アドビは、9月14日よりオランダのアムステルダムで開催する「IBC 2017」でAdobe Creative Cloudの映像制作ツールの次期アップデートの内容を先行公開した。製品の提供は2017年後半を予定。国内では、11月28日にパフィシコ横浜で開催予定のアドビ最大のクリエイティブイベント「Adobe MAX Japan 2017」にて最新版の紹介を予定している。
今回の発表に先立ち、東京・品川区のアドビ日本オフィスで実際にPremiere ProとAfter Effectsの現在開発中のバージョンを使いながら製品の新機能を紹介するアップデート記者説明会が行われた。今回のバージョンアップはユーザーから要望の多かった作業時間の短縮を実現するための機能が中心で、それらの機能をアドビでPremiere ProやAfter Effectsなど映像制作ツールを担当する古田正剛氏が紹介をした。そこで披露された内容を紹介しよう。
Premiere Proにワークフローの連携強化やVRの新機能を搭載
■プロジェクトを複数同時に開いて同時作業が可能
次期アップデートによりPremiere Proではプロジェクトを複数同時に開いて同時作業ができるようになる。全5話や全10話などのような連続ドラマの場合は、プロジェクトという作業単位を「第1話」、「第2話」、「第3話」と分けて作業を行うのが一般的で、番組の内容によっては第3話で第2話のエピソードを振り返りをするようなケースも多い。これまではメディアブラウザを使ってプロジェクトを開いて必要なデータをひっぱってこなければいけなかったが、複数のプロジェクトを同時に開いてメディアやシーケンスをコピーすることができるようになりエピソード間を連携する編集作業がしやすくなる。
プロジェクト間での共同作業やを同時に開いて作業することが可能になる
■「プロジェクトロック機能」で共同作業に対応
ローカルエリアネットワークでの共同作業ワークフローを改善するアクセス管理機能をプロジェクトロック機能を搭載する。これにより、自分が編集をしているプロジェクトを他のネットワークユーザーに対して読み取り専用にでき、1つのプロジェクトファイルを複数のエディターが同時に書き込む事故を防ぐことができる。プロジェクトロック機能はプロジェクトパネルの左下にロックアイコンとして追加され、ロックアイコンは意図的に切り替えて使用する。
画面左下に鍵のアイコンを搭載。鍵の色が緑のときはロックを解除している状態
鍵が赤の場合は他人がロックをしていて自分が編集できない
■間隔を自動的に検知して詰める「間隔を詰める」機能を搭載
クリップとクリップの間にあるギャップや黒味などの空白を自動的に検知して詰める「間隔を詰める」機能を搭載する。間隔を詰める作業は短い尺のコンテンツでは手間はかからないが、10分、20分、1時間、2時間のような長尺の場合にスペースがどこにあったのか分からない状態になってしまう。このようなスペースを埋める作業というのは煩雑で、特に1コマや1フレームだけの空白は探すだけでも大変な作業となっていた。
メインメニュー→「シーケンス」メニューに「間隔を詰める」が搭載される
■ラベルカラーの種類の数を追加
クリップに8種類の色を適用できるラベルカラーが16種類に増える。使えるラベルカラーが増えることによって素材数が多い複雑なプロジェクトでも編集作業を進めやすくなる。
使えるラベルカラーが大幅に増えた
■VR対応のエフェクトを標準搭載
「エフェクト」パネルに「イマーシブビデオ」と呼ばれるVRの360°ビデオに対応したエフェクトやトランジションを標準搭載。360°VRビデオに通常の「ぼかし」エフェクトを追加すると360°映像の境目が見えてしまうが、「イマーシブビデオ」の「VRぼかし」を使えば境界をぼかすことができる。
エフェクトに「イマーシブビデオ」と呼ばれるVRエフェクトを標準搭載
360°VRビデオに従来の「ぼかし」エフェクトを適用した状態。縦の線がくっきり現れ、連続性が失われている
360°VRビデオに「イマーシブビデオ」の「VRぼかし」エフェクトを適用した状態。360°映像の端が繋がっている
■VRヘッドマウントディスプレイを使った空間内での編集機能に対応
ヘッドマウントディスプレイを使ってVR空間の中で編集作業に対応する。次期バージョンではレンダリングせずにMercury Transmitの出力をヘッドマウントディスプレイで確認ができる。再生などのナビゲーションも可能で、Premiere Proからヘッドマウントディスプレイをしたままタイムラインのレビューが可能になる。
下の写真で左側がOculus Riftのヘッドセットから観える画面。VRの編集作業をより没入した環境の中で実現できるようになる
After Effectsに外部データと連携やキーボードショートカットの新機能を搭載
■レイヤーのトランスフォームがGPUでの処理に対応
After Effectsでよく使うレイヤーの位置やスケール、回転といった基本的な処理が、CPUのほかにGPUでの処理にも対応する。GPU対応で大幅にパフォーマンスアップアップを実現する。
■JSONと連携したモーショングラフィックスの制作が可能
Webの世界で構造的な情報を効率的に扱うテキストベースのデータフォーマットの「JSON」からモーショングラフィックスの生成を支援する機能を搭載。例えば天気予報のJSONを使用して今後12時間の天気の変化をアニメーションするといったことも可能になる。
■キーボードショートカットのカスタマイズを簡単に実現
After EffectsでもPremiere Proと同様にキーボードレイアウトでキーボードショートが設定できる。
今まではその都度テキストファイルを書き換えてショートカットを作っていたが、Premiere Proと同様に簡単にカスタマイズしてキーボードショートが設定できる
Auditionに自動ダッキング機能を搭載
■人の話が入った場合にBGMの音を自動的に下げる自動ダッキング機能
BGMが流れているところで人の話が入った場合にBGMの音を自動的に下げる自動ダッキング機能を搭載。時間がかかっていた会話とBGMのバランスを調整する機能が、次期Audition CCのアップデートで自動的に行うことができるようになる。
■After Effectsの付属アプリのCharacter Animatorが正式リリース
今までAfter Effectsに付属するアプリケーションという位置づけだったCharacter Animatorが、単独のアプリケーションの「Character Animator 1.0」という形でリリースする。物理演算シミュレーションを搭載し、重膂力や弾性、バネのような挙動などをCharacter Animatorで表現できるようになった。
古田氏は今回の発表会の冒頭でPremiere Proの単体プランが昨年と比べて49%伸びていることを紹介した。これまで映像制作というと映画やテレビといった限られたメディアのものというイメージであったが、最近ではFacebook、Instagram、Twitterといったソーシャルメディアや企業内のコミュニケーションを円滑にする手段でもビデオが一般に使われてきており、映像というものが今までの文字や写真とかの延長にあるコミュニケーションの1つの形として広く認知されてきている。
Premiere Proは、4K/8K VRに対応する非常に強力な編集ツールとして有名だが、いまや一般の人でもPremiere Proを使う時代になってきていると言う。プロからアマチュアまでさまざまなユーザーに使用されるアドビの映像制作ツール。次期アップデートも待ち遠しい内容といっていいだろう。