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txt:林和哉 構成:編集部
ブラシレスジンバルとは?
ブラシレスジンバル。Freefly Systems社からティザー広告が出ただけで実態がベールに包まれていたとき、かつてCanon EOS 5D Mark IIの動画機能の可能性をいち早く見抜いて世界に発信したパイオニア、ビンセント・ラフォーレ氏をして「ゲームチェンジャー」と言わしめた、カメラの動きをジャイロシステムによって、手持ちで発生する縦のブレ、左右のブレ、左右のロール、それらに対して完璧なカウンターの動きを与えて、カメラを水平一方向に保持する移動装置の総称ですね。
Freefly Systems社の「Movi」は手軽に移動ショットが実現できて、且つステディカムでは出来ないであろう高低差のダイナミックな受け渡しなどで瞬く間に世界を席巻して、まさに映像の表現を変えたゲームチェンジャーだったのも記憶に新しいと思います。
その後、仕組みにいたっては簡単な原理であるため、後発メーカーがこぞって参入。気がつけばMoviはハイエンド機として一定のシェアは握るものの、大部分を中国籍企業群が占める情勢となりました。日本のお家芸であった、優れた製品に学び、低コストで学んだ製品以上の製品を提案する製品作りが、今は中国の深圳市から発信されています。
DJI社のRONINシリーズは、手頃な価格とパワフルなモーターで、日本では圧倒的に支持を集めています。そして、2018年、RONIN-Sという小型カメラ用の3軸ブラシレスジンバルが発売されると、世のビデオグラファーのマストバイアイテムとして売れに売れました。形状は、カメラの周りをケージで囲むようなスタイルから、モノポッド状の手軽なスタイルに変化しました。
そんな中、ZHIYUN社(以下:ジーウン)から、発表から半年以上を経てCRANE 3 LABが発売されました。世界シェアではジーウンが一番のシェアを握っているらしく、革命機RONIN-Sを研究して「負けないぜ!」で出してきたCRANE 3ですから、色々と良い感じです。
ちなみに筆者が購入したのは、Masterパッケージ。カメラバックや気の利いた小物、一脚、フォローフォーカス、フォローズームが付いてて、満足度の高いパッケージです。このジンバルはローアングルで構える時に持ちやすい形状のメイングリップと、開くとテーブル三脚になる下部グリップを併せ持ったスタイルが特徴です。
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外観
特徴的なグリップを持ち、ローアングル(正式にはアンダースラングジェスチャーと呼ぶそうです)からアイレベルにスムーズに移行できます。
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アンダースラングジェスチャー
モーターも非常に強力で、ローアングルからハイアングル、ハイアングルからローアングル、といった動きを1秒で移動を終了させるようなクイックなスピードで扱っても見事にピタッと止めてくれます。
Wi-Fiトランスミッターを内蔵しているので、iPhoneやアンドロイドが走るスマートフォンでビューイングや細かなコントロールが出来、楽々運用が可能です。スマホからは、メニュー操作、ヘッドの向きコントロールなどが可能です。
収納用とセットアップ時の体勢の2スタイルでストッパー固定が出来るので、バランス取りも非常にやりやすく、細かいユーザーの声を拾って開発していたのが分かりますね。
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収納時の姿勢
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セットアップ時の姿勢
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ストッパー
モード
ざっとヘッドの動きについて紹介しましょう。ユニークなモードがたくさん搭載されています。
■PF→PFボタン
パンフォローモード。チルト軸とロール軸が固定され、パンの動きにだけカメラが追従してくるモード、チルト角は手で調整可能なので、横移動のフォロー限定の動きをする際に扱いやすい。
- ロールは追従せずに水平を保ちます
- ジョイスティックでチルト軸を調整できます
- 手動角度ロック可能
■Lock→Lockボタン
ロックモード。このモードに入る際に向いていた方向を堅持してくれるモード。カメラを北に向けていたとします。カメラを起点に右側に体を周り込ませても、左に周り込ませても、カメラはずっと北を向いたまま。手でパンとチルト角を調整でき、そのあとはまたずっと同じ方向を向いたまま。例えば並走するときなど、オペレーターは進行方向を向いたまま歩いていくことが出来るのです。他のモードから切り替えてロックし、また被写体を周り込んでロック、なども考えられますね。
- ロールは追従せずに水平を保ちます
- ジョイスティックでチルト軸を調整できます
- 手動角度ロック可能
■POV→POVボタン
視点モード。パン、チルト、ロールが最大左右45度まで追従します。人間の頭の動きをシミュレートできるモードですね。ホラーで曲がり角の先を除く、みたいな時に、ロールが追従してくるのは演出の幅を広げてくれますね。
■F→Fボタンン
フォローモード。ジンバルのグリップの向きに素直に追従するモード。上を見たら上に、下を見たら下に。ジンバルの姿勢が光軸の向きになる形ですね。一番感覚的に分かりやすいモードかと思います。
- ロールは追従せずに水平を保ちます
- ジョイスティックでチルト軸を調整できます
POVのロールが追従しない版、というと違いがわかりやすいかと思います。
■Vortex→POVボタン2回押し
竜巻モード。ロール軸に垂直にカメラが固定され、アンダースラングジェスチャーで持つと、錐揉み旋回で突っ込んで行くことが出来ます。
- チルトが固定されます
- ジョイスティックで旋回させます
■PhoneGO→PhoneGOボタン
イケイケモード。まさにCLANE3 LABの真骨頂のモードです。GOボタンを押している間、モーターのパワーを全開にして、ジンバルを向けた方向に、カメラの向きが素早くピタッと止めてくれます。振った方向にやんわりとカメラが追従するか、遠隔でヘッドをコントロールするか、というのがジンバルのイメージですが、それを覆すクイックなレスポンス。手持ちでアクションシーンや素早いパンを撮影するときに、意図した通りにカメラを振ることが出来るのですね。これは、強力なモーターであったればこそ。ポテンシャルの高さが伺える爽快な使用感です。
- ロールは追従せずに水平を保ちます
上記のように、演出意図に合わせて様々なモードを使い分けることが出来るのですね。
持ち方
Clane 3 Labは、テーブル三脚座をたたんでグリップに出来ます。基本的には、そのグリップを片方の手で持ち、全体の重さを支えます。逆の手はラウンドしたコントロールボタンのあるグリップに添えるようにして、なるべく自由にコントロールできるように構えるのが基本です。
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写真左:カメラマン・井上 浩氏(JET)、写真右パフォーマー・古澤 淳氏(JET)
こうすることで、自由なカメラワークと持久力を得られます。間違ってもラウンドしたグリップだけでアイレベルをキープしようとしないことです。あっという間に腕の力が消耗して、持っていられなくなってしまいます。
フォローフォーカス、サーボズーム
オプション(マスターパッケージには同梱)のフォローフォーカスとサーボズーム。スタビライザー本体からの電源供給と、グリップ部分のシーソーボタン、ダイヤルでコントロールできるコンパクトさ。
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装着した正面図
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ケーブル接続
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フォローフォーカス
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サーボズーム。フォローフォーカスよりも一回り大きい。モーターパワーを求めて大きくなっている
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ロッドの受け。専用設計で、取り付けも簡単にできるように工夫され、非常に軽く出来ている
ロッドを別途つける形なので、様々なタイプのレンズに対応する。ズームはモーターはパワーが有り、スチルレンズのちょっとしたズームの引っかかりをモノともせずに動く。また、バランスが崩れると心配になるが、モーターが強力なので、伸ばしてもバランスを崩さないのが驚異的。
カメラ本体のコントロール
PCコントロールのケーブルをカメラ側に刺すと、絞りに関する項目や、フォーカスのA.Bポイントを記録する機能が使えたりします。ジンバルにつけてしまうと、カメラ側のメニューを触るのが面倒ですが、この形だと非常に快適ですね。
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コントロールコードはUSB3.0ベース
パワーについて
ジンバルを操作している際、モーターが負荷に耐えられなくなると異常振動が起こったり、カメラがぐるぐる変な方向に廻ってしまいます。しかし、CRANE 3 LABでそのような局面は皆無でした。普段は他の機種を使っているカメラマンが、普段は怖々とおこなう必要のあるカメラワークをCRANE 3 LABで試してみて、楽々とこなしてくれることに驚喜してました。筆者もコントロール不可になってしまう姿の印象が強いのでジンバルを所有しようと思ったことがなかったのですが、CRANE 3 LABを触ったことでイメージが好転、衝動買いにいたります。
本プロダクトは非常に考えられたプロダクトだと感じます。オプション類もよく出来ていて、気楽に撮影に挑めるアイデアに溢れています。オプション類は今回紹介できませんでしたが、追々紹介していきたいと思っています。
CRANE 3 LABの特徴的なカメラワークを軽くまとめたビデオをYouTubeチャンネルで公開しています。ご参考ください。
WRITER PROFILE
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