txt:江口靖二 構成:編集部

全米最大のデジタルサイネージのイベントDSEが開催

Digital Signage Expo(DSE)2019が3月26日から29日までラスベガスコンベンションセンター(LVCC)で開催された。年々規模を拡大しており、今年はノースホールの2、3を全部使用していた。毎年200社以上の出展と5,000人を超える来場者がある、全米最大のデジタルサイネージのイベントである。主催は日本の一般社団法人デジタルサイネージコンソーシアム(DSC)に該当する業界団体であるDigital Signage Federation(DSF)である。

筆者はDSEには11年連続の参加となるので、定点観測的な視点も含めて2回にわたってレポートしたい。Vol.01は展示ブースを中心に、Vol.02はセミナーセッションと全体の傾向についてお伝えする。

大手企業ブースは例年通りの内容

■Panasonic

Panasonicブース

パナソニックは壁面に埋め込まれた4枚のLCDに、さらにプロジェクターで投影を重ねている。4、5年前のIFAでもPanasonicは同じような映像演出を行っていた。ビデオからだとわかりにくいのだが、LCDの直接光による映像と、プロジェクターの反射光による映像は見え方が違うので効果的かつ不思議な見え方をする。これは反射光と直接光の違いである。

展示演出的にはLDCが主役で、プロジェクターが設置環境などを補助的に演出するものになっている。この4面の場合だと、左から2つ目のTRANSPORTATIONがわかりやすい。フライトインフォメーションボードがメインで、その設置場所である空港をプロジェクターで再現しているというわけだ。

一番右のRETAILについては、背景の映像が無駄に動くので、せっかくの演出装置をうまく活かしきれていない。この場合なら、背景はこんなに動く必要はまったくなく、静止画を切り替えるだけで十分なはずである。なおパナソニックブースから今回はLinkRay(光ID)の展示がなくなっていた。

■NEC

NECブースはLCDが中心

NECブースでは例年と比較してプロジェクターよりもLCDの訴求が多い。NECは北米では業務用ディスプレイのシェアが元々かなり高い。同じサイズのLCDを長方形に配列する一般的なマルチ画面構成ではなく、大きさの異なるものを変則的に配置する展示を行っていた。

サイズの異なるLCDを変則配置したマルチディスプレイ構成

■Samsung

サムスンブース

サムスンブース。こちらは例年と比較するとリテールやエアポートといった利用シーンごとの訴求ではなく、ディスプレイ単体の訴求になっていた。また昨年のIFAで発表した8K QLEDディスプレイをDSEでも展示。サムスンの8Kは量子ドット(Quantum Dot)を採用したLEDバックライトのLCDである。その頭文字「Q」を取って「QLED TV」とサムスンは言っている。

サムスン85インチQLED 8K Q900R

■Sony

BRAVIA Z9Gをセンターに配置したソニーブース

今年はソニーがDSEに初登場。思いの外大きなブースを確保し、日本でも展開している「業務用BRAVIA」を多数展示した。またソニーも今年のCES2019で発表したインチ8K HDR民生機であるBRAVIA Z9Gを展示していた。

■LG

LG-MRIの超高輝度の屋外用LCD BoldVuシリーズ

LGは例年LGエレクトロニクスと、主に屋外用と特殊ディスプレイを扱うLG-MRIの2社体制で出展していたが今年はLG-MRIのみである。3500から6000nitsの超高輝度のBoldVuシリーズを展示した。

LG−MRIブースは非常に広い

LG-MRIブースは例年に比較して非常に広いのだが、OLEDが一切展示されていないのは、OLEDのサイネージ的な利用を積極的に推進しているLGにしては気になる点である。また同様にwebOSを利用したデジタルサイネージの展示もなかった。

■STRATACACHE

STRATACACHEブースにはSCALAの文字が殆ど無い

SCALA改めSTRATACACHEブース。SCALAは昨年2月にSTRATACACHEによる買収が完了した。SCALAのブランド名を今後どうしていくのか不明だが、少なくともブースにはほんの僅かにSCALAロゴが見えるだけである。日本ではSCALA株式会社が日本法人として引き続き存在している。

■EPSON

エプソンブースのリテールでの小型プロジェクターによるプロジェクションの例

エプソンは大画面とは限らない、リテールでのプロジェクターの利用を訴求した。写真では伝わりにくいと思うが、壁面の突起部分にプロジェクションをすることで、立体感やリアリティーを感じられる映像表現になっている。

中小やベンチャーのブースにはユニークなものも

HYPERVSNの動画

日本でも時々見かけるようになったHYPERVSN社の回転翼型のLEDディスプレイ。しかし背景が抜けていないので空中に映像が浮かんでいる感が弱く、これなら別に普通のディスプレイでも結果は同じではないかと思われるデモンストレーションのやり方である。

向こう側が抜けた設置をすれば、映像が空間に浮遊しているように見える

なおこの装置を実際に設置している例では、保安上の理由からだろうが例外なく透明なカバーを付けている例が多いが、それではせっかくの浮遊感が台無しになってしまう事が多い。

照明のような使い方のNUMMAXの円形LED

NUMMAXのペンダント照明器具みたいな円形のディスプレイ。このサイズだと解像度が全然足りないが、照明器具みたいに考えればアリではないだろうか。普通の映像だとこういう360°映像を作るのは結構大変だったわけだが、いまはVRが普及しておかげで安くていいカメラがたくさんある。それから映像を切り出せばコンテンツ制作もかなり楽になるはずである。

BEAM Authenticは丸いバッジ型のOLEDディスプレイ

BEAM Authenticは丸いバッジ型のOLEDディスプレイを展示した。こうした名札のようなサイネージ端末は以前にも複数存在していた。今回のBEAMは以前と比べてユニークで、いいまでのものとは異なり、プラットフォームサービスであるという点だ。

  • スマホアプリでコンテンツを作成配信
  • コンテンツはテンプレートを利用しても、オリジナルで作ることも可能
  • BEAM自体を広告媒体化することが可能。これによって費用を軽減できる
  • 緊急ボタンを押すことで最大4人に対してGPSの位置情報を送信可能

価格は99ドル。

ガラス面に塗布された状態でプロジェクションしたもので、真ん中のは水で拭き取った部分には映らない

PAINTPAMのS-Paint PROという製品。ガラスやアクリルなどの透明な面に塗る薬剤で、プロジェクターの映像を投影することができるものだ。この手のものはシート状のものが殆どで、一度貼るとすぐには剥がずことができない。

ところがこのS-Paint PROがユニークなのは、塗ってから水で簡単に剥がすというか、除去できるのである。塗るのもペイント用のローラーで塗るだけである。これは常設の利用場面ではまったく意味がないのだが、常設ではない、リアルなイベント、演劇、音楽ビデオなどで使うととても面白いと思う。

このように各企業のブース展示だけからだと、あまり目新しいものはないというのが正直な感想だ。しかしながら、エンタメ関連の新企画やeスポーツやダイナミックデジタルサイネージに関するセッション、AIや5Gに関する新たな展開も目立ったので、次回はその辺りを中心にレポートをしたいと思う。

WRITER PROFILE

江口靖二

江口靖二

放送からネットまでを領域とするデジタルメディアコンサルタント。デジタルサイネージコンソーシアム常務理事などを兼務。