ハッセルブラッドグローバルアンバサダーのSails Chong氏

「たかがウェディングのカメラマン」と思われたくない。常に自分の限界を見つめて行きたい

上海で活躍する中国トップクラスのウェディングフォトグラファーSails Chong氏が先日、横浜で行われたCP+2018の会期に合わせて来日。息を飲む美しい風景を背景にしたウェディングフォトが話題のフォトグラファーで、ブロンカラーやハッセルブラッドのアンバサダーとしても活躍中だ。これまでの撮影の体験談や、普段から使用しているカメラ「ハッセルブラッドH6D-100c」ついて会場で話を聞くことができたので紹介しよう。

――ウェディングフォトグラファーのSails Chongさんが設立しましたStudio NEXT-IMAGEとは、どのようなスタジオですか

Chong氏:Studio NEXT-IMAGEは、2008年に発足したスタジオです。現在、中国の上海をベースに、廈門、武漢、香港にスタジオを開設しており、今年4月にはインドネシアのジャカルタに新しくスタジオをオープンします。ウェディングの撮影からスタートしましたが、今ではコマーシャルや映像撮影もやらせて頂いています。私は社長で撮影全体を見ていたり、会社経営も一部担当しています。

ちなみに、新スタジオがなぜインドネシアなのかといいますと、今、ウェディング業界においては、中国も日本もそろそろ限界が見えてきています。逆に、今、絶好調のマーケットといえばやはり東南アジアのベトナムかインドネシアですね。ただ景気からみるとインドネシアのほうが上だと思いますので、ジャカルタに開設しました。

――Studio NEXT-IMAGEの写真は、とても自然と女性が美しいという強烈な印象を感じます。ご自身では自分の写真をどのようにご説明されますか

Chong氏:機材と画質も特長ですが、写真的には文句を言わせない構図や正確な露出にこだわっています。結構そういう面は堅いのですよ。また、自分の表現力も特長です。ただ単に再現するのではなくて、自分は何を表現したいのかというのをライティングを使うことによって、作り込みを行っています。なにより、一番自慢にしているのが「チーム全体の団結力」と「何かやろう」という気持ちですね。

Sails Chong氏の作品をまとめたイメージ

――Studio NEXT-IMAGEはYouTubeでメイキングを積極的に発信されています。あれはどのような意味で発信されていますか

Chong氏:私は「今年1年間で何本のプロモーションの撮影を撮ろう」と自分にノルマのような課題を与えています。そしてそのコンテンツとロケーションを決めて、スポンサーを探して、チーム揃って撮りに行っているのがあの映像です。メイキングの撮影を映像としてきちんと残してYouTubeで発信をすることで、Studio NEXT-IMAGEのプロモーションにもつながっています。

――メイキングの映像を見ると密林や山岳地帯も多く、もはや探検隊のドキュメンタリー映像のようなレベルですね。必ずブロンカラーのparaを開くカットが入っているのも印象的です

Chong氏:メイキングにはドローンを使って空撮も行っています。メイキングは、もともと結婚式の前撮り写真から始まり、「やるには、前回を超えないと意味がない」と思っているうちにどんどんスケールが大きくなっています。チームも大きくなって、コンテンツ的にも前撮りから商用、ポートレート、コマーシャル向けの方向に変化しています。

――撮影にペンキや煙を撒いた撮影もありましたが、演出のこだわりを教えてください

Chong氏:限界を見つめたいのですよ。「たかがウェディングのカメラマンでしょう?」と思われているのを否定したかったのです。私達はコマーシャルのカメラマンでもできないことを実現している。常に自分の限界を見つめたいのです。そして限界を超えてもう一つ上の自分になりたいと思っています。

色のついたペンキを撒いて撮影

完成した写真

色のついた煙を撒いて撮影

完成した写真

――爆発を使ったウェディング写真も話題になりました。この撮影のエピソードを教えていただけますか

Chong氏:あれは爆発させて撮ったのではなく、たまたま爆発の現場に居合わせて撮ったものです。上海にある映画スタジオで、映画のチームが戦争時代の映画を撮っていて本番の前に一回リハーサルがありました。そのリハーサルを見て、「うわぁ。爆発だ」と凄く興奮しました。でも向こうは映画のチームであり、映画の撮影の最中で、私達がその爆発を使った撮影の許可は絶対無理だと思いました。しかし、一回は撮ってみたい。でないと、絶対に後悔が残ってしまう。

そこで、映画チームのアシスタントさんに次の爆発のタイミングを聞いて、お客様にポージングを決めておいてもらいました。「でかい音がするから、絶対に動いちゃいけないよ。OKというまでに、動いちゃいけないよ」みたいな感じです。全部説明をして、一発で撮りました。その撮った写真を映画のチームにもお見せしましたが、喜んで頂けました。

1つ上の自分に進化するために、真似でもいいので積極的に挑戦して撮る

――カメラについてお聞きします。撮影にハッセルブラッドを使われていますが、ウェディンの撮影でしたら感度に強いAPS-Cや35mmフルサイズがいいのでは?と思われるのですけれども、あえてハッセルブラッドを選ばれている理由はなぜでしょうか

Chong氏:中国ではウェディング業界に携わっている人間の人数は600万人と言われています。ようするに、競争が激しいのです。ウェディンフォトグラファーを始めた頃の話ですが、激しい競争から抜け出すためには何をすればいいのかを考えまして、とりあえず機材から変えてみることにしました。同じ35mm同士の別ブランドに変えるのでは特に意味がないので、中判カメラに変えてみました。中古でコンタックス645やマミヤ645、67、富士フイルムのGX680、Rolleiを購入して一通り使ってみました。その中から最終的に選んだのがハッセルブラッドです。

ハッセルブラッドを選んだ理由は、ただのカメラではなくてきちんとした中判デジタルカメラシステムになっているところです。あとは、機動性と伝統的、それと知名度、ブランド力です。なにより一番使いやすい。中判にも関わらず、35mmに近い感覚で使えるのが大変に気に入っています。ハッセルブラッドは中判カメラで大きくて重いと思われがちですが、キヤノンのEOS-1D X Mark IIは電池を含んで約1530gとレンズのEF50mm F1.2L USMは約590g、ハッセルブラッドH6DとHC 80mmレンズ、バッテリーは2,130gでほぼ変わりません。

中判デジタルカメラシステムのハッセルブラッド「H6D-100c」

――ハッセルブラッドと35mmフルフレームカメラの画質の違いを教えてください

Chong氏:一番わかりやすくて見てすぐにわかるのは、焦点がしっかりしていて、くっきり見えるところです。桁が違う画質ですね。あとは、極端な撮影の場合ですが、「白を背景に白を撮る」とか、「赤を背景に赤を撮る」などの場合の色の階調は中判デジタルカメラのほうがかなり上です。それと15f-stopsのダイナミックレンジもポイントです。ウェディングに限っていいますと、ウェディングドレスって常に反射率の一番高い白が多いので、背景の露出が正しいにも関わらず、ドレスだけ白飛びしてしまうケースがよくあります。ただ、中判デジタルカメラの場合は、ダイナミックレンジが広いですし、あとはレタッチできる余裕みたいなものが35mmに比べて広いのです。

――ハッセルブラッドの機能で、気に入っているところがあれば教えていただけますか

Chong氏:2つあります。H6Dはフィルム撮影にも対応できるところです。フィルムは、新人教育のために使っています。やっぱり今のカメラマンは、液晶モニターですぐに確認できるのに頼りすぎています。いつでも撮れる、いつでも消せる、という習慣がある限りは技術は上達しません。限られた枚数の中で、ゆっくり考え込んでじっくり撮ることにより技術は上達します。フィルムは現像するまで時間がかかります。現像して、見て、これは駄目だったらそこから反省する。これの繰り返しが上達の秘訣です。

もう1つのポイントはレンズシャッターを搭載しているところです。レンズシャッターがついていないカメラは中判カメラとはいえず、ただセンサーの大きな35mmカメラというイメージとして認識しています。私の場合はほとんどのシーンにライティングを行っています。そしてプロであれば、レンズシャッターによるストロボの全速同調が絶対に必要です。もしストロボの同調スピードが限られると、手足が縛られているみたいな感じになってしまいます。

――ハッセルブラッドは2016年頃から新しいシャッターユニット採用により1/2,000秒のシャッタースピードを実現できるようになりました。そのメリットを享受することはありますか

Chong氏:昨年、初のアジア開催で上海で行われました「ヴィクトリアズ・シークレット ファッションショー2017」を撮影する機会がありました。その現場では、モデルさんの動きが早くて、レンズに向かって歩いてくる。そうしたときにストロボ併用なしで被写体を止めるというのは昔の中判カメラだと非常に困難でした。しかし、この現場では、1/2,000秒までできるようになったことが非常にありがたかったです。

また、スポーツの撮影で、ストロボ併用なしで自然光の中の動きの早いスピードを撮るというのは昔だと不可能に近かったです。それが今だと完全にできます。日差しの強いロケ撮影の場合は、ボケ味を持ちながら自然光を遮断したい場合は、やっぱり高速なシャッタースピードがないと駄目でした。それができるようになり、非常に助かっています。

――ハッセルブラッドはH5DよりCMOSセンサーを搭載して高い感度でも撮影が可能になりました。普段はどのくらいの感度で撮影されていますか

Chong氏:基本は最高画質を実現できる感度を選んでいます。H6Dの場合は最低感度としてISO64までできるのですが、オリジナルの感度であるISO100に設定して撮影をしています。イベントとか結婚式の撮影は別として、ストロボと組み合わせて撮影をしていますので特に高感度に頼ることはありません。

H6D-100cは53.4×40.0mmの1億画素CMOSセンサーを搭載。CMOSセンサーを搭載することで、ISO64から100、200、400、800、1600、3200、6400、12800まで対応する

――レンズに関してはどの焦点距離の使用頻度が高いですか

Chong氏:一時は広角がないと迫力がないとか、望遠がないとまずいとかそう思う時代がありました。しかし、今になっては80mmの標準レンズが一番好きです。やっぱり人間の視覚に一番近く、非常にクラシック的な視覚のほうがいいと今になって思うようになりました。今では撮影の途中もレンズの交換がなく、標準1本で最後までやり遂げるということもよくあります。

――ハッセルブラッドからミラーレスカメラ「X1D」も発売されました。もし使われているとしたら、Hシステムとどのようにして使い分けますか

Chong氏:X1Dは、中判デジタルカメラにも関わらず35mmよりもコンパクトにできていますし、手触りもいいです。レンズシャッターを搭載しているので、商業撮影にも十分に使えます。私はHシステムをメインに使っていますので、X1Dは予備機として使っています。

ただX1Dで助かるのは、海外撮影の場合です。海外撮影の場合は、機内持ち込みの重量とサイズが限られまして、Hシステムの多くの機材を海外ロケに持ち込むのは困難です。大量の機材を持ち込んで東南アジアの国に入国をしょうとすると税関をスムーズに通過できません。しかし、X1Dならばスタイリッシュな外装を実現しているので税関をスムーズに通過できます。また、X1Dは周りの警戒心を高めることはありません。施設の中などでスムーズに撮影したい場合はX1Dのほうがいいですね。

ボディとバッテリー込みの重量が725gと軽量で、5000万画素CMOSセンサーを搭載するミラーレスカメラ「X1D-50c」。XCD 3,5/120MM、XCD 3,5/45MM、XCD 3,2/90MM、XCD 3,5/30MM WIDE ANGLEのレンズをラインナップしている

――H6Dには映像を撮影する機能が搭載されています。あまり目立った機能ではないのですが、使われることはありますか

Chong氏:ありますよ。最初はそんなに期待してはいなかったですが、使ってみると画質的もいいですね。さすが、イメージセンサーの面積は35mmフルレームの2倍あるし、レンズの質もぜんぜん違います。そこで撮ったビデオは、凄く重みがあって、ボケもきれいです。奥行きや立体感も凄く35mmにくらべたら遥かに上です。

――最後の質問になります。写真撮影で自分の技術をさらに高めるためや、今の若い人へのアドバイスがあれば教えていただけますか

Chong氏:まずカメラマンは、誰もが撮りたいものと、請負として撮るものがあります。請負として撮るものに関しては、商売として成り立たせつつ、自分の撮りたいものを常にトライしないといけません。でないと同じ内容を同じような形、同じタイミングで何回も撮ってしまうと、本当に固まってしまって動けなくなってしまいます。1つ上の自分に進化するためにも、やっぱり常に最初は誰かの真似からスタートしてもいいのでどんどんと挑戦して撮ることです。

もう1つはライティングの知識です。ライティングは、再現力と表現力があります。再現力は、カメラマンプロとしてのベースであって、表現力はライティングを使うことによって、自分の表現したいものを実現することです。これは凄く大事なことで、それがプロとアマチュアとの間にある最後の境界線だと思います。

もう1つ最後に言葉の勉強です。写真撮影の技術には関係ないかもしれませんけれども、同じ文化で育った人間同士とのコミュニケーションだけでは成長の限界は知れています。やっぱりまったく違う文化で育った人たちとコミュニケーションをとることにより、自分の成長にも繋がるし、美意識のレベルアップにも繋げることができます。