「YoloBox Ultra」ってどんな製品?
「YoloBox Ultra」は高品質なエンコーダー、スイッチャー、モニター、録画機、電源と場所を選ばず使用できるワイヤレスネットワークを利用した通信回線と大容量バッテリー、静止画表示や動画の送り出しPCなど、配信に必要な機材をギュギュッと8インチモニターのタブレットに詰め込んだモバイル配信機器だ。
最近ではカメラ1台の配信であれば、スマートフォンで事足りてしまうこともある。しかし、複数台のカメラを使いたいとなると話はガラリと変わる。必要な機材や知識、そして金額的にも一気にハードルが上がるからだ。
カメラやマイク、音声ミキサー以外に、少なくともPCあるいは専用のエンコーダー、スイッチャー、モニター、動画や静止画を利用する場合に必要なPCが必要になる。揃えた機材の操作方法を覚え、増えた機材の運搬方法や設置、通信回線や電源の確保など面倒なことも増えてしまう。YoloBox Ultraなら、これ1台!場所を選ばず高画質なマルチカム配信ができるオールインワンのモバイルライブストリーミングスイッチャーなのである。
ところで筆者はこれまでYoloBoxシリーズを触ったことがなく、Ultraが初めてとなる。したがってUltra以前にリリースされたProやInstreamとの具体的な比較を行うことができない。比較内容を期待されていた方にはその点を予めご了承いただきたい。
どんな人に向いてる?
- 電源や有線の通信回線確保が難しい場所での配信が多い人
- 場所を選ばず手軽に利用できるモバイル配信環境が欲しい人
- 多様な番組にも対応できる機能を持ちつつ、配信機材をできるだけコンパクトにまとめたい人
- ワンマンオペレーションが多い人
- 仕込みや撤収に時間をかけられない現場が多い人
- 手軽にワンランク上の配信がしてみたい人
- 4K配信が必要な人
- ガジェット好きな人
YoloBox Ultraの特徴
細かい部分で強化されたり実現可能になった機能が沢山あるとは思うが、メーカーが推しているUltraならではの特徴は次の通り。
- HDMI×4入力
YoloBoxシリーズ最大となるHDMI入力数により、余裕を持ったマルチカメラ演出が可能となった。 - ISO録画
プログラム出力以外にHDMI 1~4に入力された映像を入力機器毎に録画することができるISO録画に対応した。実際には録画するHDMIの数や解像度、フレームレートなどの組み合わせによって、HDMIからのすべての映像をフルスペックで録画できるわけではないので取捨選択は必要になるが、そこは使用者側の工夫で対応するしかないだろう。 - 強力なCPUを搭載
YoloBoxファミリー最強となるQualComm Snapdragon 865を搭載したことで、これまでのCPUでは処理能力の点で見送っていた様々な機能が実装された。もちろん今後においても余裕を持った機能追加も可能だ。 - ネットワークボンディング
有料のサービスにはなるが、本体にセットしたUSBモデム×2、通信SIM、Wi-Fi、イーサネットなどの複数回線を同時に使用することにより、通信速度の向上や帯域の安定確保、いずれかの回線がダウンしても途切れることのない通信を維持する冗長化が可能だ。ただし、利用するにはYoloLivとの有料契約が必要になる。 - 大容量バッテリー
75.48Whの大容量バッテリーを搭載し、バッテリー駆動だけで最長6時間の配信が可能となった。駆動時間に関しては使い方によってそれなりの差が出ると思うが、バッテリーに負荷のかかる使い方をしても3時間程度は持つのではないかと思われる。 - 4K配信に対応
4K入力に対応し、4Kでの録画はもちろんのこと、4Kでの高解像度配信にも対応した。 - NDI HX3とSRTをサポート
IPネットワークを利用した音声/映像伝送のプロトコルで高圧縮で低遅延のNDI HX3、同じくIPネットワークを利用して高画質で低遅延、セキュリティにも強いSRTプロトコルを使った音声/映像の送受信に対応し、状況に応じて様々な映像ソースを選択できるようになった。 - 8インチの明るいモニター
8インチの大画面で650nitsの明るさを誇るモニターにより、屋外での視認性の問題もクリアになった。 - 一台で縦横画面の配信に対応
これまでYoloBoxシリーズでは横画面、Instreamでの縦画面配信と機種そのものが分かれていたが、縦横画面共にUltra1台で対応可能となった。両方の配信が必要な方にとっては、用途別に購入する必要がなくなったのは嬉しい。検討されている方にとっても、コストパフォーマンスにも優れた製品といえるのではないだろうか。
本体、各部の説明
上部にはHDMI IN、HDMI OUT、Ethernet、USB-Aが用意されている。
- HDMI IN×4:カメラやPCなどのHDMIソースを接続することができる
- HDMI OUT×1:Ultraの画面をミラーリング、あるいはプログラムを出力することができる
- Ethernet:有線でのネットワーク接続で使用する
- USB-A 3.0×2:WebカメラなどのUVC(Universal Video Class)対応機器やUSBモデム、利用する素材や録画用としてUSBメモリ、SSDなどの外部記録メディアを接続することができる
底部には電源コネクタ、LINE IN、MIC IN、HEADPHONE、USB-C、1/4インチネジ穴、SIMカードスロット、SDカードスロットが用意されている。
- 電源コネクタ:Ultraへの給電や充電を行う
- LINE IN:3.5mmジャックのライン入力用
- MIC IN:3.5mmジャックのマイク入力用
- HEADPHONE:ヘッドホンを接続
- USB-C 3.0:WebカメラやUSBマイク、利用する素材や録画用としてUSBメモリなどの外部記録メディア、設定の切り替えによってプログラム出力など、幅広い用途に対応する。ただし、USB-Cを出力に切り替えた際は(同梱、あるいは市販の)USB-C to USB-Aケーブルを使用する必要がある。データ転送に対応していてもUSB-C to USB-CケーブルではUltraの出力が正しく認識されないからだ
- 1/4インチネジ穴:三脚スタンドやカメラなどの上に乗せる場合などに使用する
- SIMカードスロット:Nano-SIM用のカードスロットで4G SIMが利用可能
- SDカードスロット:FAT32、NTFS、EX-FATでフォーマットされた1TBまでのSDカードに対応
- 電源ボタン:電源を入れる場合は電源ボタンを4秒程度押し続ける。電源を落とす場合は電源ボタンを1秒ほど押して表示されるダイアログから「Power off」をタップして行う
配信までの流れを見ていこう
YoloBox Ultraの機能を詳しく見ていく前に、配信するまでの一連の流れを見ていこう。途中に出てくる各種の設定や意味については、改めて別項で解説するのでここでは無視していただきたい。
イベント管理画面
イベント管理画面は配信するための器となるイベント(つまり番組)を作成し、管理するためのものである。新しくイベントを作成したり、以前作成した内容を継承した作成も可能だ。 イベントは2種類ある。Ultra側でイベントの作成や管理を行う「Standard Events」、有料でYoloLivのクラウドサービスを利用する「YoloCast Events」である。「YoloCast Events」は別途YoloCast側のアカウントやクラウド上での各種設定が必要になるので内容の都合上。割愛させていただく。
操作画面
イベントをタップするとUltraの操作画面に切り替わる。今後の話が進めやすくなるので操作画面の機能や役割について簡単に触れておこう。
- プログラムエリア:配信時に出力される内容が表示される
- 音声レベルメーター:Audio Mixerで調整された音量が表示される
- 「戻る」ボタン:操作画面を抜けてイベント管理画面に戻る
- 「配信解像度」メニュー:タップして表示される解像度一覧から配信時の解像度を選択する
- 「REPLAY」ボタン:タップすることにより、指定した時間遡ってプログラム出力された内容が自動的に再生される
- 「REC」ボタン:Recordingで設定した内容に従い、プログラム出力やHDMI IN 1~4までの内容を録画する
- 「GO LIVE」ボタン:配信を開始と停止を行う。配信中は赤い「■」の停止ボタン表示に変わる
- 「拡大/縮小」アイコン:プログラムエリアを全画面表示に切り替える。全画面表示時にタップすると元のサイズに戻る
- ステータスエリア:画面最上部にはステータスエリアがあり、配信ビットレートやフレームレート、録画時間や通信速度、時刻、バッテリー残量など様々な情報が表示される
- プレビューエリア:利用可能な映像ソースが表示され、任意の映像ソースをタップしてプログラム出力を切り替える
- 映像ソース:Ultraに接続した映像機器や内部の各種ソースの総称
- 「映像ソース追加」ボタン:映像ソースを追加するためのボタン。HDMI 1~4とUSB 1~3に関しては、ビデオやPCなどの映像関連機器を接続すればこのボタンをタップせずとも自動的に追加される
- 機能別メニュー:Ultraの機能を活用するための様々な機能を設定するためのもの。設定したい項目をタップして、それぞれの画面で詳細を設定する
映像ソースの接続
ビデオカメラなどの映像ソースはUltraに接続した段階で自動的に認識され、接続した端子名とともに利用可能な映像ソースとしてプレビューエリアに表示される。同時に扱うことができる映像ソースは直接接続できるHDMI×4、USB×3の計7つだが、動画×2や静止画、PDF、Live Stream、NDI、SRT。そしてMulti Views機能により映像ソース同士を組み合わせて新たな映像ソースを作成することもできるので、その方法は別項にて紹介する。表示は接続した順になるので、実際には使い勝手を考えて接続順を決めると良い。
配信プラットフォームの設定
配信プラットフォームはYouTube。RTMPを利用して接続してみよう。RTMPはThe Real-Time Messaging Protocolの略で、インターネット上で動画や音声などのストリーミングプロトコルである。Ultraには配信プラットフォームとしてYouTube、Facebook、Twitchが用意されているが、それ以外のプラットフォームに配信する場合はRTMPを利用することになる。
エンコーダーの設定
次に配信時のエンコーダーの設定を行う。
音声の設定
HDMIやUSB接続されたソースの音声は、初期値ではオフに設定されているので、機能別メニューから「スピーカー」アイコンをタップし「Audio Mixer」で使用する音声を選択する必要がある。
いよいよ配信
基本的な準備が整ったので、早速配信してみよう。
配信終了
配信を終了するには「停止」ボタンをタップする。確認のダイアログが表示されるが、終了してもよい場合は「END」、終了せず、設定変更などを調整/変更するために一時的に配信を中断したい場合は「PAUSE」をタップする。
Ultraで利用可能な映像ソースとマルチビュー
映像ソース
映像ソースには物理的に映像機器を接続できるHDMI 1~4、USB-A 1~2、USB-CとSDカードやUSB(SSD)などの外部記録メディアに保存された動画1~2や静止画、PDF(ページもの可)などのデータ、NDI HX3やSRT、Live Streamなどネットワーク上のデータを利用することが可能だ。
映像ソースには表示オプションが用意されており、ソースの右上にある「歯車」アイコンをタップすることで以下の操作が可能となっている。
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Chroma Keying
クロマキー合成は被写体以外の青あるいは緑色の背景を透明にし、静止画や動画、映像などUltraのすべてのソースに重ね合わせて表示させることができる。 -
Flip Horizontal
ソースを水平方向に反転。 -
Flip Vertical
ソースを垂直方向に反転。 -
Rotate 90°
ソースを反時計回りに90°回転。Vertical Streamingで横倒しになった映像ソースを正位置に戻すときに必要な表示オプションとなる。 -
Cropping
ソースから必要範囲を切り出して使用したいときに利用する。
その他のソース
HDMIやUSBなどの物理的な接続による映像ソースは、それぞれの端子に映像機器を接続するだけで自動的に認識されるが、他のソースに関してはプレビューエリアの「+ Add Video Source」ボタンをタップし「Add Video Source」画面から選択して行う。
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Local Video 1~2
外部記録メディアに保存された動画を利用することができる。1と2はそれぞれ独立して設定することができ、音声の扱いも含めて物理的な映像ソースと同じに利用することができる。 また、動画には再生オプションが用意されているが、それぞれの動画に対して異なる設定を行うことはできない。 -
Images
外部記録メディアに保存されたグラフィックやテロップ、ロゴなどの静止画を利用することができる。静止画は最大10枚まで選択できるが、動画と異なりそれぞれを独立した静止画のソースとして利用できるわけではない。 -
PDF
外部記録メディアに保存されたPDFも利用することができる。複数ページのPDFの場合は専用のコントローラーが表示され、ページ送りや自動ページ送りも可能だ。 -
Live Stream
UltraなどのYoloBoxから配信されたプログラム出力を、同一のアカウントでサインインした他のYoloBoxで映像ソースとして利用したり、あるいは配信する機能である。この機能を利用すれば遠隔地からYoloBoxで配信された内容をスタジオのYoloBoxで中継映像として利用することも簡単だ。 -
NDI HX3
本稿ではNDI HX3の詳細については触れないが、Network Device Interfaceの略であり、米国のNewTekによって開発された映像/音声をネットワークを介して伝送するためのプロトコルで、HX3は従来のNDIよりも少ない帯域でありながらより高品質で低遅延の伝送が可能な規格となる。 Wi-Fiかイーサネットで同一のネットワーク内に限られるとはいえ、UltraがNDI HXの出力をソースとして扱えるようになったのは便利だ。ただし無料版で使えるのは5分まで。無制限に使いたい場合はYoloLivにコンタクトをとりフルバージョンのライセンスを購入する必要がある。
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SRT
SRTはSecure Relieable Transportの略で、データをP2Pで送ることで低遅延で高画質、そして言葉通り信頼性がありセキュリティの高い伝送が可能な映像伝送プロトコルである。 ここでは無料の配信ソフトとして広く利用されているOBSをSRTの配信サーバーとして設定し、Ultra側で映像ソースとして利用するところをお見せしよう。
マルチビュー(Multi Views)
「Multi Views」は2〜3の映像ソースをレイアウトし、一つの映像ソースとして活用するためのものである。例えば、映像や画像の上に他の映像を枠付きで小さく表示するというようなPiP(ピクチャー イン ピクチャー)などは、一般的なハードウエアのスイッチャーのように必要に応じてPiPのみを表示するわけではなく、2つの映像ソースを組み合わせ新たな映像ソースとして作成されるのが特徴だ。
PiP Videoの他、Split View、Side By Side、2 Views-I、2 Views-II、News Layout、3 Views-I、3 Views-II、3 Views-IIIなど全部で9種類のレイアウトが用意されている。代表的なものをいくつかお見せしておく。
機能別メニューに用意された様々な機能を活用する
ネットワークボンディング機能(Network Bonding)
Ultra本体に接続したイーサネット、Wi-Fi、USBモデム×2、通信SIMを複数同時に使用することによって、いずれかの回線の帯域が不足したり不安定になった場合でも他の回線に処理を分散/統合することで高速で帯域を保った途切れにくい通信環境が構築できる機能である。特にUltraには長時間駆動が可能な大容量のバッテリーが搭載されているため、カメラやマイク、そしてUltraがあれば電源や場所の心配なくどこからでも配信できることが大きなセールスポイントにもなっているので、それを支える通信回線においても高画質な配信を可能とする環境を提供することが不可欠というわけだ。ネットワークボンディングに関しては、月額あるいは年額の利用料が必要になるが、屋外での配信が多い方は確実な配信を行うためにも利用されることをお勧めする。
オーバーレイ機能(Overlays)
オーバーレイは表示中の映像ソースにロゴやテロップなどの静止画、カウントダウンタイマーなどを下地となるソースの上に重ねて表示する機能である。Image Overlays、Lower Thirds、Countdown Timer、Titles、Web URL Overlays、Social Overlaysの6種類があり、Image OverlaysとWeb URL Overlays以外は、予めUltraに用意されたテンプレートをカスタマイズして使用する。オーバーレイは複数表示させることができるが、後から表示したものが上位レイヤーとして表示されるため、同時に表示する必要があるものは後から表示するものが下位レイヤーを隠さぬような調整も必要だ。
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Image Overlays
外部記録メディア内のロゴやタイトル、テロップ、自身で作成した素材を使用する場合に利用する。ロゴや生放送中といった静止画を利用する場合は、背景が透明に設定された静止画を用意すればよい。 -
Lower Thirds
テキストや静止画を画面の下部(三分の一)に表示することからLower Thirdsと呼ばれるが、現状では特に位置や大きさに関係なく利用されることが多い。Ultraに用意されたLower Thirdsでは、複数のテンプレートが用意されており、テキスト内容や位置、サイズ、色などの変更を行うことができる。 -
Countdown Timer
番組開始前などにカウントダウンタイマーを表示するためのもの。直前のアップデートでBGMがつけられるようになったらしい。 -
Titles
番組タイトル用のテンプレートだが、正直、使えそうなものは用意されていない。テキストやテンプレートによっては静止画の変更ができるので、取り急ぎ必要な場合などには使えるかもしれない。 -
Web URL Overlays
クラウドサービスのYoloCastに用意された素材や自分で作成してアップロードしておいた素材を利用することができる機能だ。実際に使用する場合は、別途有料のYoloCastのアカウントが必要になる。 -
Social Overlays
SNSなどのアイコンがついたテロップで、アカウント名などのテキストやロゴ画像を変更することができる。
配信プラットフォーム(Platforms)
Platformsでは配信先の設定を行う。予め用意されているのはYouTube、Facebook、Twitchだが、RTMP(s)やSRTも利用できるため配信先に困ることはないだろう。設定したい配信プラットフォームの「LINK」をタップして設定を進めるが、YouTube、Facebook、Twitchに関してはYoloLivとのアカウント連携が必要になる。配信プラットフォームの設定は「Account&Settings」画面から行うこともできる。
配信プラットフォームではSRTも利用できるので紹介しておきたい。SRTの設定方法は先に紹介したRTMPと同じ手順となる。
複数プラットフォームへの同時配信
初期設定では単一の配信プラットフォームにUltraが直接配信を行う「Direct Single-Platform Stream」に設定されており4Kでの配信も可能だが、同じ内容を同時に複数のプラットフォームに対して配信する場合はStreaming ModeをYoloLivのサーバーを利用する「using YoloLiv’s Multi-Streaming Service」に切り替える必要がある。最大解像度は1080pに制限されるものの同時に3箇所までのプラットフォームに対して配信可能となる。解像度の制限が1080pであれば、現状では実質的に問題になることはないだろう。
ゲスト招待(Invite Guests)
Ultraでは簡単な方法で5人までの遠隔地にいる出演者に参加してもらうことができる。
オーディオミキサー(Audio Mixer)
Audio Mixierは接続された映像系ソースの音声とライン/マイク入力の音量バランスを調整することができる。利用する音源のオン/オフや音量を調節、さらには音声と映像を別々に扱う場合につきもののタイミングのズレ(いわゆるリップシンク)を修正するディレイ機能も全てのソースに対応しており、スイッチングされたソースに合わせて音声切り替えができるAFV(Audio Follows Video)機能も搭載している。
Mic InとLine Inには周囲の雑音を軽減できるノイズリダクション機能が用意されているが、音質を調整するイコライザーや過大入力を抑えるリミッターなどは用意されていない。機材は増えてしまうがコンパクトな音声ミキサーがあれば複数のマイクや音源を利用できるし音質などの調整も行えるので一台用意しておくと何かと便利だ。バッテリー駆動できるものならUltraの携帯性を損なうこともないだろう。ちなみにUSB接続のマイクも利用可能だ。
スコアボード機能(Scoreboard)
対戦型スポーツのスコアを表示する機能を内蔵しているので、スポーツ中継を主に行なっている人には大いに活用できるだろう。
オートスイッチング機能(Auto-Switch)
映像ソースを自動的にスイッチングするための機能だ。スイッチングするソースを選択することもソースごとに表示する時間を設定することもできる。表示順に関しても順送り、あるいはランダムでの指定も可能である。ただし、ソースに複数枚からなる静止画やPDFなどが含まれていた場合、ソースに含まれる素材に対してまではコントロールすることはできず、選択中の静止画やページのみがそのスイッチング時の表示対象になる。
コメント表示機能(Comments)
YouTubeやTwitch、Facebookに対して配信する場合、それぞれの配信先に書き込まれた視聴者からのコメントをUltra内に表示することができる。しかも取り上げたいコメントをタップしてプログラム出力に表示することも可能だ。例えば質問コメントなどを受け、取り上げたい質問コメントをプログラム画面に表示しながら回答すれば、途中から視聴した人でも、今何について回答しているのかがわかるというわけだ。コメントの表示スタイルは3種類用意されており、いずれかを選んで表示位置やサイズ、フォントや色など細かく設定することができる。
録画設定(Recording)
Ultraの録画機能は、配信内容と同じプログラム出力はもちろんのこと、接続されたHDMI 1~4までの内容を入力ごとに録画するISO録画に対応した。とはいえ、ISO録画には入力された映像機器の解像度や録画の解像度やフレームレートによって録画可能な組み合わせの上限が決まっている。上限を超えるとアラートが表示されるので、希望する録画ができるよう設定内容を調整する必要がある。録画の保存先は、SDカードあるいはUSBやSSDなどの外部記録メディアを指定することができる。
その他の設定(Settings)
その他の設定には、すでに開設済みで動画の再生に関する設定の「Local Video Switching」「Local Videos Play Mode」の他、一つのカテゴリーに纏められない様々な設定項目が用意されている。
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Video Out Setteings
HDMI OUTの出力内容を切り替えたり、入力用のUSB-Cを出力用に切り替えるための設定が用意されている。表示フレームレートの切り替えや画面の水平反転なども設定可能だ。ここで要注意事項がある。USB-CをWebカメラ出力として利用する際、USB-C to USB-Aケーブルを使用する必要があるということだ。メーカーサポートの話によると、USB-Cが利用できる場合もあるが本来は正しい使い方ではなく「動作しない」というのが正解だそうだ。製品に同梱されるケーブルにもラベルをつけて、誤ってUSB-Cケーブルを利用しないよう対策を行うとのことだった。 -
NDI Out
Ultraの出力を同一ネットワーク内の別の機器にNDIで送信するための設定である。出力するNDIの内容は選択することが可能で、どのような内容で設定されているかは設定項目のNDI Outの隣に赤い囲みで表示されるので一目で確認することができる。
ちなみに、NDI Outについてもソースでの利用と同じく無料版で使えるのは5分まで。無制限に使いたい場合はYoloLivにコンタクトをとりフルバージョンのライセンスを購入する必要がある。 -
Video Source Transitions
スイッチングしたソースの切り替え時の効果や切り替えにかかる時間を設定する。 -
Stream Encoding Settings
配信時のビットレートやフレームレート、ビットレートの制御方法などの設定を行うことができる。エンコード方法には、CBR(Constant bitrate)、CQ(Constant Quality)、VBR(Variable Bitrate)の3種類が用意されているが、YoloLivとしてはCBRが推奨とのことだ。ビデオコーデックにはH.264とH.264に比べて圧縮率が高いH.265を選択することも可能だ。 -
SD Card Management
SDカードの空き容量や保存されたファイルを管理するためのもの。 -
Portable Storage Management
USBメモリやSSDの空き容量や保存されたファイルを管理するためのもの。 -
Streaming Mode
Ultraが直接配信する単一の配信プラットフォームかYoloLivのサービスを利用するサイマル配信かを選択するもの。詳細は別項の「配信プラットフォーム(Platforms)」をご参照願いたい。
Replay Setteings
「Replay Settings」は、プログラムエリアの「REPLAY」をタップして再生されるリプレイ動画の設定を行うところだ。スポーツ番組などでファインプレーをもう一度!的に頻繁に使用される指定した秒数遡って再生できる便利な機能であり「Replay Settings」では遡って録画する時間や再生スピード、再生時の動画音声使用の有無、再生中は再生動画以外の音声をオフに…などリプレイ再生に必要な様々な設定が用意されている。
REPLAY機能の補足
プログラムエリアの「REPLAY」をタップすることにより、指定された時間直前のプログラム出力が一時的にソースとして表示され自動的に再生が始まり、終了と同時にソースエリアから消えてしまうので、すぐに繰り返してもう一度!という要求に応じることができない。しかし、リプレイとして収録された動画は「Replay」という接頭語がついたファイルとして指定した外部記録メディアに保存されてるので、「Local Video」に登録すれば再利用することはできるが、再生速度を含め設定画面内で行った様々な設定は適応されず、他の動画と同様の再生となってしまう。番組中スーパープレーをスローモーションでもう一度見てみましょう!といった演出を行うことはできないのである。ちなみにリプレイ機能はオン/オフできる。内部のキャッシュを使ったり、Ultraへの負荷を軽減するためにもリプレイ再生が必要な配信以外ではオフにすることが推奨されている。
縦画面配信専用の「Vertical Streaming」
Vertical Streamingは、発売中の縦画面配信専用機である同社のInstreamの機能をよりパワーアップしてUltraの中に詰め込んだ縦画面専用の配信機能である。これまでは配信先に応じて横画面配信用のYoloBox Pro、縦画面配信用のInstreamの2機種が必要だったが、これからはUltra一台で縦横画面の配信が可能というわけだ。
Vertical Streamingでは、Live Streamingのようなイベント管理画面はなく、画面左上にある各配信プラットフォームを選択するアプリケーションランチャーの画面が用意されているので配信を行うサービスのアイコンをタップすればよい。Android上でそれらのアプリケーションを利用したときと同じく、配信までの流れはUltraから離れ、それぞれのアプリケーション内の操作に引き継がれる。この辺りの操作に関しては、従来からスマートフォンでInstagramやTikTokに配信している人達にとっては慣れたものだろう。それぞれのアプリケーションで利用するカメラや音声部分を担当するのがUltraというわけだ。
画面や操作に関しては縦画面であることと配信先の設定を行う「Platforms」を除けば、「Live Streaming」とほとんど同じレイアウト、そして操作系だ。「Live Streaming」のプログラムエリアにあった「拡大/縮小」アイコンは画面右下に移動し、InstagramやTicTokなどのアプリケーション画面の「拡大/縮小」アイコンとして機能する。
「Live Streaming」と大きく異なるのは、配信サービスに接続されていない状態では、Ultraだけではプレビューエリアの映像ソースをタップしてもどのような絵として出力されているかの確認ができないことだ。レイヤーを設定した場合は特にそう感じるはずだ。その場合、「Video Out Settings」の「Program Out」をオンにし、UltraのHDMI OUTに外部モニターを接続すれば、外部モニターにプログラム出力が表示されるので、事前にテロップ位置などの確認作業を行うことができる。
横倒しの映像ソースを縦表示に変更
初期状態では映像ソースが横画面のまま表示されてしまうが、カメラ自体を横倒しにして物理的に対応するか、Ultra内でソースに対して回転とクロップによる切り出しを行い対応することもできる。
Instagramに配信してみよう
スマートフォン内での操作と同様、アプリケーションエリアにある「Instagram」アイコンをタップしてInstagramを開く。もしもUltraからのログインが初めての場合、Instagramへの通常の手順でログインすればよい。
Ultraをスイッチャーとして利用する「Monitor Mode」
「Monitor Mode」は「Live Streaming」から配信機能部分を取り除き、タッチ操作可能なスイッチャー兼録画機として利用するためのものであり、他の2つと異なり、アカウントを持たず、サインインしていない状態でも利用することができる。
知っていると便利かも
マウスやキーボードを利用する
BluetoothやUSB接続により、マウスやキーボードが利用できる。小型三脚にUltraを固定している場合、垂直な画面では操作しづらいこともある。マウスを使えば通常のPC用ディスプレイのように操作できるし、タッチスクリーンが反応しなくなった場合でもマウスで作業を続行することができるので万が一のことを考えて、一緒に持ち歩くと役立つことがあるかもしれない。
HDMI接続のカメラ台数を増やしたい
HDMIの入力数が4つでは足りないと感じている皆さん、UltraにはUSB-A×2、USB-C×1があるのでHDMIの映像信号をUSBに変換するキャプチャー機器を利用することでHDMIの映像ソースを3つ増やすことができる。キャプチャー機器は大げさなものでなくてもよく、安価で小さなケーブル変換アダプタータイプのものでも構わない。予算的に負担にならないと思うので、いざという時の入力数不足に備え持っているとよいだろう。
よいと思ったこと、不満に感じたこと
■良いところ
- 熱に強く、1日中電源を落とさず使っても本体は少しだけあったかくなる程度。排熱設計が優れているのか、内蔵ファンが強力なのかの判断はできないが排熱処理は優れているようだ。
- メーカーの対応も良く、頻繁に配布されるアプリケーションのアップデートにより日々進化/改善され続けるところ。
- リファレンスマニュアルに相当する説明書がないので、判断しずらい設定については実際に数パターンテストして設定した値がどこに対してどれほどの影響を及ぼすのかを比較検証したり、推測するしかなかった。
- タッチパネルが反応しなくなったり、反応が鈍くなることがあったので実際の現場で起こることを考えると不安がある。
- 突然全ての処理が固まることがあった。
- 全ての処理が固まったり、勝手に再起動する場合がある。
- 突然Android OS側のUIやダイアログでの操作が必要になるところがあり、Android端末を使ったことがない筆者は戸惑ってしまうことがあった。やむを得ない部分もあるとは思うが、ターンキー・システムとして販売されている本機の性質上、可能な限りUltraのアプリケーション内で完結して欲しいところだ。
■悪いところ
サポート体制について
Ultraは短期間の間に頻繁にソフトウエアのバージョンアップが行われる。好意的に受け取ればサポートがしっかりしていて、ちゃんとユーザーから届いた不具合の修正、改善そして機能追加をしてくれるとなるが、別の見方をすればリリース前に対応しておくべきものであって、テスト不十分のままリリースしているのではないか?と思ってしまうほど基本部分の問題が多々あった。
預かっている間にハードウエアも含めて様々な問題が発生したので、その都度リアルタイムでメーカーとやりとりしていると、その最中に問題点を修正したソフトウエアが公開される…ということが(6日間の間に)3回、2週間程度の期間中、計5回ほどの修正が行われた。ちなみに本機を返却した翌日には、報告していた問題の一つであるキヤノンiVISシリーズのHDMI出力が正しく認識されない件に対応したアップデートが公開されることになった。報告していただけに動作を確認できなかったのは残念だ。
いずれにしても、メーカーに直接伝えればチームで対応してくれるので、おかしい!と思ったら、迷わずコンタクトすることを強くお勧めする。
最後に
Ultraは専用のハードウエアが用意されているとはいえ、アプリケーションが基本となるソフトウエアベースのスイッチャーだ。つまり、スマートフォンやPCと同じくソフトウエアのアップデートにより、全く新しい機能が追加されたり、クオリティが上がったり、UIがガラッと変わってより使いやすいものになるといった可能性を秘めている。というわけで、まだリリースされたばかりのUltraだが、ユーザーからの要望を受けての今後の進化が楽しみだ。もちろん全てにおいて安定性は最優先なので、その点だけは重要視していただきたいと切に願う。
西村俊一|プロフィール
有限会社ファクトリー代表。主に音楽ライブ、トーク番組、セミナーなどのライブストリーミングや収録、制作を行なっている。主な担当番組には、音楽クリエーターの皆さんをゲストに迎え月に一度ニコニコ生放送とYouTubeで配信しているJASRACの広報番組「THE JASRAC SHOW!」がある。