txt:オースミユーカ 構成:編集部
日常がそのママ企画に
平日の夜。仕事を終わらせ、保育園に子どもを迎えに行く。家に戻ったらすぐにご飯を作って、夕食、風呂、歯磨き、読み聞かせをし、寝かしつける。もちろん子どもは久々に会った母に甘えたり遊んだりしたいのだけれど、そんなゆっくりとした時間は週末までおあずけだ。私の方も仕事で疲れたからと気を抜いたが最後、子どもの寝る時間も遅くなり、次の日に響いてしまうから気合いを入れてタスクを次々こなしていく。家に帰ってからベッドにつかせるまでの2時間半はまさにバトルだ。
こんな私の日常がそのまま企画として採用されたのが大塚食品「ボンカレー」のweb CM「Smile Table Day」。忙しいママのために、じっくり子どもと向き合う時間を作り、生まれる会話を映像に記録する。会話量、笑顔数、食卓滞在時間を「普段の日」と、「Smile Table Day (ボンカレー)」を取り入れた日との差を視覚化して比較するというもの。
大塚食品ボンカレー スペシャルムービー「Smile Table Day ママもみんなも笑顔になる食卓3カ条」
自然な日常を切り取るために
さてこの実証番組のような企画、まさにドキュメンタリーで撮影するのだけれど家族の普段通りの食卓をどう撮影するか?半年くらい前にやった別のドキュメンタリーの仕事では、カメラマン、アシスタント、録音さんとぞろぞろ引き連れて家に入ったが最後、子どもはかたまってしまいなかなか自然な表情は狙えなかった。
どう撮影するのがベストなのか?こどもの初めてのおつかいをそっと撮影するあの番組を作っているディレクターの友人に話を聞きにいった。番組には俗称「盗撮班」(笑)という撮影隊がいて、何日も前から修理屋のふりをして家に入り込み、カメラのセッティングなどをしたり、子どもに修理屋(カメラマン)の存在を慣れさせたりするんだそう。家の中に据え置きするカメラも、小道具に仕込んで数日間置いておき、あたりまえの光景にしておくんだとか。
理科の実験番組を作っている別の番組ディレクターにも会った。両方を取材してわかったことは、リアルな実証映像を撮るには時間をかけて、トライ&エラーする余裕をもったスケジュールを組むという事だった。うーん、みんな地道な努力と、時間かけて映像を作っているんだなあ。
ということでスタッフとは何度も撮影の打合せを行った。私からのお願いは、子どもを含めて家族のリアルを撮影するために「カメラマンを食卓に入れたくない」「キッチンやリビングの至る所にカメラを配置し、死角を作らない」「カメラの存在を悟られないようにしたい」というもの。簡単にいうと“家族の食卓の風景を盗撮したい”ということだ。それから、母親の視点を入れこみたいので「目線カメラ」も必要だった。
定点カメラはGoProをうまく隠して配置。最終的に素材上でヨリの画を作れるように4Kで撮影したいともリクエストした。それから、食卓に隠しカメラを配置し、家族それぞれの正面からのヨリも狙いたい。ウェアラブルカメラを母の目線カメラとし、インタビューだけは別にCanon EOS 5Dで撮って…、と総勢10台ほどのカメラが必要だった。
3回目の撮影打合せには、機材リストの詳細があがってきた。食卓に置く人物のヨリ用カメラをGoProで撮るとワイドの画になりすぎるんじゃないかと懸念していた点にカメラマンから新たな提案があった。V.I.O.のPOVというアクションカメラを使って遠隔でズーム操作するのだ。カメラを食卓に据えてしまうと、カメラ前に物を置かれてしまったときに致命傷になるし、卓上にカメラを置くと子どもにいじられる可能性もあってリスキー。だから壁や棚などにカメラを置いてリモート操作できるようにするという。
またウェアラブルカメラはPanasonicのHX-A500がバッテリー駆動時間も長いし適しているということだった。ママ目線カメラは大事だなと思ってはいたけれど、スタッフが装着している写真をみて「むむっ」となる私。何しろ口元のそばにカメラがあって、食卓の風景を撮影するときにごはんがおいしそうにみえないじゃないか!しかもウェアラブルカメラを装着したママが未来感ありすぎて、普段のママっぽくない…。
せっかくそろえてもらった機材だったけれど、もう少し別方向を探してとお願いすると「ボールペン型カメラ」「眼鏡型カメラ」という盗撮用のカメラが候補にあがってきた。結局ママの服に装着しやすいペン型カメラを採用することにしたが、画質はイマイチだしバッテリー駆動時間が短い。しかも目線というにはちょっと低すぎるような気もするが、目の前の子どもの表情くらいは入ってくれるに違いない。不安要素はいろいろあるけれど、どうなるかわからない撮影ってなんだかちょっと楽しいぞとみんなの気分も盛り上がってくる。
キッチン俯瞰に据えたGoPro映像をWi-Fiで飛ばし、iPhoneでモニターチェックするカメラマンの松戸さん。後ろの籐カゴにはマイクが仕込まれている
遠隔操作用機材。V.I.O.のPOVカメラを円台に乗せたものを二台操作をしながら撮影する。私は現場のマイク音と映像で状況を把握
緊張の撮影がはじまった。別部屋で息をひそめながらモニタをみつめる私たち。幸い子どもや母親たちはカメラを意識することなく、普段通りの夕食の風景が撮影できた。残念ながらペン型カメラの映像はぶれがひどくて使い物にならなかったが、遠隔で操作したヨリの素材はかなりいい画が撮れた。
一週間に及んだ撮影は被写体であるご家族の協力や、撮影部とスタッフの細やかな気遣いもあって、笑顔いっぱいの楽しい時間になった。
全ての撮影を終え、夜も深い時間に家に戻ると子どもが平和な寝息をたてて眠っている。彼女の誕生日の夜すらも撮影になってしまっていた私。「ごめんね」と寝顔につぶやく。明日の夕食は子どもときちんとコミュニケーションをとろうと心に誓いつつ、またもうひと頑張り、終わらない仕事に手をつけてしまうのだった。