txt:宏哉 構成:編集部
まだまだあるぞ、Samsung Portable SSD T5の活用術
Samsung Portable SSD T5
Vol.01では「Samsung Portable SSD T5」をノートPCでの活用を中心に出張先編集やデータ移動のためのストレージとして紹介した。しかし、T5の情報収集を行っていると気になる写真を見掛けた。Blackmagic Design社のBlackmagic Pocket Cinema Camera 4K(以下:BMPCC 4K)に Portable SSD T5を直接繋いでいる写真である。どうやら、BMPCC 4Kは、USB Type-C接続で外部SSDを録画ストレージとして直接扱えるらしい。
なるほど、2.5インチSSDは大型シネマカメラやENGカメラ系にはマウント可能な大きさだが、ハンドヘルドスタイルのカメラやミラーレスカメラなどの小型カメラで使うにはサイズ的にはやや大きい。そこでPortable SSD T5であればカメラに対して十分に小さいサイズであり、カメラとSSDが連携して運用できれば現場でのメリットは数ある。
そんな事を考えていたとき、PRONEWS編集部から「Samsung Portable SSD T5とBMPCC 4Kの組み合わせで試用レビュー書いてみませんか?」と問い合わせが来て、即答でレビューをお引き受けすることにしたのだ。
Portable SSD T5
改めてSamsung Portable SSD T5のスペックを確認してみよう。まずはサイズ。何と言ってもその小ささに心を揺り動かされる。74mm×57.3mm×10.5mmで、クレジットカードなどよりも長辺は短く、短辺はほぼ同じだ。厚みも1cm程しかなく「名刺入れに入ってしまうサイズ」と考えればその小ささが実感できるだろうか。重さも本体51gと軽量。カメラと一体運用する事を考えても、軽量であるのは嬉しい。
接続インターフェイスは、USB 3.1(Gen.2)、コネクタ形状はUSB Type-C(以下:USB-C)。メーカー公称では転送速度は最大540MB/sとなっている。筆者の環境(MacBook Pro 2015Mid)のUSBポートは、残念ながらUSB 3.1 Gen2規格ではないので、Portable SSD T5の性能を最大限に引き出すことはできないが、それでもベンチマークではシーケンシャルリードが約430MB/s、シーケンシャルライトが約413MB/sとなった。
Portable SSD T5は小型軽量ながらも、映像制作の現場で活用できるだけの十分な性能を持っていることが分かる。
BMPCC 4Kの登場
今回のもう一方の主役がBMPCC 4Kだ。HD版のBMPCCはコンパクトデジカメの様なカメラスタイルでありながらマイクロフォーサーズレンズやLossless CinemaDNG RAWなどを採用するシネマカメラとして話題を集めた。4Kカメラが普及し始め、BMPCCの4K版登場を希望する声は方々から上がっていた中、NAB2018にてBMPCC 4Kが発表された。
今回も一見すると、大きめの一眼スチルカメラのような独特のスタイルで、ボタン類などのインターフェイスは洗練されている。右手のグリップ上部に1つだけダイアルが設けられており、そのまま回すとアイリス調整。その上部に3つの機能ボタン[ISO・Shutter・WhiteBalance]があり、それぞれのボタンを押してから各種パラメータの調整を行う。ユーザーファンクションキーも3つあり、ユーザーがよく使う機能を割り当てることができる。
背面はシンプルだが特徴的で、5インチの大型タッチスクリーンがその存在感を出している。その横には拡大フォーカスやメニュー、再生ボタンなどが並ぶ。右手グリップ部分には、収録メディアのSDカードスロットとCFastスロットがあり、反対の左側面にはマイク・イヤフォン端子のほか、標準サイズのHDMI、USB-C、12V電源入力、ミニXLRが搭載されている。DSLR動画撮影をした経験のある方なら、ほとんど迷わず初見で使用できるシンプルさがある。
Portable SSD T5+BMPCC 4Kの連携
さて、いよいよ本題である。今回、Portable SSD T5とBMPCC 4Kをお借りするタイミングを、当ラボが制作担当するWEB CMのロケスケジュールに合わせていただいた。もともと他社のマイクロフォーサーズレンズのカメラで撮影する予定だったが、BMPCC 4Kをメインカメラに据えた収録プランとした。
また、それに前後して京都でのロケも行った。BMPCC 4Kを使うのは初めての事となるため、事前にカメラの画質特性や使い勝手を把握しておく必要があった。またWEB CM撮影担当のカメラマンにもその使い方を熟知してもらうための予行演習を兼ねてでもある。
■フォーマットとメディア容量
BMPCC 4Kにおいて、外部収録メディアとしてPortable SSD T5を利用する方法は実に簡単だ。両端ともUSB-CケーブルでカメラとSSDを接続するだけで、カメラがPortable SSD T5を認識する。あとは、フォーマット画面でPortable SSD T5を選択してフォーマットを掛ける。フォーマットはOS X ExtendedとexFATが選択できる。
今回、ロケで使用したSSDはPortable SSD T5の2TBモデルで、一番ファイル容量を必要とする非圧縮CinemaDNG RAW/4K DCI/60pを選択した場合、58分の収録が可能と表示されるが、この録画時間から計算すると548MB/sの転送レートが必要となる。T5の最大転送速度である540MB/sを上回ることが気になったのと、京都ロケはPortable SSD T5とBMPCC 4Kの性能テストに加えて、後日に控えているCMロケの撮影テストも兼ねていたので、収録時間を確保するために圧縮ありのCinemaDNG RAW 3:1で収録を行った。この設定での収録時間は100分強であった。
※後日確認したところ、Blackmagic Design推奨メディアリストには、「非圧縮CinemaDNG RAW/4K DCI/60p」の項目がなく、現時点で対応しているUSB-C接続のSSDがない可能性が高い。この写真のように録画時間が表示されているが、必ずしも撮影できるとは限らないので対応情報をしっかり確認することをおすすめする
■マイクロフォーサーズレンズ
京都ロケの日は大変に天気が良く、秋空が広がる中、観光客で賑わう町の風景を1日掛けてたっぷりと撮影した。
三脚に載せての撮影が中心であり、レンズは主にOLYMPUS M.ZUIKO DIGITAL ED 12-100mm F4.0 IS PROを使用。その他、広角撮影にM.ZUIKO DIGITAL ED 7-14mm F2.8 PRO、望遠撮影にM.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PROを使用。さらに、単焦点の17mmと45mmレンズも投入。いずれもF1.8の明るいレンズだ。
そこに、フォローフォカスギアだけを取り付ける簡単なリグ組みを行い、コンパクトなスタイルで撮影を行った。
■Portable SSD T5の取付
コンパクト軽量とはいえ、USBケーブルにぶらぶらとPortable SSD T5をぶら下げておく訳にはいかない。そこでT5の取付けには、スマートフォンフォルダを利用。ウラ面に1/4吋ネジが切ってあるタイプのもので、量販店でも手に入る汎用品だ。手持ち撮影や移動などでもT5が簡単に外れてしまうようなことは無く、収録メディアを外付けしているという煩わしさは皆無だった。
■録画・再生レスポンス
さて、Portable SSD T5とBMPCC 4Kの組み合わせだが、録画のレスポンスは大変に良かった。カメラの録画ボタンを押せば直ぐにT5のアクセスランプが光り記録を始める。録画停止も瞬時で、SDカードを使っている時の様なファイルの書き込み待ちのようなタイムラグがない。考えてみると、こういった録画開始や停止、また直後の録画再開などをこのレスポンスで行えるカメラは少ないように思う。T5+BMPCC 4Kはドキュメンタリーなどの、すぐさま録画行動をしたいような現場でも重宝するレスポンスを持っている。
再生確認は、液晶モニター横の再生ボタンを押すと再生モードになる。4K60pであっても再生はスムーズで、画面内のスライダーを使って早送りや早戻しをしてもキビキビと再生画面がついてくるのは、ストレスがなくて良い。
ただ、残念だったのはBMPCC 4Kに再生クリップのサムネイル一覧がないことだ。京都ロケでは100カット前後撮影したが、直ぐに目的のクリップが見つけられず、また現場でも同じシーンを数テイクした場合にOK/NGクリップを見分けるのがクリップの前後の送りだけでは面倒であった。バージョンアップで追加実装できるなら、クリップ一覧機能は欲しいところだ。
■大型モニター画面
5インチの大型液晶モニターは見やすく、解像度も十分。ピーキング表示も合焦部分にだけ丁寧につくので、フォーカスがシビアになる4K撮影でもこのサイズの液晶画面とピーキングと拡大フォーカス機能を組み合わせて使えば、外すことは少ない。
ただ、秋空とはいえ晴天の屋外では、液晶画面がやや見づらい傾向があった。BMPCC 4Kの液晶画面は背面固定でチルト式ではないので、ハイアングルやローアングル撮影などでは余計に見づらくなってしまった。モニタフードやHDMI接続で外付けモニタを利用するなど、お天気の良い日の屋外撮影は、やはり工夫が必要だろう。
■バッテリー消費
バッテリーは、Canon LP-E6互換バッテリーとなる。公称では24fpsでUSB-Cを使わない場合、バッテリー1本で約60分の収録が可能となっている。この低負荷と思われるセッティングで1時間ほどしかもたないので、60pでUSB-C経由の外部ストレージを利用した場合のバッテリーの消耗は大変大きかった。
当ラボではCanon LP-E6互換バッテリーを所有してなかったため、急遽この撮影の為に4本購入。付属バッテリーと併せて計5本でロケを回したが、それでも常にバッテリー充電器をカメラバッグに入れて持ち歩き、終始バッテリーは充電している状態だった。それでもギリギリで1日のロケを終えられた具合だ。
BMPCC 4Kは、電源オフ時にはUSB-Cからバッテリーの充電も可能。ただし、電源オン時にUSB-Cからカメラ本体に電源供給はできないので、モバイルバッテリーなどを併用した撮影はできない。Portable SSD T5を利用すると、当然USB-Cの端子は使ってしまうので、外部電源とT5を併用できるかとUSB PD規格に対応したUSB-C HUBを実は今回購入したのだが、後にこの仕様が判り、無駄な買い物になってしまった…。
BMPCC 4Kに外部から電源を供給するには、12V電源端子から供給するほかない。端子がロック機構付きの2芯コネクタで汎用の物ではなかったので、ケーブルをすぐに自作することはできなかった。Blackmagic Designからは純正のBlackmagic Pocket Camera DC Cable Packが用意されるようなので、それを使って外部からの電源供給は可能になりそうだ。
いずれにせよ、仕様上、USB-Cからはオペレーション時の電源は供給できないので、Portable SSD T5との併用を迷う必要は無い。
■メディアコスト
この1日の京都ロケで撮影した容量は約820GB。CinemaDNG RAW 3:1/4K DCI/60pで約54分の素材を撮影した。長時間収録できたことは、現場に余裕を生んだ。
特に今回は目的地も被写体も事前には入念に決めておらず、現場に行って撮れる物をたっぷり撮って帰ろう、という主旨だったので何度もテイクを重ねたり、長回しをしたりとトライアンドエラーを含めて何度も挑戦できた。その分、良いカットを積むことができた。
そう言った点で1TB近い容量の撮影でメディア残量を気にすることなく撮影できたのは、大きなメリットだ。RAWのような重たい素材を、従来撮影の感覚で取り回せたのは、2TBという大容量SSDのお陰だ。
実は、SSDを記録メディアとして利用する一番のメリットを私はこの点に感じている。例えば今回830GBのデータを記録したが、仮に1TBの容量分のCFast 2.0を用意した場合のコストを考えたい。さきほども述べたように「非圧縮CinemaDNG RAW/4K DCI/60p」に必要とされる転送レートが548MB/s(あくまで計算上)だとしたら、ネット検索してもライト速度で対応するCFast 2.0カードは見当たらず、Blackmagic Designの推奨メディアリストにもない。非圧縮CinemaDNG RAW/4K DCI/30pやCinemaDNG RAW 3:1/4K DCI/60pで推奨されているCFast 2.0カードは、256GBで6~8万円と高く、1TB分揃えようと思うと30万円も必要となる。
一方で、Samsung Portable SSD T5は1TBなら実売価格が4万円を割っている。価格が全てではないが、転送速度も高速で小型軽量、カメラと併用しての運用も煩わしさがなく、実際の録画・再生レスポンスも良い。Blackmagic Design推奨メディアとして、非圧縮CinemaDNG RAW/4K DCI/30pやCinemaDNG RAW 3:1/4K DCI/60pはもちろん、ProRes 422 HQ/60pにも対応しているT5 1TBモデルのコストパフォーマンスは最強と言えるだろう。
仮に、同価格帯で128GBのCFast 2.0を使ったテストレビューをして欲しいと言われたら、CinemaDNG RAW 3:1圧縮で6分半の収録しかできなかったことになるので、テスト撮影はさらにシビアになっただろうと思う。
■ファイルの転送と管理
PCへの転送は、素材を受けるHDDの転送速度に拠る。当ラボのPCのHDDのシーケンシャルライトが200MB/s強だったので、おおよそ70分で全ファイルの転送が完了した。Portable SSD T5側のリード速度には余裕があるので、RAIDやSSDが受け側になれば更に高速転送ができる。
CinemaDNG RAWで撮影した素材は、Blackmagic Design DaVinci Resolve 15で確認。当ラボの編集PCでは、CinemaDNG RAW/4K DCI 60pをリアルタイムに走らせることはできないが、少しカラーグレーディングを行ってみた。BMPCC 4Kの持つ13ストップのダイナミックレンジが古都の建物の陰影を穏やかに捉え、小径を歩く艶やかな着物姿の女性とのコントラストを引き立てつつ、秋空の淡い青と白い雲が京の街を優しく包み込んでいる空気感が表現できそうだ。
また、京都ロケの後は大阪に帰ってきてから、道頓堀で夜景撮影をした。道頓堀はネオンや街灯が多く、夜でも明るい街ではあるが、F4.0のレンズでISO400前後での撮影を行うことができた。グレーディングでは暗部を持ち上げても五月蠅いノイズは殆ど出て居らず、非常にスッキリとした夜景が捉えられている。特段明るいカメラという印象はなかったが、ノイズの少なさは好印象だ。
まとめ
前回のレビューで既にお気に入りになっていたPortable SSD T5は、今回の試用で完全に自分の仕事道具になった。この京都ロケの数日後に同様の撮影機材セットでWEB CM撮影を行っているのだが、実はその際に使用したPortable SSD T5はデモ借用品ではなく、当ラボに正式導入した容量1TBのT5だ。
くだんのCM撮影では、収録での利用は勿論、クライアントさんへの現場プレビュー再生などをスムーズに行え、限られたロケ時間の中で効率的な収録を行う事ができた。CM撮影はProResによる4K30p撮影であったが、それでも約400GBの収録をしており、メディアコストを考えるとBMPCC 4KがPortable SSD T5対応であって良かったと改めて思う。
また、Portable SSD T5を見ていると、そのままカムコーダにスロットインできてしまうようなカメラ製品が出て来ても良いのではないかと思ってしまう(笑)。そうすればケーブルレスでいっそう使い勝手が向上するだろう。
まぁ、流石にそれは難しいだろうが、BMPCC 4Kに限らず今後、外部USB-C接続で記録可能なカメラが増えてくれば、Portable SSD T5のその価値は更に高まってくるだろうし、ユーザーの利便性も向上し、お財布にも優しくなるだろう。
CFastやSDカードメディアの大容量化や低価格化はこれからも進むだろうが、記録メディアを大量に消費する4K時代には、オプションとして外部SSDに記録するような方法を用意しておくのは、新しい必須機能であるように思う。今後のカメラメーカーの動向に期待したい。
なお、今回Samsung Portable SSD T5とBMPCC 4Kで撮影した映像は、InterBEE 2018の日本サムスン/ITGマーケティングブース(ホール8/No.8209)で上映される予定なので、会場に足を運ばれることがあれば是非ご確認いただきたい。
機材協力:ブラックマジックデザイン株式会社