txt:高信行秀 構成:編集
アップルはビデオ向けプロアプリケーションとして、FCPXの他に「Motion」、「Compressor」をラインナップに上げている。今回はそのうちの1つ「Motion」について、FCPXの連携の部分を取り上げていきたい。
新しい関係
すこし過去の経緯を紹介しよう。Motionはもともと単独アプリケーションで発売された後に、Final Cut Pro(5~7)と同一パッケージにまとめられた(Final Cut Studio)経緯がある。これはFinal Cut Pro との優れた連携機能により、編集中のクリップを自由にMotionへ行き来して加工/編集できたことから「必須」と言える関係だったからだ。
それがFCPXに変わってから関係が少し変わった。特に変わったのはタイムライン上のクリップをそのままMotionに送り加工をする「Motionへ送信」機能が使用できなくなったことだった。これを理由にMotionに対してネガティブに捉える意見が増えた。折しもFCPXが批評に晒されている状況に火に油を注ぐような形で。
以前のFCP7とMotionの連携は極端に言えば仮想ムービーデータとしての連携だった。技術的な話では旧QuickTimeのQTML(Quick Time Media Layer)機能を利用してMotionのプロジェクトをQuickTimeで再生できるようにすることで実現したものだった。実際、Motionのプロジェクトファイルの拡張子を「mov」に書き換えるだけで様々なQuickTimeアプリでダイレクトにMotionプロジェクトの内容を再生することができた。
そして時が経ち、皆さんもご存知のとおり「QuickTime」は「QuickTime X」へと大きく変わった。この際にQTML機能はなくなり、これまで実現していた「Motionへ送信」機能は実現できなくなったのだ。
では本当にFCPXとMotionの関係は終わってしまったのか?それは違う。「現在のニーズにあった新しい関係」が構築されているのだ。これまでの「Final Cut Proを補助するもの」から「Final Cut Proを強化するもの」へと変化を遂げているのだ。今回はこのあたりを紹介していこう。
何ができるのか
ここではFCPXとMotionの連携について説明する。「何ができなくなったのか」ではなく、「いま何ができるのか」を確認していきたい。
現在のFCPXとMotionで連携できることは次の内容だ。
- 「Final Cutタイトル」の作成
- 「Final Cutエフェクト」の作成
- 「Final Cutジェネレータ」の作成
- 「Final Cutトランジション」の作成
「Final Cut」で始まることが意味することは、作成されたものはFCPX内で機能として呼び出せることを意味する。これはよくある、「他のアプリで作成されたタイトルやエフェクトの内容はそのアプリに戻らないと編集できない」といった不便なものではなく、FCPX内で編集ができるスマートなものだ。それではそれぞれについて見ていこう。
Final Cutタイトル
FCPXとMotionの連携でもっとも使われるのがタイトル作成時だろう。
FCPXにも様々なパラメータ、様々なアニメーションパターンが用意されているが、ニーズを満たすものがない場合や、使い勝手を考慮した内容(よく使うパターン等)にしたい場合がある。このような時に「Final Cutタイトル」を使用する。
■「Final Cutタイトル」の作成
「Final Cutタイトル」を作成するにはMotionを起動し「プロジェクトプラウザ」から「Final Cutタイトル」を選択することで作成ができる。
プロジェクトが開くので様々な加工や設定を施して、オリジナルのタイトルを作成しよう。ここでは説明のために一旦何もせずにこのまま保存してみる。
保存時にタイトルの名前、カテゴリ、テーマを設定し、保存を行う。これですぐにFCPX上のタイトルブラウザに保存されたタイトルが表示される。
作成されたタイトルを見てみると、「タイトルの背景」こそMotion側で設定をしていないので透過しているが、FCPX上でMotionでの内容がそのまま再現されている。
「Final Cutタイトル」の作成
テキストの内容はこれまでのタイトルのようにFCPXから変更ができるが、このままではMotionを使う意味がない。タイトルのスタイルを変更をしていこう。
■内容の変更
作成した「Final Cutタイトル」のスタイルを変更したい場合、作成したタイトルを右クリックし「Motionで開く」を選ぶことで再度、Motionで編集することができる。
「Final Cutタイトル」の修正
今回は次のように変更を加えた。内容としては「タイトルの背景」を削除し、ビヘイビアを使ってテキストに簡単なアニメーションをつけた。アニメーションにキーフレームではなくビヘイビアを使う理由はMotionとFCPXとの親和性がよくなるからだ。
■ビヘイビアのメリット
ビヘイビアはMotion特有の機能で「ビヘイビア=振る舞い」の名前の通り、振る舞い方を指示してアニメーション効果を得るものだ。例えば、くるくるとオブジェクトをただ回転させるだけなら「スピン」のビヘイビアを適用するだけで最後のキーフレームを気にしなくても永遠に回転させることができる。さらにビヘイビアは組み合わせることで高度な振る舞いを作成することができる、とてもユニークな機能だ。
ビヘイビア
ビヘイビアを使うことで複雑なアニメーションが簡単に作成できることはもちろんなのだが、実は今回のようなFCPXとの連携を使った用途ではさらにメリットが発揮される。
例えば、今回のFCPXとMotionの関係のようにモーショングラフィックスソフトで作成したタイトルデータを、編集ソフトでダイレクトに利用できる環境は他にもある。しかしそれらのほとんどが、テキスト内容の変更や色の変更、適用されたフィルタのパラメータの変更にとどまるもので、動きなどのアニメーションに対する調整ができないものがほとんどだ。
なぜなら、それらのタイトルデータのほとんどがキーフレームをベースにアニメーションが作成されているために、編集ソフト側からの編集が困難だからだ。例えば簡単なところでも、すでに適用されているフェードインを調整/無効化したくてもできない場合がおおい。
ビヘイビアとキーフレーム
一方、ビヘイビアによるアニメーションはシンプルな指示によるものなので、必要なパラメータをFCPX内に表示してアニメーションをコントロールすることができるのだ。例えば適用されているフェードインの時間を変更したり、ビヘイビアで作成されたアニメーションの要素そのものをキャンセルすることもFCPX側で設定できる。
■パラメータの公開
先述の通り、FCPXからMotionで作成されたタイトルデータのパラメータを調整できる。ただし、そのためには必要なパラメータを「公開」にする必要がある。
ここでは先ほどのタイトルデータのパラメータを「公開」状態にして保存をする。
パラメータを公開
編集したMotionのプロジェクトを保存すると、その内容はすぐにFCPXに反映される。変更したタイトルデータのパラメータを見てみよう。
タイトルインスペクタを開くと先ほど「公開」に設定したパラメータが表示されている。これでビヘイビア自体のオン/オフのチェックボックスはもちろん、パラメータによる数値の調整やポップアップでの指定などができる。他にはない連携度だ。
これにより、ある程度のパターンをFinal Cutタイトルに落とし込むことで、Motionに戻ることなくFCPX内での操作だけでタイトルを効果的に変更ができる。
Final Cutエフェクト
MotionとFCPXの組み合わせによるユニークな機能としてエフェクトの作成がある。もちろん、1から高度なエフェクトを作成するものではなく、Motionにあらかじめ用意されているフィルタなどの機能を組み合わせて作成するものだが、効果的なエフェクトが作成できる。
■「Final Cutエフェクト」の作成
「Final Cutエフェクト」は「Final Cutタイトル」と同様に、「プロジェクトプラウザ」から「Final Cutエフェクト」を選択することで作成できる。
プロジェクトを作成すると適用されるクリップに該当する「エフェクトソース」が用意された状態で開く。これに目的のエフェクトを適用していくことで独自のビデオエフェクトが作成できる。
■リグを使用する
エフェクトでもタイトルの時と同じようにパラメータを公開することで、FCPX上でエフェクトの調整ができるようになる。これを使えば通常のエフェクトと同様にFCPX上のキーフレームでエフェクトのアニメーションを作成できる。
さらに「リグ」の機能を使うことで操作するパラメータの内容もカスタマイズでき、スライダーの増減幅の制限や、1つの操作での複数パラメータの調整、ポップアップメニューから定型の値の入力、さらにパラメータ名のカスタマイズまでできる。
リグによるパラメータを作成
これにより独自のパラメータをもったエフェクトを作成することができる。
Final Cutジェネレータ
「Final Cutジェネレータ」は定型の映像を作成することに便利な機能だ。感じでいえばFCP7での「Motion Template」に近い。ほぼ決まりもので部分的な変更だけのものを作成するには打って付けの機能だ。
■「Final Cutジェネレータ」の作成
「Final Cutジェネレータ」はMotionで「プロジェクトプラウザ」から「Final Cutジェネレータ」を選択することで作成できる。
プロジェクトを開くと、何も用意されていないプロジェクトが表示される。そう、実際のところ「Final Cutジェネレータ」はFCPXの「ジェネレータ」に取り込まれることを前提にしただけの普通のMotionプロジェクトだ。
実際、普通に作成したMotionプロジェクトを「テンプレートを公開」で「Final Cutジェネレータ」として保存することも可能だ。
■リグをテンプレートとして利用
先の通り、ジェネレータが活躍するのはテンプレートなどの決まりものの映像を作る場合だ。例えば「収録表示パターン」の作成などが挙げられる。
図は「収録表示パターン」を作成するジェネレータを作成したものだ。テキスト入力はもちろん、定型のものはポップアップから選択して設定できる。
リグを利用してのテンプレート入力
さらにポイントとしては、こういった機能のよくある問題に、決められたエリアに収まらない文字数の場合、表示しきれないといった問題が発生するが、FCPXでの場合は自動的に文字が縮小され全てが収まるようにできる。
Final Cutトランジションの作成
「Final Cutトランジション」は名前の通り独自のトランジションを作成するためのものだ。Motionの様々なエフェクトを組み合わせることで独自のトランジションを作成することができる。
■「Final Cutトランジション」の作成
「Final Cutトランジション」はMotionで「プロジェクトプラウザ」から「Final Cutトランジション」を選択することで作成できる。
プロジェクトを開くと「トランジションA」「トランジションB」のクリップが用意され、その2つの切り替わり方をMotionのエフェクトで加工していく。
「Final Cutトランジション」の作成
■オーディオクロスフェードだけのトランジション
これはFCPXのパワーユーザーの中ではよく知られているTipsだが、「Final Cutトランジション」を使うことでオーディオクロスフェード効果だけのトランジションを作成できる。
ご存知のとおりFCPXにはオーディオのトランジションという概念がない。しかし実際はビデオトランジションを適用するとその編集点のオーディオには自動的にオーディオクロスフェードが適用されている。故に、このオーディオクロスフェードを利用するには何らかのビデオトランジション効果が適用されることになる。これはカットの切り替えだけであれば余計なことだ。そこで「Final Cutトランジション」でビデオトランジションの効果のないトランジションを作成するのだ。
作成は簡単、「プロジェクトプラウザ」から「Final Cutトランジション」を開き、名前をつけて保存するだけだ。これでビデオトランジションの効果のない「Final Cutトランジション」が作成される。これを編集点に適用することでオーディオクロスフェード効果を得ることができる。
オーディオクロスフェードだけのトランジション
まとめ
FCPXとMotionの連携はいかがだっただろうか。FCPXの強化ツール的な位置付けになったMotionはFCPXユーザーであれば「必須」とも言えるものだ。価格も6,000円(2019/02)と機能を考えると信じられないほど低価格になっている。
以前のMotionはFCPでできない処理を行う「FCPを補助する」ツールというイメージであったが、現在のMotionはどちらかといえば「FCPXを強化する」ツールといったイメージだ。
現在の映像制作は自由度が高い反面、効率性を求められる部分も多くなってきた。そういった中で、Motionはクリエイティブな要素はもちろん、効率的な生産性も提供してくれるだろう。
もし、すでにFCPXを使用しているがMotionは導入していないという方は、是非、これを機会にMotionにチャンレンジしてほしい。