プロモーションやイベント制作など、多岐にわたる業務を行っている共同テレビジョン(以下、共同テレビ)第3制作部に所属している小西正利氏にTriCasterシリーズの使い勝手や気に入っている機能などについて伺った。
――小西さんの普段の業務について教えてください
小西氏:
共同テレビに所属して5年になります。共同テレビは第1制作部がドラマ、第2制作部がバラエティをメインにしているのですが、その他の数多くの業務を請け負っているのが第3制作部になります。私はそこでゲーム班に所属しており、eスポーツ大会の中継や、ゲーム会社の公式YouTubeチャンネルでのゲームPR番組などの制作業務に携わっています。
――TriCasterは共同テレビに所属される以前から使われていたそうですね
小西氏:
2012年頃、「HD Users」というライブ配信メディアに参加していました。そこでは様々な業務用機材の紹介などをしていたのですが、パンダスタジオが所有するTriCasterを使って配信をしたことをきっかけに、その後パンダスタジオに所属してテクニカルディレクターとして映像業務を行っていました。
その後、2017年に共同テレビが配信向けスタジオを開設する際にTriCasterが機材として選定され、その導入と同時に私も共同テレビに所属しました。
――共同テレビでのTriCasterの使い方はそれまでとは違いがありますか
小西氏:
TriCasterは「現場ですぐに対応が出来る」とよく言われます。TriCasterがあれば、その場で思いついたことや、その場で起こっていることに瞬時に反応して映像を作ることができます。共同テレビ以前にはそういった作業を多くこなしました。
「現場でいかようにもできる」のはもちろんその通りなのですが、逆に言うと「現場での突貫にはクオリティの限界がある」と思っております。
例えば複数のレイヤーを使って複雑なレイアウトを作りたい、といった作業は事前に関係者と打ち合わせをしてアイデアを出し合う必要があります。そのために時には台本制作の段階から参加し、クライアントとしっかり向き合って準備をします。映像をどのように動かすのか、どのように見せるのか、といった試行錯誤を打ち合わせの段階から煮詰めていく。
そういった準備の段階からしっかりと仕込めばTriCasterでできることはもっと沢山あるはずです。「"現場ですぐに対応が出来る"と言われている機材を本気で使ったらここまでできる」というスタンスで共同テレビでは画作りをしています。
――TriCasterで気に入っている機能を教えてください
最大8レイヤー使えるM/E(ミックス/エフェクト)機能
小西氏:
バーチャルセット内に配置すると1つの画面に計8つの映像と背景画像を合成することができます。これによって表現の幅が大きく広がります。
AR(拡張現実)機能の視差調整
小西氏:
バーチャルセット内で各レイヤーに対してParallax(視差)情報を設定すると、バーチャルカメラがズームあるいは上下左右に動く際に各レイヤーが設定した視差情報に準じて動くため、より奥行のある映像合成が可能になります(例:手前に設定しているレイヤーほど早く動く)。
AR(拡張現実)機能の使い方
クロマキーのクオリティ
小西氏:
TriCasterに搭載されているクロマキー機能(LiveMatte™)は一般的なカラーサンプリングが4:2:2のハードウェア・キーヤーよりも追い込んで綺麗に抜けます。照明環境が多少整っていない場合もそれなりに仕上げることができますが、しっかりとした照明環境下ではより効果を発揮します。
TriCasterでできること〜入門編〜デモンストレーション動画(グリーンバック、クロマキー解説部分から再生されます)
ボーダー機能
小西氏:
それぞれのレイヤーに対して、Photoshopなどで作ったボーダー(画面枠)素材を映像の前後に適用することができます。例えばゲーム関連の配信では、プレイヤーの映像あるいはプレイ画面に対して、プレイヤーの名前が入ったボーダー素材を予め作っておいてレイヤーに適用することができます。多くのシステムではこういった素材はテロップのような別レイヤーとしてカウントされますが、TriCasterでは同レイヤー内に適用できるので、別レイヤーとしてカウントされません。eスポーツ大会など複数の出演者を画面内に合成する際など、多くのレイヤー数を必要とする番組では重宝します。
――TriCasterを現場で使っていて気をつけていることはあるでしょうか
小西氏:
まずは「事故らないこと」を大前提としています。機材は壊れるものですし、人はミスをするものです。それを踏まえて、少しでもその可能性を低くすべく入念に準備を行います。
基本はTriCasterの負担をなるべく軽くすることですね。音声の入力、ミックス、そしてTriCasterで作った映像の配信は別の機材で行っています。TriCaster最大の特徴はその画作りの柔軟さなので、それ以外をできるだけ別機材に分けるようにしています。
例えばTriCasterから出力する音素材と外部から入力される音声のミックスが必要な場合は、一度TriCasterから外部ミキサーに出力してミキシング後に改めて入力することもあります。ベテランスタッフが普段使っている業務用のミキサーが使えるのであれば、そちらを使ったほうがオペレーションを分担することもできますし、安全だと考えています。
テロップについても、多い時には100枚以上になるので、出しミスの可能性を極力低くすべく別の人間が別の機材で作業をします。テロップ用の機材からNDIでTriCasterに送れば透過データも送れるので、フィル&キーで送ったり、単色背景の上に載せて受け側でキーイングするというような手間はありません。
また、同じNewTekブランドのリプレイ・スロー再生システム「3Play」を使う場合もTriCasterとの同期機能は使わず、TriCasterとは独立したシステムとして使っています。TriCasterを操作する側の負担軽減もありますし、再生するタイミングを3Play側で決めたい場合もあります。
TriCasterは全てを1人でまかなうこともできますし、複数人で分担しているシステムの1つとしても使うことができるので、作業内容や規模によって構築するシステムを選択できるのが良いところだと思います。
――TriCasterへの要望はありますか
小西氏:
TriCasterでカメラをスイッチングする際には、NDIと+5vのタリー信号が出力されますが、放送用カメラのCCUなど他のタリー方式で動作する機材を使用する場合には変換が必要なので、純正品でタリーの変換機を用意してもらえると嬉しいです。
――TriCasterを使い続けている理由を教えて下さい
小西氏:
まずは持ち運べるギリギリのサイズですね。あまり大きくなってしまうと常設のような使い方になってしまうので、持ち運べるサイズは重要です。
また、TriCasterは「スイッチャーでありつづけている」と感じています。狙ったタイミングでキーを叩くとそのジャストのタイミングで画が切り替わる、というのがスイッチャー本来の機能なわけですが、音楽系やスポーツ系では「この1フレーム」を狙ってキーを叩きます。残念ながらこの部分のフィーリングが違ってしまう機材があります。
近年映像を作り込める機能を搭載しているシステムはいくつかありますが、TriCasterはそれと同時に「スイッチャー」でもありつづけてくれていることがとても良いところだと思っています。
取材場所:アスク・エムイーショールーム「エースタ」