txt:宏哉 構成:編集部
ProRes 422 HQ 10bitフォーマットを採用したJVC GY-HC550/500
2019年末に、ハンドヘルド型の業務用4K60p収録カムコーダーJVC GY-HC550/500が発売された。
光学20倍ズームレンズに単板1インチCMOSセンサーを搭載。4Kハンドヘルド機のメインストリームを行く仕様で、感度もF11(2000lx)と明るいカメラである。内部処理は10ビット、4:2:2サンプリングにより高画質記録が可能。HDRにも対応しており、HLG(Hybrid Log-Gamma)やJVC独自のJ-Log1 Gammaが選択できる。
また、同社が得意とするIPコンセプトの“CONNECTED CAM”ソリューションを担い、IP接続の親和性や高ビットレートでかつ低遅延の双方向ライブストリーミング機能を搭載。放送から映像制作まで幅広いフィールドで活躍することが期待されるカムコーダーだ。
そんなHC500シリーズだが、他のカメラと比べて極めて特徴的な仕様を備えている。現状、多くの4K60pハンドヘルドカメラが、従来からのH.264系コーデックや最新のH.265コーデックを採用する中で、HC500シリーズではProRes 422 HQ 10bitフォーマットを採用。高ビットレートのProResデータを汎用のSSDメディアに記録する、という仕様に仕上がっているのだ。
今回は年明け早々に、横浜にあるJVCケンウッド本社にお邪魔して、ProResやSSD採用の経緯や開発の舞台裏のお話を伺ってきた。
高い記録性能を実現するSamsung SSDを記録メディアに推奨
(写真左から順に)伊東聡氏、松永義弘氏、宏哉氏、石渡正樹氏、秋山剛久氏
――宏哉:私は、JVCのカムコーダーはHM600シリーズから使っているユーザーで、テレビの報道や情報番組、舞台やイベントなど様々なフィールドに投入しています。また、一昨年からはショルダーマウントタイプのENGカメラGY-HC900CHも現場で使っており、他のカメラマンやクライアントにも好評です。そして、待望のJVC発の4K60pハンドヘルドカメラGY-HC550も昨年末から新年にかけてデモ機を使わせて頂きました。
そうした点で、JVC開発陣の皆さんとも長く深くお付き合いさせてもらっているのですが、今回改めて自己紹介とHC500シリーズの製品開発に於けるご担当を教えてください。
秋山剛久氏(以下:秋山氏):秋山と申します。プロジェクト・マネジメント部、商品企画に所属しています。HC500シリーズではバッテリーや充電器などの周辺機器を中心に担当しています。
石渡正樹氏(以下:石渡氏):同じく商品企画の石渡と申します。HC900に続くミドルレンジにおいてビジネス的には一番規模の大きいところなので、責任を凄く感じています。
松永義弘氏(以下:松永氏):技術部ソフトグループの松永と申します。業務用カメラのソフトウェア関係の統括をしています。従来からコーデックなどの記録再生の部分も担当していました。
伊東聡氏(以下:伊東氏):技術部の伊東と申します。今回はSSDアダプター「KA-MC100」商品化の技術統括をしています。
――宏哉:従来機に対しても、散々好き勝手言わせて頂きましたので、今回のインタビューもざっくばらんと参りましょう(笑)。
早速ですが、そもそもなぜ4K60pを収録するフォーマットをProResとしたのでしょうか?このクラスのカムコーダーであれば、H.264はもちろん、最近だとH.265/HEVCを採用するカメラも登場しています。そうした中で、ProResを採用した理由を教えてください。
石渡氏:
GY-HC500の導入市場の一つとして、制作も考慮しており、ProResの採用で編集を含むワークフローを最適化でき、お客様にとって有効と判断し採用しました。――宏哉:制作向けを考えるなら画質が求められるのは確かですね。では、ProResが画質以外の点でH.264やH.265に対するアドバンテージは何かあると思われますか?つまり、ProResを採用することで制作フィールドにどういうアプローチが取れると考えられましたか?
石渡氏:(ポスプロなどで)ProResを採用しているワークフローは、いくつもあります。そこに対して、他のコーデックで収録をするとProResに変換する作業時間が凄く掛かると思うんです。しかし、カメラで直接ProResを収録して、そのままPCに繋いで…ということができれば、効率化・最適化が望めると思います。
――宏哉:ポストプロダクションなどを考えると、ProResの採用というのは現状一択かもしれないですね。
――宏哉:では、ちょっと意地悪な質問なのですが…
一同:…ま、またですか!?(日頃からJVC開発陣を宏哉がイジメているトラウマが蘇る)
――宏哉:個人的な印象では、このハンドヘルドカメラのクラス、特に高倍率固定レンズのカムコーダーで…言い方は悪いですが、その程度のレンズを採用したカメラであっても、ProResによる画質向上の効果があるのかは疑問を呈したいところなのですが…。
石渡氏:当然、まずは画質が大事だと思っています。ProRes 422 10bitという点に惹かれてチャレンジしました。また、H.265の画質などもチェックしています。企画当時、業務用カムコーダー市場では、まだまだ一般的と言えるほど利用環境が普及していないため、H.265は拡張スロットで対応しています。
――宏哉:確かに、H.265の再生環境は普及しつつあると思いますが、編集などの工程まで考えると、まだまだ軽快に扱えるコーデックではないですね。私は去年の夏にIntel Corei9-9900K(8コア16スレッド・ベースクロック3.6GHz・TB最大5.0GHz)の編集用PCを組みましたが、それでもH.265を編集しようとするとオリジナルファイルのままではリアルタイム編集は無理でした…。画質の向上はもちろん、特にプロの現場では必須となる後処理のことも考えて、ProResという選択になったのですね。
では次に、ProResで4K60p収録すれば高いビットレートは必要です。当然ファイルサイズは大きくなりますね。それの受け皿としてSSDを収録メディアに採用された理由を教えて下さい。
石渡氏:ちょっと技術の苦労話になるのですが(笑)。企画も当初は悩んでました。実はメディアとして他の記録メディアも考えました。サイズ感であったり市場入手性などを考慮し、また海外でのヒアリングを行いました。
検討する中で、4K60p/ProRes 422 HQ 10bitの最大ビットレートとなる1.768Gbps(約220MB/s)に対応できるのか?スペックだけで採用メディアを判断するのではなく、技術の松永が実際に様々な検証を行い、最終的にSSDでいけるという事になりました。
Samsung SSD 860 EVO M.2(右)と専用アダプター「KA-MC100」(左)
――宏哉:SSDに関してはSATA M.2 SSD/Type2280を専用のアダプター「KA-MC100」に収容して、カムコーダーに挿入する仕様になっていますね?最近だと、USB Type-Cケーブルで外付けSSDを繋げるミラーレスカメラなども増えてきましたが、なぜHC500シリーズではSSDを内蔵するスタイルになったのでしょうか?
石渡氏:他社製品でそのような流れがあるのは承知していますが、例えばケーブルが抜けてしまうなど、そういったことがあると業務用としてはマズイという考えがあり、内蔵化する事が業務用カメラとしての第一条件だろうと考えました。
秋山氏:HC500シリーズでは“拡張スロット”という形で、その中にメディアを挿入するスタイルを採用しています。CONNECTED CAMのコンセプトとして、高画質・高品質でIP接続する・高い親和性を持つという他にも、映像制作環境における周辺機器も色々なデバイスと繋がるという考えがあります。拡張スロットを利用した新しい機能もリリースしていきます。
拡張スロットを利用するH.265/HEVCエンコーダー(右)※日本での発売は未定
――宏哉:SSDを内蔵利用するメリットは理解できました。ちなみに、SSD用変換アダプターKA-MC100は、USB 3.0規格対応のType-Cのコネクターが用意されており、直接パソコンに繋いでデータのコピーができるわけですが、実効ではどれぐらいの転送速度が出るのでしょうか?
松永氏:パソコン側の性能にも拠りますが、読み込み速度で大体USB 3.0の最大データ転送速度(理論値)に対して6割以上出ます。
――宏哉:USB 3.0の実効速度はオーバーヘッドを考えると450MB/s前後が上限といわれていますから、悪くないですね。
――宏哉:さて、HC550シリーズは高速転送と大容量を両立させるSSDを記録媒体に採用しているわけですが、その中でもSamsungのSSDが推奨メディアとされています。数あるSSDの中で、なぜSamsungのSSDが選ばれたのでしょうか?その経緯と特徴を教えてください。
松永氏:設計上、SSDの動作はメディアアダプターに入れてカメラに内蔵した温度環境で、安定動作できることが求められます。
SamsungのSSDはこの様な環境下で、書き込み速度が非常に安定しています。ProResデータを約1.8Gbpsで書き込まないといけないのですが、常に1.8Gbps出ていれば良いわけではなく、ジッターを考慮してより速い書き込み速度が実際には求められます。その書き込み速度に Samsung SSDは対応できる性能になっています。
――宏哉:やはりSamsungは、SSDの主要構成要素であるNANDフラッシュ市場で2002年以降、世界No.1を維持しているメーカーですし、SSDのコントローラー、ファームウェア、キャッシュ用のDRAMまで内製されているので、性能の最適化も含めトータルバランスも良いですよね。
松永氏:今回、記録メディアとして推奨しているSamsung 860 EVO M.2の場合、最大容量が2TBなので、長時間の収録にも十分耐えられますし(4K60p Prores 422 HQで151分収録可能)、連続書き込み時の安定性だけでなく、消費電力と発熱が少なかったことが、そう言える何よりの根拠だと思います。
――宏哉:SamsungのSSDであれば、発熱も抑えられているので安定して長時間使えますし、また過酷な使用環境でも、安全マージンが他社のSSDよりも大きめに取れると考えられるわけですね。
SSDはSDXCカードなどと比べて高速転送・大容量な上に、ビットあたりの単価も安いですから、ユーザーとしては有り難いメディアです。例えば2020年1月現在、860 EVO M.2の500GBならネット通販で8,000円ほどで入手できます。しかも読み込み速度550MB/sと高速です。
しかし、SSDが大容量とはいえ、例えば2TBを1枚だけ保有という訳にはいかないのが現実です。複数日の収録なら、日毎にメディアを交換保存するのがリスク管理の点から当たり前です。収録が終わったら、速攻でバックアップを取るのは当然ですが、納品が終わるまではできればオリジナルは残したい。それが現場の心理です。ですから必要枚数のSSDを用意しておくというのは前提になります。
HC500シリーズを使うプロユーザーであれば、確実に複数枚のSSDと変換アダプターを必要とすると思うので、是非ともアダプターの価格が安くなる対応も期待したいところです。
Samsung 860 EVO M.2プレゼントキャンペーン
システムファイブでは、JVC GY-HC550またはHC500とSSDメディアアダプター(KA-MC100)をセット購入すると、「Samsung SSD 860 EVO M.2 500GB」をプレゼントするお得なキャンペーンを実施中!
――宏哉:また、このSSDスタイルを利用した企画も今後色々とありそうなので、そちらも楽しみです。本日はありがとうございました。
※補足:インタビューの後日、HC500シリーズ用の最新のファームウェアVersion1.10で、HC500シリーズがApple ProRes 422 HD記録に対応。SSDメディアへのバックアップ記録に対応し、HD収録時に長時間でのProRes記録が行えるようになった