txt:オースミユーカ 構成:編集部

〆切までアイデアを「考える」

Eテレ「で~きた」も4月からレギュラー化してはや半年。一年間の撮影も折り返し地点を過ぎた。収録を三日後に控えているが、繰り返し撮影していることにより、頭を悩ますような困難な作業も少なくなってきて、スタッフも出演者もスムーズに撮影当日を迎えそうだ。

ディレクターの仕事は、企画、脚本、制作、撮影準備、撮影、編集、音楽制作など一本の映像を仕上げるまで少なくとも二ヶ月、長い時は一年を要する。中でも私が好きな作業ははじめの企画や脚本などの「考える」部分。反面、一番面倒くさい作業とも言え、アイデア出しや脚本作業につまづくと逃げたくもなることもたびたびある。でもやっぱりその作業はひとときの夢想期間。予算という制約に向き合う前の自由があるから楽しい。仕事が私のところにやってくる時にはたいていが、この面倒くさくも楽しい企画の段階だ。

CMプランナー、ディレクターとして仕事を受けた場合の流れはこんな感じ。まず商品説明とターゲット、そして代理店のクリエイティブディレクターから方向性やコピーが出される。そこから先は自分との闘いだ。企画打合せという名の〆切までうんうんとアイデアを「考える」。なんとなく形になりそうなものを15秒、もしくは30秒の絵コンテにして打合せにもちよって、答え合わせする。たいていの場合が「考える」→「みんなで相談しながら答え合わせ」→「持ち帰って考える」の作業を繰り返し、プレゼンに出す案が最終的に数案決まる。

プレゼンが失敗したら、またイチからアイデアを練り直すなんてこともしょっちゅうあるし、競合他社が出した企画に決まってしまい、仕事自体がなくなるってことも悲しいかな日常的にある。しかし私の出した企画が決まって、そのまま演出も私が担当することもある(たまに)。

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考える、考える、リゾートでも考える。「お昼はなににしようかな」

番組ディレクターとしての仕事

番組のディレクターとして仕事を受けた場合、たいていは、プロデューサー、放送作家、演出で番組の企画打合せを行う。Eテレ「お伝と伝じろう」の番組立ち上げ時に決まっていたことは、タイトルとテーマと放送枠のみ。どんな番組ができあがるのか全く見えなかったため、不安でもあったけれど面白く、キャスティングや番組内容、構成などは完全にイチからみんなで考えて作り上げていった。

Eテレ「で~きた」の場合、私の役割りは放送作家兼総合演出。この時はターゲットやテーマ、放送枠以外にも、番組の構成もできあがっていて、プロデューサーのオーダーも明確だった。それでも考えなくてはならない作業は山ほどある。

「で~きた」のターゲット、小学一年生に番組の内容をきちんと伝え、理解してもらうことが番組制作で一番大事な基本的事項。私たちが子どもの頃の詰め込み式暗記教育と違って、昨今、教育分野ではアクティブラーニングが主流となっている。ただ単に教科書の内容を覚えさせるのではなく、どうやって主体的に考えさせる番組(授業)にするのか?参加性こそがアクティブラーニングの要だ。

Eテレの学校放送枠(平日学校時間帯の番組)の目的は授業補助。番組を授業に取り入れてもらってこそなんぼなので、いかに実際の授業に取り入れやすい内容にするかを小学校の先生や大学教授など番組委員である有識者たちとともに話し合いながら作り上げて行く。

この過程は時に感動的ですらある。年間カリキュラム(各話のテーマ)を決めていた打合せで番組委員の先生が「ここに並んでいるカリキュラムはなんだか機械でも教えられそうな内容だ。近い将来、AIが人間の仕事の大半を奪ってしまうと言われてるからには、AIには教えられない人間の感情に寄り添ったものをテーマに入れ込みたい」と言い出したのだ。

社会的スキルを教える教育番組なので「かたづけ」「ろうかのあるきかた」など、ハウツーになってしまいそうな内容が、こうして「だいじょうぶ?」や「ごめんね」など気持ちやコミュニケーションという概念をテーマとして取り入れる事により、番組に花がそえられていく。NHKの学校放送番組は時間をかけ、丁寧に試行錯誤を重ねていくなかで作られて行く。

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考える、考える、歩きながらも考える。「この駐車場、手掘りかな?」

番組のオンエアーがはじまると、実際に小学校に足を運んで番組がどう授業に応用されているのか見学する機会ももらえる。番組を使って授業をやっている小学二年生のクラスを見学すると…。番組を問題提起と位置づけ、クイズ形式で子どもたちに活発に意見をださせ、最終的には自分のこととして考えさせるよう、上手に誘導しながら映像版教科書として番組をつかっている。

生徒たちが番組のドラマ部分をみて実際に考え、自分たちで答えを出し、日常にもって帰るまでの道筋を作れれば、成功だ。こうして小学生たちも「考える」→「みんなで相談しながら答え合わせ」→「持ち帰って考える(実際やってみる)」という思考の積み重ねの方法を学んで行く。

10分番組で完結するのではなく、自分ごととして考え、実践まで促す番組づくり。映画だって、映画館を出たあとも課題を投げかけ「考えさせてくれる」ほうが話題にもなるし、記憶に残る。いつまでたっても人の心に残ったり、人と語ったりしたくなる映像こそが今この時代に求められている映像制作。そのためには、企画の時点でうんうんうなって「考える」作業が大事なんだと思う。

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Eテレ「で〜きた」
毎週火曜午前9:00~9:10
http://www.nhk.or.jp/tokkatsu/dekita/

WRITER PROFILE

オースミ ユーカ

オースミ ユーカ

CMやEテレ「お伝と伝じろう」「で~きた」の演出など。母業と演出業のバランスなどをPRONEWSコラムに書いています。