Air 3からさらに進化
2023年7月に発表されたDJI Air 3から1年の時を経て生まれた後継モデル。DJI社においてAirシリーズはMiniとMavicの中間の位置づけである。
前作Air 3はミドルクラスながら2眼レンズやDJIの新たな伝送方式「O4」、そして全方向障害物検知機能などを搭載。フォーカストラックやクイックショット等のさまざまなインテリジェント機能もあり、初心者からプロまで幅広いユーザー層にとって非常に使いやすいモデルだった。
Air 3がかなり完成度の高い製品だっただけに、後継モデルのAir 3Sでどこがアップデートされたのか、非常に気になっていた。
今回Air 3からAir 3Sではメイン(広角)カメラのセンサーサイズが、過去のMavic Air 2(1/2インチ)からDJI Air 2S(1インチ)への進化と同様に、1/1.3インチ→1インチと大きくなった。
またDJI初の前方LiDARセンサーを搭載し、夜間撮影での全方向障害物検知を実現した。
本記事ではDJI Air 3Sで進化したカメラの性能について検証、新たに追加された前方LiDARセンサーやその他の細かいアップデートについて紹介する。 せっかくなので現在のフラッグシップモデルMavic 3 Proとの比較も交えて紹介していく。
- DJI Air 3S(DJI RC-N3付属):税込150,480円
- DJI Air 3S Fly Moreコンボ(DJI RC-N3付属):税込188,100円
- DJI Air 3S Fly Moreコンボ(DJI RC 2付属):税込209,000円
カメラについて
Air 3SはAir 3と同様に、35mm換算で焦点距離24mmの広角レンズ、焦点距離70mmの中望遠カメラ(3倍対応)の2眼カメラとなっている。 Air 3からの大きなアップデートは以下の通り。
- 広角レンズのセンサーサイズが大型化(1/1.3インチ⇒1インチ)
- ノーマルカラーでも10-bit 4:2:0での記録が可能
- ISO感度上限が1段アップ(ノーマルカラー:6400⇒12800、HLG/D-log M:1600⇒3200)
- 4K/60fps HDRと4K/120fps動画撮影に対応
画質
DJIのプレスリリースによれば、「10-bitとISO感度により画質が向上したAir 3Sのデュアルカメラは、現行のDJI Mavic 3 Proよりもさらに優れたディテールで写真や動画を撮影できる。最大14ストップのダイナミックレンジによる動画撮影に対応しており、高コントラストなシーンを、まるで映画のような高品質映像で撮影できます」と紹介。果たしてどうなのか。メインカメラ(広角)について比較してみる。
ノーマルカラー収録ではAir 3Sは10bit 4:2:0であるのに対し、Mavic 3 Proは8bit 4:2:0となるため、Air 3Sのほうが多くの色情報を収録可能。
実際に早朝に撮影して比較してみたところAir 3Sはコントラストがはっきりしており、暗部のディテールや空の諧調など、確かにMavic 3 Proよりも優れているように感じた。
次に中望遠カメラで比較。こちらも広角と同様にAir 3Sは10bit、Mavic 3 Proは8bit。ただしAir 3SとMavic 3 Proはどちらも同じ1/1.3インチセンサーを搭載している。
こちらもAir 3Sのほうがコントラスト強めでパキっとした画になっている。
広角レンズのセンサーサイズはMavic 3 Pro(マイクロフォーサーズ)より小さいAir 3Sだが、どちらのレンズも優れたディテールで撮れていると感じた。 以上の結果から、センサーサイズによらずきれいな映像を撮れる、DJIの画像処理ソフトウェアの進化を感じることができる。
2眼レンズのメリット
中望遠レンズが追加されたメリットとしては、やはりパララックス(視差効果)による映像表現が可能になるところだろう。ドローン空撮定番の24mm前後の広角レンズでは得られない表現ができるのが面白い。
ぜひ中望遠レンズを使って被写体周りをノーズインサークルしてみて欲しい。Air 3Sなら中望遠レンズでもフォーカストラック機能で手軽にサークルの操縦・撮影が可能なところも初心者に優しい。
前方LiDARセンサー追加
Air 3ではビジョンセンサーと赤外線センサーにより、明るい場所での全方向障害物検知機能が搭載されていたが、今回Air 3SではDJI初の前方向LiDARが追加され、夜間飛行でも全方向障害物検知が可能になった。
これにより夜間のRTH(リターントゥホーム)機能で、帰還高度でもし前方に障害物が現れた場合にLiDARセンサーによる検知、回避が可能になったようだ。今回のレビューでは夜間飛行の許可取得まで至らなかったため性能の評価はできなかったが、夜間飛行の不安を軽減する機能の追加はありがたい。 今後このLiDARセンサーを活用した3Dスキャン機能などの開発が進むことも期待される。
細かいアップデート
オフ状態でクイック転送
クイック転送は最近のDJIドローンに搭載されている機能で、スマホ・タブレットを機体にWifi接続し、撮影データを高速でダウンロードする機能だ。 この機能を使用するためには従来、機体の電源を入れておく必要があった。
しかしなんとAir 3Sは電源オフの状態でもクイック転送ができる。機体の電源を落としてから12時間以内であれば、DJI FLYアプリから機体のスリープを解除し、内部のデータへアクセス可能だ。
筆者もこれまでによく飛行後に機体電源を落としてから、やっぱりこの場でスマホにデータをダウンロードしたい…と電源を入れ直すことがあった。 これはなかなか便利な機能ではないかと思う。
ただ注意点としては、Air 3のバッテリーとの互換性。今回Air 3SはAir 3のバッテリーも使用することができるが、電源オフ状態のクイック転送機能はAir 3Sのバッテリーでしか使えない。
内蔵ストレージ大幅増加
Air 3では8GBであった内蔵ストレージ容量が、今回Air 3Sでは42GBと大幅に増強された。2024年に入ってから発売されたAvata 2、NeoといったDJIドローンがこれまでの製品よりも内蔵ストレージ容量を増加していることから、今後はこういった流れになっていくのだろうと思う。
microSDカードが無くても半日~1日程度の撮影で持たせることができるのが、よくSDカードを忘れて撮影に行ってしまう筆者にとって非常に嬉しいアップデートだ。
DJI RC2へ10bit O4映像伝送
DJIの伝送技術は凄まじく、今回のAir 3Sでは最新のO4伝送技術により最大10km(海外版は20km)の距離で1080p/60fps、10-bitカラーの映像伝送が可能になった。
筆者も最近知ったことだが、Air 3、Mini4Pro、そして今回のAir 3Sに対応するDJI RC2プロポは、RC初代ではできなかったUSB Type-C端子からのHDMI映像出力が可能。
Mavic 3などではDJI RC Proを使わなければHDMI出力できなかったが、廉価モデルのRC2でも可能な点はありがたい。外部出力できるのはクライアントモニターが必要なプロユーザー的にも安心できる点の一つだろう。
また、これならば10bit伝送を使ってワンランク上のライブ配信が可能…?と思いきや、RC 2から出せる映像は現状プロポのミラーリング映像のみだった(RC Proならライブビューのみ出力可能)。
今後RC2でもライブビュー出力機能が解禁されることを期待したい。
Air 3Sがマッチするユーザー
Air 3Sは現在のコンシューマー向け空撮機フラッグシップモデルのMavic 3 Proに肉薄する進化を遂げた。
最近のDJI製品ラインナップを見てみると、Miniシリーズ最新のMini 4 Proはコンパクトさと90°可動ジンバルで縦型動画へ特化。一部海外では規制対象外の249gという利点もある。
Mavicシリーズ最新のMavic 3 Proは3眼レンズ、マイクロフォーサーズセンサーの広角レンズ搭載。またCineモデルではProRes収録、10bit 4:2:2カラー対応。
現在、日本国内では過去のMavic Miniのように航空法規制の対象外となるものはないことから、Miniシリーズは携帯性+ある程度の高画質を求めるユーザー層向け。
どうせ航空法に関する手続きが必要になるのであれば、画質にこだわるユーザーはAirシリーズを選ぶメリットのほうが大きいかもしれない。 今回の検証で、Air 3SはMavic 3 Proの得意分野である画質にかなり近づいている(一部追い抜いている?)と感じた。
それでいて価格的にはMavic 3 Proの半分程度とリーズナブルである。 Air 3Sはこれから空撮に力を入れたい、クオリティにこだわりたいがコストは抑えたい…といったユーザー層にマッチするドローンだと思う。
藤倉昌洋|プロフィール
新潟県在住のドローンオペレーター。株式会社NK2-Tech代表。YouTuber「NANKOTSU」としてドローン初心者向けの情報を中心に配信中。