パナソニックは、富士フイルムが開発した有機薄膜(OPF)を用いた有機CMOSイメージセンサー(有機CMOS)による、従来比100倍のダイナミックレンジまで時間差なく撮影できる技術を開発した。本技術により、逆光やライト照射下に被写体があるような明暗差が大きいシーンの撮像でも豊かな色階調の再現ができる。従来のHDR処理のように、露光時間を変えて順次撮影したデータを合成することがないため、高速に動く被写体の高精度な撮像が可能になるという。パナソニックと富士フイルムは2013年から、OPFを用いた有機CMOSイメージセンサーの開発を進めている。
従来のイメージセンサーは、シリコンフォトダイオードを使って光を電気に変換し信号電荷を蓄積していた。一方有機CMOSでは、光を電気信号に変換する機能をOPFで行い、電気信号の読み出しを行う機能を下層の回路部で行うという、完全独立構造になっている。OPFは従来のシリコンフォトダイオードよりも光吸収係数が大きく、また0.5μmと膜が薄いため、60°の広い入射光線範囲で光を効率よく利用することができ、混色のない忠実な色再現性が可能になる。またレンズの設計自由度が増すことで、カメラの小型化も実現できる。従来はシリコンフォトダイオード以外の部分に光が入るのを防ぐ遮光膜が必要だったが、有機CMOSは全面に薄膜を形成できるため、センサー面上の全ての光を受光することができる。これにより、従来比1.2倍の感度を実現し、暗いところでもクリアな映像を得られるという。
1画素内に明暗2つの感度検出セルを備えた1画素2セル構成技術。この高飽和セルでは読み出し時間以外、常に信号電荷の蓄積を実施する。そのため、信号の撮像欠けによる、LEDフリッカー/蛍光灯フリッカーの問題が発生しない構造となっている
1画素内に感度の異なる2つの画素電極、信号電荷蓄積量の異なる2つの容量、2種類のノイズキャンセル構造のセルが設けられている。よって、異なる構成のセルで明るいシーンと暗いシーンを同時に撮影することができ、従来のイメージセンサー比100倍のダイナミックレンジ123dBを実現する。
パナソニックは本技術の特許を、出願中を含めて国内58件、外国44件を取得している。今後この有機CMOSを、監視・車載用カメラ、業務放送用カメラ、産業検査用カメラ、デジタルカメラなど、幅広い用途に採用していく。
また、この新開発の有機CMOSを利用して、従来比約10倍の明るさの環境下でも高速に動く被写体を正確に撮像できるという、光電変換制御シャッター技術も発表した。光電変換を行うOPFと、信号の電荷蓄積を行う回路部を独立に設計可能な構造上の特長を生かし、これまでグローバルシャッターで制約されていた飽和信号量を拡大させて明るいシーンでも高速な被写体を正確に捉えることができる。さらに、OPFへ印加する電圧を変化させることでシャッター感度を制御し、1枚の画像内で対象物の動きを色の濃淡で表現することができることから、動き方向の検出(モーションセンシング)も行えるという。
画素ゲイン切替え回路による「高飽和画素技術」により、従来のCMOSイメージセンサー比約10倍の飽和信号量が可能に。ローリングシャッター動作もセンサー駆動の設定切り替えだけで実現する
OPFに印加する電圧や印加時間を変化させることで感度を可変にできる「感度可変多重露光技術」で、1回の撮像で動体速度に合わせた最適露光が得られることによる動体・文字認識や、時間に応じた感度濃淡を付けた撮像で、動き検出時の進行方向情報の取得が可能
(山下香欧)