SNSで動画を発信することが当たり前になった今 機動力のあるラベリアマイクに必要なのは「小ささ」「音質」「耐ノイズ性」「簡単さ」。それらを備えた新マイクの登場だ。
ドローンやジンバルで有名なDJIから新しい無線ラベリアマイクが登場した。DJI Mic Mini(以下、Mic Mini)だ。 マイクのサイズは26.55×26.06×15.96mm(長さ×幅×高さ)で、服につけた時に見えるのはSDカードより小さい、そして、重量10g(取り付けマグネットを含めると14.2g)と付けていることを忘れるほどである。
これに似た製品としてはHollylandのLARK M2があるが、M2に比べると若干ではあるが大きいが、DJI Mic 2よりも約50%小型化、約60%軽量化を実現ということで、非常に機動力が高くなっている。
電波はBluetooth 2.4GHz帯で、利用可能距離は見通し最大で400mと同社のMic2よりも長い。Mic2ですらほとんど電波が途切れることはないので安心して使えるはずだ。
必要な機能に絞り込んだランガン仕様のマイクだ
最近の動画は、撮影中に設定を変えずに動画を撮ることに専念するランガン(Run & Gun)が流行っている。つまり、撮影前に設定した状態で使い続ける仕様だ。ここで重要なのは、撮影中に誤動作せず、簡単に使うことができ、さらに、撮影中の状況の変化に応じて微調整だけはできるということだ。
DJI Mic Miniのレシーバーの操作系は非常にシンプルで、ボタンは「電源」「マイクvol.」「再リンクボタン」の3つしかない。インジケーターLEDは「電源およびモード」「2つの送信機の状態」の3つ。
実際の使い方で説明すれば、充電ケースから取り出して電源を入れるだけとなる。受信機のインジケーターの色や点滅で送受信期の状態を把握することになる。この点については、機能を把握して慣れることが必要となるが、実際の運営ではLEDを見れば状態が一目瞭然となり、撮影中に多用されるノイズリダクションのオンオフは送信機の電源ボタンをクリックするだけで切り替わるという実にシンプルである。
演者の声の大きさやマイクの取り付け位置によって変えたくなるボリュームは+12dB、+6dB、0dB、-6dB、-12dBの5段階で、必要十分だ。LARK M2の3段階に比べるとかなり広い調整域と言え、インタビューから楽器演奏、環境音などさまざまな場面で使えると言える。
スマホ連携で多機能になる
さらに、高度な設定はスマホアプリ「DJI mimo」(iOS、Android)から行う。設定できるのは、ノイズリダンションの強弱2段階、ステレオ・モノラル・セーフティートラック(LRの2ch出力になり、片方が小さな音になる)、カメラの電源と連動して受信機の電源を入り切り、音声のローカット(100Hz以下を軽減)、クリッピングコントロール(レベルオーバーの回避)となる。
ただし、これらの設定を変更するには、受信機をスマホと接続するモードに切り替える必要があり、この間は送信機との接続が切れてしまう。スマホとの接続モードにするには、一旦、受信機の電源を切り、電源ボタンを6秒間長押しして、DJI標準アプリであるDJI MimoでBluetooth接続が必要となる。
この仕様に関しては、撮影の中断が難しい現場では困ることがあるかもしれない。スマホ接続モードではなく、通常モードで変えられるのはボリュームとノイズリダクションのオンオフだけとなる。ノイズリダクションの切り替えは送信機の電源ボタンのタップで行う。
だが、実際の運用という意味では、「ノーマル」モードのノイズリダクションを掛けたまま、クリッピングコントロールをオンにしておけば必要十分なことは事実で、筆者のようにテレビ番組など高度な音圧管理を必要とされない場合には、-12dB程度にピークを抑えて録音しておいて、編集時に編集アプリの高度なラウドネス調整機能(音圧を一定かつ適正にする機能)を使えばよく、それに必要なS/N比と最大音圧を備えている。
簡単に言えば、非常に低ノイズであり、優秀なノイズリダクションとレベルオーバー回避機能(クリップコントロール)があるので、撮影時に微調整する必要すらないのがこの製品の特徴と言える。つまり、マイク任せでいいのだ。
受信機不要、マイクをダイレクトにBluetooth接続。この仕様が本命だろう
Mic Miniの最大の特徴は、受信機を介することなく、スマホやDJI製のカメラに接続できることだ。ただし、対応機種と対応アプリである必要がある。
スマホ接続ではBluetooth接続することで、スマホから外部マイクとして認識でき、スマホの動画アプリや録音アプリで収録可能だ。ただし、iPhoneでは標準のカメラアプリではマイクとしては認識できず、DJIが公表している対応アプリでのみ利用可能だ。
一方、Osmo Action 5 Pro、Osmo Action 4、およびOsmo Pocket 3は、受信機を介さずにダイレクトにカメラと送信機が接続できる。使い方としては、これまでのMic2とほぼ同じで、ノイズリダクションのオンオフなどもカメラからコントロール可能となる。また、バッテリー残量もカメラから確認することができる。
ケーブルレスかつ受信機不要での撮影は、非常に楽だし機動力が高い。
音質は必要十分かつ、扱いやすい音圧になる
さて、実際にレビューしていこう。まず、サイズは十分に小さく軽い。ウインドジャマーも標準で付属しており、ワンタッチで脱着可能で扱いやすかった。しかも、薄い灰色と真っ黒の2種類(合計4つ)が標準で付属しているのは非常にありがたい。LARK M2のウインドジャマーはマイク全体に被せる袋式になっており、現場では取り付けに難儀することもあるのだが、その点ではMic Miniは全く問題ない。
衣服への取り付けは送信機のクリップで行うか、付属の強力なマグネットで衣服の裏から挟んで留めるかが選べる。これはMic2と同じだ。Mic2に比べると1/3くらいの大きさに感じる。ただし、送信機全面にDJIのロゴが大きく描かれており、見た目を気にしなければならない企業向けPR動画(VP)では何らかの方法で隠す必要がある。この点ではM2は着せ替えシールがあり便利だ。
一方のノイズリダクションだが、「強」と「ノーマル」の2つがあり、「強」はDJI Mic2のノイズリダクションと同等と言っていいだろう。背景音にもよるが、ノイズを引いた分だけ音のアタック(立ち上がり)やリリース(音が消えてゆくまで)が不自然になることがある。だが、背景音に負けずに人の声をきちんと切り出してくれるので、使える音質だと評価できる。
「ノーマル」は、普通の部屋のエアコンなどの小さな背景音に効果的な押さえ気味のノイズリダクションになっている。「強」との違いは背景音を引く量だけだろう。通常の室内ではノーマルにしておけば、ほとんど不自然さがない音にしてくれる。
使い分けとしては、ノイズが気になるならノイズリダクションを入れることになるわけだが、普通の室内は「ノーマル」、電車や自動車の中なら「強」にすれば良いだろう。
どちらの設定にせよ、一定の定常的なノイズを検出(学習)して引いてくれる。例えば工場の操業音のような一定の音は効果的に消してくれる一方で、飛行機や自動車の通貨音は、それなりに残してくれる(もちろん、レベルは下がる)。
筆者の場合、ノイズリダクション搭載のプロ用レコーダーを使っているが、SoundDevices社のMixPre-6IIの場合には、1dB単位でノイズの軽減量を調整可能で、背景音の大きさや質に応じて調整する。そこまではできないものの、Mic Miniの2段階でも、かなり音質低下を防げるのでありがたかった。
結論
ケルトンを先に言えば、Mic Miniの音質は実用レベルで悪くはない。スペックでは20Hz〜20000Hzと非常に周波数の幅が広い。
ただし、2.4GHz帯の無線マイク全般に言えることだが、ソニーのUWPなどのプロ用のラベリアマイクと比較すると、どれも若干だが音にクセがある。Mic Miniも同様だ。プロ用の無線マイク(マイク分離タイプ)と比較するべきではないが、筐体が共鳴するのか若干だが独特の音質だった。やや高音が強調されている。もちろん、Vlogや配信番組では問題になることはないだろう。
マイクは無指向性なので、マイクの向きをシビアに調整する必要はない。感度はけっこう高く、カメラ側のボリュームにもよるが、筆者は-6dBにして使っている。また、S/N比が70dBとかなり良いので、鳥の声などの環境音を録るにも十分な性能だと言える。
つまり、ほんの小さな音から、楽器のような大きな音まで綺麗に録音できる広いレンジを持った優秀なマイクだと言っていい。
実際に使ってみているが、スマホで再設定が必要になる場面はノイズリダクションの強さの切り替えが必要な時と、モノラル・ステレオ・セーフティートラックの切り替え時のみだ。スマホとの接続は非常に素早く、ストレスはない。
ただし、電源を入れ直す必要がある。実際にスマホで切り替える場合は、Mic2のようにメニューを出して切り替えるよりもMic Miniをスマホで切り替える方が素早かった。ただし、電源の入り切り時に「プツ!」という電気ノイズが出るので、そこはレコーダーやカメラの入力ボリュームを下げるなど注意したい。なお、ボリューム切り替えが6dB単位なのははとても合理的で、必要な音圧にするのは楽だった。
また、USBでパソコンと繋げばマイクとして機能する。Macの場合は刺すだけで認識された。
まとめ
まとめると、送受信機ともに非常に小さいことも相まって、とても使いやすいマイクだと評価できる。Mic2は収納充電ケースや付属品を持ち歩くと、意外に大きくなるのが難点なのだが、Mic Miniは収納が専用ポーチで、体感的にはMic2のセミハードケースの1/3程度に思える。この点も高評価である。
また、USB端子を持たない送信機には充電Podも別売だが用意されている(受信機はUSB-Cケーブルで充電可能)。こちらを使えば、さらにコンパクトに持ち運ぶことができる。無線マイクは意外に嵩張って荷物が大きくなるのだが、Mic Miniはこれまでにない使い勝手を提供してくれると言えよう。