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会話劇のドラマで、出演者が入れ替わり立ち替わりセリフを交わすシーン。

タッチパネル上で発言者から発言者へ、次々とフォーカスを送っていく—小さな液晶での操作は誤爆がつきものだし、対象が人物から外れて背景に持っていかれることも多い。だが、ソニーFX5は、その不安を最後まで裏切らなかった。人物以外にピントが飛ぶことは一度もなく、送りの速度もソフトで自然だった。

このFX5というカメラ、実は相当に規格外だ。本体価格はソニーストアでの本体価格は税込812,900円。だがその中身は、16bitのX-OCN RAWを内部収録できるという、ソニーのCineAltaシリーズ譲りの核心を備えている。上位機BURANOの市場推定価格は約430万円—単純計算で5倍以上の価格差があるにもかかわらず、FX5もX-OCNの内部収録に対応する。センサー解像度がBURANOの8.6Kに対してFX5が5Kということはあるにしても(FX5はこの解像度の差が有効に働いているようにも感じる)海外のクリエイターの間で「FX3の後継ではなく、BURANOのミニ版だ」と評されているのも頷ける話だ。

今回、ゲーム素材用のドラマ映像の撮影でこのデモ機を数日間お借りする機会を得た。液晶、AF、データフォーマット、耐久性—現場で確かめてきたことを、ひとつずつ書いていきたい。

なぜFX5だったのか

今回の撮影は、その大半が主観映像だ。プレイヤー視点で画面が動き続けるカットが多く、必然的にジンバルでの移動撮影が中心になる。当初はFX6での撮影を考えていた。監督所有の機材だったこともあり有力な選択肢ではあったが、ジンバル運用の比重を考えるとFX3も現実的な視野に入っていた。そんな中、せっかくならとFX5のデモ機を借りて使ってみることにした。結果として、今回のカットのほとんどはFIXも含めてFX5で撮影することになった。

決め手になった4軸マルチアングル液晶

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チルト派が懸念する運搬時の液晶剝き出しもバリアングル機能もあるので閉じることができる

正直に言うと、バリアングル液晶が苦手だ。光軸に近いチルトの方がしっくりくる。かといってチルトだけでは、縦位置や変則的なアングルで詰むことも多い。FX5のデモ機に触れて最初に好印象を受けたのは機能でも画質でもなく、この液晶パネルだった。上方向に約98°、下方向に約40°のチルトに加え、180°開いて270°まで回転する。複雑な構造にもかかわらず、華奢な印象はない。「チルトかバリアングルか」という二択に、FX5はひとつの答えを提示してきた。

ジンバルでの主観運用は基本的にチルトで済ませられる。ただ、ローアングルのようなアームの位置によってはモニターが陰に隠れて見えづらくなる瞬間がどうしても出てくる。そんなとき、迷わずバリアングルに切り替えて視認性を確保できる—このチルトとバリアングルを状況で行き来できる臨機応変さは、正直、期待以上だった。

スリー・ベースISOの威力

FX5はISO800・4000・12800のトリプルベースISOを備えている。この800と12800の間に4000が加わったのは大きい!

800では足りないけど12800までは使いたくないなぁ~、というケースが多かったのだ。今回は800と4000でナイトシーンも十分だった。強いて言うなら低感度ISO100、800、4000というトリプルベースでもいいくらいだ。いやいや、ISO 12800で助かることもたまにある。明るい分には対応ができるが暗い時の対処は難しいので、今の設定がちょうど良いのかと思い直してみる。

それと、ボディ内手ブレ補正(IBIS)は強力で、スタンダード、アクティブに加え、画角はさらに狭くなるが手ブレ補正をより強力にする電子式の「ダイナミックアクティブ」まで用意されている。
このダイナミックアクティブ手ブレ補正は、主観映像という今回の性質上、狭い状況などでのジンバルなしの手持ち撮影も時々登場するのだがジンバル撮影と違いが分からないほどの安定感だった。

AF—タップフォーカスが人物から外れない

FX3を選ぶ理由の一つに、オートフォーカス性能への信頼がある。FX3の627点像面位相差AFに対し、FX5は759点のファストハイブリッドAFで、AI処理に特化した回路を統合したBIONZ XR2による人物姿勢推定(骨格・姿勢ベースの認識)を備える。顔が見えにくい状態でも被写体を追従できるため、ワンオペレーション撮影やジンバル撮影で有利に働く。冒頭で触れた、複数人が入れ替わり立ち替わりセリフを交わすシーンでのタップフォーカスは、まさにその成果を実感した瞬間だった。

FX3のAFは常々「会話できるAF(ダメな時の突っ込みも含めて)」と思っていたが、FX5のAFに関しては「お前腕上げてきたなぁ~」と声をかけたい。

そういったこともあってAFに関しては明らかにFX5がBURANOを追い越している。BURANOのAFは627点の像面位相差方式で、これはFX3と同世代だ。FX5のような759点+AIによる人物・動物・鳥の骨格姿勢推定は備えていない。しかも8.6Kという大きなセンサーゆえにBURANOは読み出し速度がFX3・FX6より遅いことが検証で報告されており、私自身、BURANOのAFは瞬発力に欠けると感じていた。ただ、BURANOを使うような現場では、フォーカスプラーがいることが多いのでAFが問題視されることは少ないのだが、RAW収録が必須でAFを使わなければいけない状況ならBURANOよりもFX5を選ぶだろう。

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音声トラックが4chあることでTentacle Syncでタイムコードを3chに入れて1、2chにはガイド用のカメラマイクを生かすことができるのも助かる。屋外撮影では可変NDは必携だろう。奥に見えているのはFX6、Vバッテリー仕様にしているとシネカメラの存在感は確かにある

本命はデータフォーマット

液晶でもAFでもなく、今回のFX5で本当に注目すべきはデータフォーマットだと思っている。撮影時間が多く、その後にも膨大な処理の時間を要するゲーム用映像ということもあって、今回はXAVC-Lで軽快に運用したが、内部収録でX-OCN—16bitシーンリニアの圧縮RAW—を選べるという事実は無視できない。
しかもX-OCN LTに加え、データ量を抑えたX-OCN C1/C2にも対応する。C1はXAVC-I/XAVC S-Iに近いビットレートを実現し、C2はC1からさらにデータ量を抑え、高フレームレート撮影にも適したフォーマットだ。

つまりこの一台は、日々のカット数が多い現場をXAVC-Lで軽くこなしながら、いざ映画基準やCMオンエア基準が求められた瞬間には、同じボディのまま応えられる懐の深さを持っている。

「LT」という文字には、正直、抵抗がある人も多いと思う。ProRes LTの印象があるからだろう—LTといえば、画質を削った軽量版という刷り込みがある。だがX-OCNのLTは階層がそもそも違う。ProRes LTが「変換済みの映像をさらに圧縮する」話なのに対し、X-OCNのLTは「センサーの生データを、変換せず圧縮する」話だ。同じ「LT」でも、立っている土俵が違う。

X-OCN LTは16bitのセンサーデータをそのまま記録する方式で、階調は65,536段階。10bit・最大1,024段階のXAVC-Iとはファイルサイズこそ近いものの、宿しているデータの厚みがまるで違う。しかもFX5はX-OCN LTに加え、新しいX-OCN C1/C2に対応する。一方、BURANOは現行でX-OCN LTに対応し、2027年5月以降予定のVer.4.0でX-OCN STへの対応が予定されている。両機の対応フォーマットは同一ではないものの、FX5が小型ボディでX-OCNの内部収録に対応したこと自体が大きな特徴だ。その上を求めるならVENICE 2の領分になる。つまりFX5は、RAW記録という一点において、一段下ではなくBURANOの隣に立っている。

X-OCN収録に関しては今回の作品の収録後、テストしてみた。

そのままDaVinci Resolveに読み込むとX-OCNもS-Log3収録のXAVC同様のトーンで現れる。これは プロジェクト設定のカラーサイエンスが「DaVinci YRGB」の設定になってしまっているからである。これを「DaVinci YRGB Color Managed」などするとガラッと様相が変わる。ResolveのカラーページでCamera RAWを選択できるようになり、そこで「デコードに使用」の項目で「クリップ」を選択すると露出・WB・ハイライト/シャドウの復元など現像するような感覚で自由が利くようになる。

これはグレーディングの前の段階で、グレーディング前にかなりの自由度で映像を調整できるのだ。手間はかかるが画質的には相当なアドバンテージだ。

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上がXAVC-IのS-Log3そのままのイメージ。これに通常のLUTを当てると中心部の窓外は飛び気味になり、両脇の暗部はつぶれてしまうだろう
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こちらはX-OCN LTの画像。撮影時の設定はISO 800だが、Camera RAWで2500まで露出を上げ、ハイライトを-50にし、中心部の遠景もディテールを取り戻している。彩度は上げていないがこれだけのローコントラストでもしっかりと色彩を残している

ちなみにX-OCN LTとX-OCN C2の画像比較もしてみたが、自分の眼力では違いが掴めなかった。データ量が半分近くまで下がることを考えるとC2の使い勝手は力を発揮するに違いない。

あと、FX3から大きく変わった点としてはS&Qモードがある。ここは考え方からして違う、FX5の場合はベースのフレームレートを選択し、その後FIXかVariableを選ぶことができる。そこで自由にフレームレートを選ぶことが可能だ。最低1fpsから4Kは最大120fps、FHDでは240fpsになる。

フレームレートや解像度によって、収録フォーマットに制限があるので、あらかじめ確認が必要だ。

少し変わった操作感覚

そういえばFX3にはあったαシリーズ特有の円形ダイヤルにセンター、四方向ボタンが集約されたコントロールホイールが廃されて、右上のダイヤルに変更された。これもBURANOやVENICEに通じる操作感でBIG6のパネルと相まって、快適でミスが少ない操作を実現させている。

FX3の3型から3.5型に液晶が大型化されたということもあるがファインダー装着時の操作はしやすい。

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今回は一緒にファインダーもお借りできたのだが、作品の性質上うまく活用することができなかった。メディアもまだSDカードの選択肢を残してくれていることもありがたい

バッテリーは変わったが、体感は変わらない

バッテリーは新型のNP-SA100に切り替わり、従来のFZ100系バッテリーはそのまま使えなくなった。容量は2670mAh、FZ100比で約1.3倍というスペックだ。AIプロセッシングやX-OCN処理で消費電力は確実に増えているはずだが、3日間・朝8時から夜22時までの撮影を通して、FX3+FZ100時代の感覚から「やや余裕を感じるか」ぐらいの変化だった。バッテリー側の底上げが、処理負荷の増加をきっちり相殺している格好だ。

炎天下でも動じなかった耐久性

外観上の変化はFX3に比べてわずかに厚みが増した程度。炎天下での耐久性は頼もしかった。撮影日は気温31℃、日陰のないプールサイド。手元の映像トランスミッターは熱暴走で機能停止したが、FX5は最後まで何事もなく回り続けた。

USB-C×2という余裕

特筆すべきはUSB-C端子が2口あることだ。電源供給とタイムコード入力を同時に確保できるのは地味に大きい。今回は録音部のTentacle SyncがmicroUSB-B端子のみだったため、マイク入力側の3chにタイムコードを入れる運用で対応したが、USB-C対応機器が今後さらに増えていくことを考えると、この2口という余裕は今後じわじわ効いてくるはずだ。

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ボディサイズが厚みを増した分、端子の配置も余裕を感じる。バリチルトと相まってケーブルと液晶の干渉も少なくなりそうだ。

このコンパクトさで実現して欲しいというのが酷だが、内蔵NDフィルターを持たないことと、SDI出力を備えていないことは、現場で何度か惜しいと感じた部分だ。ただ、これはレンズ前フィルターやカメラモニターにHDMI to SDIの機能を持たせるなどで解決することなので、このコンパクトさと価格を犠牲にしてまでつけて欲しいとは思わない。

あとSuper35モードで3.2Kの収録というのは心もとない。ただ、FX5にも超解像ズームという4Kを維持したまま1.5倍によれる機能が存在する。これだけシネカメラ然としたスタイルを持っていながらこの超解像ズームを残してくれたのは嬉しい。

FX5はどのポジション位置するのか?

FX6からBURANOへの価格差は、ボディのみでおよそ70万円から430万円前後。これはどちらかというとVENICE 2に近い。一方FX3(約55万円)からFX5(本体約81万円)への差は約26万円、倍率は1.5倍程度に収まる。BURANOが、VENICE 2の画質を持ったFX6並みの使い勝手を備えたVENICE弟分といった感覚に対し、FX3→FX5のジャンプは「その気になれば手が届く延長線上」に収まっている。

VENICEやBURANOで培ったRAW記録という核心を、FX3くらいの小ささと、手が届く価格に落とし込んできた—それがFX5というカメラの立ち位置なのだと思う。

おわりに—神輿から掌へ

かつてソニーF65という、担ぐこと自体が一苦労なほど巨大なカメラを好んで使っていた時期がある。2012年に発売されたこのカメラは、デジタルでありながらローリングシャッターを抑えるための物理的なロータリーシャッターを備えたカメラだった。だが、あの重さと嵩は、単なる物理的な制約ではなかった。撮影現場においてカメラそのものが神輿のように扱われ、その存在自体が権威でありシンボルだった時代の話だ。

それが一変したのは、2020年にα7S IIIが出た瞬間だった。当時、民生機にもかかわらず、TVドラマの撮影に投入し、フルフレームの画質とAFの撮影スピードを享受できた。当時はまだ、どこか背徳感すらあったのを覚えている。それがすでに6年前か…。
そしてFX3に至っては、コンパクト機の完成形とまで思っていた。

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カメラにとって、大きさとは何なのだろう。ハイエンド機と肩を並べる性能が、今や掌に収まるボディに宿っている。その事実には、正直、一抹の物悲しさがある。現場の中心にあったはずの"存在感"が、静かに失われていくような感覚だ。

だが今回、FX5のデモ機を通してもうひとつの感覚も芽生えた。プールサイドの炎天下、ジンバルを持って主観映像を追いかけ回すあの撮影は、神輿のようなカメラでは到底不可能だった。カメラが小さくなったのではない。カメラが持っていた"権威"が、撮影の現場自体に移動しただけなのかもしれない。そこに、物悲しさ以上に可能性も感じている。FX5は、その移動の先にある可能性を、はっきりと感じさせてくれる一台だった。

WRITER PROFILE

小林基己

小林基己

CM、MV、映画、ドラマと多岐に活躍する撮影監督。最新撮影技術の造詣が深く、建築と撮影の会社Chapter9のCTOとしても活動。