スマートフォンのデザインや技術特許を侵害したとして、米Appleと韓国サムスン電子が互いに訴えていた裁判で、米カリフォルニア州連邦地裁の陪審団は8月24日(現地時間)、Appleの主張をほぼ全面的に認め、サムスンに約10億5000万ドル(約825億円)の賠償支払いを命じる評決を下した。この額はAppleが主張していた損害の半分にも満たない額。サムスンの通信関連事業の年間売上高の1.5%に過ぎないという。一方、通信に関する技術特許を侵害されたとしたサムスンの訴えは棄却された。サムスン側は正式な判決を待って控訴するとみられる。
評決によると、Appleがサムスンに侵害されたと主張していた7件の特許のうち、Appleの「iPhone」の形状のデザインや、タッチ操作技術など6件について侵害を認定した。これを受けAppleは一部サムスン製品の販売差し止めを7日以内に申請する計画を明らかにしている。判事は販売差し止めに関する審問日を9月20日に設定した。
今回の訴訟では、「ギャラクシーS III」は対象外。しかしAppleが今後、「ギャラクシーS III」についても特許侵害を主張する可能性もでてきており、サムスンは今後、米国で「ギャラクシー」を販売できなくなることも否めない。しかし訴訟が始まった1年前から、サムスンは新製品にデザイン変更をほどこしてきている。今回の評決を受け、今後はさらなる変更をする可能性が大きくなったが、特許を侵害しない製品をすぐに市場に投入するとみられる。
アナリストの間では、テクノロジー会社として世界最大の売上高を持つ「サムスンへの影響は非常に限定的」と見做している。評決がもたらす打撃は、サムスンというよりもかえってMotorolaやHTCを含め、Android OSを採用したスマートフォンのメーカー全体が受ける打撃の方が大きいかもしれない。
今回のApple vs サムスン法廷問題が世界に知られたことで、サムスン・ブランドの知名度が高まったという見方もある。スマートフォン市場の急激な成長を見せている中国では、この4~6月のサムスンのシェアはAppleのほぼ2倍である。
サムスンのような競合社が新たな製品カテゴリを開拓すれば、Appleが遅れをとる可能性が大きくなる。サムスンの電話機能を搭載したタブレット端末「Phablet (ファブレット)」と呼ばれる「Galaxy Note」は、次世代機を8月29日に発表する予定。Phabletは、「指が最高のインターフェース」と生前に語っていたAppleの元CEOスティーブ・ジョブズ氏に対抗して、タッチペンを使った手書き入力機能が搭載されている。
Appleとサムスンの間では、世界10カ国および地域で同様の訴訟が起こされており、豪州ではサムスンが実質勝訴するなど、各国で判断が分かれている。日本でもサムスンがAppleの「iPhone 4S」の販売差し止めを求めた訴訟の判決が、今月31日に東京地裁で予定されている。
また先週の米評決を受け、27日午前の韓国株式市場でサムスン電子の株価が急落、一時は前週末比7.7%安の117万7000ウォンを付けた。ほぼ4年ぶりの大幅下落となる。
米ロイターの報道によると、大信証券のアナリスト、ジョン・パーク氏は「損害認定額が市場の予想を大きく上回ったことが原因。今後数日、調整は避けられない。販売差し止めの可能性など不透明要因も残っている」と述べている。市場アナリストの間では、サムスンの本年度の収益は、特許関連の費用が重なって4%ほど減少するだろうと予測している。
(山下香欧)