。

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7種類のコーデックをProResとDNxHRで記録可能。CinemaDNGのRAW記録など今後も増える予定

素晴らしいUIと視認性の高いパネル

液晶画面にも注目が集まる。スパイダーによるキャリブレーションも可能で、ガンマなどの調整も行えるためマスターモニターとしての存在をもアピール。実装1920×1200ピクセル、視野角172度/320ppiという7インチモニターは、視認性が非常に高い。無論HD収録の場合はドットバイドットによる表示ができるのだが、4Kであったとしてもストレスのないモニタリングが可能だ。

そんな中SHOGUNが最も優れていると感じるのはこのモニターのタッチパネルで操作するUIにある。個人的な感想ではあるが、誰でもすぐに使えるUIであるだけでなく、記録中も安心感抜群の表示を行える。

例えばREC中は画面に赤枠が表示され、フロントの左側と背面にあるタリーランプが点滅するため、記録の状態が一目で分かるのは嬉しい。またウェーブフォームやRGBパレードなどの信号入力値を左下や下、画面上など好きな場所に好きな透明度や濃さで表示させられる。フォーカスや露出のアシスト表示も抜群で、ピーキングやゼブラ、フォルスカラー、そしてブルーオンリーなど多彩な方法で適正なフォーカスと露出を狙うことができるのだ。ピーキングには3つのモードが搭載され、好きな色を選ぶことが可能。ゼブラの%も瞬時に変えられる。

そして最も注目したいのが拡大表示にある。SHOGUNの拡大表示機能には「1:1」表示と「2:1」があり、HDの場合は「2:1」で2倍表示、4Kの場合は「1:1」で2倍表示、「2:1」で4倍表示まで実効できる。そして画面を指でドラッグすると拡大された位置を自由に動かせるという!なんとも夢のようなモニターなのである。しかもこれら全ての操作がREC中であっても、サクサクと行えるのが何とも嬉しい限りだ。

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REC中の赤枠は意外と便利。ON/OFF可能なタリーランプも筐体の裏表2か所に搭載されている

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UIが使いやすい。フォーカスや露出のコントロールが直観的に行える

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拡大表示が最高にいい。拡大後、指で位置をスワイプできるためフォーカスの確認など簡単だ

音声記録のUIも素晴らしい

音声の記録も分かりやすく、機能的だ。SDIであれば最高で12ch 48/96kHz 24-bitの記録に対応しており、入力のレベルから、ファンタムの切り替え、インプットゲイン、更にはリップシンクのディレイまでもが搭載されている。ヘッドホンでモニタリングしたいチャンネルも簡単に選択できるだけでなく、どのチャンネルがRECされるかということもすぐに目視が可能だ。モニター中の画面に置いても左下にインジケーターが表示されるため(2ch表示と12ch表示が選べる!)、安心してレコーディングを行える。

外部入力用のXLRステレオの入出力もしっかりと搭載されており、あらゆるスタイルの収録が組めるだろう。特にミラーレス一眼などで収録する場合、音は別撮りというパターンもある。SHOGUNで画音をエンベデッドできるのは使い勝手がいいのではないだろうか。とにかく操作性はこれ以上になく抜群である。6.2のファームウェアのアップデートで、アナログ入力のゲインコントロールがL/R別で行えるようになった。

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音声のUIも素晴らしい。音の収録はとても大事な要素だ。間違いがあってはならない

上部に表示されるOSDの情報も明確だ。入力ソースやプルダウン、記録サイズとフレームレート、コーデック、ファイルネーム、メディアの残り時間、バッテリー情報など、1920ピクセルを最大限に活かし表示される。各情報をタップすれば、更に詳しい情報がオンスクリーンで確認できる。とにかく「こんな機能が欲しい」という声を満載した4Kレコーディングモニターであると言っていいだろう。消費電力も最大で11Whと少なく、バッテリーとSSDを入れても重さは700g以下、各種周辺機材一式を付属のハードケースに収納でき、購入した人を落胆させる要素は見当たらない。

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ハードケース付にはATOMOSのこだわりが。オールインワンなのがいい(写真は初期ロットのもの)

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現在ハードケースはSHOGUNカラーになっている

LUT機能を搭載

今回のアップデートで、なんとSHOGUNパネルのモニタリングに3D LUTをかけることができるようになった。SHOGUN内のメモリに8つのLUTをプリセットできるため、各種カメラのLog映像に対して709変換の画などを表示することができる。

最初はプリセット1にCanon Logのデフォルトが入っており、SSDに読み込ませた各種LUTをSHOGUN内のメモリにアサインする仕組みだ。右下のメニューアイコンに、新しく「LUT」ボタンが追加され、簡単に好きなLUTをかけてモニタリングできる。キャリブレーション可能なパネルであるが故、LUTをかけた映像はかなり有効的に現場で使用できることになるだろう。理想としては、SHOGUNの出力信号にもLUTを載せられれば、そのシステムの可能性は広がることになる。以降のファームアップに期待したい。

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LUTを選択して、メモリに8つもアサイン可能。便利すぎる機能に脱帽

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LUTをかける前(写真左)とかけた後(写真右)の比較
※画像をクリックすると拡大します

4Kプレーヤーとしての可能性

そしてSHOGUNの更なる使用用途がある。それが「4Kプレーヤー」としての存在だ。クリップの選択やスクラブ再生など、非常に快適な環境が整っている。何よりもすごいのが、これによりProRes/DNxHRファイルの4K再生機としてSHOGUNが使用できるということだ。

例えばパソコンなどで編集した作品を4KのProResに書き出して、SHOGUNのSSDにコピーすれば即その場で再生させることができる。HDMIを介せば瞬時に4Kモニターで4K映像を再生できるということだ。ループ再生もクリップ内で行えるので、展示会などでの繰り返し再生の可能な4Kプレーヤーとしても使用できることになる。ファームウェアの今後のロードマップとして、複数クリップのループ再生や、クリップ内でのイン点・アウト点によるA-Bループ再生など、再生モードにも力を入れているようだ。もちろん再生中のクリップに対してもLUTを充てたり、ヒストグラムやフォーカス・露出のアシスト機能を適用することができる。いろいろな現場でSHOGUNが多用されることになるだろう。

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パソコンからレンダリングしたProResが4Kで再生できるため、今後4KプレーヤーとしてSHOGUNを使う人も増えるだろう。クリップ間のループ再生が可能になれば、更にその可能性は高まる

大注目のPXW-FS7。4Kカメラのスタンダードに

さて、そんなSHOGUNと抜群の相性を持つカメラがSONY PXW-FS7だ。昨年末の発売から4か月が経つが、どうやらかなりの人気のようである。それもそのはず、このカメラのもつ威力は4Kの撮影スタイルを根本から「変えてしまった」といっても過言ではないだろう。筐体価格が100万円を切るというコストパフォーマンスだけでなく、ハンドグリップを使った機動力、高感度センサー、拡張性など、どれをとっても次世代を向いている。4K/60pやHD/180pといった記録スペックも素晴らしいし、何といっても10bit4:2:2イントラフレームのXAVCというコーデックが非常にハンドリングしやすいのが特徴だ。

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4Kカムコーダーとして高い完成度を実現したSony PXW-FS7。4K/60p対応で、シネマ/放送など広い分野で活躍が期待される

筆者も大変気に入っている一台なのであるが、とにかくその画質の高さに驚いている。搭載されているセンサーを最大限に活かしたガンマ設定にも技術が集約されているようだ。一番の注目はもちろんS-Gamut.cineという広範囲なカラースペースを使用したS-Log3である。14Stopという驚異のダイナミックレンジで、シネマカメラとしても相当な実力を持つと言っていいだろう。発売時に筆者のコラムでも詳しくこのあたりは執筆させていただいた。

そんな中、より実用的なのがREC.709をつかったHG(Hyper Gamma)である。通常の709ガンマに比べて、よりダイナミックレンジを確保したプロファイルだ。709のカラースペースなので、LUTなどを使わなくても簡単に色補正が行え、更に広いレンジでシャドウからハイライトまでを捉えることができる。とにかく「美しい映像」をお手軽に手にするこができるガンマだ。正直、最近の撮影ではHGを使って「即編集」に向き合うケースが増えている。もちろんS-Log3を使えばより広いダイナミックレンジを確保できるが、ISOが2000スタートになるため高感度になりすぎるシーンもあるため、臨機応変に使い分けるといいだろう。

SpeedBooster ULTRAで更なる高画質を

FS7についての詳細は以前のコラムを参照していただければと思うのだが、実際の運用にはいろいろな機材を併用している。まずはEマウントからEFマウントに変換するためのマウント変換としてMetabonesのSpeedBooster ULTRAを使用している。ULTRAは従来のSpeedBoosterと比べ、周辺部の解像感が増しており、4Kの撮影には大変心強い機材だ。

SpeedBoosterを使うメリットは、もちろんEFマウントの資産を活かせるだけではなく、フルサイズのイメージサークルをスーパー35mmに小さくすることで1段分明るく撮影できたり、よりシャープできれいな画を捉えられるなど様々なことが挙げられる。本体からの絞りのコントロールができたりするのも便利な点だ。FS7の付加価値を上げるには是非手にしておきたいアイテムだ。

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FS7の価値を更に上げるSpeedBooster ULTRA。マストアイテムといっていい

堅牢な4K収録システム-FS7とSHOGUNのコンビネーション

そして、FS7とSHOGUNの組み合わせは「とにかく素晴らしい」システムを実現してくれる。FS7のHDMI 4K出力にはSHOGUNが認識するRECのトリガー信号を出せるため、FS7のRECとシンクロして自動で記録を行えるのが大きな特徴だ。タイムコードも受けてくれるので、4K最強のバックアップ機としてSHOGUNが活躍する。FS7の4K HDMI出力は24p/30pで10bitの出力なため、最大限に美しいProResを手にすることができる。

本体でXAVC、SHOGUNでProResとなれば相当堅牢な4K収録と言えるだろう。さらには前述のとおり、SHOGUNのフォーカスや露出のアシスト機能を活用すれば、4K収録で鬼門とされるフォーカスコントロールが、ほぼ完璧にクリアできる。表示を2倍拡大(事実上4倍)にして、確認したいフォーカスの場所を指で探せばOKだ。露出の確認も様々な方法で見られるため、完璧な4K映像に照準を合わせられる。何度も言うようだが、この作業がREC中でも行えるのも嬉しい限りである。

更にSHOGUNには4KからHDへのダウンコン機能が搭載された。FS7は4Kの出力を選ぶと、各SDIからの信号が出せなくなる。つまり4Kを出力しているときは一切HDの映像をカメラから得ることができない仕様だ。ところがSHOGUNを使えば、SDIの出力から、HDダウンコンを出すことができるため、HDモニタリングなどのシステムを簡単に組めるようになるということだ。無論FS7のみならず、α7SやGH4といったカメラにおいても、4Kの記録をしつつHDの出力をSDIで出せるというのは、正に「待望」とされていた機能であること言える。

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最高のコンビネーションといえるだろう、FS7とSHOGUN。HDMIのRECトリガーもばっちりでTCの同期にも問題はない。HDのダウンコン出力も大きな進化である

総括

ちなみにFS7にはVマウントバッテリーの使用を可能にするオプションユニットがある。XDCA-FS7という型番のユニットで、RAW出力やTCなどの入出力インターフェースも兼ねている。これを使用すると一本のVマウントバッテリーからFS7本体とSHOGUN本体に同時給電することが可能。

いやはや正直、4K収録において、ここまで理想の形を形にできるとは素晴らしい限りだ。4Kがスタンダードになると言われるこれからの映像規格に向けて、様々な機材の組み合わせが新しい世界を実現してくれる。制作者として、あらゆる可能性に挑戦していきたいと感じている。

WRITER PROFILE

江夏由洋

江夏由洋

デジタルシネマクリエーター。8K/4Kの映像制作を多く手掛け、最先端の技術を探求。兄弟でクリエイティブカンパニー・マリモレコーズを牽引する。