交換レンズの選び方編メイン写真

写真撮影に使うレンズは、カメラのフォーマット(画面サイズ)や用途に合わせて、様々な製品が用意されている。またメーカーや機種ごとに使用できるカメラとの組み合わせが異なるなど、レンズを選ぶ際は気をつけなければならないことがたくさんある。

フォーマットの違い

フィルムを使うカメラのフォーマットは、シートフィルムを使う大判、120/220フィルムを使う中判、135フィルムを使う35mm判のほか、画面サイズの小さいAPSや110などがある。

なかでも、いちばん目にする機会が多いのが35mm判だろう。画面サイズは24×36mm。フィルム幅が35mmの135フィルムを使うことから一般に35mm判と呼ばれ、ライカが世に広めるきっかけを作ったのでライカ判という別名もある。このほか135フィルムを使うフォーマットには24×18mmがあり、35mm判の半分であることからハーフサイズと呼ばれている。ちなみにデジタルカメラの世界では24×36mmのイメージセンサーを35mmフルサイズと呼ぶが、これはハーフサイズとの混同を避けるために誕生した呼び名。ついでに説明すると、デジタルカメラのAPSCサイズもAPSフィルムのフォーマットに由来する。

焦点距離と画角について

35mm判の標準レンズの焦点距離は?と問われれば、ほとんどの人が50mmと答えるだろう。だが、その理由を自信を持って説明できる人は意外と少ないのでは?

一般に、50mmレンズで撮ると自然な遠近感が得られ人間の視覚に近い画像が撮れると言われている。この一方で画面の対角線長を標準レンズの焦点距離とすべきという説もあり、これに従うと43mm前後になってしまう。

試しに50mmの標準レンズを付けた一眼レフのファインダーを覗いてみて欲しい。裸眼に比べると、視野が狭く感じられるだろう。実は人間の視野は50mmの画角より広く、見えている範囲を画面に収めるなら、もっと焦点距離の短いレンズが必要になる。

レンズの焦点距離は、数字が大きいと遠くの被写体が大きく写り画角は狭くなる。これに対し、数字が小さいと被写体が小さく写り画角は広くなる。カメラ用レンズでは前者を望遠レンズ、後者を広角レンズと呼ぶが、その境目となるのが、標準レンズ。つまり標準レンズの「標準」とは、レンズを画角で分類する際の「基準」と解釈すると分かりやすいだろう。

50mmレンズが35mm判の標準レンズとなった経緯には、ライカ判と同様ライカが強く関わっている。すでに説明した通り、ライカは35mmカメラを広く普及させた立役者として有名だが、1925年に発売したライカI型に装着されたレンズは50mmだった。後発メーカーが35mmカメラを発売するにあたりライカに倣った結果、50mmが標準レンズの焦点距離として定着。いわば50mm標準レンズ説は、約100年の間、写真業界で引き継がれてきた慣例と言うべきかも知れない。

Vol.01 ヴィンテージカメラの楽しみ方 レンズの選び方編
ライカI型
ライカが1925年に発売した35mmカメラ。50mmレンズが固定式になっている。コンパクトで高性能なことから、35mmカメラ普及に大きく貢献。後発メーカーの多くがライカに倣って50mmレンズを採用した結果、50mmが標準レンズに

標準レンズの対角線画角は47°

35mm判用の焦点距離50mmの標準レンズの対角線画角は47°前後だが、同じ焦点距離のレンズを画面サイズが違うカメラに組み合わせると違う画角になってしまう。

例えば中判の645判の標準レンズは75mm。35mm判では画面外にはみ出していた像も記録され画角が広くなるので、焦点距離を長くして画角を狭めている。

反対に画面サイズが小さいと画面中央だけが切り取られて画角が狭くなる。例えば画面サイズが13×17mmの110判の標準レンズは24mm。35mm判だと広角扱いになるレンズが標準レンズになる。

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標準レンズの焦点距離は各フォーマットで決められている。
手前左から時計回りに110判用(24mm)、ハーフサイズ(38mm)、35mm判(50mm)、645判(75mm)、4×5シートフィルム(150mm)

※()は焦点距離

クラシックレンズを楽しむためのカメラボディ

35mm一眼レフはメーカーやシリーズごとにレンズマウントの規格が決められている。そのため、それぞれの規格に合うレンズしか装着できない。またマウントアダプターを用意すれば、規格の異なるレンズも使用可能だが、あらゆるレンズが使えるわけではない。さらに一眼レフはレンズとフィルムの間にミラーボックスがあるので制約が多く、実際に使用できるレンズの種類は限られてしまう。

もしフィルム/デジタル一眼レフでレンズを共用したいなら、デジタル化の際にレンズマウントを変更しなかった、キヤノン、ミノルタ(ソニー)、ニコン、ペンタックス(リコー)の製品を選ぶと良いだろう。なかでもニコンとペンタックスは、1980年代中頃に行ったAF化の際、マウントの基本規格を変えなかったので、それ以前の自社製レンズで撮影ができる。またキヤノンが採用するEFマウントはMF時代のFD/FLレンズとの互換性はないが、内径が大きくフランジバックが短いので、マウントアダプターを利用すればニコンFやライカRをはじめ多くの他社製レンズが装着可能。これに対しミノルタが採用するAマウントは、旧タイプのMDマウントレンズは不可。アダプターを介せばM42マウントレンズが使用できるが、交換レンズに対する拡張性は他社ほど高くない。

以上のことから、クラシックレンズを駆使して個性的な写りを楽しむのなら、第一候補はニコンかペンタックス。キヤノン、ミノルタがこれに続く。

   
1959年の誕生以来、ニコンFマウントは基本設計を変更していない。ただしAEやAFなど新しい機能が採用される度にマイナーチェンジが加えられているので、レンズを選ぶ際は所有ボディに対応しているか否かを確認すること。特にMFレンズとデジタル一眼レフの組み合わせは、測光機能などに対する制約が機種ごとに違うので注意が必要だ
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1975年に登場したペンタックスKマウントはニコンFマウントに次ぐ歴史を誇り、現行のデジタル一眼レフにも採用されている。ニコンFマウントに比べ、新旧ボディ間の制約が少なく、フィルム/デジタルの相互乗り入れに向く。またKマウント以前に採用していたねじ込み式のM42マウントレンズも、マウントアダプターKを用意すれば装着できる
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キヤノンのデジタル一眼レフが採用するEFマウントは、1987年のAF化の際に採用されたマウントだ。ボディとレンズのインターフェースは完全電子式だが、マウントの内径が大きくフランジバックも短めなので、マウントアダプターを介して使えるレンズが多い。ニコンF、ペンタックスK、M42、ヤシカ/コンタックス、ライカR、オリンパスOM用などのアダプターが市販されている
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レンズ選びについて

メインで使用するカメラボディが決まったら、いよいよレンズ選びだ。中古レンズの店頭売価は、原則として市場に流通する商品量に反比例する。つまり大量に生産された商品は手頃な値段で手に入る。そんな意味ではニコンFマウントとペンタックスKマウントが群を抜く。またバヨネット式のKマウントに変更するまでペンタックスが採用していたねじ込み式のM42マウントも、ユニバーサルマウントとして多くのカメラメーカーが採用したので手に入りやすい。このほかMF時代の旧製品では、キヤノンFD/FL、オリンパスOM、ミノルタMDレンズなどもよく見かけるが、他社製ボディで使うためのアダプターは、ミラーレスのデジタルカメラ用が基本。デジタル一眼レフ向きではない。なおコンタックス/ヤシカマウントレンズは、マウントアダプターを介してキヤノンEOSデジタルボディに装着できるが、日本にはカール・ツァイス信奉者が多いので値段は高めだ。

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キヤノンFD/FL、オリンパスOM、ミノルタMDマウントは、構造上の関係でアダプターを介して使える一眼レフボディがとても少ない。そのためミラーレス機が登場するまで、中古価格は安めだったが、最近は上昇傾向に転じている
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最初は標準レンズから

1980年代を迎えると光学技術の進歩により安価で高性能のズームレンズが登場。やがて焦点距離50mmを含むズーム比2~3倍の標準ズームが普及すると単焦点の標準レンズの需要は激減する。だがそれまでの長い間、標準レンズは一眼レフボディと一緒に購入されるのが当たり前。売れ筋から外れたとはいえ、過去に販売された本数は膨大な数に上る。また故障したカメラボディは廃棄の運命をたどるが、レンズはボディに比べるとトラブルが少なく、中古品として店頭に並ぶことも多い。

入手のしやすさとコストパフォーマンスの高さに加え、標準レンズには明るいF値というメリットがある。たとえばデジカメとセット販売されるキットレンズの開放F値は28~4程度。これに対し50mmの標準レンズは普及クラスでもF2程度と1~2絞り明るい。そのため被写界深度の浅い表現も思いのまま。さらにAPSCサイズやマイクロフォーサーズなどイメージセンサーサイズの小さなデジカメに装着すれば、大口径中望遠レンズとして利用できる。

F1.2、1.4、1.8、2など、50mm標準レンズには開放F値の違う製品があるが、F1.8~2クラスでもズームレンズとは比べものにならない美しいボケが堪能できる。また予算に余裕があればF1.4もお勧め。開放ではふわっとしていた写りが絞りを絞ることでシャープになるなど、クラシックレンズならではの醍醐味を味わうのに最適だ。

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クラシックレンズ入門には、F1.8~2程度の普及タイプの標準レンズがお勧め。予算に余裕があればF1.4も射程範囲に入る。F1.2クラスの大口径レンズは、値段が高く上級者向けだ
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標準レンズの次に買うレンズ

このほかの焦点距離では、135mmクラスの望遠レンズも流通量が多く、手頃な値段で手に入る。また焦点距離28、35mmの広角レンズは、フルサイズミラーレス機向けの需要が多く、特にF2クラスの大口径レンズは高値安定の状態が続いている。ただし大口径広角レンズは、被写体までの距離が近くないと思ったほど浅い被写界深度は得られない。広角レンズならではのパースペクティブが目的ならクF2.8~3.5クラスで十分だ。

焦点距離24mm以下の超広角レンズは、最近の広角レンズブームの影響で人気上昇中。ただしMFレンズの全盛時代、28mmを下回る焦点距離は特殊レンズ扱いなので高価だった。そのため需要も少なく28、35mmに比べ中古市場に流通する品数は少なめ。稀少品扱いのため、それなりの出費は覚悟すべきだろう。

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中古品の品数の多さでは、中望遠の135mmが他を一歩リード。F2クラスの大口径を除けば、掘り出し物が意外と多い
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28、35mmの広角レンズも、F2.8~3.5クラスなら懐もそれほど傷まない
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F2.8とF2の明るさは1絞りしか違わないが、値段の開きが広い
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焦点距離が24mmを切る超広角レンズは、28mmや35mmに比べると製造本数が少なく値段は高め
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クラシックレンズの買い方

中古カメラ店の店頭には1,000円以下のジャンクから、0の数を指折り数えなければならないコレクターズアイテムまで、夥しい数のレンズが並んでいる。すでに説明した通り、中古レンズの売値は、商品の流通量と希少価値で決まる。要するに製造数が少なくて欲しがる人が多いほど高価になるということ。反対に同じ商品が豊富で、これといったアピールポイントが少ないレンズの売値は安くなる。

資金に余裕があれば、いきなり高価な商品を買う手もあるが、クラシックレンズ入門には、とりあえず手頃な値段の商品から始め、その違いが分かるようになってから次のステップに進むと良いだろう。また商品の売価にはブランド力も大きく関わっている。なかでも有名ブランドの場合、ネットや文献などに多くの情報が出回っていて、特にネットオークションでは、それに便乗して信じられない値段で出品されているケースをよく見かける。これに対し、名もないメーカー製の場合、実は世界初とかアイデア倒れのような製品があり「流通量は少ないけれど、欲しがる人が少ないので値段が安い。」みたいな製品も存在する。めったにあることではないが、こんな掘り出し物に出遭ったときの喜びはひとしおだ。

最後に店頭ですべき商品のチェックについて説明しよう。

レンズに大きなキズが付いているのは論外として、カビが生えているジャンクは避けた方が良いだろう。ある程度、経験を積めば、撮影に影響が出るか?自分で除去できるか否か?の判断が付くようになるが、初心者にはお勧めしない。このほかチェックすべき点は以下通りだ。

  • ヘリコイドを操作してみて、スムースに回転するか否か。途中でスカスカになったり重くなったりするのはグリス切れの証拠。
  • カメラに取付けヘリコイドを無限遠を合わせてピントを確認。店によってはピントチェック用のミラーレス機とマウントアダプターを用意しているが、自分の機材を使う場合はマウントアダプターに注意。精度が低いと正確なピントが確かめられない。
  • 絞りリングを操作して絞り羽根の状態をチェック。羽根に油が付いていると絞りの動きが悪くなる。一眼レフ用の自動絞りレンズの場合は、レンズ後ろ側の絞りレバーを操作して絞り羽根の動きを確認。絞り込みと開放の動作に引っかかりがなく瞬時に羽根が動くか確かめる。

いずれにしても店頭でできるチェックは限られている。やはり、良い買い物をするためには、保証制度がきちんとした店を選ぶことが大切だ。

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クリーニングしても、保管状態が悪いとカビは再度生えることがある。安いからといって、カビの生えたレンズはお勧めしない
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いわゆる「油浸み」と言われる状態のレンズ。レンズの可動部に使われている潤滑油が絞り羽根にまわると、絞りが固着して動かなくなってしまう
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ミラーレス機はフランジバック(マウントのレンズ取付面からイメージセンサーまでの距離)が短いので、マウントアダプターに有利。一眼レフには取付不可能だった多くのレンズで撮影が楽しめる。店頭でレンズをテストするときに便利だが、中国製など激安アダプターのなかには工作精度の低いものがある。多少値が張っても、アダプターは信頼性の高い製品を選びたい
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中村文夫|プロフィール
1959年生まれ。学習院大学法学部卒業。カメラメーカー勤務を経て1996年にフォトグラファーをして独立。カメラ専門誌やWEB媒体のメカニズム記事執筆を中心に、写真教室など幅広く活躍中。クラシックカメラに関する造詣も深い。