Hasselblad X2Dというカメラ
簡単にHasselblad X2Dというカメラの説明をすると、中判カメラブランドとして知られるHasselbladの最新モデルということだが、その系譜はX1D、X1D II、そしてX2Dと進化していったミラーレスカメラである。
同ブランドの旗艦モデルHシリーズが生産終了となった今では事実上ブランドの最上位モデルということにもなっている。
筆者はH6D-100cとX1D IIを所有しているが、X2DはPRONEWSのレビュー以外で触れたことはなかった。
今回、レギュラー仕事のビバリーヒルズ映画祭レッドカーペット撮影でX2Dを使いたい旨をPRONEWSに打診したところ、メーカーに掛け合っていただき、ひと月という長期でお借りすることができた。
去年はX1D IIで臨んだが、レッドカーペットのような混沌とした瞬発力が求められる現場には本当に向いていないカメラであった。
手ブレ補正や進化したオートフォーカスなどの魅力的なアップデートでX1D IIとの違いがあり、使ってみたい気持ちがマックスになっていた筆者にとって、X2Dで今年のレッドカーペッドでの撮影は非常に意味のあることであった。
そして、現場で実際に活躍したX2Dの使い心地とX1D IIの違いを報告させていただくのがこの記事の趣旨だ。
映画祭という撮影現場
その現場の正体
ハリウッドの中心地にある映画館チャイニーズシアターで年に1回行われる映画祭がビバリーヒルズフィルムフェスティバル。
筆者はその映画祭の公式カメラマンを今年で4年間務めたことになる。
シアターの一角にレッドカーペットが敷かれ、初日夕方になると近所の有名人たちがぞろぞろとやってくる。
実は主要登場人物はPRにあらかじめ周知されていて、その有名人たちの良いカットを撮影しようと、カメラマン同士のものすごいレースが開戦されてしまう。
映画祭側の人間としては報道関連を優先したほうが良いので、おのずと一歩引く形になるが、それでも現場の混沌とした雰囲気は日常では味わうことのできないレベルである。
こういった混乱は初日のレッドカーペットだけで、2日目以降と授賞式のある最終日は限られた人のみが来場するので、ある程度落ち着いて撮影することが可能である。
このような状況である程度の成果をあげ、その成果をPR用に素早く即日映画祭に戻すというのが我々の主なミッションである。
このワークフローを冷静に考えるとHasselbladは使わないほうが良いような気もするが、結果を見れば一目瞭然、来年25周年を迎える映画祭に少しでも良い写真を残しておきたい気持ちのほうが大きく、毎回少し後悔しながらHasselbladのカメラで撮影している。
1年目はHシステムを持っていって大後悔、それでも2年目もHを持っていってテキトーな感じでこなして、3年目はX1D IIと息子を連れて行って結構ラクができて、4年目になる今年はX2D+息子のライティングサポート。
中判カメラとしては小さなボディ
流石に日本の35フルミラーレスカメラに比べるとかなり大柄ではあるが、日本人の標準的サイズの筆者の手でギリギリ許容範囲といった感じ。
X1D IIとくらべてもX2Dを握った感覚は少し大きくなったなとすぐに分かる感じである。
運搬を考えるとX1D IIと同じと考えていい。
今回はリュックひとつにX1D II、X2D、30mm、45mm、90mm、Profoto B250W一灯を入れてまだスペースが余っていたくらいだ。 1億画素の中判カメラをこの身軽さで持ち歩けるアドバンテージは非常に大きい。
現場には毎日リュックひとつだけで出向いていた。
X2Dのアップデートハイライト
さてX1D IIで結構苦労した去年を思い出しながら、X2Dの進化ポイントを確認していこうと思う。
進化したAF
オートフォーカスフォーカスポイントが117から294へ大きく増えたというのも大きなアドバンテージだが、測定方法がコントラスト検出方式だけのX1D IIに比べ、X2Dでは位相差AFとコントラストAFのハイブリッド方式になったことは非常に大きな変化だ。このアップデートはチートレベルで、もうまったく別のカメラであると言っても良いレベル。
去年の映画祭はX1D IIで撮影していたのは前述の通りだが、今年のフォーカスハズレカットの少ないこと!ほぼ普通のカメラレベルになっていると思う。F値によっては非常に浅くなる中判でこの性能は大変心強い!
さらにX1D IIではコントラストを読み取るために補助ランプがいちいちすごい勢いで光るが、X2Dにそういったことがないのも映画祭のような場では非常にありがたい。
映画祭会期中は毎晩アフターパーティがあって、そのような場にピカピカ光るカメラを持ち込むと嫌がれることもあるからだ
フォーカスポイントの設定もかなりしやすくなった。
右手のちょうど親指あたりに水平に回転するノブがあり、それを一回押し込むことでファインダーから目を離さずにAFポイントを移動できるのも非常にわかりやすく、すぐに慣れる操作だった。
さらには顔認識機能まであって、すっかりいまどきのカメラになっている。
倍になった画素数
X2Dの画素数はついに1億画素となった。表向きにはHシリーズと同じ1億画素ということになっているが、実はH6Dにくらべてセンサーサイズが小さいX2Dのほうが画素数で僅差ではあるが勝っている。
撮影できるピクセルが多いのは正義でしかなく、納品時に大きくトリミングしたくなることが頻繁にある映画祭のような現場ではこの画素数は非常に心強い。
もちろんダウンサイドもあって、RAWデータのファイルサイズは200MB程度と正気とは思えないサイズである。
連写が遅いのも頷ける値だ。
手ブレ補正
これはもう本当に心強かった。映画祭のような現場はとにかく暗い。
ストロボを持ち込んでいるが現場の雰囲気もしっかりと押さえたいとなると光が届かない場所と被写体への光量とのバランスになっていく。
場合によってはシャッタースピードを極端に落としなくなるが、ここで手ブレ補正が効いてくる。
レンズシャッターのハッセルではどのシャッタースピードでも問題なくストロボも使えるので、もう無敵である。
内蔵SSDストレージ
X2Dには内部にSSDがあってSDカードに撮影画像を保存しなくても、その内部SSDにどんどん保存することが可能である。
RAWファイルで1枚200MBにもなる1億画素の膨大な情報量も内部SSDがあるだけで非常に安心である。
プレビューはiPadでPhocus 2を利用していたが、X1D IIではSDカードへいちいちアクセスするのでもたつく場面が多いが、X2Dはそういったことは一切起きない。
映画祭会期5日間、もう撮りっぱなし。SDカードチェンジとか、容量足りないとか一切なし。
ホテルに戻ったらカメラ自体がカードリーダー的な扱いで、その日の収穫をとりあえずコンピューターへ移動、カメラ内部に残ったデータはそのまんま。
進化したダイナミックレンジ
Photons to Photoの計測レポートによると、X1Dのダイナミックレンジは11.98、X2Dでは12.32となっている。全体的に暗くて、それでも極端に明るい部分があるようなシチュエーションで、X2Dの広域ダイナミックレンジがそのパワーを発揮する。
アップデートされた電子ファインダーとチルトするバックスクリーン
電子ファインダーで見る景色があまりに忠実で見やすいので、ファインダー専門だった筆者。バックスクリーンがチルトするのを発見したのは最終日であった…。このチルトはちょっと微妙で、大きく水平方向に傾けるとファインダーのでっぱりが邪魔になってしまうのだ。
非常によくできたメニューのオペレーションはバックスクリーンで常に行っていたが、バックスクリーンを使ってフォーカスや画角を合わせることは1回もなかった。
老眼が進行している筆者にとって、スクリーンで撮影しようとしているイメージを確認するのは困難で、ファインダーの中をのぞいていたほうがイメージがつかみやすい。
映画祭以外でのスナップでは
映画祭プロデューサーの1人、フレデリコ・ラペンダ氏が滞在していた部屋を訪れたときに、地明かりで30mmを使って撮影したカットが上の写真であるが、中判ならではの立体感を感じることができる。
ディテールも含め非常に再現力が高く、手ぶれ補正もあるのでシャッタースピードもそれほど気にしなくて良い。
スナップ用としても非常に優秀なカメラである。
Hasselbladに期待してはいけないこと
そんなオールマイティに思えるX2Dにも期待してはいけないことがある。
そしてそれは、もしかしたらハッセルのどのモデルにも共通で言えることかもしれない。
動画撮影
なんとX2Dには動画機能がない。
しかしそれで良いと思う。正直H6Dの動画、X1D IIの動画は使ったことがないし、Hに至っては確か取り扱いが面倒で仕方がなかった気がする。
つまり記憶がないくらい使っていない。
筆者の場合、動画案件はSONY αで行うことがほとんどで、カジュアルな現場だとiPhoneとリグという体たらくぶりである。
スチルに特化して、余計なものを切り捨てたX2Dの哲学は称賛に値するものである。
連写
連写はしてはいけない。
カラーデプスを16bitに設定すると非常に遅いので、連写しても意味がないのである。14bitに設定すると1枚/3.3秒らしいが、今回の映画祭で連写を試すことはなかった。
筆者は映画祭の公式カメラマンという役割だったが、レッドカーペットには報道やゲッティーイメージーズなどの方々も大勢いて、そういう人たちは最新のキヤノンとかで、ものすごい勢いで連写していく。
そういった場で優先順位の低い我々は正直あまりよい条件は与えられず、どちらかというとVIP的なゲストを条件をある程度整えて撮影するようなイメージである。
ある程度整った条件といっても、他のひとより30センチくらいスペースがあるといったようなレベルだが。
それでも被写体とコミュニケーションはとれるので連写はあまり意味がなく、被写体と息があったらシャッターを切るといったような、スタジオ撮影スタイルがハッセルには向いている。
そんな我々の事情を悟った映画祭PRがWinners Special Portraitと称して、ゆっくり受賞者のみなさんを撮影できる機会を与えてくれた。
撮影場所はハリウッドの中でも歴史のあるホテル「ルーズベルトハリウッド」。
かのクラーク・ゲーブル氏やプリンス氏などが長期滞在していた由緒あるホテルで、ロビーも本来は撮影禁止区域である。
場の雰囲気を残すためにシャッタースピードを落として、場がある程度写るようにして、被写体部分はストロボの光量で調節していった。ひとつ残念だったのは肝心なトロフィーがイマイチ目立っていないところか。
このトロフィーは透明で微妙な角度で表情が激変するのだ。
総評
さて前々から非常に気になっているX2Dを本格的に長期でお借りして色々なことを実感したわけだが、率直に欲しい! というか現代のフォトグラフィーの最適な解はX2Dであるとしか思えない!
いかに正確な情報を伴って瞬間を記録し表現できるか、それが目的ならば35mmセンサーでは心細い。
大きなセンサーが使えるのであれば使うしかない。
であれば中判センサーという選択、その中で小さいボディで取り回しがよく、レンズのセレクションも多いものが良いし、ブレ補正のある中判カメラなんて他にないし、さらにはミラーレスカメラでコンパクトなものは、もはや一択。 つまりX2Dしかないということになる。
結論、フォトグラフィーの正義を求めるのであればX2Dは最適な解答であると思う。中判ははじめてだからX1Dから、というのも忘れてOK。
フォトグラファーであれば即刻X2Dを購入して、日々写真撮影に励むのが正義である。