txt:オースミユーカ 構成:編集部
肉汁ジュワ~っ、湯気モワ~、そのシズルを求めて!
クリスマスシーズンにあわせて、チキンやステーキ、ロブスターなどのシズル撮影をした。料理も豪華なので、肉汁ジュワ~っとか、湯気モワ~とか、ロブスターがビヨ~ンとか、やってみたいことはいろいろある。
四谷のテストキッチンにて
料理は生ものなので、本番前の打合せや準備が大事。というわけで事前にテストキッチンで料理の確認を兼ねてお試し撮影をすることになった。フードスタイリストとカメラマンとともに、どうみえると美味しそうか、焼き方、切り方、みえ方、背景の美術や照明など、具体的な問題点を洗い出して相談する。湯気をたたせるためには、背景は暗めにしなくてはならないし、ハイスピードの速度も検証したい。本番と同じ材料を使っての撮影なので、テスト後には最高級の和牛ステーキなんかもサーブされ、打合せが少し華やかになる。
カメラはBlackmagic URSAを使用
撮影当日は、装飾も入って部屋はクリスマスパーティ風に飾り付けられた。ステーキは赤身の部分に少しでも火が通ってしまうとおいしそうにみえないので何度かいい焼き具合のもので再チャレンジしつつ、熱々の鉄板の上からソースをかけジュワ~と湯気がたつその瞬間をハイスピードで撮る。
ハウススタジオの片隅ではVEがリアルタイムで映像をチェック
ローストチキンは、美味しそうな照り具合を照明でさぐり、フードスタイリストがナイフをいれて肉汁たっぷりの断面をみせてくれる。が、そんなに想像どおりに肉汁など垂れてくれはしない…。そこはフードスタイリストの腕と技術のみせどころ。最終的には肉汁あふれる美味しそうな画が撮れた。
一筋縄ではいかない子役の食事シーン
今回の撮影はシズルと雰囲気がきちんと撮れていればOKだった。しかし、食事のシーンがある場合は、また違った大変さに悩まされる。先日は別の仕事で「子どもたちが給食を食べる」という設定のドラマを撮った。料理を食べながら会話をするという、よくみる当たり前のシーンだけれど、撮影はなかなか思うようにはいかない。
まずは本番と同じメニューを用意して事前に芝居のリハーサル。しかし第一の関門、子役の一人がちゃんと箸を持つことができない…。じゃがいもをつかんで口元に持ってくるタイミングで台詞を言う、などというお芝居をつけても、そのじゃがいもをお箸でとるのに一苦労してしまいNGになる。事前にこの状況を知っておけるだけで、子どもが持ちやすい箸の長さ、形状、滑り止めつきのものを選ぶなど、小さな気づかいを重ねた準備をしておくことができ、結果、撮影がスムーズになる。また、たいていは母親も一緒に現場に来ているので、撮影日までにお箸の練習をお願いすることもできた。
食事のシーンの本番がはじまると、第二の関門がやってきた。子どもたちはまだ抑制が聞かないので、テストも本番も待ち時間も、目の間にあるものをついつい食べてしまう。もちろんスタッフが食べることを阻止するが、すきあらば口に入れて「きゃ~きゃ~おいし~」などと喜んでいる。大人に囲まれて仕事をしてるけれど、やっぱり子どもなんだなあと微笑ましくみていると、テイクを重ねるうちに「おなかいっぱ~い。もうあと二口くらいしか入らな~い」などと言い出したりする(笑)。
第三の関門は、ごはんを食べながら台詞を言うということ。口に入れすぎて台詞がわかりづらくなりNGを重ねたり、食べる事に集中して台詞がでてこなかったり、無理して台詞を言って喉につっかえたり…。普段、大人同士の芝居だと、役者の技術でうまくカバーされているものが子役になったとたんに、とても難しい要求をしているんだなということがこちらにもわかる。「ごはんをおいしそうに食べながら、きちんと伝わるように決められた台詞を言う」なんてそりゃ、大人の私がやれって言われても難しい。
子どものお腹の具合を心配したり、芝居をつけたり、カメラマンに指示をだしたり、時間に追われたりしている私はどうやら撮影に白熱していたようだ。すべての撮影が終わって携帯をみると、たまたまとなりのスタジオで撮影をしていたレ・ロマネスクからメールが届いていた。「あいさつをしようとのぞいて何度か後ろから声をかけたんですが、忙しそうで。モニターをみながら『1カメは糸こんにゃくが垂れてるところと、落ちてるジャガイモのアップを撮って。3カメはもうすこしヨリを…』などと眉間に皺をよせて指示していたので、記念写真だけ撮って帰りました」と。
こんなドピンクな方が真後ろにいるのに全然気づかないで仕事に没頭する私…、はあ、食べものの撮影って大変。
こんな風貌の人が真後ろで声をかけても聞こえないほど真面目に働いている(中央)。今回は4台のカメラのうち2台が女性カメラマン、技術スタッフを取り仕切るTD(テクニカルディレクター)や別線担当も女性