ちょうど1年前、私はRF 24-105mm F2.8 L IS USM Zがリリースされた時、大きな衝撃を受けた事を強く覚えている。その時、同時期にリリースされたCanon Multi Camera Control アプリケーションの初期インプレッションを承り、様々なやり取りをキヤノン社と行っていた時、そのレンズの登場を知りそのレンズについてもテストさせていただいたのだ。

1年の時を経て、その同一シリーズとなる望遠域のズームレンズ「RF 70-200mm F2.8 L IS USM Z」がリリースされる。今回はじっくりとテストしてほしいということで概ね3週間ほど手元に置く機会を得た。

お題として「RF 70-200mm F2.8 L IS USM Zを1本だけで映像作例を何か作って見せてくれ」「それを通じて得た感想をInter BEE 2024で登壇して1時間程度トークしてくれ」という難題が提示された。少し躊躇したものの、考えてみれば70-200mm 1本だけで映像制作を行ったことは過去の自分にはなく、一つの挑戦とも考えてお受けすることにした。このレンズ1本だけで1時間トークするだけの知見を得ることも、自分自身への挑戦と捉えて向き合ってみた。

そのような背景から、RF 70-200mm F2.8 L IS USM Zで作例を作る、という命題をターゲットにしてディープにインプレッションを行ったので、その記録をここに綴りたいと思う。

なお、このインプレッション記事ではいわゆるスペック比較的なことは最小限にとどめ、実践利用から見えてきたポイントに絞ってインプレッションを行うものである事をご了承いただきたい。

初めに、RF 70-200mm F2.8 L IS USM Z + Cinema EOS C400の機材構成、完全ワンマン撮影・編集のこちらの約4分半のショートドラマ 「ワタシの次のステージ」 をご笑覧いただきたい。特機は使わず三脚だけとし、このお話をいただいてから脚本を書き起こしている。

C400の設定はCanon 709というキヤノン独自のルックとなり、レンズ周りの補正設定は全てオフ、6K-RAW + 4K-XFAVC 60PデュアルRECで収録。6K-RAWは念の為の抑えであり、4K素材できっちり露出や色を決めて撮っている。その素材を撮って出しFCPで4K-30Pで編集したものだ。カラーグレーディングや調整は一切行っていない。

いかがだろうか。70-200mm F2.8 1本でドラマ製作をする上では多くの気づきがあり、個人的にも楽しく打ち込めた気がする。脚本から編集まで実質的に4日だけ。このレンズ1本だけ(エクステンダーは使用)で完結している。その記録の中からRF 70-200mm F2.8 L IS USM Zの魅力を感じ取っていただければと思う。

RF 70-200mm F2.8 L IS USM Zのコンセプトを紐解く

Canon RF マウントの70-200mmレンジにはすでにRF 70-200mm F2.8 L IS USMと、RF 70-200mm F4 L IS USMが存在する。どちらも登場して数年が経過するが、なぜ今一度新モデルを生み出したのか、背景を考えることから始めたいと思う。

既存モデルのRFマウントのF2.8、F4の前には、EFマウントの70-200mmがF2.8、F4共に存在している。そのリニューアルコンセプトは、ショートフランジバックを活かして小型軽量化すること、という明確なコンセプトが存在し、そのレンズの利用用途は明確に「写真」がベースとなっている。ここで賛否両論が巻き起こった訳だが、前玉がズーム操作とともに伸びる仕様だったため、コンパクトに持ち運べることに重きを置くことの代わりに、これまでEFマウント時代の伸び縮みしないインナーズーム機構を捨てたわけだ。

この伸び縮みする仕様の場合持ち運びを小さくコンパクトにするには良いが、映像制作用途で考えると例えばマットボックスを装着などしているとズーミングによるバランス変化など運用上で支障が出ることが多々ある。今でも映像制作現場ではインナーズームのEF 70-200mmが重宝されている事にはそのような背景がある。

RF 70-200mm F2.8 L IS USM Zでは、インナーズーム仕様となりズーム操作での全長変化がなくなり、1110g(三脚座を含まず)という軽量化も果たされている。EFレンズの場合、RFマウント機で運用するにはマウントアダプタが必須となるわけで、システムトータルとしての軽量化は大きな差が生まれてくる。

本体色は白黒の2色展開となり、過去から見れば1989年9月に登場したEF 80-200mm F2.8 L 以来の黒ボディーのF2.8通し望遠ズームである。白に愛着がある人、黒で反射写り込みを避けたい人、どちらのニーズにも対応するのである。

さらに、既存RFマウントモデルでもう1つ賛否を生んだのがエクステンダーの使用不可という仕様だった。ショートフランジバックを活かす設計のため後玉が本体ギリギリまで迫っており、物理的にエクステンダーの装着ができなかった。

今回のRF 70-200mm F2.8 L IS USM Zではエクステンダーが使用可能となった。望遠域ズームレンズとしてRF 100-500mm F4.5-7.1 L IS USMというモデルが別にあり、そのレンズではエクステンダーが装着可能となっていたが、ズーム域が300-500mmに制限されていた。RF 70-200mm F2.8 L IS USM Zではそうした制限もなく、全ズーム領域で問題なくエクステンダーが使用できる。

また、今回の大きな目玉仕様としては映像制作者にとって待望とも言える仕様が追加されている。ハードストップのあるアイリスリングと、サーボモーターの使用が可能になったことだ。つまり、マニュアルでの滑らかな絞り操作が可能となり、別売りのサーボモーターユニットを装着すれば電動ズームワークが出来るのである。電動ズームワークができるということは、ズーム操作によりフォーカスシフトも起こらずフランジバックが取れている事を意味する。この点は映像用途ズームレンズの良き特徴であり、写真と映像のどちらにも適したハイブリッド仕様になっていると言うことができるだろう。

よって私はこのレンズのコンセプトを勝手に「スチールシネマハイブリッドズーム思想」と名付けた。1年前に登場したRF 24-105mm F2.8 L IS USM Zも同様であり、このコンセプトを製品化して出してきたことに大きな感銘を受けたのだった。

なお、RF 24-105mm F2.8 L IS USM ZとRF 70-200mm F2.8 L IS USM Zはボディーサイズ、リング位置が全て同じになっており、レンズを取り替えてもアクセサリー位置が変化しない仕様になっていることも映像製作者にとって取り回しの良さを享受できるポイントになっている。

70-200mmというズームレンジを今一度考える

さて、70-200mm 1本で作例を作らねばならない。ここで私は今一度、70-200mmというズームレンジについて再度しっかりと確認することにした。あまり深く考えることなく、これまで当たり前に使ってきた70-200mmというレンジを再認識することから始めた。

まずは自前のCanon EOS R5にRF 70-200mm F2.8 L IS USM Zを装着し、エクステンダーであるRF 1.4x、RF 2xも一緒に持ち出した。被写体は誰もがわかりやすい東京スカイツリー。それを私の運営する銀座スタジオからほど近い昭和通り銀座歩道橋から手持ちで各焦点距離別で絞り開放で捉えてみた。RAWファイルで4500万画素ある。

この歩道橋は定番のドラマロケ地となっており、ここから見える東京スカイツリーをみた事のある方、撮影した事がある方も少なくないのではないかと思う。

エクステンダーも使えば実に、70mmから400mmまでのレンジがフルに使える。そんな事はわかりきっている事だが、改めて自分の手で実写して確認してみるとそのレンジの幅を体感できる。このRF 70-200mm F2.8 L IS USM Zでは、エクステンダーを使用しても絵の劣化をほぼ感じない事に驚く。EFマウントモデルでは、1.4xは許容内、2xを使うとやや眠くなる実感があったが、RFマウントモデルになるとエクステンダー2xでも積極的に使っていける、そうした実感を得ることができた。これはすごいことだ!

つまりは、RF 70-200mm F2.8 L IS USM Zにおいては、エクステンダーの使用は緊急使用ではなく常用使用として考えて良いレンズだと言えると感じた。ワクワクしてくる自分がいた。

そのまま銀座通りへ歩き、この日は休日ということで歩行者天国になっていた。外国人観光客で賑わっており、椅子でくつろいでいる方にお願いして撮らせていただいた作例がこちら。200mm F2.8 開放だ。髪のふわりとした質感、立体感のある抜けの良さ、ボケの綺麗さを感じる。率直に素直でいい描写をする品のある絵を紡ぐレンズだと思う。

後日に某ロケ出張で北海道へ向かった時、RF 70-200mm F2.8 L IS USM Zとエクステンダーも同行させた。エクステンダーも使って空き時間に撮った写真作例をいくつか提示する。全てCanon EOS R5Cの写真モードでRAW撮影、Adobe Lightroomでのストレート現像だ。

ロケ後に少し足を伸ばして北海道登別の地獄谷を訪れてみた。1.4xエクステンダーを装着しているので、98mm-280mm F4の仕様になっている。落下等事故を避けるため、ここでの撮影途中ではエクステンダーの付け外しは行っていない。

こちらは98mmの引きの縦での作例。4500万画素そのまま載せているので細部まで観察してみてほしい。大地の起伏、その質感が見事に描写され、温泉の噴煙が臨場感を引き立てている。シャープで抜けが良いながらもカリカリな硬さはなく、立体感と質感が同居している。手前角の林のボケ感もザワザワする事なく綺麗だ。エクステンダーが装着されているかどうかは言われなければ分からないレベルの描写だ。

よく観察すると丘の上に、野生の鹿がそっと立っている姿が映っている。絵の周辺部の描写も荒れる事もない。

登別温泉の源泉がここにある訳だが、谷に沿って数多くの湧出口や噴気孔があり、泡を立てて煮えたぎる風景が「鬼の棲む地獄」ということに由来して地獄谷と名付けられたそうだ。せっかくなので橋を歩いて近づいて観察してみる。

280mmのF4解放での作例。岩肌から噴煙が立ち上る様子を捉えてみた。その岩肌の質感描写、その背景との分離、見事な描写だ。もちろん全て手持ち撮影で、R5Cにはボディ内手ぶれ補正がないのでレンズ側のみの手ぶれ補正になるが、それでもしっかりと強力に手ぶれ補正が効いていた。AFは素早く何ら不満は感じない。全体としてのシステム重量が軽量なため手への負担も軽減されているからか、2時間ほど歩き回って手持ち撮影していたが難なく撮影ができた。この機動力の良さも特筆できるのではないかと思った次第だ。

宿に戻り翌日の夕方にスナップした作例。1.4xエクステンダー使用で280mm F4 解放で。お気に入りの1枚になった
こちら200mm F2.8開放での作例。ランプ光源が直で入る環境でもハレーションを起こす事もなく、ランプ傘の金属質感、ピント面からなだらかにボケが広がり、背景とはしっかりと分離。クリーミーな背景ボケが印象的だ
RF 70-200mm F2.8 L IS USM Zは比較的によく寄れるレンズだ。こちらも200mm F2.8開放での逆光を伴う被写体だが、花びらの柔らかいシナっとした質感や薄さがよく表現できている

70mmという画角を考える

最も引きとなる70mmという画角を考えてみる。私の中でのいわゆる標準域画角というのは40mm〜60mm程度のレンジでいつも考えている。落ち着いて景色を見ている時が40mm、やや意思を持って見ている時が50mm、興味を持って見ている時が55〜60mmという具合だ。皆さんの中にもそれぞれの標準があると思うが、ここを起点としてよりワイド、より望遠、という具合で絵作りを考えるようにしている。年々、この基準点をしっかりと捉えることに私は拘りが強くなっている気がする。

そうしてみると、70mmという画角は「しっかり注視して見ている標準画角」だと考えられないか。85mmになるとややファンタジーが働く画角になりポートレートなどで活躍する中望遠域になってくる。しかし70mmであればまだ標準域の延長として考えて良い、という結論に達した(この点、賛否両論があることを自覚の上で)。よって、この70-200mmを1本で作例を作る希望が見えてきたのである。

このレンズで「ドラマ」を撮ってみたい心境になった

70-200mmというレンジをうまく使って「何か映像作例」を製作すると考えた時に、何かドラマを撮ってみたいという衝動がふと湧いてきた。被写体にチカラがあるもので、ジンバルなどの特機に頼らず、シンプルに絵ヂカラで作例を作ってみたいと思った。

映画ではなくドラマとしたのは、24Pのシネマ雰囲気のマジックに左右されず、30P編集とすることでバイアスを省く意味を込めてみた。

今回はNHK朝の連続テレビ小説(朝ドラ)にもご出演の関西在住の役者「有馬唯珂」さんを起用し、一人芝居をしていただく事にした。主人公の感情の機微を捉えることに注力してみた。もうこうなると後戻りはできない。難度が勝手に上がってゆく。

また、有馬さんの魅力が発揮できるよう、脚本は大阪弁で私が書き起こしたもので、脚本内容へのご指摘はご勘弁願いたい(笑)。

映像作例を今一度、上記までの経緯を踏まえて、自分がもし完全ワンマン撮影で芝居もつけながら行うとしたら、と考えながらご笑覧いただきたい。

こちらは撮影風景。基本的に三脚ワークのみで特機類はなし、演者も含めて2名のみのロケ

環境光をなるべく活かした。一部お顔が暗くなるシーンがどうしてもあったため、その時はC400の顔認識AFをONにしカメラはFIXとして、自分でレフ板でお顔を起こしつつズームもするというカットがあった。芝居をつけながらワンマン撮影する場合、カメラが持つAF機能はもはや必須だ。

ちなみにこの記事の趣旨から少し外れるかもしれないが、音声収録においては有馬さんにワイヤレスピンマイクを仕込みC400にてダイレクトに音声収録を行い、ロケの最後に車の中でアフレコ用音声オンリーをZOOM F3とガンマイクで収録した。その素材を使ってFCPで編集しただけである。

また、このロケ当日は天候に恵まれ晴れではあったものの、木枯らし一番が吹いた日でもあり、有馬さんには時に寒さに耐えていただくなどケアが十分に行き届かない中で頑張っていただき、しっかりと本を頭に入れて演じていただけたこと、ここに感謝の意を表したい。

飛行機ショットにおいては、2xエクステンダーを装着しC400のセンサーモードをSuper35モードにして撮影した。つまりフル35mm換算で224-640mmのレンジでのショットだ。被写体は高速で手前に向かってきつつ、そのまま飛び立ち、その後ろ姿を見送るまでをノーカットで被写体フォローして撮る。カメラのAF機能を積極的に使い、サーボズームでのズームワーク、地面から空へカメラを振る事による露出変化はレンズのアイリス環でマニュアルフォローしている。しかも、シナリオの絵の繋がりを考慮して飛行機の機体はJALに絞るなど一発勝負的な撮影をしていた。

芝居シーンにおいても1.4xエクステンダーを使いスローズーム演出もトライしてみた。動き出しのイーズには課題がまだ残るものの、十分に実用に耐えるスローズームができた。

エンド近くで主人公が空を見上げ飛行機が飛び去る締めのシーンでは70mmという標準画角でうまく捉えられるよう、すこし絞って被写界深度を稼ぎつつ、撮影アングルとポジションをじっくりと探った。有馬さんには根気強く丘の上に立っていただき、JAL機のタイミングにも合わせながら粘り強くトライして撮れたカットである。

こちらは今回のセッティング上でのプチポイントを並べたものだが、実にコンパクトな機材構成でロケが成立している。なお、外部モニターとして今回はATOMOS NINJA Vを装着しているが、念の為にAF動作のキャラあり映像を収録するために装着しているだけなので、本編の作例映像にはその素材は関係がないことを補足しておく。また、ベースプレートは使わずテクニカルファーム社のTF PLATE SDVをつけるだけで前後バランスが取れ、ズームワークではLibec社の汎用ズーマーをC400のLANC端子に接続して利用した。

Cinema EOS C400とRF 70-200mm F2.8 L IS USM Zとの相性は抜群で、朝から夕方までワンマン撮影で比較的に丁寧に撮影をこなしたわけだが、機動力もよく何ら問題なく撮影を終えることができた。

レンズ自体は10月中旬に受け取っていたが、映像作例に使用するC400は11月4日に受け取った。そこから作例完成までの流れは上記のように、実質4日間だ。編集作業も別仕事のロケ地のホテルにて、部屋にあったテレビにHDMIでノートPCを繋ぎサッと編集しただけだ。

70-200mm 1本のみで、短期間でショートドラマを製作するという私のチャレンジはこうして終わったのである。実に楽しい時間を過ごすことができた。

総括 〜創造力を開放するズームレンズ〜

いかがだったろうか?11月13日にはInter BEE 2024での登壇トークも終え、私みたいな者が偉そうに蘊蓄を並べて話してしまったわけだが…RF 70-200mm F2.8 L IS USM Zをディープに使用してみて感じることは「写真であれ、映像であれ、思い通りに品のある絵として撮れる事」が最も大きな感想だ。

様々なクリエイターが生まれそれぞれの表現があるわけだが、その創造性に垣根をつくらず、思いのままに望遠域を操ることができるズームレンズというのはなかなかこれまで存在しなかったのではないかと思う。

RF 70-200mm F2.8 L IS USM Zはきっとこれまでの常識を良い意味で飛び越えていくレンズになると私は感じた。