txt:長谷川朋子 構成:編集部
今年のカンヌ国際ドラマ祭「Canneseries(以下:カンヌシリーズ)」(2019年4月5日~10日)で、Netflix、Amazon作品が初ノミネートされたことも話題のひとつにあった。今や世界のドラマトレンドは配信オリジナルが作り出す時代にある。現地の様子を交えながら、カンヌシリーズの役割を考察する。
トレンドのジェネレーションZ世代、近未来ダースサスペンスがノミネート
「カンヌシリーズ」は前回紹介した通り、昨年立ち上がった国際的なドラマの祭典である。連続ドラマ(ドラマシリーズ)を対象にコンペティションを行うもので、対象作品は「どこで放送・配信されたか」といった縛りは特にない。
ノミネートされた作品をみると、ファーストランの出口は地上波、衛星・ケーブル、配信と様々にある。国もイギリス、ドイツ、ベルギー、ノルウェー、スペイン、イスラエル、ロシア、日本と幅広く国際色豊か。今回、ドラマ大国であるアメリカがノミネート作品になかったことには驚いたが、世界同時配信プラットフォームの最大手であるNetflixとAmazonプライムの2作品が初めてノミネートされた。
Netflix作品のタイトルは「HOW TO SELL DRUGS ONLINE(FAST)」。ジェネレーションZ世代向けにドイツの独立系制作会社BTFが手掛けたものだった。主人公はドイツの片田舎に住む17歳の高校生オタク男子。フラれた彼女に良いところを見せようと、自室のPCでドラッグのネット販売を始めると、たちまちヨーロッパいちのドラッグディーラーになるという話だ。ジェネレーションZ世代特有の「ネットいじめ」や「ネット犯罪」の問題をテーマにした作品はNetflixで多く扱われ、人気がある。トレンドど真ん中とあってワールドプレミアスクリーニング会場は満席状態だった。上映が始まると、感情が揺れ動く10代の登場人物たちに合わせたテンポの良い映像と音楽が印象的で、ダイレクトな反応がみられた。2019年5月31日からNetflixオリジナル作品として全世界配信が開始される予定である。
The Feedのメインキャスト © S. D’HALLOY – Image & Co
またAmazonプライム・ビデオで配信予定のドラマシリーズ「THE FEED」は、近未来社会を舞台にしたサスペンスもの。このジャンルも配信オリジナルドラマならではの人気ジャンルである。同作は脳に埋め込まれたインタラクティブテクノロジー「The Feed」によって、互いの感情や記憶が瞬時にシェアできる世界が描かれていた。利便性とは裏腹に凶器となり得るダークサイドの問題を不気味なくらいに露わにしていく話が描かれ、上映中、会場は緊迫した空気に包まれていた。
主役は「The Feed」開発者の息子とその妻。父親役はデヴィッド・シューリス(「ワンダー・ウーマン」)、母親役はミシェル・フェアリー(「ゲーム・オブ・スローンズ」)が起用されている。制作陣もヒットメーカーが揃った。ショーランナーは「ウォーキング・デッド シーズン5」を担当した脚本家のChanning Powell氏が手掛け、制作はイギリス大手の配給制作会社オール3メディアグループのスタジオ・ランバートが担当とあって、同作も上映前から注目度が高かった。MIPTVワールドプレミア作品としても選ばれていた。
受賞結果については前回紹介した通り、スペインのドラマ「PERFECT LIFE」が作品賞を受賞し、ほか主演賞、脚本賞、音楽賞、特別賞にもNetflixとAmazonの作品は選ばれなかったが、話題喚起につながる作品であることは間違いなかった。
世界中にドラマシリーズを広げることを早くから仕掛けることが今は大事な時代
Netflixドラマ制作陣 © 360 MEDIAS
そもそも今、世界の映像コンテンツ市場においてドラマシリーズが盛り上がり、「ドラマ黄金時代」と言われている背景にはオリジナルドラマに力を入れているNetflixらの存在は大きい。カンヌシリーズの立ち上げに少なからず影響も与えている。
運営組織の「チーム・カンヌシリーズ」マネージングディレクターであるベノワ・ルーヴェ氏は「カンヌ市長が4、5年前から構想していたものであって、直接的な理由ではない」と否定するも、今年のノミネート作品にNetflixらの作品を選んだのは戦略的なものとみている。各地でドラマにフォーカスしたフェスティバルが立ち上がっており、今年で10年目を迎え、フランス・リール市で開催されている国際ドラマ祭「シリーズ・マニア」はその先駆け的存在にある。ここ最近は映画祭でもドラマシリーズが取り上げられることもあり、ドラマシリーズは世界的に影響力を持ち始めていることは間違いない。
Netflixドラマのキャストと制作陣
それに伴い、ドラマシリーズの国際取引も活発化している。カンヌシリーズは老舗の映像コンテンツ見本市であるMIPTVと連携し、同時期に開催されている。MIPTVの総合ディレクターであるローリンヌ・ガロッド氏は「フェスティバル(カンヌシリーズ)とマーケット(MIPTV)は互いに理想の相手であり、組むべき相手」と話す。つまり、ドラマシリーズを「BtoB」と「BtoC」の両面から一気に盛り上げようという狙いがある。
この戦略もNetflixが台頭する時代であることが背景にある。国際取引されることなく、視聴者に直接届けられるシステムが築かれたことで「ファン」の力が強くなっていることから、プロモーションのやり方にも変化が求められる。だから、セレブが来場するフェスティバルを通じてファン作りができることは大変魅力的だ。「TwitterやInstagramを活用し、業界人やプレス、インフルエンサーなども巻き込みながら、世界中にドラマシリーズを広げることを早くから仕掛けることが今は大事な時代」とガロッド氏も話していた。
カンヌシリーズの公式メディアはフランスの有料テレビ局Canal+が昨年同様に担当し、ピンクカーペット(レッドカーペット)や授賞式の模様を伝えていた。ほかプレス陣も業界紙が中心のMIPTVより幅広い。スクリーニングに足を運んだ時に会話を交わしたフランス在住のジャーナリストは「読者の対象はドラマシリーズファン。自国やアメリカのドラマだけでなく、世界各国で作られたドラマに対する関心度も高まっている」と話していた。
出演者とプロデューサーを囲みながら行われたプレス向けのグループセッションの席ではドラマのテーマについて深く議論する場が持たれた。「ドラマシリーズ作品が文化や社会生活にどのような影響を与えるのか」といった会話が生まれる環境がカンヌで作り出されていることを実感した。これも世界で共有できるドラマが増えているからだ。歴史はまだ浅いカンヌシリーズだが、今後もその役割は高まっていくのだろう。