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制作の要!気になるメディアの転送速度を試してみた
4K/8K放送がいよいよ開始となる昨今、業務用カメラやコンシューマーカメラにもいよいよ4K収録できる環境が整いつつある時期に入ってきたのではないかと感じる。特に業務用分野のカメラにおいては4Kが標準となりつつあり、特にハイエンドなカメラでは高速アクセスができるメディアとしてCFast SxS XQD P2 xpressなどの高速メディアを各社は選んでいる。 これらのメモリーカード類は価格的に高価なものが多く、それらのカードを4K RAWやそれに次ぐ低圧縮フォーマットなどでの運用を行った場合、収録現場では収録後のメディアを直ちにバックアップという作業に悩まされていると聞く。
これらの作業は意外と時間がかかり、現場の負担が大きいので、より高速なストレージシステムを望む声を耳にする。また、撮影以外での編集・レンダリング・再生のワークフローにおいても大容量で高速かつ高信頼性のある記録メディアを望む声も多い。これらの声の中にはコストパフォーマンスも重要視されていることから、要件を満たすメディアとしてSSDが注目されている。
今回編集部よりサムスン社製SSDについての原稿依頼があり、筆者も最近の高速ストレージメディアについてはちょっと離れていたので興味もありお引き受けすることとなった。お預かりしたメディアは以下の通り。
■Samsung Portable SSD T5
V-NANDフラッシュメモリとUSB3.1 Gen2インタフェースを備えている■Samsung Portable SSD X5 Thunderbolt 3
NVNeインターフェイスを搭載し、Thunderbolt 3の超高速なデータ転送が行える■Samsung SSD 850 PRO/860 PRO
V-NANDフラッシュメモリー搭載、SATA3接続による限界値での速度で転送可能■HighPoint RocketStor 6661A-NVMe
M.2 NVMe SSD 4枚をRAID 0で構成し、Thunderbolt 3接続による超高転送が可能なストレージデバイス■Apple Mac Book Pro 15インチモデル
2.6GHz 6コアIntel Core i7搭載
内蔵ストレージNVMe SSD 2TB
今回これらのSSDを使用し、各ストレージのベンチマークやデータコピーにかかる時間などを実際に計測し、現場運用で参考になる公称値ではない実測値をお伝えできればと思い、いくつかテストを行ってみた。
今回転送速度のベンチマーク計測にはBlackmagic Disk Speed Testを利用した。このテストでは1GB~5GBまでのデータを実際にストレージに書き込みと読み込みを行い、実測データを表示してくれる。また計測したデータで、その環境で扱えるコーデックの種類や解像度、フレームレート等を表示してくれる大変便利なソフトウエアである。今回 読み書きでのテストでは5GBサイズでの検証を選択し行ってみた。
ここで今回テストを行う上でのポイントとして、テストに用いるMacBook ProはThunderbolt 3ポートを4系統装備している事である。このポートはUSB Type-Cを兼ねている。端子の形状は同じだが、Thunderbolt 3モードではインターフェースがUSBとは違うことがちょっと厄介だ。厄介と言っても特に接続してそれぞれのデバイスを使用する上では自動的に認識してくれるので問題はないと考えてよいだろう。ただ違いとしてはスピードに差が出てしまうという所だろう。規格上Thunderbolt 3は転送速度40Gbpsだが、USB 3.1 Gen 2は最大10Gbpsという違いがある。
Disk Speed Test結果
■USB3.0接続の外付けHDD
まず指標としてUSB3.0接続の外付けHDDで計測を行った。速度的にもWrite/Readともカタログスペック(最大120MB/s)にほぼ近い数値が出ている。
■Samsung SSD 850 PRO/860 PRO
今回ATOMOS SHOGUN FLAMEにSamsung SSD 850 PRO/860 PROを使用して動画を記録してみた。MacBook Proへの接続はSATA(本機)→USB3.0→USB Type-Cという変換に次ぐ変換となってしまった。結果を見てもあまり速度は出ていないようで、この辺りがボトルネックとなってしまったようだ。SATAからUSB Type-Cへの変換で高効率のアダプターがあれば速度改善が出来るのではないかと思う。
Samsung SSD 860 PRO
Samsung SSD 850 PRO
■Samsung Portable SSD T5
接続はUSB Type-C 3.1 Gen 2(最大10Gbps)となっている。 カタログ値では最大540MB/sとなっているが今回のテストではこのような結果が出た。外付けSSDとしてはほぼ満足のいく数値ではないかと思う。■Samsung X5 SSD
Samsung Portable SSD X5はThunderbolt 3専用となっており、最大40Gbpsの帯域を利用した超高速なデータ転送が可能だ。実際に計測を行ったが、おおむね2000MB/s以上をコンスタントにたたき出していた。Disk Speed Testの結果を見ても2160P(4K60P)10bit 4:2:2ですら書き込みで96フレーム/秒という爆速で書き込みが可能という驚きの結果となった。
このストレージであれば4Kの重い収録データでも直接NLE(ノンリニア編集ソフト)から接続が十分可能である事が分かる。またSSDという特性から、落下などの衝撃に強い事など、撮影現場に直接持ち込んでの素材コピーなどに十分信頼できる内容ではないかと思う。
■HighPoint RocketStor 6661A-NVMe
HighPoint RocketStor 6661A-NVMeの中にはSamsung M.2 NVMe SSDが4枚内蔵されており、この4枚のSSDをRAID 0で運用できるディスクアレイである。最近のPCやノートにはSATAポートよりも、より高速なPCIe接続できるM.2という規格のSSDをストレージとして利用できるようになっている。このM.2規格のSSDをRAID0で使用するという何とも贅沢な構成となっており、Thunderbolt 3で接続する事によりPC本体に内蔵されているM.2 SSDとほぼ同等なスピードを外付けの本機で獲得することができている。ちなみに、MacBook Pro内蔵のSSDのベンチは下記の通りで驚くことにほぼ同じ結果となった。マザーボード直付けのM.2 SSDと同じ結果というのはかなり驚きではないかと思う。
6661A‐NVMe
MacBook Pro
データコピー実測値
今回ベンチマークテスト以外にも実際に大容量のデーターをコピーする場合の実時間を計測してみた。およそ240GBの動画データを下記の5パターンでデータをコピーする作業をストップウォッチを用い計測した(それぞれの機器はThunderbolt 3で接続)。
■6661A‐NVMeからX5へのコピー:3分15秒
■6661A-NVMeからX5へのコピー:3分18秒
6661AにはThunderbolt 3ポートが2つありデイジーチェーン接続が可能となっている
■6661A-NVMeからMacBook Pro:1分35秒
■MacBook Proから6661A-NVMe:1分49秒
■MacBook ProからX5:3分14秒
このテストで興味深かったのは6661A-NVMeとMacBook Pro間でのデータ転送の爆速度である。240GBという256GBのメモリーに実質書き込めるほぼ最大量のデータをわずか1分35秒で行うことが出来る事に驚いてしまった。Thunderbolt 3の規格をいかんなく発揮した結果であろう。
またX5とのデータ転送で問題が生じた。何が問題だったかというと、6661A-NVMeからX5へのコピーテストを何回か行ったが、回数が増えるごとに転送完了までの時間が伸びてしまう現象に見舞われた。4回目には5分25秒という結果になってしまったのである。何が原因でこのような事が起きてしまったのか、自分なりに分析してみた結果、どうも熱による影響が結果に悪影響を与えてしまったようだ。この4回目の結果が出た後、冷却材を用い筐体の温度を下げる事により3分台前半まで速度が回復するようになった。熱による影響が書き込み速度に影響する事が実際に起きた事が今回のテストで分かった。実際に現場で使用する時にはなるべく筐体温度を下げられるように風通しの良い所に置いて使用する事が望ましいであろう。
まとめ
今回最新鋭のSSD機器を最新鋭のMacBook Proを用い検証させていただいた。とにかく一昔前に比べて物凄くストレージ間の転送速度が向上している事に驚きを隠せなかった。大量の動画データを保存、移動を行うのにどこまで時間をかけずに行うことが出来るのか?が大きな問題となっていたが、このような機器の登場により、それらの悩みも徐々に解決に向かっていくのではないだろうか。
今後、ATOMOS SHOGUNやシネカメラなどに使用するSSDメディアは、SATA接続ではなくThunderbolt 3接続可能な機種が登場することにより、撮影や編集などのワークフローが大きく変わるかもしれない。
機材協力:ATOMOS株式会社/メディアエッジ株式会社/Apple Japan