映像と情報に関わる技術サービスを提供している株式会社テクノネットでは、TriCasterを導入したネット配信や、スポーツ場内の演出などを行っている。そこで、テクノネットの山崎洋則氏と渡部進也氏にTriCasterの活用事例や、使い勝手などについて話を伺った。

株式会社テクノネット ソリューションセンター 運用技術部
部長 テクニカルディレクター 山崎洋則氏(左)
映像グループ テクニカルディレクター 渡部進也氏(右)

スポーツ中継を多く手掛けるテクノネットが"小型"中継車を導入した意図

――テクノネットの業務内容を教えてください

山崎氏:

テクノネットは、スポーツ中継をサポートするグラフィックシステム「スポーツコーダ®」の製造・開発・運用を一手に行うところから始まりました。そして約10年前からネット配信や映像制作、配信管理、場合によっては配信環境の構築なども手がけるようになり、映像に関わる様々なことを行っております。
最近では、TriCasterを使ってBリーグ「横浜ビー・コルセアーズ」ホームゲームでの場内演出を行いました。あとは、ゴルフなどの各種スポーツ中継を主に担当しています。CG業務としては、数多くのテレビ局、プロダクション様に弊社のスポーツコーダ®機材とソフトウェアを納入させていただき、併せてオペレーター業務も数多く担当させていただいております。

――配信に関しては特にスポーツ中継が多いのでしょうか?

山崎氏:

そうですね。会社として元々CGに関してもスポーツをメインにやっていましたが、私個人としても以前スポーツ中継のプロダクションに所属していたこともあり、やはりスポーツ中継がメインになるかと思います。

――スポーツ中継のシステム概要を教えてください

山崎氏:

数年前に小型の中継車を導入しました。今はTriCasterを使ってスポーツ中継を行う形式をとっていますが、小型の中継車だと当然大型の中継車みたいに色々なセクションの人が1台の車に乗る形での運用はできないので、案件に合わせて会場内の居室や、中継車の横にトラックを停めてオペレーター環境を会場内と分けて作ったり、会場内からネットワーク接続で離れた場所にあるTriCasterを操作したり、IP(NDI)を活用して柔軟に人員とスペースを利用できるシステムを運用しています。

 

――小型中継車について、もう少し詳しく教えて下さい

山崎氏:

通常(大型)の中継車のようにきっちりとしたシステムではなく、案件毎に効率良く運用できることを考え、その都度システムを組み替えているような感じです。そういう意味では、中継車という呼び方も正しいのかなというところがあります。
例えば配信業務だけであれば、配信用のエンコーダーやネット回線の端末を載せるといった使い方もでき、イベントが終わった後の事後配信などもスタンドアローンで運用出来ます。あとはCG車としても使えますので、その際には弊社のスポーツコーダ®を搭載して、車内でオペレートを行い、クライアント様の中継車とのインカムラインであったり、モニターの回線などをすぐにつなげて運用できるようになっています。ですので中継車というよりは、電源と端子盤付きの汎用車と呼ぶ方が正しいのかもしれません。

 
テクノネットの小型中継車
    テキスト
中継車の様子※画像をクリックして拡大

山崎氏:

中継車は普通の改造車とは違い、レイアウトなどが自由に作られているので、すごく使いやすいです。電源や空調なども専用に作られていますので、色々なことを我慢しないで運用できるのはいいところです。

 

中継車システムでTriCasterを選択した理由は「機動力」と「効率化」

――テクノネットの制作フローにTriCasterを選んだ理由を教えて下さい

山崎氏:

現在はTriCaster 2 Eliteを使用しています。案件によっては20〜30台のカメラを使ったり、出し物もVTRが4チャンネル必要なことがありますので、なるべくグレードの高い製品をということでTriCaster 2 Eliteを選びました。
また、TriCasterは映像ソースを全てNDIにして運用する方法も勧めているかと思いますが、まだ映像ソースはSDIが必要な現場も多いので、SDIの入出力が多い点も踏まえて製品を選んでいます。

 
中継車に設置したTriCaster 2 Elite

山崎氏:

他の映像機器メーカーのスイッチャーも使ってはいますが、やはりTriCasterは非常に自由度が高いです。スポーツ中継でもそうですが、例えばピクチャーインピクチャー(PIP)2画面をちょっと凝った感じでスローで出したいとか、スポーツ以外でもゲーム・eスポーツ番組ではプレーヤーの情報を画面上にレイアウトして作りたい時など、裏でサッと仕込めてサッと出せるところが一番気に入ってますね。

 

――中継車にもTriCasterを載せて運用されるのですか?

山崎氏:

そうですね。システム機器をなるべく中継車に固めることで、セッティングや運用の負担をだいぶ下げることができます。中継車に機器本体を載せて、オペレーション部分だけを外に出す構成にしています。
中継車には電源もありますし、通常キャリング制作システムであれば一つずつケースに入った機材を全て車に積んで、場合によっては手運びして、それを現場で一つずつ蓋を開けるところから始まりますが、中継車にシステム機器をあらかじめ搭載して、さらにはある程度の配線までしておくことでその手間がなくなります。

 
オペレーション部分はNDIで外部の部屋から操作

――中継車でのTriCasterの使い勝手のよさなどを教えて下さい

渡部氏:

以前はTriCaster 8000シリーズを使用しており、その時はコントロールパネルがUSB接続でした。当時はUSBからイーサネットに変換するデバイスを使って本体と離れた部屋から操作していましたが、TriCaster 2 Eliteになってコントロールパネルがイーサネット接続になったので、そのひと手間がなくなってよかったなと思います。

 

山崎氏:

IP接続で他のハードウェアスイッチャーとあまり変わらない使い勝手を実現できるのはメリットだと思います。
IP化できることによって、ネットワーク環境の中にまとめられるので、今まではUSBや映像、音声回線等を延長するためのケーブルがそれぞれ別途必要でしたが、今ではオプティカルのケーブル2本だけで別室のオペレート環境と中継車を繋げることができますので、そういう意味での作業量はかなり減っていると思います。

 

――中継車と別室はどのようにしてつないでいますか?

渡部氏:

肝になっているのが、池上通信機さんの映像パケット化光伝送装置です。今(取材時のシステムに)組み込まれている仕様は、SDIが2in、2out、そして10Gbpsのネットワーク環境や、別の光伝送装置をLCコネクターでSFPに別で繋いでいます。あとは、イーサネットも1Gbpsが2系統ありますので、Dante(音声回線)やTriCasterのコントロールパネル、IP化したスポーツコーダ®のKVM等を束ねて別室に送っています。あとクリアカム等も送っています。
タリーランプもTriCaster用に変換されて、カメラのタリーランプがつくようになっています。スポーツ中継の場合タリーは絶対必要です。

中継車の様子。池上通信機のiHTRシリーズを使用し、外部の部屋とは光ファイバーケーブルで接続
    テキスト
外部の部屋の様子。中継車と光ファイバーケーブルで繋ぐ
※画像をクリックして拡大

――その他にもTriCaster 2 Eliteでよく使用する機能はありますか?

渡部氏:

Danteで音がコントロールできるようになったのはすごく良いです。コントローラーも含めて全部IP伝送できるようになったので、イーサネットケーブルで映像と音声を全てコントロールできます。

 

山崎氏:

これはTriCasterというよりNDIのお話になってしまうかもしれませんが、モニター環境の部分でかなり省力化できるようになりました。例えば、CGオペレートする時は操作画面以外に、必ず収録中のプログラムアウトと、自分が出しているCG素材、そしてその合成結果、この3つを見ることができる環境が必要です。
通常の中継であればルーターからプログラムアウトを貰ってきて、なおかつ自分が持っているスポーツコーダ®からCG単体のアウトをそれぞれ取って、別々のSDIモニターに入力して台数分のモニターを、広くはないオペレーションスペースに積み重ねる必要がありました。
NDIを使うと、それらを一つのモニターにまとめて自由にレイアウトできます。また画面上に自分で見たい映像ソースを選択して表示することができます(NDI Studio Monitorを複数立ち上げて使用)。

 
NDIを利用したCGオペレーター席のデモ。中央のモニターの中に3つの映像ソースが表示されており、自由にレイアウト可能だ

山崎氏:

今回のデモパターンみたいに、システム側とオペレート側が別の場所にいる場合は、大体システムのセッティングなどは中継車にいるVE(渡部氏)がやるのですが、ワイプやM/E、ボタン配置などの仕込み、DDR等の素材管理はオペレート側の私が行います。その場合、従来ですと中継車内で直接HDMIで繋いでいるインターフェースモニターを私が中継車までわざわざ見に行って準備していましたが、NDIで別室でも見る事ができ、KVM延長のように中継車のTriCasterをラップトップPCで操作できるようになりました。双方でコントロールできるのも便利なポイントです。画面レイアウトだけでなくスイッチング操作も遠隔で柔軟にコントロールできるのがTriCasterの強みだと思います。

 
NDIベースのKVM接続ツール「NDI KVM」を使用しているところ。TriCasterシステムの操作用インターフェイスをNDI Studio Monitor上に表示させ、遠隔でオペレーションが可能

TriCasterで様々なスポーツ普及を目指す

――TriCasterを使う上で気をつけていることがあれば教えて下さい

山崎氏:

TriCasterはソフトウェアスイッチャーですので、大前提として過剰な負荷をかけないことです。運用的な負荷もそうですが、温度などの環境的な要因や、移動時の振動などの機材的な負荷も全部含めて、現場で事故を起こさないような心構えをしています。
あとは、現場に着いたらなるべく早いうちにTriCasterの電源は入れます。TriCasterは肝の機材なので、移動時のトラブル等がないか確認するために、周りのセッティングとかしててもとりあえずTriCasterの電源が挿さったら一回電源入れて確認しよう、という感じです。
また、TriCaster 2 EliteはTriCaster 8000よりも小型なので可搬性が向上しました。周りからの評判も良いです。他の大きい製品ですと気軽に持ち運ぶことは難しいですが、TriCasterでは可能です。

 
実際の配信の様子

――今後のスポーツ中継でTriCasterに期待することはありますか?

山崎氏:

リモート制作の幅が広がっていくことで、今までは予算がなくて実現できなかったスポーツ競技やマイナースポーツなどを配信することで、そのようなスポーツがどんどんと普及していくかと思います。弊社も1984年の創立以来長くスポーツ中継に携わっていますので、そういう部分を掘り出していく事も使命だと思っているので、TriCasterで高クオリティーな配信を実現させて、もっと色々なスポーツが普及するお手伝いをしていきたいです。

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PRONEWS編集部による新製品レビューやイベントレポートを中心にお届けします。