txt:高信行秀 構成:編集部

これまで10回続けさせていただいたこの連載、今回で終了となる。連載ではFCPXの魅力が伝わるように、様々な角度で記事を書かさせていただいてきた。新しい発見をされた方がいれば、すでに知っていることで退屈されていた方もいただろう(退屈された方には申し訳ない)。

そしてこの最後の回も「更に」好き勝手に書かさせていただくことにした。お許しいただきたい。

今回は「Final Cut Proとは」といった内容で、敢えてテキストのみで記載していく。内容としては曖昧かつ感情的なもので、技術を話す人間としてふさわしくない内容かもしれない。そのことは先にお詫びしておく。

「Final Cut Pro 7」とは何だったのだろう

幸いにも私は仕事の関係から、かなり初期の頃から…そう、日本でFCPが展開される前からFinal Cut Proと付き合ってきた。その中でいろいろな経験をした。そして、そこにはいくつか心に強くの残る事柄があった。その中には「Final Cut Pro」について考えさせられることがあった。

Final Cut Proが、Ver.7を迎え人気がピークになっていた頃だ。私はその時、某放送局のスタジオの中にいた。そのスタジオの中には、国際的なスポーツイベントの速報ニュースを作成するために、特殊なシステムとそれに繋がれた20台以上のFCP7のシステムがスタジオ内のスペースを占めて用意されていた。

そこでは老若男女の人々がFCPを前に編集をしていた。それこそ、白髪に仕立ての良いスーツをきている高齢の方から、ドレッドヘアーにラフなファッションの若い男性、さまざま年齢の女性など多種多様に。

まだ映像編集は編集ルームで限られた人が編集することが普通だった当時としては、とても異様な光景だった。それを見て、少し嬉しく私はこう思った。「Final Cut Proはこんなにもいろんな人に垣根なく、映像を制作する道を開いたのだ」と。

確かにその場にいた人達は、年齢や身なりなどは別として日頃から放送業務に関わっている人々だが、こんなに1つ(Final Cut Pro)のことに多種多様な人々が関わることは、当時としてはかなり異例な光景だった。

そして次の言葉が頭に浮かんだ。「Final Cut Proとは何だろう?」と。間も無くその答えがひらめいた。「今見ている、この光景がその答えの1つなんだ」と。

あなたにとっての「Final Cut Pro 7」とは?

実際のところ、FCP7はしょせん、映像を編集するための道具に過ぎない。でもそれ以外の魅力があった。だから今でもFCP7に心惹かれる人がいる。

「あなたにとってのFinal Cut Pro 7とは何だったのであろうか?」

FCPユーザーであれば、全ての人がそうではないだろうが、映像を編集することへの道を開いてくれてものだったのではないだろうか。編集ソフトとして新しい機能を揃えることは簡単だけど、それだけではその製品の魅力が伝わらないことがある。当時の最高の性能や機能がなくても、人々に映像を編集する道を開き続けた。それがFCP7だった。

そして「Final Cut Pro X」とは何だろう

正直にかけば、私はこのようにFCPXの記事を書かさせていただいているが、FCPXの登場から全てを見守ってきたわけではない。距離を置いていた時期もある。その頃は、FCPXを否定する方と同じような気持ちだった。

「なぜ、今まで通りにできなくしたのだ?私の知っているFCPはどこにいったのだ?」

特に私を取り巻く環境(放送/業務制作)では皆が同じ意見で、その考え方に間違いがないと思っていた。でも、ふとした時に流れが変わった。DaVinci Resolveのユーザーグループを通しての活動が自分の中で一段落し、周りを見渡した時だった。

これから先の映像編集において必要な事柄をまとめ、次に力を入れたい編集ソフトを探していたのだ。いろいろ思案した結果、頭に浮かんだのがFCPXだった。そしてまたFinal Cut Proの世界に飛び込んだ。新たな視点で見たFCPXは、過去に囚われていた自分が恥ずかしくなるくらい新鮮だった。そしてやっと開発者の意図も理解できるようになっていた。

ユーザーの評価も調べた。相変わらずプロフェッショナル業務の方には相手にもされていないようだった。FCPX自体は私が離れていた間(10.1~10.2)にも強化されており、障害となる問題点の多くが改善されているにも関わらずだ。

一方で興味深いことも知った。FCPXはYouTuberに人気があり、多くのYouTuberがFCPXを使用していた。これは新鮮な驚きだった。

私はそれからYouTubeにおけるFCPXについて、どんな人が使い、どんな使い方をするかを調べた。そこには様々な人が、様々な映像を生み出していた。FCPXはFCP7と同様に、様々な人に編集の道を切り開いていたのだった。

そして、ふと、こころに浮かんだ「Final Cut Proとは何だっけ?」そして必然と頭に浮かぶ。「これも答えの1つだったよね」と。そして「Final Cut Pro XはやっぱりFinal Cut Proなんだよね」と。

先に書いたように、これらのことは技術を語る人間が書くことではない曖昧で感情的な内容だとは思う。ただし私は、ツールは何か使命をもって作られ、そして何かを生み出すと思っている。そこには技術以上の何かがある。

そしてFCP7がそうであった通り、Final Cut Pro Xもそうであると思う。そしてその結果がYouTubeでの実績になっているのだと思うのだ。

「Final Cut Pro」であること

「Final Cut Pro」であることには、他のNLEに大きな影響を与える存在であることも必要だ。FCPが大きな影響を与えたことといえば、その普及の理由となったカジュアルなHD編集環境だろう。異論もあるだろうが、FCP Ver.2から続くHDの取り組みは結果としてVer.4.5(Final Cut Pro HD)で実を結び、地上波デジタル放送のタイミングと相まって放送局関係へ大量導入された。「HDで編集なんて無理、デジベのアップコンで対応するので十分だよ」そう言っていた放送局の方々が、駆け込むようにFCPでのHD編集環境を取り寄せるような状況だったのだ。

FCPはNLEでのHD映像編集を身近なものにする大きな役割を担った。そして結果的にその後のユーザー数の拡大にもつながった。これらのことが他のNLEに大きな影響を与えたのはいうまでもない。それではFCPXは何を影響としているのか?

意外に思われる方もいるかもしれないが、それは公開当時、大批評を受けたその編集コンセプトである、マグネティックタイムライン、そして素材のデータベース的管理のアプローチだ。

そしてその結果として、最近では他のアプリケーションが明らかにFCPXの操作コンセプトやマグネティックタイムラインの影響を受けたものを形にして出してきた。Adobe Premiere RushやBlackmagic Design DaVinci Resolve、そしてiOSのアプリLumaFusionなどがそうだ。

これはどういったことなのだろうか?そう、マグネティックタイムラインはじめとするそれらのコンセプトが「これからの時代の映像編集に相応しい」という判断がそれぞれのメーカーであったのだろう。そして結果として、これらのフォローワーが出始めてきたのだ。そして、これからも同様なものが増えてくることは必然だろう。

これまで当たり前とした、リニア編集の影を引きずるトラックベースの編集コンセプトに反する、新しい編集コンセプトを持ち込んだFCPXの影響は、8年をかけてやっと形になろうとしている。このようにFinal Cut Pro X は「Final Cut Pro」であることを果たしていたのだ。

Final Cut Pro Xの次

FCPXはリリースされてから現時点で8年経とうとしている(Ver.10.0は2011年6月)。FCPはVer.7になるのに同じく8年をかけた。そういった意味ではFCPXの「次の」Final Cut Proがでてきてもおかしくないタイミングなのかもしれない。もちろん、出るかどうかは誰にもわからないが。

ただ、1つ言えることは、次の「Final Cut Pro」はFCPXよりも更に先のビジョンと大きな影響を我々に与えてくれることだろう。

最後に

これまで、いろいろとFCPXの内容を書かさせていただいた。記事を書く上では当然なのかもしれないがFCPXの良いことばかりを書いてきた。もちろん、FCPXが全てにおいて優れているわけではない。他のNLEに比べて劣るところもある。

私は基本的にどのNLEを使うかは、ユーザー側の自由であり、それを尊重したいと思っている。今回の記事の内容では「Final Cut Proとは」といった内容で記事を書いたが、他のNLEでもそれぞれに同じように思い描くイメージや思い入れはあるはずだ。NLEメーカーも様々な思いや努力の結果を詰め込んで、製品をリリースしているはずだ。そこに何かをいう必要はない。

ただし、よく理解していないNLEに誤解を持ち批難することは良くないことだと私は思っている。そして、その傾向が強くあるのがFCPXに対する評価だ。第1回の時にも書いたがその原因の多くは複雑な理由によるものだ。

今回の連載では少しでもFCPXへの誤解がなくなればという気持ちで記事を書かさせていただいた。なかなかこの記事をFCPXに興味ある人以外が見ることは難しいとは思うが、FCPXユーザーはもちろん、他のNLEを使われている方のFCPXへの誤解がはれ、興味を持っていただくことができれば幸いだ。

最後に、自由な内容で連載をさせていただいた上に、連載回数を決めるわがままをきいていただいたPRONEWSさんには重ねてお礼申し上げたい。もし、また記事を書くようなチャンスがあればその時まで。最後の最後ですが、1つだけお知らせを。

Apple Booksストアで、Final Cut Pro Xのガイドブックを販売させてもらっています。これまでの連載を読んでいただき、私の技術解説のアプローチ方法に興味をいただけたのであればぜひ、チェックをしてください。

WRITER PROFILE

高信行秀

高信行秀

ターミガンデザインズ代表。トレーニングや技術解説、マニュアルなどのドキュメント作成など、テクニカルに関しての裏方を務める。