日本の老舗音響機器メーカーTEAC(ティアック)が展開する、プロフェッショナルおよびクリエイター向けの音響ブランド「TASCAM」。今回は、テレビ番組や映画などで使う最新レコーダー「FR-AV4」の魅力と能力を開発者に根掘り葉掘りインタビューした。

左から、ファームウェア開発2課の阪口昇吾氏、ハードウェア開発1課の岡裕彦氏、同課の松本祥悟氏
ティアックの本社事業所にお邪魔し、お話を伺ってきた

常に先駆者として製品を登場させているTASCAM。カメラ下部に取り付けるDR-60Dなどユーザー目線だ

TASCAMのフィールドレコーダーと聞くと、何を思い浮かべるだろうか? 三脚とカメラの間に設置できるよう、本体の上下に三脚ネジを配置するなど、レコーダーの世界にワンマンオペレーションのスタイルを登場させた先駆的な2013年発売のDR-60Dを思い浮かべるクリエイターがいるのではないだろうか。

それまでのプロの映像では、レコーダーは音声マン(や映画録音部)が操作し、ケーブルでカメラへ音声を戻すシステムが当たり前だった。DR-60Dはレコーダーをカメラの下部に取り付けられるように設計されており、ワンマンオペレーションの現場に変革をもたらした。その後は他社もカメラに取り付けられる仕様の製品が増え、現在に至っている。

筆者がもっともよく使ったのはDR-10Xで、インタビューマイクや電源内蔵のショットガンマイク(ゼンハイザーMKE600など)をダイレクトに接続できるXLR端子を備えた小型レコーダー(重要わずか56g)だ。単4形電池1本で10時間も動作し、非常に高音質だ。同じタイプにDR-10Lというラベリアマイクの付属した小型レコーダーもあり、現在のような安価な無線マイクが登場する前には、多くの制作会社が無線マイクの代わりに導入していた。

つまり、TASCAMは、常に時代を先取りして、ユーザーが必要とする製品とは何かを探り、製品化してくれてきたメーカーブランドなのだ。

FR-AV4の便利さと高音質。ある意味で欲しい機能が全部載せ!

さて、今回はTEAC本社にお邪魔して、最新レコーダーFR-AV4の開発に携わった開発者に筆者が気になる点をインタビューした。

インタビューの前に、FR-AV4について簡単に解説しよう。

プロフェッショナルな道具としての凝縮感と、直感的な操作性の両立している
4チャンネル機としてはフラットなデザインで、カメラリグやバッグに収まりが良いサイズを実現している

まず、基本的な仕様だが、32bitフロート録音ができる4系統のXLR/TRSコンボ入力を備えた4chレコーダーで、3.5mmステレオ端子は補助入力やタイムコード用途などに対応している。また、3.5mmの音声入力とTC入力は、それぞれ独立した専用端子になっている。

特徴は、新たにブラッシュアップされた高性能なマイクプリアンプ「TASCAM Ultra HDDA」である。実際に映画録音技師の筆者が試した感想としては、通常の視聴環境ではノイズがほぼ聞こえないレベルの高いS/N比を持っており、特に映画で必要とされる微細な音の録音で大きな役割を発揮できる。

Ultra HDDAマイクプリアンプは、以前よりTASCAMのオーディオインターフェースなどに搭載されている高音質のマイクプリアンプである。ポータブルレコーダーには、あまり採用されることがなかったが、FR-AV2、FR-AV4に搭載し、より高音質な録音を実現している。

中身が詰まった凝縮感を感じる

筆者は現在、ZOOM社のF6やF8n、Sound Devices社のMixPre-6IIを使っているが、ノイズ性能に関してFR-AV4はF6とほぼ同じスペックを持つ。実際に使ってみた感じでは、FR-AV4はどこまでゲインを上げてもクリアな音質というイメージだった。

項目 TASCAM FR-AV4 ZOOM F6
S/N比性能(EIN) -127dBu以下 -127dBu以下(A-weighted)
ダイナミックレンジ 133dB以上 (非公表だが同等のデュアルAD性能)
入力数 4ch(XLR/TRSコンボ) 6ch(XLRのみ)
量子化ビット数 32bit float / 24bit 32bit float / 24bit
サンプリング周波数 最大192kHz 最大192kHz
タイムコード HDMI Sync対応 / TC入出力
TC同期対応(別途BluetoothアダプターAK-BT2が必要)
TC入出力のみ
サイズ・重量 184×42×130mm / 756g 100×63×120mm / 520g

どちらの製品も32bitフロートによるデュアルADコンバーター、新たにブラッシュアップされたマイクプリアンプと同じわけだが、実はデュアルADコンバーターもマイクプリアンプも、ノイズ性能だけでなく、音質を大きく左右するため、チューニングは職人芸とも言われている。

この点について、開発責任者の岡さんに伺った。

Q:FR-AV4を使って最初に気付いたのは、非常に音が素直で、味付けのない原音通りの録音ができるということなのですが?

A:開発のコンセプトとして、どれだけ原音に忠実に録音できるかを大切にしています。小さな音でも大きな音でも、つまり、どのボリュームであっても原音を変えない忠実な録音ができるように開発しました。

技術的な解説をすると、小さな音用と大きな音用の、ゲインの異なる2つのマイクプリアンプが搭載されている。実は、この2つのアンプの設計は非常に難しい。

単にゲイン(音の増幅率)が違うわけではない。特に小さな音を録音する場合にはアンプの自己ノイズが問題になる。単に大きなゲインにすると自己ノイズも増幅されてしまうのだ。そこで超低ノイズなアンプの開発が必要になる。では、小さな音用の高性能アンプを開発して、大きな音の時には同じ設計のアンプでゲインを下げて使えばいいのではないかということになるが、実は単に増幅率を変えるだけだと周波数特性が変わってしまう。つまり、小さな音用アンプと大きな音用アンプは別々の設計が必要になり、しかも、ぴったり同じ周波数特性を持たせるのはかなり難しい。

さらに、デュアルADコンバーターというのは、大きな音のデータと小さな音のデータをそれぞれ作る仕組みで、そのデータをどのように繋ぎ合わせるかが職人技で、測定器だけでなく、人間の耳で聴きながら、ちょうど良い繋ぎ合わせ方が必要だ。この辺りは各社が特許も持っているくらいで、企業秘密の1つとも言える。

実際、前に挙げたSound Devices社のMixPreシリーズやその上位のレコーダーは、マイクプリアンプや32bitの貼り付けで音の味付けが行われているようで、原音からは離れるが映画などでは好まれている。一方、FR-AV4は原音への忠実さをポリシーに開発されている。いずれにせよ、超高音質な劇場映画に使うレコーダーとしてはFR-AV4は必要十分な性能を備えていると言える。

ハードウェア開発1課の岡氏

他社と一線を隔てるTASCAMの使いやすさ。ワンマンオペレーションへのこだわりはこれだ!

基本性能においては、超高音質な劇場用サウンドを録音するに十分なFR-AV4なのだが、この製品の特長は使い勝手にもあると言える。結論を言えば、他社に比べて拡張性(複数台のFR-AV4を数珠繋ぎで連動させられるなど)、自動録音(カメラに連動して録音が行われる)など、多彩な機能が搭載されている。他社にも類似機能は存在するが、ワンマンオペレーションでの安定性や一体感という点では、FR-AV4は完成度が高いと感じられた。

Q:カメラとの連動、複数台のカスケード接続について教えてください。

A:まず、有線接続ですがカメラのHDMI端子でFR-AV4を繋ぐと、カメラの録画のオンオフに連動してFR-AV4の録音もオンオフされます。ワンマンオペレーション時にカメラを操作するだけでいいということです。

32bitフロート録音なので、録音レベルを気にすることなく映像に集中できる環境を提供しています。HDMIはスルーアウトがあるので、外部モニターも併用していただけます。

ちなみに、この機能はかなり便利だ。実はMixPre-6IIにもHDMI連動機能が搭載されているが、うまくいった試しがない。その点、FR-AV4は安定して動作してくれた。

A:このHDMI接続は、FR-AV4のカスケード接続(数珠繋ぎ)にも対応しています。FR-AV4は4ch入力ですが、もっとチャンネル数が欲しい場合にはHDMIケーブルでFR-AV4を繋いでいただけば、接続した台数だけチャンネル数が増やせます。

さらに、単に録音のオンオフが連動するだけではなく、カメラのタイムコードを読み取って音声ファイルに記録するので、編集時のタイムライン同期が簡単になります。これはカスケード接続した複数のFR-AV4でも同じタイムコードが記録されます。

ハードウェア開発1課の松本氏

Q:タイムコード接続について、詳しく教えてください。

A:FR-AV4のタイムコード同期は、考え得る様々な使い方に対応させました。映画などでは、複数のカメラなどでタイムコード同期を行うわけですが、全てのカメラと音声レコーダーなどが同じタイムコードで連動する必要があります。現在のミラーレスカメラでは、外部タイムコードの入力を備えているものと持っていないものがありますが、そういった機材が混在していてもFR-AV4を使うことによってタイムコード接続が可能になります。

現在使われているタイムコード接続は、Blutooth接続(主にUltraSyncシリーズ)、HDMI接続、有線TC接続、USB接続、そしてカメラの音声信号にTCを送る音声タイムコードがあります。FR-AV4では、Blutooth接続はオプションAK-BT2で同期が可能です。

有線のTC入出力について解説を加えると、TCは国際基準があり、信号レベルやフレームレートなどが決められている。この基準に準拠した機器であればメーカーを問わず接続可能だ。また、TCはマスターとクライアントという概念がある。マスターとは「親」で、接続する機器へTC信号を送る側となる。クライアントは「子」で、マスターのTC信号を受け取って映像や音声ファイルに記録する。つまり、TCを使う現場では1つのマスターと、複数のクライアントという構成になる。

簡単に言い直すと、撮影現場には1つのマスターを用意して、他の機器はすべてクライアントにする。

他社のレコーダーを使った場合、外部機器としてTCマスターを用意する必要がある。具体的にはDeity社のTC-1やTentacleSyncなどである。ところが、FR-AV4の場合、メインカメラをTCマスターにしてHDMIからTCを受信する。FR-AV4はカメラHDMIのTC信号をJAM同期して、そのTC信号を出力することが可能だ(TC出力端子へ出る)。もしくは、音声信号として他のカメラのマイク端子へ送ることもできる。

もちろん、FR-AV4をTCマスターとして、他のカメラなどへ送ることも可能だ。

今や、タイムコード同期が当たり前になってきているが、実際には専用機器を購入しなければならないし、同期が難しいなとの問題点がある。その点、FR-AV4があれば用意するべきTC機器を減らし、シンプルなシステム構成が可能になる。

スマホ連動で使い勝手が飛躍的に向上。接続機器の同時録音がスムーズに

さて、TASCAM製品の特徴としてスマホ連動の快適さがある。他社製品でもスマホ連動は当たり前なのだが、意外と機能が限られており、レベルの観測くらいにしか使われていないことも多い。

ファームウェア開発2課の阪口氏

その点、TASCAMはどうか?

Q:スマホ連動の特徴を教えてください。

A:弊社ではTASCAM RECORDER CONNECTというアプリを用意しています。iPhone, iPad, Androidに対応しています。

FR-AV4だけでなく、小型なラベリアレコーダーのDR-10L Proや2chフィールドレコーダーFR-AV2など複数のレコーダーを混在させても、最大5台まで一元管理できます。

特徴 TASCAM(RECORDER CONNECT) ZOOM(各コントロールアプリ) Sound Devices(SD-Remote)
対応機種の混在 ◎ 可能
FR-AV4、FR-AV2、DR-10L Proを同時操作)
△ 難しい
(F6とF3とF2-BTはアプリが別々であることが多い)
○ 同一シリーズなら可
(MixPreや8-Seriesなど)
同時接続台数 最大5台 機種による(基本は1対1接続が多い) 複数台可能
UIのわかりやすさ ◎ 初心者向け
シンプルで一覧性が高い
○ 普通
ハードウェアの画面を模倣したデザインが多い
◎ プロ向け
非常に詳細だが、情報は多い
導入コスト 安い
本体が比較的安価+BTアダプター(以下、2種類)
・FR-AV4、FR-AV2用
AK-BT2:ティアックストア参考価格:税込9,900円
・DR-10L Pro用
AK-BT1:ティアックストア参考価格:税込5,038円
普通
本体+BTアダプター(BTA-1)
高い
本体価格が高い
最大の強み 「ワンマン撮影」に特化
種類の違う機材をまとめて管理できる点が唯一無二
「個別の制御」
単体のリモコンとしては機能十分
「メタデータ入力」
シーン名やテイク管理など、映画制作ワークフローに強い

A:複数の機材をタイムコード同期させながら運用することを前提にしています。ですから、アプリ上では、接続されている機器の状態はもちろん、ゲイン調整や録音状態の監視、また、全ての機器の録音の開始、停止も一括して行うことが可能です。さらに、Bluetooth接続のTCの状態も監視できるので、撮影現場でよく起こる1台だけタイムコードがズレてしまった、というような事故を防ぐことができます。

レコーダー業界でもスマホ連動は進んでいるが、前述したが、実際には「帯に短し襷に長し」、使いにくいものが多かった。特に複数機器の連動というのができる製品がほぼなかった。

ここにきてTASCAMのレコーダーシリーズは1つのアプリでほぼ完璧にコントロールできるようになった。筆者の私見だが、このアプリのためにTASCAMのレコーダーを導入してもいいのではないかと思う。

まとめ

TASCAM FR-AV4は、ビデオグラファーなどワンマンオペレーションでこそ威力を発揮するレコーダーだと言える。カメラと三脚の間に設置でき、HDMIケーブルで録音が連動するなど、カメラマンの負担を大きく軽減してくれる。また、同社の他の小型レコーダーともBluetooth接続で連動動作してくれるし、柔軟なタイムコード同期も魅力だ。

それに加えて、音が非常に素直で美しい。メニューも非常にわかりやすく、スマホアプリも使い勝手が良かった。ワンオペ時代のレコーダーと称して良いだろう。

WRITER PROFILE

桜風涼(渡辺健一)

桜風涼(渡辺健一)

録音技師・テクニカルライター。元週刊誌記者から、現在は映画の録音やMAを生業。撮影や録音技術をわかりやすく解説。近著は「録音ハンドブック(玄光社)」。ペンネームに桜風涼も。