7月2日、ロンドンに拠点を置くシネサイトと、カナダのバンクーバーにあるイメージエンジンが合併を発表した。今回の合併により、両社はワールドワイドで525人以上のアーティストを抱え、ロンドン、バンクーバー、モントリオールの3拠点で675人が働けるスタジオ・スペースを持ち合わせるVFXスタジオとなり、ワールド・クラスのVFXを世界中のクライアントに提供していく事を目指すという。

シネサイトの歴史は古く、元々はコダック傘下のVFXスタジオとしてアメリカのハリウッドに拠点を構えていた。その歴史を振り返ってみると、親会社のコダックは80年代後半にハリウッドで「シネオン・システム」のデベロップを開始し、それらを駆使して92年8月、コダックのデジタル映像センターとしてシネサイト・ハリウッドをオープンした。

設立当時はフィルムのスキャン&レコーディング、デジタル・インターミディエト及びデジタル・リマスタリング等を業務の要としていた。それに付随する形で設立されたVFX部門では、得意のコンポジット及び3DCGを駆使し、「スペース・ジャム」(1996)、「007/ダイ・アナザー・デイ」(2002)、「X-MEN2」(2003)等の多数のハリウッド映画のVFXを担当していた。そして94年にはシネサイト・ロンドンをオープン。シネサイト・ロンドンは2000年以降、「ハリー・ポッター」シリーズの波に乗って成長を遂げた。

その反面、シネサイト・ハリウッドは2003年に閉鎖となり、シネサイトの拠点はロンドンのみとなった。2012年にコダックが会社更生法に基づく倒産手続きに入ると、コダックはシネサイト・ロンドンを投資会社Endless LLPに売却。これにより、シネサイト・ロンドンはコダックから独立して営業を続ける事になった。以降、シネサイト・ロンドンは「X-MEN」や「ハリー・ポッター」シリーズでBAFTA(英国アカデミー賞)やアカデミー賞における受賞やノミネートに貢献して来た。

イメージエンジンは1995年にカナダのバンクーバーに設立。設立後しばらくは「スターゲート」等のテレビシリーズのVFX制作が中心だったが、2005年以降のバンクーバーVFXブームの波に乗り、ニール・ブロムカンプ監督の映画「第9地区」(2009)で一躍その名を知られるようになる。また2012年には映画「はやぶさ 遥かなる帰還」のVFXを担当している。最近の担当作品には「チャッピー」「ジュラシック・ワールド」「エリジウム」「ティーンエイジ・ミュータント・ニンジャ・タートルズ」等がある。

シネサイトのマネージング・ディレクターのアントニー・ハント氏は次のように述べている。

ハント氏:今回の合併で、シネサイトとイメージエンジンは、良い相互関係を築いていく事でしょう。我々は異なる地域においてVFX制作を継続していきます。シネサイトは、傘下の作品開発会社コミック・アニメーションを有し、彼らが進めている長編アニメーション作品の作業をロンドン、バンクーバー、モントリオールの3拠点でシェアする形で進めていきます。

また、イメージエンジンの経営最高責任者(CEO)グレッグ・ホームズ氏は、次のようにコメントを発表している。

ホームズ氏:今回の合併は、我々のクルーにとって、新しいキャリア構築の機会となり、よりハイクオリティのVFXを生み出していく礎となるでしょう。また、我々のクライアントや金融パートナー、株主等に利益を提供していく事でしょう。

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筆者が関係者に取材した範囲では、今回の合併は、シネサイトがイメージエンジンを吸収する形での合併になるという。また、イメージエンジンのブランド名はそのまま残される見通しだという。筆者は、ロンドンのシネサイトと、バンクーバーのイメージエンジンという、国もカルチャーも異なる2つのVFXスタジオが合併する事に、意外性を感じている。

この2社に共通している点は、ロンドンもバンクーバーも、VFX産業に対する補助金制度が大きい土地柄であるという事だけである。シネサイトにしてみれば、巨大な「VFXハブ」となったバンクーバーや、VFX産業に対する税の還付率が高いケベック州とのアクセスが生まれ、より低いランニング・コストで制作を行えるという利点があるのかもしれない。イメージエンジンにしてみればロンドンに新しい拠点が生まれる。いずれにせよ、新生シネサイト・ロンドンとイメージエンジンの今後に期待したい。

(鍋 潤太郎)