txt:高信行秀 構成:編集
昨年末に行われたアップデート(Ver 10.4.4)でFCPXに「ワークフロー機能拡張」(Workflow Extentions)が追加された。これまではビデオやオーディオのフィルタ処理以外に機能を拡張することができなかったFCPXだが、新しい可能性が広がった。
ただしこの「ワークフロー機能拡張」、これまでNLEで提供されている「プラグイン」と呼ばれる機能の拡張とは少し立ち位置が違っている。今回はこのワークフロー機能拡張について見ていこう。
ワークフロー機能拡張とこれまでのプラグインとの違い
一般的に編集ソフトに機能を追加するものとして挙げられるのは、ビデオやオーディオを加工するフィルタ、そして入出力の機能の追加だろう。ビデオやオーディオのフィルタに関しては、FCPXでも多くのサードパーティーによって提供されている。一方で入出力のプラグインに関しては少し話は変わってくる。
ワークフロー機能拡張とプラグインの違い
入出力系の機能の拡張は、ワークフロー機能拡張が実装される前は全く別のアプリケーションへファイル(fcpxml)介して受け渡すことで実現していた。ただしこの方法は少し手間な作業だ。そこでその問題を改善することを目的の1つとしてワークフロー機能拡張が登場したと考えられる。
ワークフロー機能拡張は、「機能拡張」ボタンで表示されるワークフロー機能拡張項目から選択して利用する。呼び出されたワークフロー機能拡張は個別のフローティングウィンドウで表示され、その拡張された機能が利用できる。
ワークフロー機能拡張の呼び出し
ここまでの内容だと、これまでの外部アプリとのファイルを使った関係との違いがないように思われるが、呼び出されたフローティングウィンドウとFCPX間はドラッグ&ドロップでデータが受け渡しができ、ファイル(fcpxml)を挟むことなく機能を利用できる。これによりFCPXの機能の一部のように利用でき、さらにプラグインという枠にとらわれない内容を提供することもできる。
一方で追加された機能がアプリケーション内のメニューやUIで機能が提供される方が自然と感じられることも確かだ。FCPXがプラグインによるアプリケーションそのものの拡張を行わない(行わせない)のは、筆者の見解だがアップル社(Mac App Store)のセキュリティに対する考え方に由来するものだと思われる。
このガイドラインに従うとプラグインなどで他のプログラムと連動させる場合にどうも入出力系の処理に関して制限があるように思える。異なるアプリケーションが連動することはサンドボックスの考え方から外れるのだろう。
例えば他のアプリケーションの例を見ると、Blackmagic Design社のDaVinci Resolveは同社のWebサイトからダウンロードできるバージョンの他にMac App Store版が提供されているが、Mac App Store版はダウンロード版に比べていくつかの入出力やファイル処理が制限がある。これもその影響だろう。
これらの事情に対応することを含めての回答がワークフロー機能拡張のスタイルなのだろう。
■ワークフロー機能拡張の導入
ワークフロー機能拡張は基本的にMac App Storeから入手する。実際にインストールされるものは実体のあるアプリケーションだ。
Mac App Storeのワークフロー機能拡張を紹介するストーリー
アプリケーションがインストールされると自動的に「機能拡張」ボタンのリスト内に項目が表示される。既にあるアプリケーションでも、バージョンアップでワークフロー機能拡張に対応することがあり、その場合はバージョンアップ後に自動的に「機能拡張」ボタンのリストに追加される。
さまざまなワークフロー機能拡張
すでにいくつかのワークフロー機能拡張が提供されているが、ワークフロー機能拡張は基本的にMac App Storeから入手する(一部そうでないものもある)。探すにはMac App Storeからがセオリーだが、特にカテゴリー分けされているものではないので正直に探しやすいものではない。
いまのところアップル社のWebサイト内の「Final Cut Pro X > 関連情報 > プラグイン、デバイス、コンテンツ> ワークフロー機能拡張」に情報がまとまっている。
アップル社Webサイトでのワークフロー機能拡張の情報
それでは実際に行くつかのワークフロー機能拡張を見ていこう。あらかじめご理解いただきたいのは、紹介する内容はスペースの関係上それぞれの機能のほんの一部だ。いくつかのワークフロー機能拡張は無償で体験することができるので、ぜひ実際に試していただきたい。
■Frame.io
Frame.ioはクラウドベースのコラボレーション作業プラットフォームのサービスだ。
ワークフロー機能拡張を利用することで、FCPXから簡単にクラウド上のFrame.ioサーバーに素材や編集内容などをアップロードでき、クラウドを介してレビューなどのコラボレーション作業ができるようになる。
Frame.io
レビュー時には映像の特定の箇所にマーカーやコメント、簡単なペイントを使って修正の指示を添えることができる。
アップロードされた素材はクラウド上のサーバーで自動的にプロキシデータが作成され、回線が弱い環境でのレビューはもちろん、iPhoneなどのiOSでのレビューも可能とする。さらに環境に依存しないWebブラウザでのレビューもできる。遠隔地のメンバーとのコラボレーション作業をするには最適なソリューションといえるだろう。
Frame.ioに登録すると制限はあるが、無償で多くの機能を確認することができる。遠隔地とのコラボレーション作業を検討されている方は確認することをお薦めする。
■KeyFlow Pro
KeyFlow ProはMAM(Media Assets Management)ソフトウェアで、ワークフロー機能拡張が提供される以前からFCPXとは連携性の良いアプリケーションだ。
Keyflow Proで管理しているデータはドラッグ&ドロップでFCPXに持ち込むことができ、その際にはKeyflow Pro で設定されたマーク情報やキーワード(クリップ単位)をそのままFCPXへ持ち込むことができるなどFCPXとの相性は抜群だ。
そしてさらにワークフロー機能拡張への対応により、専用のインターフェースが提供されることになった。
KeyFlow Pro のワークフロー機能拡張
ワークフロー機能では、Keyflow Proのライブラリ内で管理されている「Live Folder」機能の対象となる内容が共有される。「Live Folder」を使えばFCPXとKeyFlow Pro間で素早くデータの受け渡しができるようになる。
KeyFlow Proはサーバーライセンスを購入することで、セントラルサーバーをたてて複数の端末のKeyFlow Proからデータを参照することもできる。長期記録などによる大量の素材を管理する映像制作を行っている方は一度試されてみることをお薦めする。
■Simon Says
Simon Saysはいわゆる「文字起こし」の機能を提供するクラウドサービスだ。さらに文字起こしされた内容は多言語への自動翻訳をすることもできる。
これをワークフロー機能拡張を通すことでFCPXの機能の一部かのように利用することができる。
Siamon Says ワークフロー機能拡張
Simon Saysの作成されたデータはキャプション(字幕)データとして利用することができ、FCPXと組み合わせることで、対応しているYouTubeなどのメディアで字幕として表示させることができる。
複数言語への変換にも対応しているので、マルチリンガルなコンテンツを作成できる。
新規に登録すると15分間分の文字起こしを無料で利用できる。ぜひ、その内容を確認してほしい。
■Shutterstock
動画や画像、写真などのロイヤリティーフリー素材のライブラリサービスを提供するShutterstockの内容に、FCPXからダイレクトにアクセスし素材を読み込めるワークフロー機能拡張。
Shutter Stock ワークフロー機能拡張
Webブラウザを通さなくも専用のインターフェースからダイレクトに検索し、ライブラリに取り込むことができるのでスピーディーに利用することができる。更にプレビューデータであれば無償で読むこみ編集に組み込むことができるので、購入前によく検討できるので便利だ。
なお、現在Shutterstockに登録すると無料コレクションとしていくつかの動画/音楽/画像がダウンロードできるので、興味のある方は登録することをお薦めする。
その他のワークフロー機能拡張
紹介したもののほかに、実際に確認することができなかったので紹介していないワークフロー機能拡張として、MAMソフトウェアの「CatDV」と連携するワークフロー機能拡張がある。その他にはトレーニングビデオが視聴できる「Ripple Training」のワークフロー機能拡張もある。
まとめ
FCPXが当初ネガティブにとらえられたことの一つに機能の拡張性の低さがあった。アプリケーション自体に機能がなくてもプラグインなどで機能拡張できれば良いという発想が普通にあった中で、FCPXは長らく機能を拡張する方法が提供されなかった。そしてワークフロー機能拡張でその制限が、程度のほどはあれ解決された。
ワークフロー機能拡張が用意された現在、FCPXへのいろいろな展望が見えてくる。興味深いのは、Frame.io、Simon Saysなどはクラウドによるサービスのため、日に日に機能が強化されている点だ。このようなワークフロー機能拡張はますます発展していくだろう。
一方で、残念ながらまだ全てのディベロッパーにその開発仕様は公開されていないため、早期の公開を求めるディベロッパーも多い。これらが改善されれば、よりワークフロー機能拡張の展開に期待できるだろう。