荒川大貴|プロフィール
株式会社白川プロ 取締役。NHKの番組編集を中心に映像制作に携わり、番組開発や新番組の立ち上げにも編集の立場から関わる。DaVinci Resolve認定トレーナー。近年は番組編集に加え、放送をはじめとする映像制作の現場で、新しい制作環境への移行サポートやワークフロー設計、技術共有にも取り組む。編集者として実際の制作現場に立ちながら、新しい技術をどのように現場へ取り入れていくかを模索している。
映像編集ソフトを評価するとき、新しく追加された機能やAI、エフェクトに目が向きがちである。DaVinci Resolve 21も例外ではない。AIを活用した機能をはじめ、編集作業を支援するさまざまな新機能が追加されている。
しかし、日々テレビ番組のオフライン編集を行っている筆者にとって、DaVinci Resolveのエディットページで最も大きな価値を感じているのは、個々の新機能ではない。それは、編集者の思考を止めずに使い続けられることだ。
筆者は主にテレビ番組の編集を担当している。2024年頃から、ある放送局においてDaVinci Resolveを番組編集へ導入する動きが本格化し、その初期段階から実際の番組制作にDaVinci Resolveを使用してきた。
テレビ番組、とりわけ日本の番組編集は決して単純ではない。多数のテロップ、ワイプ、マルチ画面、複雑なレイヤー構成などが組み合わさり、番組の完成が近づくほどタイムラインは巨大になる。さらに、長尺の番組となれば編集期間としても数カ月にわたってくる。そうした環境で使い続けてきて感じるのは、「この機能があるから便利」という一点ではなく、編集作業そのものを安心して任せられるソフトになっているということだ。
DaVinci Resolve 21ではAIを活用した機能もさらに充実した。しかし、テレビ番組の編集現場から見れば、それ以上に重要なのは、編集者が考えたことをすぐタイムラインへ反映し、試し、違えば戻し、別の案を試せることにある。このレスポンスの良さと安定感こそ、筆者がDaVinci Resolveのエディットページに感じている大きな魅力である。
(※放送局内や外部の編集室では、システム全体の動作検証や周辺機器との互換性、保守・運用上の理由などから、PCや編集ソフトを常に最新の状態へ更新できるとは限らない。そのため、使用するバージョンや環境によって編集ソフトの操作感に差が出ることもある。筆者がDaVinci Resolveを使用している環境では比較的新しいバージョンを利用できていることも、快適に感じている要因の一つだと思う。)
テレビ番組編集へのDaVinci Resolve導入から始まった
筆者がDaVinci Resolveを本格的に使い始めたのは2024年頃である。それ以前にもカラーページなどを触る機会はあったが、本格的に番組一本をDaVinci Resolveで編集するようになったのは、ある放送局で編集環境をDaVinci Resolveへ移行していく動きが始まったことがきっかけだった。
当時は、DaVinci Resolveを使って実際にテレビ番組を編集するとどうなるのか、現場側にも十分な実績が蓄積されていなかった。そこで筆者がテストも兼ねて実際の番組編集を担当することになった。
日本のテレビ番組には独特の編集スタイルがある。カットをつないで終わりではなく、多数のテロップやワイプを重ね、画面を分割し、複数の映像を同時に見せることも珍しくない。完成間際には多数の映像やグラフィックが積み上がり、タイムラインのトラック数も増えていく。そのような複雑な番組をDaVinci Resolveで最後まで編集できるのか。当初は、筆者自身にも未知数な部分があった。
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しかし実際に運用してみると、想像していた以上に問題なく編集を進めることができた。その経験が一つの実績となり、その後は「DaVinci Resolveで初めて番組を編集するので担当してほしい」という相談を受ける機会も増えた。現在では単に編集作業を担当するだけではなく、DaVinci Resolveへ移行する際のワークフローや環境構築について相談を受けることも多い。
そこで頻繁に聞かれるのが、「本当に番組編集で使えるのか」「今までの編集環境から移行して大丈夫なのか」という質問である。実際に移行を検討する編集者が最も気にしているのは、派手な新機能より、日々の編集を安心して続けられるかどうかなのである。
一番驚いたのは「立ち上げて、すぐ編集できる」こと
DaVinci Resolveを使い始めて最初に驚いたのは、エディットページのレスポンスと安定性だった。筆者が以前使用していた編集環境では、プロジェクトが大きくなってくると、ソフトを立ち上げてタイムラインが安定するまで時間がかかることがあった。特に番組の完成が近づき、トラック数が増え、さまざまな要素が積み重なった状態では、その傾向が強くなる。
仮にソフトがクラッシュしてしまえば、再び立ち上げ、プロジェクトを開き、安定して操作できるところまで待たなければならない。場合によっては、それだけでかなりの時間を使っていた。
一方、DaVinci Resolveでは筆者の環境において、アプリケーションを立ち上げ、プロジェクトを開けば、すぐタイムラインへ戻れるという印象が非常に強い。
これは単なる起動時間の話ではない。オフライン編集において重要なのは、編集者が頭の中で考えていることを、どれだけ途切れずに画面へ反映できるかである。
「このカットを先に持ってきたらどうなるだろう」「ここを少し短くしたらテンポが良くなるのではないか」「この二つのシーンを入れ替えた方が伝わりやすいかもしれない」。番組編集では、このような判断を繰り返していく。
そこでソフト側の反応を待つ時間が長くなると、一度途切れた思考をもう一度元の状態へ戻す必要がある。DaVinci Resolveでは、思いついたことをその場ですぐ試し、結果を見て違えば戻し、別の案を試せる。
映像編集は、正解の決まった作業ではない。シーンを大きく入れ替えて構成を変更したり、カットを入れ替えたり、少し短くしたり、別の素材を置いてみたりしながら、最も良い形を探していく。その過程で、編集ソフトが操作に対して素早く反応してくれることは重要である。
以前使用していた環境では、プロジェクトが重くなるほど、一つ一つの操作を慎重に行わなければならない場面もあった。そうした状態では、無意識のうちに編集者側もソフトに合わせた操作になっていく。
DaVinci Resolveを使うようになってから、その感覚が大きく変わった。「あ、こうしたら面白いかもしれない」と思った瞬間にカットを動かし、結果を確認できる。この基本操作をストレスなく繰り返せることが、結果として映像の完成度につながっていく。DaVinci Resolveを使い始めたとき、「編集ってこんなに自由に試してよかったんだ」と改めて感じた。編集の楽しさを再認識させてくれたソフトでもある。編集期間の中盤までは、「DaVinci Resolveで本当に最後までいけるのか」ということを、どこかで気にしながら作業していた。
しかし、編集が後半に入る頃には、そのこと自体をほとんど考えなくなっていた。
それよりも、「あー!編集って面白いな!」「DaVinci Resolveなら、これまで常識とされていたやり方も、もっと違うやり方ができるのではないか」と考えるようになっていた。
気づけば関心は、「使えるか」から「どう使いこなすか」へ移っていた。
DaVinci Resolve 21のAIは「毎回使う機能」ではなくても安心材料になる
DaVinci Resolve 21では、AIを利用したさまざまな支援機能が追加されている。筆者がテレビ番組を編集する環境では、AIで生成・加工された素材を放送でどのように扱うかについて慎重な検討が必要になる。そのため、新しい機能が追加されたからといって、すぐすべてを実際の番組制作で使用できるわけではない。
一方で、DaVinci Resolve 21を先行して試す中で興味深く感じていることがある。それは、AI機能を必ずしも毎回使用しなくても、「必要になれば使える」ということ自体が安心材料になる点だ。
例えば、インテリサーチという機能は、メディアプールの映像を解析し、大量の素材の中から特定の内容を含むカットを探すことができる。「夜のカットをもう少し入れたい」となったとき、素材を最初からすべて見直すのではなく、AIを活用して条件に合う素材を探せる。
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このAI処理というのもDaVinci Resolveではインターネットに接続の必要がなく全てローカルで処理をするという点が、セキュリティを重視する放送局としては流出や学習に使われる心配をすることなく安心して使える設計思想なのが頼もしい。
もちろん、通常の編集作業で毎回この機能を使うわけではない。自分で素材の場所を把握しているのであれば、そのままビンから選んだ方が速い場合もある。しかし、「どうしても見つからなければ、この機能を使えば探せる」という選択肢があること自体に価値がある。
編集作業ではプレビュー(試写)を重ねていくと予想していなかった問題が起きる。想定外の別のカットが必要になる、急に構成が変更される。そんなとき、「最悪の場合、この機能が助けてくれるかもしれない」と思える。DaVinci Resolve 21のAI機能には、効率化のための道具というだけでなく、編集者の横で並走してくれるような安心感がある。それが長期間にわたるオフライン編集では大事なお守りになるというわけだ。
もちろん最終的にはタイムラインのトラックも整理していくが、オフライン編集の途中では、試行錯誤を重ねるほどどうしてもトラック数が積み上がっていく。
DaVinci Resolve 21では、トラックの高さをかなり縮めた状態でもトランジションが表示されるようになった。従来はある程度トラックを広げなければ確認できなかったため、多数のトラックを一覧しながら編集する場面では、こうした小さな改善が意外と効いてくる。
また、表示オプションには「Display Clip Name」が追加され、必要に応じてクリップ名を非表示にできるようになった。大量のクリップやトラックが複雑に積み上がったタイムラインでは、表示される情報そのものがノイズになることもある。必要な情報だけを残し、タイムライン全体を見渡しやすくできる。
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こうした機能は、AIのように大きく紹介されるものではない。しかし、毎日長時間タイムラインと向き合う編集者にとっては、むしろこうした細かなアップデートの積み重ねがありがたい。実際に編集する人がどのように画面を見て、どこにストレスを感じるのかまで考えられている。そこも、筆者がDaVinci Resolveを気に入っている理由の一つだ。
複雑なテレビ番組でもエディットページは「おまけ」ではなかった
DaVinci ResolveにはカラーページやFusionページなど、強力な映像制作機能が用意されている。そのため、DaVinci Resolveをカラーグレーディング用ソフトとして認識してきた人の中には、「エディットページは本当に本格的な編集に使えるのか」と感じる人もいるだろう。筆者自身、実際の番組制作へ導入する前には、その点を確認する必要があった。
しかし、複雑なテレビ番組を実際に編集してきた現在では、エディットページを補助的な編集機能だとは考えていない。多数の素材を扱い、多数のトラックを積み重ね、テロップやワイプ、マルチ画面を組み合わせながら一本の番組を作り上げる。そうした制作でも、十分に中心となる編集環境として使えている。
むしろ、編集、カラー、Fusion、音声といった工程を一つのアプリケーションの中で扱えるDaVinci Resolveだからこそ、その後の工程も見据えたワークフローを設計しやすい。
筆者自身も、最初は一人の編集者としてDaVinci Resolveを使っていた。しかし導入を経験する中で、現在では編集環境そのものをどう構築するか、どのように運用すれば現場が使いやすくなるかという相談を受ける機会が増えている。
実際に使う編集者と、システムを設計する側が別々に考えると、「なぜこの機能が必要なのか」「実際の現場では使わないのではないか」というズレが起こることがある。DaVinci Resolveへの移行を考えるうえでは、単純に既存環境の機能をそのまま置き換えるのではなく、実際の編集者がどのように操作するのかまで考えて環境を作ることが重要だと感じている。
Premiere ProからDaVinci Resolveへ移行する相談を受けると、多くの人が最初に機能を比較する。「Premiere Proにはこの機能がある」「DaVinci ResolveにはこのAI機能がある」といった比較である。もちろん、それらも重要である。しかし実際に毎日番組を編集する立場からすると、それだけで編集ソフトを判断することは難しい。
テレビ番組のオフライン編集では、まず構成を作る。どの映像を使い、どの順番で見せ、どこで間を取るのか。番組そのものを組み立てることが最初にある。エフェクトや画像加工は、その後に必要に応じて加える要素である。
だからこそ筆者は、DaVinci Resolveを評価する際に、個々の機能より「編集者が力を発揮しやすいか」という点を重視している。必要な機能が揃っていることに加え、その土台となるカット編集を安心して続けられることが重要なのである。
「大丈夫、使える」と言えることが一番大きい
DaVinci Resolveへの移行について相談を受けると、編集者から最も多く聞かれる言葉はシンプルだ。
「大丈夫?」
「本当に使える?」
長年使ってきた編集ソフトを変更するのだから、当然の不安だと思う。ショートカットが変わる。画面が変わる。今まで当たり前に使っていた機能の場所も変わる。新しいAI機能がいくつ増えたとしても、この不安がなくなるわけではない。
そのとき、テレビ番組の編集で実際にDaVinci Resolveを使ってきた筆者が答えられることは、非常にシンプルである。少なくとも筆者が担当してきた環境では、複雑な番組編集にも十分使用できている。そして何より、安定して動き、思ったことをすぐ操作へ移せる。
DaVinci Resolve 21には多くの新機能がある。しかし、それらをすべて使わなければならないわけではない。必要なときに使える機能があり、その下には安定したエディットページがある。筆者にとって、その順番が重要である。
優れた編集ソフトとは、機能の多さを意識させるものではなく、最終的にはソフトの存在を忘れて映像だけに集中できるものなのかもしれない。
「この機能がすごい」ではなく、「これなら安心して一本の番組を任せられる」
テレビ番組のオフライン編集という立場から見れば、それこそがDaVinci Resolveのエディットページに感じている最大の強みである。