ニコンFMのチェックポイントを解説
実際にカメラを買うときに問題になるのは「入手のしやすさ」と「予算」。その点、機械制御式一眼レフは中古市場に商品が豊富に出回っているし、売値もそれほど高くない。
まず候補に上がるメーカーはニコンとペンタックスだろう。この2社は、電子式カメラが主流になっても機械式カメラをないがしろにしなかったばかりか、AF化の際にレンズマウントを変更しなかった。そのため新旧レンズの互換性が高く、これまでに発売された膨大な数に上るレンズの中から自分の好みにあった1本を選ぶことができる。
それではニコンFMを例に挙げて、買うときの注意を説明しよう。
ニコンFMは、日本光学(現ニコン)が1977年に発売したマニュアル露出専用の中級機だ。シャッターは機械制御による縦走りフォーカルプレン。電池がなくなると露出計は作動しないが、1〜1/1000秒とBのすべてのシャッタースピードが電池なしで利用できるほか、値段も手頃とフィルムカメラ入門に最適な条件をクリア。さらに8角形のカメラ本体に先端が尖ったペンタプリズムを載せたオーソドックスなスタイルが、とても一眼レフらしい、ちなみに昨年登場したミラーレス機ニコンZfcの外観は、このFMシリーズにインスパイアされたものだ。
FMの上下カバーは金属製。金属板をプレス加工してあるのでボディの角が鋭角で、現在の樹脂製ボディでは得られない高級感がある。またFMの外装はクロームとブラックの2種類があるが、なかでもブラックボディは「塗り」と呼ばれるペイント仕上げ。使い込むと角の塗装が剥げて真鍮の下地が現れるなど、自分だけのカメラに育てる楽しみも味わえる。
それから忘れてならないのが、カメラを持ったとき手のひらに伝わる冷たさ。最近の高級デジタルカメラの外カバーはマグネシウム製が主流だが、マグネシウムは熱伝導率が低いので冷たさが感じにくい。カメラの性能には無関係かも知れないが、これは金属製カメラファンにとって看過できない条件だ。このあたりのニュアンスは文章では伝わりにくいので、ぜひ現物を手に取って試して欲しい。
外観について
中古カメラ店に並んでいるカメラは、同じ機種でも売値に大きな差があるが、これは外観の「きれいさ」に因るところが大きい。つまり使い込まれた跡が少なく、新品に近い状態のカメラほど高いということ。だが外観がきれいでも正常に作動するか否かの判断はとても難しいし、逆に外観の状態が悪くても機械のコンディションは良好という場合も。こんな商品は値段が手頃でお買い得だが、さすがに落下による凹みがあったり、使い込まれてボロボロになった商品は避けるべきだろう。
いずれにしても製造から何十年も経たカメラに新品と同じ状態を求めるのは困難で、故障というリスクは常につきまとう。また古いカメラが故障した場合、故障内容によっては修理できないことがあるし、たとえ修理できたとしても高額の修理代を覚悟しなければならない。いちばん安心なのは信頼のおける中古カメラ専門店で買うこと。良心的な店は3〜6ヶ月程度の補償期間を設けているし、買ってから一定期間内に故障した際は返金に応じるシステムなどを採用している。ちなみにオークションサイトに出品されている商品は保証が付かないものも多く、初心者にはあまりお勧めしない。
モルトプレン劣化について
この時代のカメラのフィルム室の遮光にモルトプレン(黒いスポンジ状の素材)が使用されている。モルトプレンは経年変化に弱いことで知られ、加水分解でベトベトになったり弾性が失われて潰れた商品をよく見かける。裏蓋を開けて裏蓋の縁(カメラボディの溝にはまる部分)にモルトプレンの黒い滓が付いていたら要注意だ。またレンズを外した状態でミラーを見ると、ミラー下部が帯状に黒く汚れていることがあるが、これもモルトプレンが原因である。それだけでなく劣化して粉状になったモルトプレンは、フォーカシングスクリーンに付着してファインダーを汚してしまう。
シャッターについて
まず裏蓋を開けシャッター幕の状態を目視でチェック。シャッター幕が曲がっていたり汚れがないかを確認する。シャッタースピードの検査には専用の測定器が必要なので店頭で厳密なチェックはできないが、スローシャッターについては作動音で簡易的な判断ができる。シャッターダイヤルを1〜1/2秒程度にセットしてシャッターを切るとミラーが上がった後にジーッという作動音が聞こえるだろう。このとき音の高さが途中で変わったり途切れたりするのはシャッターが開く時間を制御する歯車(スローガバナー)の油切れが原因だ。
露出計について
ニコンFMはフィルム巻き上げレバーの予備角がシャッターボタンロックと電源スイッチを兼ねていて、レバーを引き出すとロックが解除されると同時に露出計スイッチがオンになる。このときファインダーを覗くと視野の右側にある赤い色のLEDが点灯。絞りあるいはシャッタースピードを調節し、○印のところにLEDを点灯させれば適正露出になる。露出計の厳密なチェックにも専用の測定器が必要だが、正確に作動しているカメラと比較すればある程度の正確さがわかるだろう。
このほかで電池室の確認も重要だ。カメラに電池を入れたまま長期間放置すると電池が液漏れを起こす。このとき漏れた液体は電池室の接点を腐蝕させるだけでなくボディ内の電子回路にダメージを与えることがある。そのため電池室を開け液漏れの跡の有無を確認すること。液漏れによって固着したねじ込み式の蓋などは言語道断だ。
いずれにしても、自分でチェックできることは限られているので、カメラを手に入れたら、すぐにフィルムを入れてテスト撮影をして現像結果を確認。異常があれば、すぐに店に連絡することが大切だ。
中村文夫|プロフィール
1959年生まれ。学習院大学法学部卒業。カメラメーカー勤務を経て1996年にフォトグラファーをして独立。カメラ専門誌やWEB媒体のメカニズム記事執筆を中心に、写真教室など幅広く活躍中。クラシックカメラに関する造詣も深い。