txt:手塚一佳 構成:編集部

SIGMA fpの実力はいかに?!

SIGMA fp。さまざまな展開が可能なフルサイズ超小型スチル/シネママルチロールカメラだ

SIGMA fpは、SIGMAが出した世界最小・最軽量のフルサイズデジタルミラーレス一眼カメラ。有効画素数2,460万画素・35mmフルサイズベイヤーセンサーを搭載したコンパクトな筐体ながら、広い拡張性を備え、始めから多彩なオプションを展開して様々な撮影スタイルに対応しているのが最大の特徴だ。

中でもシネマとスチルを物理的なスイッチで瞬時に切り替えることで操作形態を切り替える仕組みになっており、操作の間違えや混乱がなく動画と静止画の操作切り替えが出来るようになっている点が面白いマルチロールカメラだ。スチルとしては、2460万画素のRAW(最大6,000×4,000)とJpg撮影(最大3,840×1,648)でのフルサイズセンサーを生かした撮影が可能だ。

そして、読者諸賢が大いに期待するであろう動画撮影機能としては、内蔵SDHCカードには8bit CinemaDNGと、8bit MOV:H.264(ALL-I/ GOP)形式のムービーファイル収録ができる(3,840×2,160(UHD 4K)では23.98p、25p、29.97p、FHD(1,920×1,080)では 23.98p、25p、29.97p、59.94p、100p、119.88p)。

そして面白いことにUSB-Cに指定のSSD(現在はSamsung T5のみ)を接続するだけで自動的に設定が切り替わり、CinemaDNG収録bit数が上がり、なんと、内蔵SDと同じ8bitに加え、10bit、12bitでの撮影が可能となる。外部収録というよりも単にカメラ内部にSSD収納部がないだけの半内部収録とも言える仕組みで、大変面白い。SSDスロットの形が決まっていないというのは、将来的に様々なSSDに対応する事が出来るため、大変ユーザーフレンドリーと言えるだろう。

今まで、マイクロフォーサーズやスーパー35mmセンサーサイズでのRAW収録機種はあったが、フルサイズセンサー搭載のRAW収録カメラとなると、数百万円の本格的シネマカメラを用いなければいけなかった。しかし、このSIGMA fpの搭乗によって、ついに一般ユーザーの手に届くフルサイズセンサー搭載のスチルスタイルRAWカメラが誕生したのである。

これは、何という素晴らしいカメラだろうか!さっそく著者の会社でも1台導入してみたので、そのテスト運用結果をリポートしてみたい。

愛を持って育てたい、ガチで胸ポケットサイズの怪物シネマカメラ爆誕!

SIGMA fp、片手で気軽に持てるフルサイズシネマカメラというのは本当に素晴らしい

この記事は自腹記事なので、メーカーさんと特に相談もせず、さらには編集部にも一切の遠慮はない。今回も自由に進めていきたい。だからまず最初にこの超絶美麗な絵を作り上げる怪物シネマカメラ「SIGMA fp」の現状(2019年11月7日時点)の問題点をさらっと並べて挙げてしまおう。追記:このコラム公開に合わせファームウェア・アップデートがあったようだ(11月8日)、このスピード感は素晴らしい。

まず、SIGMA自らがユーザーフレンドリーに潔く公表していることに、ファームウェアが未完成でありSSD収録の場合には1~2フレーム目に変な映像が映る(1フレーム目が全体の左上1/4、2フレーム目がなぜか前のカットの映像中盤のサムネイル)。さらに、ISOがふらついてなぜか暗部の色の変化がある場合がある。また撮ったCinemaDNGの動画は本体で再生ができない(これらはファームアップで改善予定)。

実際に使ってみると、バッテリーセーブの度にUSB接続が外れるのに再接続に10秒弱ほど時間がかかり、折角SSDを繋いでいるのにしょっちゅう内部に収録してしまう。得られるCinemaDNGは非圧縮RAWなので、あまりにもそのデータ量は膨大で、2TBのSSDをわずか90分弱で使い潰す。更に言えば、シネマカメラなのになぜかC4K(DCI4K)サイズではなくUHDサイズの映像しか得られない。もっといえば、なぜかヘッドフォン端子もなくBluetoothも付いてないため音声モニターが出来ない。

外部SSDを使うとバッテリーの持ちがかなり厳しいのに三脚プレートを付けるとバッテリー交換が出来ない。スチルを撮れば書き込み中はモニターがブラックアウトしてしまって対象を見失う。本体AFを使ってなくてもレンズのAFが入っていると動画撮影中に突然フォーカスが泳ぎ出すことがある。そもそも折角RAW収録なのにLogカラーじゃないから後工程で色が延ばしにくい。物理シャッターを持たないのでスチル時にローリングシャッターが強めに出る。…リリースされたばかりだし、きっと他にもまだ未知の問題があるに違いない。

しかし“断言するが、そんな事はこのSIGMA fpの実用上大した問題ではない!”

なにしろ、フルサイズセンサーのRAWの画をLマウントの超絶レンズ群を使って得ることが出来るのだ。しかも、たったの量販店価格198,000円で!かつてこれほどコストパフォーマンスに溢れたカメラがあっただろうか?

しかもその画像は、本当に美麗なものだ。ハイエンドシネマカメラで撮った4Kの画像と何の遜色もない。というかRAW収録以外の全てのハイエンド機よりもこのSIGMA fpの方が綺麗な映像が撮れる。もっというと、ハイエンドRAW収録機であってもスーパー35mmセンサー機であれば、センサー分解能が光学的限界に達しつつある今、当然にフルサイズセンサー機であるこのSIGMA fpの方が綺麗な絵が取れている可能性が高い。しかも、国産カメラだけあって、極めて安定性は高い。

上記の通りリリースされたばかりのカメラでエラーはまだまだあるが、そのどれもが再現性が正確で予測可能なものばかりであり、海外新興メーカー製シネマカメラのような、突然撮れなくなるとか、撮ってるつもりだったものの実は撮れていなかった、ということが全くない。実際、今回はまだ気温30度を超える酷暑の香港マカオで撮影してきたが、炎天下の撮影でも全く熱暴走も見られなかった。

床が弱くて大きなカメラを入れられない大航海時代の教会内でも余裕で使用可能だった。大汗をかく気温でも全然へっちゃらで運用できた!

さらにはこの大きさだ。素のSIGMA fp本体だけなら本当に胸ポケットに入るサイズなのだ(同社製標準プライムレンズであるContemporary 45mm F2.8 DG DNを付けた場合、ギリギリ入らない。惜しい)。

かつての傑作8ミリシネマカメラBOLSEY8との比較。大体BOLSEY8の外装箱のサイズだとわかる

世の中にポケットサイズを謳うシネマカメラは歴史上数多いが、本当に物理的に胸ポケットサイズのシネマカメラはBOLSAY8以来ではなかろうか?この小ささは本当に魅力的で、周囲に緊張感を与えることなく、ごく自然にスマホの延長で撮影をすることが出来た。更に、オプションを組めば、本体が小さいだけにかなり本格的な撮影も安価に可能で、これもまた便利であった。

SIGMA fpは発売されたばかりのカメラであり、機能的に複雑なマルチロール機、しかもSIGMAとして初のシネマカメラだ。

現状わかっている欠点は知ってさえいれば回避可能なものばかりでもある。なによりも、前述の通り、メーカー自らがリリース前に判明しているファームウェアバグを公表しているほどにユーザーフレンドリーだ。確実に改善が行われるのはそれだけで大きな安心材料と言える。ここは、愛を持って温かい目で見守ってゆきたい。

「SIGMA fp」の実運用

まず、「SIGMA fp」の動画運用にはSSDは必須である。なぜなら本体SDカードではCinemaDNGで5分程度の撮影しか出来ないためだ。

SSDは現状「Samsung T5」シリーズのみが使用可能だ。このSSDは非常に小型なので手塚は静電気防止タイプのマジックテープでビューファインダーに貼り付けて使っている。

注意点として、先にも書いたがバッテリーセーブの度にUSB-C接続が外れてしまうため、USB-C接続していないときに録画ボタンやシャッターを押しても収録が出来るよう、SDカードも必ず差しておきたい。SDHCカードは2種類、「サンディスク エクストリームプロ UHS-II 64GB、128GB」か「パナソニックSDZAシリーズ64GB、128GB」のみが使用可能だ。

なんと便利なことに、USB-C接続が外れているときのSDカードへの撮影もスチルに限ってはSSDと同じ連番なので、うっかりUSB-C接続を待てなくて本体に収録したとしても後からPCなどでSDカードからSSDにコピーすれば完全に問題ない運用が出来る(残念ながら動画ファイルでは連番はSD、SSDそれぞれ独自になる。これはファイルのbit数や形式が異なるためと思われる)。USB-C接続失敗の時の自動切り替え時にうっかりMOV形式にならないよう、SSD接続前に本体設定もCinemaDNGにしてから使った方が良い。

大体USB-C接続の回復には10秒弱ほどかかるので、その分の時間は計算して動きたい。

また動画撮影時にはビューファインダー「LCDビューファインダー:SIGMA LCD VIEW FINDER LVF-11」はあった方が望ましい。付属の「ホットシューユニット:SIGMA HOT SHOE UNIT HU-11」もSSDケーブル保護のためにも必須だ。これを付け忘れるとうっかりカメラの左側を握る度にUSB-C接続が切れて肝が冷える。また、撮り始めの2フレームは前述の通り使い物にならないので編集段階で必ず切ることを忘れずに。これも、昔のフィルム運用を考えれば何の問題もない。

動画運用の最低限のスタイルはこんな感じだろうか?「HU-11(付属)」「LVF-11」そして「Samsung T5」に適当なガンマイクを合わせた形だ。ガンマイクはfpの本体内収録よりも収録機能付きの方が現実的かも知れない

また、動画撮影時はマニュアルフォーカス(MF)にすることを忘れずに。オートフォーカス(AF)のまま撮影すると、AFが撮影中に勝手に動き出すことが何度か見られた。マルチロール機でよくあるワンマン運用で、まずAFをして大まかにフォーカスを合わせてからマニュアルで撮影開始、という手段を撮る場合には、かならずレンズ側にAFスイッチがあるレンズを使いたい。AF後にAFスイッチを切れば、特にエラーなく撮影が出来るはずだ。

マイクに関しては、本体マイクはカメラの大きさが大きさであるため操作音がモロに入るため、全く当てにならないと考えて欲しい。マイク端子にマイクを繋ぐか、別撮りが推奨だ。本体マイクはあくまでも編集ソフトで波形を見るための当て用の音だと割り切った方がいいだろう。

ローリングシャッターは動画では問題ないレベル

時速60キロくらいで橋から香港を見たところ。スチルではローリングシャッターが強くでているのがよくわかる
SIGMA fp パナソニックLUMIX S 24-105mm F4 MACRO O.I.S.シャッターアングル172.8 F4.0

読者諸賢が気になるのはローリングシャッターではないだろうか?時速60キロくらいで橋の欄干を撮影すると写真のような感じだ。やはり、メカニカルシャッターのないフルサイズセンサー機とあって、スチルでは強めのローリングシャッターを感じざるを得ない。ただし、最速クラスの高速読み出しCMOSのため、動画での通常速度のパンであればあまり気にならない。実際の動画をご覧頂きたい。

マカオのセナド広場でパンをしてみたところ。トラベル三脚の乱暴なパンでもローリングシャッターにさほど問題は見られない
SIGMA fp パナソニックLUMIX S 24-105mm F4 MACRO O.I.S. UHD撮影 12bit CinemaDNG シャッターアングル172.8 F11 ISO100
マカオの聖パウロ教会廃墟でパンをしてみたところ。奥行きがある縦建造物の多い構図のため崩壊するかと思ったが、見事にこなしきっている
SIGMA fp パナソニック LUMIX S 24-105mm F4 MACRO O.I.S. UHD撮影 12bit CinemaDNG シャッターアングル172.8 F22 ISO100

ダイナミックレンジや夜間撮影は見事の一言

スチルで明暗のある風景を撮影してみたところ。香港国際空港のバス停
SIGMA fp パナソニックLUMIX S 24-105mm F4 MACRO O.I.S. シャッターアングル172.8 F4.0

続いて、階調の収録具合を見て見たい。スチルで起こした階調はかなり深い。明暗所にはしっかりとディテールが残っていて、中間部分の崩壊もない。大変素性の良い処理をしていると思う。

動画でもこの性質は引き継がれていて、12.5ストップのダイナミックレンジのカタログスペック通り、しっかりと色味は明暗所に保管されている。CinemaDNGでは標準カラーのみの収録となるようだが、Logカラーでなくても比較的色味がある事にほっとした。また、ISO6400でもほとんどノイズを感じないのには驚いた。本当に素性の良いセンサーを使っているようだ。

マカオのコタイストリップの夜間。発光部はさほど飛んでおらず、暗所もしっかりディテールが見える。照明なしなのにちゃんと肌色も撮れているのがわかる。暗部がチカチカしているのはエラーではなく、コタイの街の明かりのせいだ
SIGMA fp パナソニックLUMIX S 24-105mm F4 MACRO O.I.S. UHD撮影 12bit CinemaDNG シャッターアングル172.8 F4.0 ISO6400

先に書いた通り、SIGMAからは現ファームでは暗部で明滅が出るという警告が出ていたが、無理な夜間撮影もしてみた。ホテルの室内からガラス越しに、中国側を撮影してみた。手前のコタイストリップが世界一明るい夜の街だけに、相当に困難なシチュエーションだ。

マカオのコタイストリップの夜間。ホテルの室内から中国側を撮影してみた。暗部の明滅問題こそあるものの、ライトで投影された光の筋から夜の川面までしっかりと映っていて、その描写力に驚く
SIGMA fp パナソニックLUMIX S 24-105mm F4 MACRO O.I.S. UHD撮影 12bit CinemaDNG シャッターアングル172.8 F4.0 ISO6400

結果、灯りがちゃんと色味を持っているのはもちろん、川向こうの中国側の風景まで形状が見える。残念ながらSIGMAから事前リリースのあった暗部の明滅が出てしまっているが、思った以上にしっかりと撮れていてその性能の高さには驚くほかない。正直、F4の標準ズームなので、ここまで撮れることは期待していなかった。これは本当にすごいカメラが登場したものだ!

それにしても、事前にちゃんとメーカーからエラーの予告があると、こういうトラブルでも何か操作ミスをしたのではないかと焦らずに済むのがありがたい。こういうユーザーフレンドリーさは是非とも今後もお願いしたい。

本体内収録CinemaDNGでも容量さえクリアすればなんとか使えるレベル

SIGMA fpの本体内動画撮影は8bit収録のあくまでも緊急時の保険的なものであり、特にCinemaDNGは容量的にメインで使えるものではない。しかし実際に12bitの外部収録に比べ、8bitでどの程度色情報が落ちるのかを確認してみた。とはいえ、まだ暗部の収録が正確でないバージョンであるので、あくまでもざっくりと見た目の話になる。

実際に撮ってみると、10bit以上の映像を見慣れた目には確かに一見撮って出しの色域は狭く見える。しかし、DaVinci Resolveなどで展開してみると案外ちゃんと色情報は暗部明部に残っていて、若干カラーバンドは見られるものの、実用には充分に耐える色味であると考えられる。やはりSSD収録の際にもしっかりとSDカードも内蔵し、緊急用で内部収録した絵を使うという選択肢もきちんと考慮して撮影を試みることが大切だろう。

マカオのフェリーターミナル近辺の夜間。8bitだけあって一見色味が寂しい感じがしたが、グレーディングソフトで少し弄るだけで充分な階調が出てきた。若干カラーバンドは見られるが、SSDに収録できなかったとき用の緊急収録としては十分ではないだろうか
SIGMA fp パナソニックLUMIX S 24-105mm F4 MACRO O.I.S. UHD撮影 8bit 本体内CinemaDNG シャッターアングル172.8 F4.0 ISO6400 本体のみ手持ち撮影

とりあえずのまとめ。未来を感じるカメラだ!

発売間もないカメラのざっくりとした使用感ではあるが、かなり使えそうな実感はわかっていただけたのではないだろうか?まだ、ファームが未完成のため色々と制限はあるが、それを押してでも使いこなしてゆきたい素晴らしいカメラだと言える。私自身も普段持ち歩き、仕事にもしっかりと使いこなしてみて、ファームウェアが仕上がった段階でもう一度しっかりと検証してみたい機材だ。

いよいよフルサイズRAW撮影が身近なところまで降りてきたのだ。しかも予想だにしない小型さで。そうした撮影の可能性、映像の今後の新しい撮り方を強く感じるカメラではないだろうか?

ぜひ、みんなで温かく見守って、育てていきたいカメラだ。

WRITER PROFILE

手塚一佳

手塚一佳

デジタル映像集団アイラ・ラボラトリ代表取締役社長。CGや映像合成と、何故か鍛造刃物、釣具、漆工芸が専門。芸術博士課程。