txt:林和哉 構成:編集部
マシンの比較アレコレ
ここ最近、ポスト処理のための機材刷新を図っていました。Macをメインに使っていますが、ProRes問題以外にMacに縛られる必要はないと感じていたこの頃。最高スペックの黒マックを軽く超える処理能力を持つPCが20万円以下で買えてしまう昨今、巨大データ処理にWindows機を手配するのは当然の結論です。
今から程一年前、IntelがAMDのCPU「RYZEN」の快進撃に焦りを覚えて慌ててリリースしてきた10コアのCPU「Core i9」でハイスペックPCを作ろうと考え実行にうつしました。筆者は、AdobeのツールとDaVinci Resolveの美味しい処をつまみ食いしながら制作をしています。特にDaVinci Resolveでの作業比率があがっているので、DaVinci Resolveの快適さを追求しました。
今回は、一年ほどアレコレと使ってきた上で、パフォーマンスはどうだったのか、これからマシンを組む、または買い換えを考えている方に向けて、私感たっぷりに使用感をお伝えすることをテーマにして参ります。
スペックは?
「Core i9」は以前のハイエンド「Core i7」と処理能力的には突出していないという話ですが、何せX299という新チップセットのマザーボードを使っておけば、スタンバイしている24コアのCPUが出てきたときに乗り換えが簡単。新規マシン作成にはちょうどいいタイミングでした。
CPU
●Core i9-7900X(3.3GHz/Turbo Boost 4.3GHz/Turbo Boost MAX 4.5GHz/10-core 20-thread/L3 13.75MB/TDP140W)
Intel
CPUクーラー(水冷)
●H100i V2(CW-9060025-WW)
CORSAIR
マザーボード
●PRIME X299-DELUXE
ASUSTeK
ケース
●Fractal Design Define R5 Titanium Grey(FD-CA-DEF-R5-TI)(チタニウム)
Fractal Design
電源
●RM1000x(CP-9020094-JP)
CORSAIR
追加ファン
●MasterFan Pro 140 Air Flow MFY-F4NN-08NMK-J1
Cooler Master
メモリ(64GB)
●W4U2400BMS-16G/W ★CFD Ballistix by Micron Sport DDR4
CFD販売
GPU
GeForce GTX 1080 Ti LIGHTNING X 7月14日発売
MSI
OS
●Windows 10 Pro 64bit 日本語 DSP版 + バルクメモリ
Microsoft
M.2 SSD 2TB分
●MZ-V6E1T0B/IT
SAMSUNG
OSブート用SSD
●ASU800SS-512GT-C
A-DATA
パーツ構成のチョイスについて
■マザーボード
将来の拡張も考えて、PCIバスは多めで、且つフルサイズのボードが入り、最近肥大化しているGPUも難なく複数枚詰めること(通常のPCIバスの厚みを超えて2バスハイトや3バスハイトの厚みを持つものもザラになっているので)を視野に検討しました。このボードは、3バスハイト、2バスハイトを楽々インストールでき、組み合わせ次第で3枚までGPUを積むことができます。ケースもそれに伴って大型のものにしました(笑)。
■CPU
DaVinci Resolveはグレーディングの作業はGPUがアシストしてくれますが、根本的な絵を紐解くデコードはCPU処理と聞いています。よくCPUのコア数も注目されますが、実際はクロックが速い方が快適さは増します。i9の10コアは3.3GHz/Turbo Boost 4.3GHz/ということで、かなり期待ができました。さらに、筆者が選んだボードはゲーム用途に強く、クロックアップが可能です。現状39%のクロックアップがほどこされ、実質的に常時4.0~4.5GHz以上のスピードが出ていることになります。
i9の10コアは、設計的に高温となりグリスバーガー状態になってしまう恐れがあります。グリスバーガーとは、CPUの世代がSandy BridgeからIvy Bridgeへ変わる際に話題になったPCスラングで、CPUダイとヒートスプレッダとの間にハンダを採用せずにグリスを採用したことによって、CPUクーラー、ヒートスプレッダ、CPUダイに挟まれたグリスが高温になることが予想され、マーケットにネガティブな反応が起こりました。このグリス方式を揶揄する形でハンバーガーに例えたアスキーアートが有名になり「グリスバーガー状態」がイディオムになりました。
そこで、筆者は何が何でも水冷として、強力かつ安定的にCPU温度を下げる水冷仕様にこだわりました。エンコード処理やレンダリング時に、初速は速くても熱が上がってくると処理速度が下がってきます。それを水冷にすることで安定したパフォーマンスを手に入れようという狙いでした。
■GPU
こちらも排熱問題考えて、SLI設定や複数GPUよりも、1GPUのハイスペックボードを確保することにしました。TITANはコストに対してパフォーマンスが今ひとつなので、Tiのクロックアップ対応モデルに。
こちらは結局クロックアップしないで使用しています。SLIで1枚のパフォーマンスを上げるのはコストに対してバランスが悪く、かといって2枚差し以上でも、放熱問題でクロックが下がってあまりパフォーマンスが上がらない、という見解をBMDジャパンの方からも伺い、安定に稼働する1枚運用としました。
■データポート
最低限、Thunderboltは欲しいと思います。ある程度の大容量RAIDを接続したいので、速度の安定性と信頼性も求めてThunderboltは必須と考えます。なので、PRIME X299-DELUXE ザーボード専用のThunderbolt3ボードを導入。Thunderbolt2の周辺機器は、AKITIOのTB3←→TB2コンバーターを使用しました。
■RAID
作業領域としてM.2 SSDのRAID 0で2TBは欲しい。DaVinci Resolveでは、最適化メディアやプレビューファイルを作成すれば、かなりの重たいデータでも作業スピードを落とさずに編集作業が出来、最後の最後で元データに戻ってレンダリング、という効率的な作業が行えます。
その最適化メディアやプレビューファイルをマザーボードに直結するM.2 SSDの1TBを2枚差して、それをRAID0にすれば爆速の作業領域が出来るはず。ノンストレスの4K/8K編集&グレーディングも楽々なのでは無いか!?と期待が膨らみます。
さて、パフォーマンスは?
筆者は仕事柄、4K以上のX–AVC、X–AVC S、GH5のALLーI、R3Dの素材を扱うことが多いのです。H.264系は、ファイルサイズは小さくなりますが、15フレーム毎に1フレームずつに展開して処理するので、CPUに負荷がかかります。1フレーム見るのに15回計算しているような感じですね。なので、本来は最適化メディアを作成するのが良いのですが、あえてネイティブファイルのままパフォーマンスをチェックしてみました。
試したのは下記。全てDaVinci Resolve 15β版のパフォーマンスと、
■リアルタイム性能
- UHD XAVC S 24pマルチカメラに寄る、同時リアルタイム再生出来るストリーム数
■レンダリング性能
- XAVC S 24Pの素材をUHDサイズの1分尺で、全尺にブラー(ガウス)を掛けたタイムラインをYouTube 2160p書き出しプリセットで書き出す時間
- XAVC S 24Pの素材をUHDサイズの1分尺で、全尺にデノイズを最大効果で掛けたタイムラインをYouTube 2160p書き出しプリセットで書き出す時間
- R3D 8K 30pの素材をUHDサイズの1分尺で、全尺にブラー(ガウス)を掛けたタイムラインをYouTube 2160p書き出しプリセットで書き出す時
- R3D 8K 30pの素材をUHDサイズの1分尺で、全尺にデノイズを最大効果で掛けたタイムラインをYouTube 2160p書き出しプリセットで書き出す時間
■作業RAIDのスピード
- 内蔵SSDストレージのスピード
テスト結果
マルチカメラクリップを作って再生能力をチェックしました。
ネイティブフォーマット(4K XAVC S)
4ストリーム ○
5ストリーム ○
6ストリーム ×最適化したメディア(4K DNxHR HQ)
09ストリーム ○
10ストリーム ○
11ストリーム ○
12ストリーム △(少しだけカクつく時がある)
13ストリーム ×
このテスト結果から、簡単なオフライン編集でしたらネイティブフォーマットのままでも充分使用可能だと分かります。筆者は、最適化メディアを作らないで編集してしまうことが多いです。もちろん、最適化したメディアを作成すれば、全く問題ない快適さですね。
さて、書き出しは、といいますと。
■ブラーテスト
負荷の掛かる代表的なエフェクトであるブラーを掛けて、ほんの少し色調整をした書き出しのテスト。
・XAVC S 24Pの素材をUHDサイズの1分尺で、全尺にブラー(ガウス)を掛けたタイムラインをYouTube 2160p書き出しプリセットで書き出す時間
書き出し速度:45fps
結果:32秒
・XAVC S 24Pの素材をUHDサイズの1分尺で、全尺にブラー(ガウス)を掛けたタイムラインをDNxHR HQで書き出す時間
書き出し速度:62fps
結果:24秒
・R3D 8K 30pの素材をUHDサイズの1分尺で、全尺にブラー(ガウス)を掛けたタイムラインをYouTube 2160p書き出しプリセットで書き出す時間
書き出し速度:13fps
結果:2分18秒
・R3D 8K 30pの素材をUHDサイズの1分尺で、全尺にブラー(ガウス)を掛けたタイムラインをDNxHR HQXで書き出す時間
書き出し速度:16fps
結果:2分8秒
個人的には爆速な感覚。YouTubeのコーデックはH.264。H.264は展開して処理して圧縮するため、どうしても時間がかかります。それでも実時間の半分に近い時間で処理できているのは素晴らしい! フレーム内圧縮のDNxHRでは1/3の時間で処理できています。実用性は抜群ですね。
■デノイズテスト
時間軸とフレーム内の両方のデノイズを掛けてみました。実作業で良く求められる徹底したデノイズ処理ですね。
・XAVC S 24Pの素材をUHDサイズの1分尺で、全尺にデノイズを最大効果で掛けたタイムラインをYouTube 2160p書き出しプリセットで書き出す時間
書き出し速度:2.5fps
結果:9分25秒
・R3D 8K 30pの素材をUHDサイズの1分尺で、全尺にデノイズを最大効果で掛けたタイムラインをYouTube 2160p書き出しプリセットで書き出す時間
書き出し速度:1fps
結果:22分4秒
これは流石に重いですが、ほかの機材ではもっともっと時間が掛かることを考えるとゾッとしますね。
■CPU使用率
高負荷時でも多少ファンの鳴りが大きくなりますが、ずーっと安定でガシガシとレンダリング。落ちることもなく、安心して放置できました。
ブラーはCPU使用率が100%、GPUは40%ほど。デノイズはCPU使用率が30%、GPUは10%ほど。
デノイズでCPUとGPU共にあまり力を発揮していないのが気になりますが、このことは改めて報告したいと思っています。
■作業域のスピード
・SSDストレージのスピード
R 2485.6MB/s
W 2866.1MB/s
これだけの速度が出れば、大概の作業は滞りなく出来ますね。
総括
実に快適な作業が出来るマシンに仕上がりました。
この一年、マシンパワーを理由にスケジュールが押したことはなく、逆に効率が上がって、よりクリエイティブに時間を掛けることが出来ました。まさに「創造力を加速する」マシンです。1年前で60万円そこそこで組み上がったマシンです。今はもっと安く組めるかもしれません。また、同じような構成のノートパソコンもDELLのAlienWareシリーズでオーダー出来るようです。
これからマシンを構築しようと考えている方の一助になれば幸いです。