HOLLYLANDから新たな無線映像伝送システムPyro Ultraシリーズが発表された。
日本国内において同社の無線映像伝送システムの最後の発表が2023年秋の モニター一体型の Mars M1 Enhanced だったので、実に3年ぶりの新製品だ。トランスミッター単体としては、Mars 4K の 2022年9月以来となる。
実は、海外では Marsシリーズの後継となるPyroシリーズが既に登場していたのだが、日本では恐らく技適の問題もあって未発売だった。
今回発表されたPyro Ultraシリーズは2機種。4K 60pの無線伝送に対応したPyro Ultra(送信機/受信機)と7インチの液晶モニターを搭載したPyro 7 Ultraだ。
ブロードキャストモード
Pyro Ultraシリーズの最大の特徴は「ブロードキャストモード」と言われる、接続数"無制限"の接続システム。従来であれば、1つの送信機(TX)に対して、受信機(RX)の数は、同時接続できる数に上限があったが、Pyro UltraではRXは無制限になるモードが用意された。
つまりカメラ1台の映像を、何台ものモニターで確認できる環境を現場に構築できる。
ディレクター、クライアント、出演者、照明、フォーカスプラー、メイク…などなど、現場でモニターを見たい人間は結構多い。今までは、受信機数の制限からモニター2台ぐらいを皆で見たり、有線で映像を伝送したりしていたのだが、Pyro Ultraシリーズの「ブロードキャストモード」を使えば、受信圏内であればモニターの数や場所を制限せずに設置可能になる。
ただし「ブロードキャストモード」には制限もある。まず、伝送距離が 最大約700m ほどになる。接続数に制限のあるノンブロードキャストモードが約1.5kmであるので、伝送距離が半分ほどになる。もうひとつが、アプリでの接続―つまりスマホやタブレットでのモニタリングは行えなくなる。
伝送距離の制限は、スタジオでの撮影などを想定すれば気にする必要が無いぐらい十分な伝送距離を確保していると言える。
アプリに非対応になるのは、正直残念。モニターの数だけRXを用意する必要があるため、コストが掛かることになる。専用の受信機との間で通信することで安定した「ブロードキャストモード」が実現しているのかも知れない。
Pyro Ultra仕様
さて、最初にインパクトの大きい「ブロードキャストモード」の説明を行ったが、ここからはPyro Ultraの基本スペックを見ていこう。
最大伝送距離は約1.5km。4K 60pの伝送に対応。送受信器ともにHDMI端子とSDI端子を備える。
入出力ビデオ型式はHDMI利用で最大4K(3840×2160)59.94p/60p。SDI入力時は1080 60pが最大となり、1080 59.94iにも対応する。ただし出力時は60pに変換される模様。
低遅延伝送の「フォーカスモード」を備え、遅延時間20msを謳う。詳細に見ると遅延時間は解像度とフレームレートによって異なり、1080p25/30:≧20ms、1080p60:≧40ms、4K60で:≧45msとなっている。
伝送周波数は、5GHz帯と2.4GHz帯。Marsシリーズでは5GHzのみの仕様だったので、2.4Ghz帯も利用するのがPyroシリーズの特徴でもある。
電源は外部からのDC給電に対応するのはもちろん、バッテリーでの動作も可能。対応するバッテリーは送信機と受信機で異なる。まず、送信機ではLバッテリーが利用可能。一方で受信機はVマウントバッテリー対応となった。
消費電力は、送信機で11W(ノンブロードキャストモード)/14W(ブロードキャストモード)。受信機で7Wである。消費電力を考えると送信機に大容量のVマウントを使いたいところだが、送信機をカメラにマウントする使い方が主になることを考えると、Lバッテリー利用は現実的な仕様だ。一方で、受信機7Wであれば、100Wh前後のVマウントバッテリー1本で1日もちそうだ。
送信機側のバッテリー残量はカメラマンが小まめに把握できるが、受信機側はディレクターやクライアントに任せっきりになってしまう場合もあるので、長時間もってくれるVマウントが利用できるのはありがたい。
なお、送受信器の本体重量は320g。大きさは、124.5×80×34.9mmとなっている。従来のMars 4Kと比べると一回り大きくなり、重量も100g弱増えている。
Pyro 7 Ultra仕様
Pyro 7 Ultraは、モニター一体型のワイヤレス映像伝送システム。モニターは解像度1920×1200pix、7.02インチのタッチスクリーン対応。最大輝度は1500nits。
Pyro 7 Ultraは送信機にも受信機にもなり、カメラと直接繋いでカメラモニターとして利用しつつ送信機として利用したり、他のPyro Ultra機器から送られている伝送映像の受信機としても使える。SDカードへH.264で録画できる機能も搭載する。
入出力フォーマットに関してはPyro Ultraと共通で、最大4K 60pに対応。最大伝送距離は1kmとなっている。仕様書にはブロードキャストモードとノンブロードキャストモードでの伝送距離差は書かれていない。旧型のPyro 7はブロードキャストモード利用時に約400mが約200mへと短縮されていたが、新型のPyro 7 Ultraではそのような表記は見当たらない。この点に関してはメーカーから詳細な回答は返ってきていない。
遅延時間もフォーカスモードを使うことで20msという超低遅延を実現している。上述のとおり、ブロードキャストモードも搭載し、無制限の接続が可能。
入出力端子は、HDMIとSDI端子を搭載。送信機モードの際、各OUT端子はループ端子として機能するほか、クロスコンバート出力にも対応。SDI入力した映像を HDMI端子で出力したり、その逆なども可能となるため、撮影現場で柔軟な接続プランを立てられる。
モニタリング機能も充実しており、波形/ベクトルスコープ/ヒストグラム/ゼブラ/フォルスカラー/ミラー/アナモフィック/アスペクト/グリッド/ピーキングなどなど、モニタリングで必要な機能はほぼほぼ搭載されている。もちろんLUTにも対応しておりUSBメモリ経由でカスタムLUTのインポートなども行える。
注目は、カメラコントロール機能の搭載。Pyro 7 Ultraの画面から直接カメラを制御できるようになる。こちらは対応機種がHOLLYLANDから発表されている。残念ながら筆者は対応するカメラを所有していないため、こちらの機能の確認はできなかった。
各カメラメーカーの公式SDKを使って、シャッタースピード/絞り/ISO/ホワイトバランスなどの調整が可能なほかタッチフォーカスに対応するモデルもあるようだ。
対応はSony、Canon、Nikon、ARRIの一部のモデルとなっているが、具体的な対応機種が明記されているのは、私が確認できた限りではSONY製カメラのFX3やα7シリーズの一部だけだった。
Pyro 7 Ultraの送信機モードでも受信機モードでも利用可能であり、送信機モードならカメラマンがモニター代わりにPyro 7 Ultraを使いながらカメラコントロール&映像伝送が行え、受信機モードなら離れた場所にいるスタッフがカメラの機能を調整する事ができる、という訳だ。
この機能、かなり有用だとおもわれるので、どんどん対応機種やメーカーを増やしてほしい。
使用感
さて、実際の使用感だ。実は今回のレビュー執筆の依頼以前から、この Pyro Ultraシリーズは何度も現場で使わせてもらっている。
使い勝手や画質の良さ、そして接続安定性などから、安心して現場で使える機材だと評価しており、HOLLYLAND JAPANさんから何度かデモ機をお借りして自分の撮影現場で使用している。
伝送距離
この手の無線伝送システムで一番気になるのは、伝送距離だろう。メーカーのスペックでは1kmとか書かれていても、それは条件が良い場合の話。本当の現場はワイヤレスのためだけに環境を整えるのは難しかったりする。
そこで、実際の現場でのオペレートを想定したセッティングで伝送距離テストを行っている。
Pyro Ultraの送信機をミラーレス一眼カメラに装着し、受信機はモニターへ接続。ミラーレスカメラは撮影するときの自然な高さである顔の高さ程度で持ち、モニターは人間の目の高さぐらいに設置している。送受信機の地面からの高さは約1.5mぐらいだろう。
その状態で、カメラ+送信機を持った筆者が受信機に背中を向けて、受信ポイントから離れていくという方法で伝送距離をテストしている。
なお、テストはノンブロードキャストモードで行っている。
さて、Pyro Ultraのノンブロードキャストモードでの伝送距離は仕様上は1.5kmだが果たして…。
結果は約500mまでは、ほぼ途切れることなく安定して伝送できた。仕様の1/3か…と思うかも知れないが、これは優秀な結果だと思う。送受信機の設置環境を何も工夫せずに、これだけ確実に伝送できるのだから、あとは受信機を高い位置に設置するなど工夫すれば、伝送状態は一気に改善される。
実際、送受信機に高低差を付けて、伝送環境を工夫すると伝送距離が伸びることも確認できた。
このテストでは何メートルも高さを上げることはできなかったが、それでも約950mぐらいまでは映像の伝送が行えた。
なお、ブロードキャストモードだと約350mまで、上述の条件で安定した伝送が確認できている。
伝送安定性
さて伝送距離も大切だが、それ以上に業務において大切なのが “途切れないかどうか” だ。
これを伝送安定性と呼ぶことにしよう。どれだけ長距離を伝送できても、接続がしょっちゅう切れたり、不安定になってしまうようでは現場での実用性がなくなってしまう。
正直、従来のHOLLYLAND製品はこの点は弱いかな…と思っていた。そのため、人が多い場所や、外来の電波の影響を受けそうな屋外では、あまり使わない選択をしてきた。しかしPyro Ultraシリーズは、その印象を覆してくれた。
テストを行ったのは、大阪観光の中心地とも言える道頓堀。ここは観光客や買い物客がひっきりなしに往来しているザ・人混みである。テストは伝送距離テストと同じセッティングで行っている。つまり、送受信機のアンテナは群衆の頭の高さを越えていない、かなり過酷な条件だ。
まずは従来機の HOLLYLAND Mars 4K を使ってテストをしてみた。
結果は予想通り。10mも離れないうちからノイズが出始め、離れれば離れるほどノイズが盛大になり、コマ落ちやフリーズも発生。60mほど離れると完全に映像がフリーズしてしまい、テスト終了。Mars 4Kはこういった環境で使う機材ではないことが改めて確認できた。
さて本命のPyro Ultraはどうだろうか?
同じ条件で道頓堀でテスト。結果は目を疑うものだった。とにかく安定している。人混みの中を掻き分け掻き分け65mほど撮影ながら歩いたが、一度も途切れず、ノイズも出ず、コマ落ちもしなかった。カメラは胸の高さで構えていたので、送信機のアンテナの高さは1.3mぐらいだろう。
伝送された画質も綺麗で、「あ、この機材、音楽ライブの会場練り歩きワイヤレスカメラに使いたい…!」と思わせてくれた瞬間だった。
また、昨年のInterBEE 2025でHOLLYLANDブースでセミナー登壇させていただいた際は、Pyro Ultraの伝送の実力を見ていただくためにHOLLYLANDのスタッフさんと協力してInterBEE会場を練り歩きデモンストレーションを実施。人混みどころか、見通しですらない状態になっても、伝送映像が安定して手元のモニターに届いており、セミナーに参加してくださったお客さんからは感嘆の声が上がっていた。
これらテストの結果を受けて、その後、例えばオーケストラ演奏会の撮影で Pyro Ultra を組み込んだ収録環境を構築している。
無人のリハーサルでは伝送できたが、客が入った後の本番環境では伝送できないかも知れない…という不安とは無縁で、全幅の信頼を置いて現場に投入できる機材になった。
この伝送安定性の進化は、HOLLYLAND独自のTWiFiという技術が貢献していそうだ。TWiFi(Twin-WiFi)は、2.4GHz帯と5GHz帯の両方を同期したデュアルパスを用い、電波が混在する環境で自動周波数ホッピングを行う事で電波環境の少ないチャンネルに切り替える仕組みだそうだ。
DFS
一点、注意してほしいのは伝送安定性とDFSは別の話であるということ。
DFS(Dynamic Frequency Selection/動的周波数選択)は、気象レーダーなどとの周波数共用のために、レーダー波を検知したら自動でチャネルを変更・停止する機能。
レーダー波を検知した場合は、その周波数は使用できなくなるため、電波が停止され CAC(Channel Availability Check:チャンネル可用性チェック)が実行される。CACは1分程度かかるため、その1分間は映像伝送が停止することになる。
日本国内で5GHz帯を使用する電波機器には基本的にはDFSの実装が必要で、これを無効にして使用する事はできない。ただし、5GHz帯であっても周波数によって条件が異なっており、W53・W56と言われる帯域ではDFSは屋内外問わず必須、W52は屋内使用に限りDFS無しでの運用が可能だ。
そのため屋外ではDFSを無効にして使用することは難しいが、屋内に限ればDFSの働かないチャンネルを選択して使用することは可能だ。
Pyro Ultraの電波のチャンネルはCH1~CH13が用意されているが、それぞれのチャンネルの周波数帯域は明示されていない。ただし、CH1~CH8がDFS無し。CH9~CH13がDFS有りになっているため、それらを参考にして使い分けることはできる。
屋外や半屋外、窓を開けている状況などではDFSは絶対に必要なので、CH9~CH13を設定し、アリーナやホールなど、完全な屋内であればCH1~CH8が使えるということだろう。
このあたり日本の電波法は厳しいので、メーカーが場面別の使用チャンネルの参考例を明示してくれるとありがたい。
あと、DFSや伝送安定性とは関係ない話だが、Pyro Ultraシリーズは、送受信機の設置距離が近すぎると接続できない可能性がある。電源を入れても送受信機双方が認識されず、伝送が行われない場合は、設置距離が近すぎる場合がある。最低でも1mぐらいは離した方がよさそうだ。
Pyro 7 Ultra
Pyro 7 Ultraは伝送距離や伝送安定性の個別のテストは行っていないが、実際の撮影現場では、問題なく実力を発揮してくれている。特に画面が美しく、ディレクターやクライアントにも好印象。
モニターに表示される2種類の色の違いを定量化する測定基準の Delta E値 1.5未満というプロ向けモニターに必要とされる精度を満たしており、デジタルシネマ向けの広い色空間(色域)の規格 DCI-P3は95%、Rec.709は99%をカバー。屋外でも十分な視認性を保てる輝度1500nitsの液晶パネルを搭載している。
パネル自体も工場出荷時に各個体のキャリブレーションを実施。またオプションの「Hollyland Color Calibrator」を接続して、再キャリブレーションも可能となっている。
7インチだと、ディレクターに見せるモニターとしては丁度良い大きさで、またVマウントバッテリーで長時間駆動させられるため、ワイヤレス伝送機能を別としても「モニター」として欲しい製品だ。
実は、Pyro Ultraは、伝送機能を無効にする設定がある。トランスミッターモード(送信機モード)の時に、メニューの[System]から[Wireless]を無効にすると、伝送系がカットされ純粋なモニターとして機能する。無線系がオフになるため消費電力も抑えられる。この[Wireless]オフは Mars M1 Enhanced にも搭載されているので、画質やハンドリングが気に入ってモニターとして使いたい場合に重宝する。
録画機能は、SDカードへの録画に対応。録画を開始すると画面外周に赤い枠が表示され、録画中であることが明示される。1080 60pで収録されるのを確認できた。
録画は送信機モードでも受信機モードでも利用可能で、カメラをケーブルで繋いでレコーダーとして使用する事もできるし、伝送されてきた映像を録画することもできる。
スライドバーによるシークもスムーズで、ループ再生や逆再生も行える。もちろん音声も同時に記録されている。
ただし、制限もいろいろと確認できた。Pyro 7 Ultraでは、録画時間の上限に関しては明示されていないが、1クリップあたり9分が上限で、自動的に録画クリップが分割されるが録画は継続された。テストした限りでは、トータルの録画時間やクリップ数で制限が掛かることもなかった。一応、ノンリニア編集ソフトに録画したクリップを読み込んだところ、クリップの境目はシームレスに繋がっていた。ただし、フレームレートが59.000fpsとなっているため、編集に使う本素材としては想定しない方が良いだろう。
また録画中はモニタリングの機能が制限され、設定メニューを出したり、ピーキングやヒストグラム、波形/ベクトルスコープなどのON/OFFができなくなってしまう。録画前に有効にしたモニタリング機能は録画中も表示される。
一方で、再生中の映像に対してはピーキングやゼブラなどのモニタリング機能は働かない。また、イヤホン音量の調整もメニューからしかできず、再生中はメニューにアクセスできないので、再生を止めて、メニューを開いて音量を調整して、また再生して、音量がしっくりこなければまた再生を止めて…となるので、かなり迂遠なことになる。録画中も同様だ。これらは録画・再生機能が使いづらくなってしまう制限なので、ぜひ録画中でもモニタリング機能やイヤホン音量は操作できるように改善してほしい。
まとめ
HOLLYLAND Pyro Ultraシリーズ。欲しい…。
とにかく伝送安定性が良く、その伝送されてくる画質も高い。従来のMarsシリーズなどとは互換性がなく、新たにPyroシリーズでシステムを組むことが必須となってしまうが、ブロードキャストモードの利用や Pyro 7 Ultraのクロスコンバート機能など、柔軟で拡張性のある伝送システムを構築できるのは魅力的だ。
Pyro 7 Ultraや受信機にはVマウントバッテリーを採用してくれたのも現実的で、結果として現場のバッテリー管理が楽になるのでありがたい。
導入するにあたり、考えなければならない点があるとすれば、Pyro Ultra送信機のカメラへの装着の仕方だろうか。Mars 4Kでは本体側面に1/4インチネジを持ってこられるアタッチメントが付属していたが、Pyro Ultraは本体底面に1/4インチネジ穴が1つあるのみだ。
本体サイズもMars 4Kよりも一回り大きいため、どのようにカメラに取り付けるかは工夫がいるなと感じている。取り付けのハンドリングを良くするためにも、Pyro Ultra向けのケージやリグが欲しいところだ。
無線伝送した動画は、自分自身よりもディレクターやクライアントが見ることが多いため、「なんか画質が悪いけど大丈夫?」とか「映像途切れたいけど、カメラは回ってる?」とか心配されないのは精神衛生上も重要だ。
さらにモニタリングだけではなく、ワイヤレスカメラとして本番の本線でも使える画質と安定性をもたらしてくれるPyro Ultraシリーズの性能は是非とも活かしていきたいところだ。
Pyro Ultraシリーズから、更に豊富なモニターラインナップや送受信機セットが登場することを楽しみにしている。
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