txt:栁下隆之 構成:編集部
カメラの基本セットアップと、収録コーデックなどについて
8月、9月の新製品発表ラッシュが終わり、目移りして仕方ない状況は少し落ち着いて各機のスペックを冷静に判断出来る時期になったきた。特に一部機種は発売になり、手元に届き始めていることも騒ぎがひと段落した理由だろう。
その中から一機種。特に動画スペックの進化が目覚しかった富士フイルムのX-T3に触れてみよう。富士フイルム独自のXマウントという事で尻込みしてしまいがちだが、Xマウントのフジノンレンズには高画質で魅力あるレンズが豊富にラインナップされている。特に動画系ユーザー視点で注目したいのはMKレンズの2本だ。先に発売されたEマウント版で定評ある光学系に電子接点を追加して、カメラと通信する事で各収差を更に補正して更に画質を高めている。特に18-55mmの広角端の樽型歪みを見事に補正している事が注目点だ。
今回は実写前のセットアップとして、いくつかカメラの設定とリグのセットアップをご覧いただきたい。先ずは、具体的にX-T3とMKXズームの大きさの対比をみていこう。
コンパクトなMKXレンズとはいえ、X-T3との組み合わせではフルサイズ用の70-200mm/f2.8をAPS機に取り付けた様な様相になるが、重量は遥かに軽く、見た目からすると拍子抜けしてまう程だ。
X-T3はAPS-CセンサーでSuper35mmのカメラとしてハンドリング出来る。16:9、17:9(DCI)の画角が選べるほか、4K30Pまではフルフレーム全画素読み出しで、4K60Pでも1.18倍のクロップで撮影出来る。各社がラインスキップやピクセルスキップで斜め方向のジャギーの処理に苦労する中、一眼動画後発メーカーが短期間ここまで進化させられる開発スピードに正直驚きを隠せない。写真機としての性能を磨きつつ、動画性能も大きく進化。年内のファームウェアアップデートで動画機能もいくつか改善されるそうなので、その点にも注目して行きたい。
さて、筆者の印象ではX-T2の頃から割とレンズを選ぶ印象がある。というのは、解像度の高いレンズを装着すると、それだけ先鋭度の高い映像が撮れる。他メーカーに比べてこの点が顕著に現れる傾向がある様に感じている。これも全画素読み出しの恩恵なのだろうか、レンズが良ければその分だけ綺麗に映るというのは、懐事情と相談とはいえ大変嬉しい悲鳴ではある。
前置きが長くなったが、シネマカメラとしてX-T3の真の実力を引き出すには、MKXズームが最良の選択だという事である。実力は十分なX-T3であるが、小型過ぎるボディが故にMKXズームと組み合わせて運用するにはいくつか抑えて置きたい点がある。
レンズサポートは2種付属する。一つはあくまで単体運用に拘ったフォトレンズ型の三脚座。これはフォーカスフォローなどはENGレンズ的に直接手で行う事になる。どちらかと言うとフィックスでフォーカスもフォローしない様な撮影スタイルになるだろうか。もう一方のサポートフットに関しては、リグのセットアップと合わせて後述したい。
実景撮影などでは機動性を重視したいので、そう言った意味で三脚座は使い勝手が良いかもしれない。それも内部のSDカードにH265 ALL-Iで4:2:0 10bit 400mbpsで撮影出来るX-T3ならではとも言えるだろう。一眼+外部レコーダー頼みの従来の機種とは内部記録の画質面で一線を画す、それがX-T3で撮影する大きなメリットなのだ。
さて、画質設定のメニューを見て行こう。まずはH.264/265を選択。H.265につていは、アプリケーションやOSの関係によってフルレンジをリミテッド(ビデオ)レンジに誤認識してしまうので、要注意だがSDカードに4:2:0 10bit記録する為にはH.265を選択する必要がある。実はX-T3のプロセッサーはH.265に最適化して設計しているという。それによりH.264よりも265の方が処理が軽いという訳で、H.265設定時に4:2:0 10bitの選択が可能となっている。
次にALL-IntraかLong GOPを選択。レンズの繊細さを生かす上でもIntraを選択しておきたいところ。ALL-Intraでは最大でDCI 4K30P時に400Mbpsが選択可能。再生、編集はマシンパワーに相当依存するので、ProResなどの中間コーデックに変換して作業するのが好ましいだろう。とはいえ、外部レコーダーの呪縛から解放される喜びには変えがたい。
4K60Pではカメラ内部の処理の関係から、Long GOPのみの選択で、最大ビットレートは200Mbpsとなる。とはいえ、H.264比で2倍の圧縮効率を持つH.265で200Mbpsであることを考えればこれでも十分な画質が担保されている。
それでもより高ビットレートを望む場合は、外部レコーダーを利用してHDMIのクリーンアウトをキャプチャすれば4:2:2 60Pでの収録が可能となる。状況によって使い分ければ活用の幅が大きく広がるだろう。
さて、ここまでで収録コーデックは整理出来たので、カメラのハードウェア部分のセットアップに話を戻したい。一眼のコンパクトなボディでシネズームを装着する訳だから光軸の安定には気を使いたい所である。XマウントはPLの様なポジティブロックでは無いので、特にマウントのガタつきには最新の注意を払う必要がある。
前述の様に、レンズに三脚座を取り付けて運用する場合にはその心配も無いわけであるが、フォローフォーカスなど、最低限の周辺機器がなければ撮影に支障を来してしまう。そこで付属のレンズフットと、市販のレンズサポート組み合わせてみた。
付属のレンズフットは3/8のメスなので、そこに大小変換ネジを入れて、1/4のボルトで市販のレンズサポート接続。これでシンプルかつしっかりとした固定が出来る様になった。
レンズサポートの準備が出来たので、早速撮影仕様にリグをセットアップして見た。今後作品撮りを予定しているのだが、ここまでセットアップ出来れば完全にシネスタイルで撮影する事が出来る。必要以上に大げさにする必要はないが、最大限の使い方まで想定した上で撮影システムを構築し、そこから如何に無駄を省いて行くかが経験と腕の見せ所になるだろう。
次回はより具体的な現場向けセットアップと、フィルムシミュレーションなどのカメラルックの設定部分をお見せする。とにかく本番の撮影が楽しみになる、そんな魅力がX-T3には詰まっている。解像感などのチェックが今からとても楽しみだ。