txt:オースミユーカ 構成:編集部
子供達を記録に残そう
娘の通っている保育園はちょっと変わっている。東京の真ん中で野生児のように身も心もたくましいこどもを育てようと自然教育をしている無認可の小さな保育園だ。「東京中が庭」というのが園長の考えで、雨が降っても雪が降っても基本的には外で過ごし、週に2回の遠足で海(葛西臨海公園)やら山(高尾山)やら遠くへと出かけていく。毎日子どものポケットは木の実や野生の果物でいっぱいだ。
自然とともにのびのびと子どもらしく育っていく園児たちを毎日みていると、「撮りたいなあ、子どもたちやこの保育園のあり方を記録として残したいなあ」と純粋に思うようになった。保育園自体もちょうど変化をとげようとしている時期だった。まったく援助のない“無認可保育園”という枠組みから、行政から助成金の降りる“認証保育園”という形へと移行の過渡期。後々どうまとめるかは置いておいても記録だけはすぐはじめないと後悔する、と思ったのは1年半前のことだった。
さて撮影しよう!と思い立ったものの先立つ機材がなにもない…。どうせ新しく買うなら最新のオートフォーカス付き一眼レフで美しい映像とともに子どもたちを記録したい!と身近な達人に予算と使用用途を伝えて、おすすめの機種をだしてもらった。
お題:
- 子どもが被写体
- 荷物をたくさんもちつつ撮影するので軽量のもの
- 大きいスクリーンでの上映に耐えられる画質
- 予算20万円くらいまで
で、あがってきた答えはこちら。
回答1:「Sonyハンディカム」
おすすめ理由:子どもはすばしっこいので瞬時に被写体にピントがあうのが何よりも大事。一眼レフできれいな映像を目指したとしても撮り逃したらそもそも意味がない。機動性が高いし、映像は十分きれい。
回答者:子どものドキュメンタリーを撮っている映像作家 B.Mさん
回答2:「Sonyハンディカム+Sony α6000などのミラーレス一眼」
おすすめ理由:基本はハンディカムを使って、インタビューや写真をミラーレス一眼の動画機能で撮る。ハンディカムの空間光学手ぶれ補正はとても高機能で、歩きながら手持ち撮影するにはプロ機材に劣らないレベル。ビデオと一眼を同じメーカーで揃えておけば、後の色調整もラク。
回答者:映像ジャーナリスト Y.Iさん
提案予算が少なかったというのもあるけれど、まさかの両者ともハンディカムという答えには正直がっかりした(笑)。「いくら主婦だからって、私もプロの端くれよ。いまさら家庭向けビデオカメラなんて買えるわけねー」と思いながら話を聞くと、とにかく私の使用用途とハンディカムの相性がよさすぎる…。まあお母さんが子どもを撮るためのカメラだからあたりまえっちゃ、あたりまえなんだが…。私は背景のボケ味とか、ルックを大事にしたいんだよ~。ち~き~しょ~。
その後オートフォーカス機能が優秀なCanon EOS 70Dも候補にあがったが、Nikon派としてはレンズ問題が…と悩んで、結局なぜか負け犬気分でハンディカムを買う事にした。
撮影をはじめると思いがけない事がいろいろ起こった。保育園の子どもたちは、たとえば年長になると1日10km歩くほどの移動をするので、1カ所に落ち着いてカメラを構えるということができない。常に自分も子どもも移動しながら進んでいく様子をどうにか撮らなくてはならないのだ。当然三脚なんてありえないし、優秀な手ぶれ補正機能がないと素材は使えないほど動きっぱなし。おまけに子どもたちは次から次へと私の背中によじ登ったり、2本しか無い手を3人で取り合ったりするもんだから撮影どころの騒ぎじゃない。
また「保育に参加した大人はこどもと一緒に遊ばなくてはいけない」という厳しい掟もこの保育園には存在している。海に入ってる子どもを浜から悠長にカメラを構えて撮る事などそもそも許されず、一緒に海に入って遊びながら合間に片手でささっと撮影するという神業をキメなくてはならない。もちろん足場は不安定だし、カメラもいつ水没するかわかなくて、かなり危険…。その他、崖を登る、柵を乗り越える、泥だらけで抱きつかれるなど、撮りたい瞬間は私も必死…という撮り始めたことを呪うような出来事がたくさんあった。
ついに私は「この撮影ハンディカム以外考えられね~」と思うようになってきた。素晴らしいのは機材にたいした思い入れがないので雑に扱えるし、子どもに泥だらけにされてもぶつかられても全く気にならない。ハンディカム最高!ハンディカム命!
カラコレもしつつ上映会へ!
なんだかんだで1年半撮りためた映像をまとめて上映会をすることになった。民生のHDカメラとしては十分すぎるほどいい画質ではあるが、彩度強めの電気的な映像はやっぱりあまり好きではない。だから最後のカラコレ作業はプロのカメラマンにお願いする事にした。色に対する不満をつらつら述べて、もっていきたいトーンを伝え、一日かけて丁寧に作業してもらった。そのおかげで民生機ならではの色が、落ち着いたやさしいルックへと生まれ変わった。
カラコレ前(写真左)とカラコレ後(写真右)。カメラマン上岡伸輔さんに30分の映像をカットごと丁寧に色を調整してもらった
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こうしてハンディカムは私にとって素晴らしい相棒となった。まだこの先も保育園の記録は撮りためていくつもりだ。でもあと1年たったら4Kで撮ってこなかったことを後悔するのだろうか…。とりあえず次の買い物はGoProとヘッドマウントセットでハンズフリー撮影を…、と企んでいる。