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数年前に32bitフロート&デュアルADコンバーター搭載のレコーディングF6を登場させて以来、発売するたびに品切れを連発しているZOOM社。今回は、誰でも簡単に使えるマイク&レコーダーとして3つのモデルを市場投入してきた。

マイク付き32bitフロートレコーダーとは

誰でも簡単に扱えるのが特長だ

今回、ZOOM社から登場したのは3つのモデル。どれもマイクに32bitレコーダー(&ディアルADコンバーター)が搭載されている。

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発売になったのはMicTrakシリーズの3機種で、それぞれM2、M3、M4となっている。M2とM4はよく似たデザインで、M3だけがカメラ用のショットガンマイクのような形になっている。

まず先に32bitフロートレコーダーについて簡単に解説しておくと、これまでの24bit(もしくは16bit)リニアレコーダー(カメラの録音機能がこれ)は、人間の耳が聞き取れる音量幅で録音するものだが、カメラの露出と同じように、小さ過ぎる音は大き過ぎる音に対して、マイクボリュームを調整して聞き取りやすい音量幅の内側に調整する必要があった。

つまり、録音時にマイクボリューム(マイクゲイン)を最適にする必要があり、これを怠ると音割れ(レベルオーバー)したり、ホワイトノイズの増加(レベル不足)になってしまう。

これらの音質低下を回避するためには、常に録音レベルを監視して、適正な音量幅に整える必要があり、これまでテレビ撮影では音声マン、映画では録音技師がリアルタイムにレベル調整を行ってきた。

一方、32bitフロートというのは、前述した24bitリニアよりも音量幅が広い録音技術で、実質的にはほぼ無限の音量幅を記録することが可能だ。この32bitフロートの記録方法をベースに、マイクが持つ人間の耳よりも広い音量幅をそのまま録音してしまうのがデュアルADコンバーターを使った録音方式である。

ちなみにデュアルADコンバーターというのは、カメラのHDRに類するもので、低レベル用のADコンバーター(アナログ・デジタル変換回路)と通常用のADコンバーターの2段で録音する。こうすることで、マイクの最大出力(マイクの種別によらず、最大値は出力電圧として規格化されている)から、通常はゲインアップしないと聞こえない音まで、前述の32bitフロート記録方式でデータ(ファイル)にすることが可能だ。

つまり、ZOOM社の32bitフロート&デュアルADコンバーターを使えば、人の耳では聞こえないほどの小さな音(マイクが拾っていれば)から、ドラムのような大きな音までレベル調整することなく、丸ごと録音することができるのだ。だから、誰でも簡単に高音質な録音が可能になる。

ただし、マイクが信号にすることができる最大音圧(SPL)はマイクごとに決まっており、それを超える爆音はレコーダーに到達する前に割れてしまっているので、ZOOM社のレコーダーといえども音割れすることは付記しておこう。

一部のYouTuberが本当に音割れしないのか検証する、などという馬鹿げたことをしていたが、音割れには2つあって、マイクの振動板が過剰に動くマイクの音割れ(過大音圧)と、レコーダーの記録最大音圧を超える音割れ(レベルオーバー)があり、ZOOM社の技術は後者の音割れが生じないという技術だ。

M4は本格的なプロ仕様レコーダー搭載ステレオマイクだ

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ZOOM M4 MicTrak。プロが必要なXLR入力、音声LINE出力、タイムコードの入出力を備え、ノーマライズ機能も搭載したプロ仕様のマイクレコーダー

さて、今回発売になったのは、MicTrakシリーズの3機種で、それぞれM2、M3、M4となっている。M2とM4はよく似たデザインで、M3だけがカメラ用のショットガンマイクのような形になっている。まずは、M4から紹介しよう。

M4はXY方式のステレオマイクと、ファンタム電源(プロ用マイク電源+48V)出力が可能なXLR入力が2つあるレコーダーだ。外見こそカラオケマイクのように見えるが、非常に軽量なボディーにプロ仕様の高度なレコーダーが搭載されている。

まず、XYマイクだが、自然の音も非常に鮮明に録音できる高感度なステレオマイクになっている。XYマイクというのは左右のマイクをX状にクロスさせることで豊かなステレオサウンドを録音できる仕様のことだ。楽器演奏や舞台の録音に適している。

レコーダーは、もちろん32bitフロート仕様で、ボリューム調整することなく録音が可能だが、編集しやすいように、音声波形を見ながらの録音も可能だ。この波形グラフによるレベル監視(および調整)は同社のF3から搭載されているが、映像編集アプリの上の音声波形と同じものがレコーダーの液晶に表示される。

この波形表示はF3から進化しており、レベル(音声データを改変することのない、ヘッドホン視聴や編集時のレベル)調整がボタンを一度押すだけの簡単操作になっている。さらに、波形表示が始まるのは録音が行われている時だけになった。これはおそらくバッテリーの消耗を避けるためだろう。

さらに、M4は2つのXLR入力(もしくはプラグインパワー対応のステレオ入力ジャック)で、プロ用マイクやステージなどのミキサーから音をもらって収録することにも対応している。もちろん、マイク・ラインレベルの切り替えも可能だし、標準ジャックでの入力も可能だ。プロが遭遇するであろう、さまざまな場面に対応できる仕様だと言える。

そしてすごいのは、タイムコードの入出力端子が搭載されていることだ。タイムコードを使えば、複数のカメラの同期が非常に簡単に、かつフレーム単位で可能になる。放送用カメラであれば、同じくタイムコードの入出力端子があり、カメラとM4をケーブルで繋ぐだけで同期ができる。

そして、目玉として本体内で音量のノーマライズと収録形式変換が簡単にできることに注目したい。

ノーマライズとは、低すぎたり大きすぎる音を調整して、聞きやすいレベルに調整するフィルターで、M4とM2には、このノーマライズ機能が搭載されている。録音済みのファイルを再生状態にして、OPTIONボタンでノーマライズを選ぶと、新規にノーマライズ済みが作成される(変換前データは改変されず残る)。さらに、EXPORTを選ぶと32bitフロートから24bitリニアに新規ファイルを作ってくれる。編集する側に32bitフロート編集のノウハウがない場合に役立つ。

いずれにせよ、M4は、プロが必要とする機能を満載したオールインワン機器だと言える。

M2は超低価格な高音質マイクレコーダーだ

M2/M4は同じマイク搭載で、非常に高音質

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ZOOM M2 MicTrak。外部入力端子はないが、高音質で失敗のないステレオ録音が可能な32bitフロートのマイクレコーダー

M2は、M4からXLR入力(およびステレオジャック入力)のないマイクレコーダーだ。液晶パネルはモノクロとなっている。タイムコード入出力も搭載されていない。外部入力がない以外はM4と同じ仕様で、32bitフロート録音および、ノーマライズとエクスポート(ファイル形式変換)が搭載されている。

M4が単3電池4本駆動(アルカリ乾電池で19時間)であることに対して、M2は単3電池2本(11時間)で動作する。どちらも非常に省電力仕様だ。

M4とM2のどちらを選ぶべきかだが、映像収録時に現場からの音声をもらって録音するかどうかで選択すればいいだろう。M2は実勢価格で24,000円程度と安価で、実際に筆者はM2を持って歩く機会の方が多い。

さて、M4とM2に搭載されているマイクの音質について評価したい。どちらも同じマイクカプセルが搭載されており、音質の上では全く同じだと言える。マイク形式はXY方式のステレオマイクとなっている。XYマイクについては前述のように、楽器演奏など、主音源が前方にあり、音が前から来る用途での録音に適している。

実際に使ってみると、小さな音から大きな音まで満遍なく録音できた。また、自然の音を録音する場合では遠くの小鳥の声などの微細な音も歪むことなくきちんと録音できる。

さらに、ナレーションなどの使い方でも高音質で録音可能だ。この2つのマイクはカメラの上に取り付けて使う仕様にはなっていないが、もちろん、クランプなどで取り付けることも可能だ。ただし、ショックマウントが用意されていないので、そのまま取り付けるとカメラの操作音などが本体に響いてしまう。M2にはマイクアダプターが同梱されており、マイクスタンドに取り付けて使うことも簡単だ。

M3はカメラに搭載可能なMSステレオマイクレコーダー

ナレーションから環境音録音までオールマイティー

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ZOOM M3 MicTrak。カメラ搭載可能なMSステレオショットガンマイク32bitフロートレコーダー。編集でステレオ感を自由自在に調整可能。モノラルからリッチなステレオサウンドまで、編集時に作り出せるMSマイク搭載だ

PRONEWSの読者ならM3が非常に気になっているのではないだろうか。2022年12月の発売の瞬間から品切れ状態のままなのがM3だが、その魅力を簡単に解説する。

まず、M3はショットガンタイプのMSステレオマイクレコーダーだ。カメラへの音声出力端子(ステレオハック)があり、カメラマイクとして使うことが可能だ。もちろん、単体でマイクレコーダーとして使うこともできる。

単3電池2本で12時間駆動、セッティングはシンプルで、ステレオ幅(0°モノラル、90°ステレオ、120°ステレオ)とローカット(ハンドリングノイズと風切り音の軽減)、録音ボタン、再生停止ボタン、電源ボタンしかない。メニューなどはなく、どのモードで録音するかを選ぶだけだ。

また、録音せずに、カメラへ音を送るだけという使い方も可能だ。ただし、この場合、録音形式はカメラの仕様になり(つまり、16bitリニアか24bitリニア)、音割れを回避することはできなくなる。

MSステレオマイクは映像録音の理想形式だ

M3はステレオショットガンマイクであり、録音方式はMSタイプだ。MSというのは中央(Midle)のショットガンマイクと左右(Side)マイクを組みわせたステレオマイクで、中央だけを使えばモノラルのショットガンマイクとして使え、左右マイクの音を混ぜることでステレオ音声にもなる。詳しい解説は、筆者のYouTubeにあるのでご参照いただきたい。

MSマイクの利点は、編集時に前方の音だけにしたり、広い臨場感をもたらすワイドなステレオ音声にすることもできることだ。しかも、M3はMS-RAWファイルで保存されているので、左チャンネルだけ使えばショットガンマイクの音として使える。また、主要な映像編集アプリにはMSマイクのステレオ幅を自由に調整するエフェクトが搭載されているので、編集時にステレオ幅を変えることも可能だ。

一方、ZOOM社からはM3用アプリが無償公開されていて、M3の設定変更(電池種別や日時の設定など)と、M3からのMS-RAWファイルの編集が可能だ。前述のステレオ幅の調整もこのアプリで可能だ。M2/M4と同じく、ノーマライズとエクスポート(16bit/24bitリニア変換)も、このアプリで行うことができる。

M3には専用のショックマウントが同梱されており、カメラの上に簡単に取り付けることができるほか、映画などでお馴染みのマイクブーム(竿)に取り付けて映画スタイルの録音にも対応できる。

操作が非常にシンプルなので、現場で非常に扱いが楽だ。音質も非常に高い。ナレーションから臨場感のある環境音を収録可能だ。先ほどのM2/M4のXYマイクに比べて、より広いステレオ感を作り出すことが可能だということも付け加えておこう。

ステレオ幅は0°、90°、120°の設定があるが、これはカメラへの出力とヘッドホンで聴く音の設定となる。ファイルとして記録されるのはMS-RAW形式となる。

なお、この3製品の音質や使い勝手など、筆者のYouTubeチャンネルもご参照いただきたい。

M3

M3用ウインドジャマー解説

M4

M2

WRITER PROFILE

渡辺健一

渡辺健一

録音技師・テクニカルライター。元週刊誌記者から、現在は映画の録音やMAを生業。撮影や録音技術をわかりやすく解説。近著は「録音ハンドブック(玄光社)」。ペンネームに桜風涼も。