クラシックカメラと言えども、電池と無縁の機種はごくわずか。シャッターなどの制御に電池を必要としない機械式カメラでも露出計用に電池を使う製品は意外と多く、電池なしでその性能を100%発揮できるカメラは少数派だ。また旧いカメラでは、使用電池が製造中止になっていることが多く、カメラを選ぶ際は確認が大切だ。
水銀電池は1995年に生産終了。酸化銀電池がこれに代わる
フィルム巻き上げなどに大量の電力を使用するカメラが登場する以前、カメラに使う電池は丸くて薄い形状をしたいわゆるボタン電池と呼ばれるタイプが主流だった。なかでも旧製品の多くが採用する水銀電池は、長期間に渡って安定した電流が得られるうえ安価。カメラ用電池として理想的な特性を備えていたが、1960年代後半になると電極に使用している酸化水銀が環境に与える問題が顕在化。1970年頃から水銀不使用の酸化銀電池を採用するカメラが増え始める。だが当時は水銀電池を使用するカメラの多くが現役で活躍していた時代。水銀電池の製造はしばらく続いたが、日本では1995年に生産が終了。現在にいたる。
このほか、カメラによく使われる水銀電池には、ミノックスEC、ローライ35SEなどが採用する積層型のV27PXなどもある。
すでに説明した通り、日本で酸化銀電池を採用したカメラが登場したのは1970年頃。大雑把な括りだが、1970年代が水銀電池から酸化銀電池への切替時期に当たり、市場にはこれらの電池を使うカメラが混在。そして1980年代を迎えるとほぼ酸化銀電池に切り替わる。
酸化銀電池は有害な物質も含まないばかりか玩具や体温計などカメラ以外の電子機器にも広く利用されている。そのため現在でも需要が多く、おそらく水銀電池のような道を歩むことはないだろう。また酸化銀電池と互換性を持つアルカリ電池も存在するが、これは1980年頃に銀の価格が高騰した際、低価格で供給するために開発されたもの。銀を使わないので値段が安い反面、酸化銀電池に比べると寿命が短い。
酸化銀電池、アルカリ電池とも、カメラを使用しなくても自然放電してしまう。そのため、これらの電池のパッケージには使用期限が明記されていて、電池を買う際は、この点にも注意したい。またカメラを使う頻度が高ければ酸化銀電池。使う機会が少ないのならアルカリ電池を選ぶと経済的だ。
なお水銀電池に比べると、これらの電池は液漏れを起こしにくいが、長期間カメラを使用しないときは、カメラから取り出しておくと良いだろう。
水銀電池使用カメラには電池アダプターで対応
日本で製造が終わった後も、水銀電池は中国などで製造が続いたほか海外では代替電池も登場。以前に比べると扱う店は少なくなったが、代替電池のほうは、まだ販売が続いているようだ。
今、水銀電池を使用するカメラを使うなら、電池アダプターがお勧め。大手量販店や中古カメラ専門店、このほかネットショップで買うことができる。ただし、電池アダプターは意外と高価。もし、これからカメラを買うのなら、4SR44、4LR-44を使う機種がお勧め。電池の心配をすることなく、末永く愛用できる。
そもそも水銀電池と酸化銀電池は外形寸法が違う。さらに水銀電池の電圧は1.35Vで現行の酸化銀電池やアルカリ電池は1.55V。この2点の問題を解決してくれるのが電池アダプターだ。
電池の外形寸法の違いは、そのカメラの電池室に収まる小サイズの電池を選ぶと同時に、電池室の電気接点が電池に接するようにすれば解決できる。電圧差については、使用するカメラによって対策が異なるので、2種類のアダプターを使い分ける。
指針で露出を表示するアナログ式メーターの場合、電池の電圧が違うと大きな表示誤差が生じてしまう。そのためこのようなカメラには電圧を変換する機能を備えたアダプターを使用する。これに対しLEDで露出を表示するカメラの場合、表示誤差は生じにくく、無変換型アダプターで大丈夫だ。ただし機種によっては、バッテリーチェック機能などに支障が出ることがあり、買うときはアダプターメーカーのホームページで確認すると良いだろう。
電池アダプターの製品紹介
リチウム電池を使用するAF一眼レフ、全自動コンパクトカメラは要注意
今後、電池が原因で使えなくなるカメラは、クラシックカメラ以外にもたくさんある。私が心配しているのは、リチウム電池を使用するカメラ。小サイズの電池から一度に大量の電力が取り出せるので、AF一眼レフや全自動コンパクトカメラに広く使われたが、最近は充電式ニッケル水素電池の性能アップに加え、廃棄物が出ないというメリットも後押しし需要は下降気味。常時店頭に在庫している店は少なく値段も高くなった。
なかでも多くのAF一眼レフが採用した2CR5リチウム電池はカメラ以外の用途が少なく、遅からず製造中止の憂き目に合う可能性が。また全自動コンパクトカメラが採用するCR1とCR123Aは、LEDライトなどに使われているのでそれなりの需要はまだあるが、USB充電式LEDライトが増えている現状を考えると安泰とは言いにくい。
なお初期の全自動カメラが採用していたCR-P2も、量販店のウェブショップでは販売が終わるなど、もはや風前の灯。いずれにしても小さな筐体に高容量の代替電池を入れるのは技術的に難しくリチウム電池用アダプターが発売される可能性は低い。今、フィルム入門機として全自動コンパクトカメラの人気が上昇中だが、このような状況を目の当たりにすると、楽観は許されない。
中村文夫|プロフィール
1959年生まれ。学習院大学法学部卒業。カメラメーカー勤務を経て1996年にフォトグラファーをして独立。カメラ専門誌やWEB媒体のメカニズム記事執筆を中心に、写真教室など幅広く活躍中。クラシックカメラに関する造詣も深い。