2024年10月に発表されたCanonの新レンズ「RF24mm F1.4 L VCM」「RF50mm F1.4 L VCM」。すでに発売されている同シリーズの「RF35mm F1.4 L VCM」と合わせると定番焦点距離のレンズが3本出揃った。このレンズたちをRec inc.のFilm DirectorであるSHOGO氏に使用してもらい、その特徴や使い勝手について伺った。
普段SHOGO氏は機動力を重視し、ズームレンズメインの機材構成だが、今回単焦点レンズを使用した作品作りの中で、そのメリットや新たな気づきがあったという。
――現在メインで使用しているレンズを教えてください
SHOGO氏:
Canon純正だと「RF24-70 F2.8 L IS USM」「EF70-200mm F2.8 L IS III USM」です。それ以外だとSIGMAの12-24mmが多いですね。
以前はRF15-35mmも使っていたんですが、ボディがS35センサーのEOS C70ということもあって、物件やホテルの室内撮影などでもう少し引きじりが欲しいなと思うことがあり、SIGMAの12-24mm F4も加えて、シーンや状況で使い分けています。
私の撮影スタイルは少ないスタッフで、機動力を活かした撮影が多いので、画角が決まってしまっていて何本も持ち歩かないといけない単焦点レンズは無意識に選択肢から外してしまっていたのですが、Canonさんと以前からお付き合いしている中で、何か作例を撮ってみるのもいいなと思っていたところにタイミングよくこのレンズが発表されたので、自分の中で一つのチャレンジとして引き受けました。
――実際に使用してみた感想はいかがでしたか?
SHOGO氏:
今回使わせていただいたのは、新しく発表された24mmと50mmに加えて、すでに発売されている35mmの3本で、ボディも普段使用しているC70ではなく、フルサイズセンサー搭載のEOS C400を使いました。
撮影する中で特に印象にあるのは、やはり「ボケ」の違いですね。かなり久しぶりに単焦点を使ったせいもあるかと思うのですが、すごく新鮮に見えて、楽しんで撮影していました。ボディがフルサイズセンサーのC400だったというのも良かったですね。
今回の3本の中で一番広角なのが24mmだったんですが、それでもC400に装着して画をみるととても広く感じましたし、絞りもF1.4まで落とせるので、背景と相まって「こんなに被写体が浮き出るのか」と驚きました。
――他の焦点距離はいかがでしたか?
SHOGO氏:
50mmもかなり多用しましたね。人物のバストアップなんかではすごく使い勝手が良かったです。動画ユースだと、開放F1.2だと被写界深度が浅すぎてフォーカスに苦労する印象だったのですが、開放F1.4という設計が絶妙にちょうど良かったですね。
とはいえ、ボディが最新機種のC400でオートフォーカスが抜群に優秀なので、あまりフォーカスに関して心配はしていなかったのですが、レンズ単体としてみてもやはり動画撮影のことをわかっているなと感じました。
逆に今回の撮影では35mmを使う機会があまりなかったのですが、24mmと50mmの間の焦点距離があるという安心感はありましたね。「困った時には35mmがある」という感じです。
それと、これはこのシリーズのコンセプトでもあるんですが、全てが同じサイズで設計されているのも良かったですね。私はミスト系のフィルターをよく使うのですが、全て1サイズで揃えられるのでとても助かります。
あと、私はあまりやらないのですが、ビデオグラファーはジンバルを使う方も多いと思います。そもそも非常に軽いレンズなのでカメラマンの負担が減りますし、レンズ交換した場合でもジンバルのバランスをとり直さなくてよいというのは、それだけでかなりの効率化だと思います。
――今回使用したレンズとC400の相性はどうでしたか?
SHOGO氏:
C400自体もコンパクトでバランスの良いカメラなので、このレンズを装着した時の前後バランスはとてもしっくりきました。ジンバルに載せたいというリクエストにも問題なく対応できる組み合わせだと思います。
描写に関しては、コントラストバッチリでシャープなキレッキレのレンズではなく、ハイライトとシャドーのバランスが良くて、どちらかというと柔らかい画を出してくれるレンズだなという印象でした。
今回はCanon Log 2で撮影したんですが、ボディもレンズも同じメーカー製なので、当然と言えば当然ですが、やはり相性がすごくいいと思いますね。
ちなみに、今回の作例は、私が一人で撮影しました。照明や音声なども入れずに、あえてワンマンで、単焦点レンズでどこまでできるかという挑戦でもありました。キッチンやプールのシーンなどは、正直もう少し明かりが欲しいなと思ったのですが、C400で搭載された3段階のBase ISOと、F1.4というレンズの明るさを両方活かすことで問題なく撮影できました。
今後も色々なレンズが出てくるとは思いますが、現時点では今回使用した単焦点のVCMシリーズとC400はベストマッチだと思います。
――撮影スタイルの点では何か違いや発見はありましたか?
SHOGO氏:
まず機材の量ですが、これは「違い」というよりも、いつもと同じだったという話なんですが、単焦点レンズ3本ということで、機材の物量が増えるのではないかと思われるかもしれませんが、今回のレンズに関して言えばとても軽量、コンパクトな設計だったので、実際現場に持っていく機材の量や重さは変わりませんでした。
撮影のスタイルという意味では、「構図を意識して撮影した」という点ですね。普段ズームレンズメインで撮影しているカメラマンあるあるかもしれませんが、ズームレンズの時は一番引いた画角と、一番寄った画角のmm数は意識していても、その間のmm数を意識することはあまりありませんでした。
一方で単焦点の場合は、当然ズームができないわけですから、レンズのmm数を頭に置きながら、カメラをどの位置で構えるとイメージ通りの画角になるとか、その場合被写体をどの位置に立てれば良いかなど、そのカットだけでなく全体の構成などもより明確にイメージして撮影しました。正確にはイメージしたことを思い出しながら撮影したという方が正しいですかね。あとは頭の中のイメージとモニターに映る映像を比べて微調整するだけなので、とてもテンポ良く、楽しんで撮影していました。
画角の決まった数本のレンズで、構図を意識して撮影することで、画の統一感とか、作品全体の統一感が出るなというのを改めて実感しました。
――ズームレンズで撮影するよりも手間が掛かったということですか?
SHOGO氏:
まあ、手間と言えば手間なんですが、このイメージを思い出してからは、むしろカメラのポジション決めなんかは、ズームレンズの時よりも早かったと思います。
ズームレンズだと、背景をもう少しボカしたいなと思って、少し下がってズームで寄るという調整をしたこともありましたが、単焦点の場合は画角が決まっていますし、今回のレンズはボケ感も統一されていたので、自分が近づくのか下がるのか、レンズを変えるのか、どう切り取るのかといった決断は早かったです。
手間かそうでないかではなく、こうしたズームレンズとの違いを理解して、最良の選択をしていくことが大切だと思います。
楽をしようと思えば妥協点はいくらでもありますが、自分のイメージや、演者さん、クライアントさんの想いと向き合った時に、本当にそこで妥協して良いのか、これがベストな構図なのかとか、どんな優れたレンズとボディを使っていても「楽か、そうでないか」で決めてしまっては当然クオリティは上がらないですし、何より撮影していても楽しくないですよね。
――現在は24mm、35mm、50mmの3本構成ですが、追加されたら嬉しい焦点距離はありますか?
SHOGO氏:
ズームレンズの時は、かなりマクロの画角から一気に広角に引くという撮り方を結構するので、このシリーズにも寄り側は85mm、引き側は15mmなどがあったら、より撮影の幅が広がると思いますね。
――改めて、今回撮影された作例を振り返っていかがですか?
SHOGO氏:
繰り返しになりますが、普段自分が作る感じのルックとは全く違う、ボケ感も含めてズームレンズでは作れない作品に仕上がったと思っています。自分の作品なんですが、何か新しいスタイルが見つかった気がして、新鮮な気持ちです。
――SHOGOさんのようにズームレンズをメインで使っている方へ、このレンズの魅力を伝えるならどんなところですか?
SHOGO氏:
まず、ズームレンズなら1本でカバーできていたレンジが、3本に分かれることで機材の物量を気にしている方は安心して欲しいですね。実際、今回の撮影でも普段使っているペリカンケース1個で全て持ち運べましたし、3本とはいえ、このシリーズのレンズはとても軽く作られているので重さも大きくは変わりません。
描写とか映像的な面では、なんといってもやはり、ズームレンズでは表現できないボケ感が出せるというところですね。撮り手が「見せたい」と思うものにフォーカスする力は圧倒的だと実感しました。
構図を追求していく楽しさだったり、新しい表現・作風に挑戦してみたい方には特におすすめしたいですね。
SHOGO / Film Director
1995年神奈川県出身。
20歳で旅と映像に魅了され、大学在学中にフリーランスのビデオグラファーとして旅動画メディア"Filmwalkr"のメンバーに加入し活動開始。
その1年後、WEBメディア"TABI LABO"を中心に活動。旅や自然系の映像を中心にSNS・Web広告の監督/撮影/編集をこなし、人物・風景・モノなど様々なシーンを魅力的に映し出す。国内外の政府観光や大手企業のプロモーション映像も手掛ける注目の映像ディレクター。
2019年、映像制作会社"株式会社REC"を設立すると同時に撮影着アパレルブランド"REC JAPAN"を創設。2023年、ウェディングフィルムブランド"ellaWEDDING FILM"を創設。