アートディレクター清田優氏との対談の様子
コーマシャルフォトグラファーのブランディングとは?
9月8日、東京・原宿にあるハッセルブラッドストア東京で、コーマシャル界の第一線で活躍しているフォトグラファー・長山一樹氏による「中判デジタルカメラ H6D講座」の第3回目が行われた。最終回となる第3回目は、長山氏自身が撮られたドキュメンタリー写真の紹介や、コマーシャルフォトグラファーのブランディング、アートディレクター清田優氏との対談の3つのテーマを紹介した。
その中のコマーシャルフォトグラファーのブランディングをどういった形で行っているか?という話は気になる内容だったので、その部分を中心に詳しく紹介しよう。
長山一樹プロフィール
ファッションや広告、フォトブックなどコマーシャル界の第一線で活躍中。ハッセルブラッドのV・H・Xすべてのシステムを使いこなすフォトグラファーでもある。
Instagram @kazuki_nagayama
・2001年:株式会社麻布スタジオ入社
・2004年:守本勝英氏に師事
・2007年:独立 S-14に所属
一番大切なのは自分を知ること
最初に、ブランディングで最も重要なのは、「自分という人間を知ること」と強調して語った。長山氏も写真の仕事を始めたときは自分のかっこいいと思うイメージを形にした経験があるというが、それよりも大切なのは自分の好きや、自分が表現したいことを理解して表現をすることだという。憧れていた写真像があっても結局、自分が表現されていなければ次第に人に見てもらえなくなるという。
ホワイトボードを使って解説する長山氏
また、仕事を得ようとする際に、他人がやらないことをやろうと考えることもあるが、それは「人と違う」という思考だけ。そこに自分の好きや表現が入っていないのは問題だという。大切なことは、同業者との差別化を考えるよりも、「独自化」を特に意識して、「自分はどうしたいか?」「自分はどういう目線でそれを見るか」を自分の言葉でできること。どの仕事に対しても自分を意識しながら取り組むことが大切だと語った。
説得できると、興味をもった人たちが集まる
写真の方向性についても解説をした。長山氏には「流行の写真をコピーする」「流行に逆らう」「自己流で進む」の三原則の方向性があり、流行のコピーは今っぽくて受け入れられやすい。その逆の流行に逆らうのは数が少ないので目は留まるが、それを受け入れてくれる人は少ない。どちらにも当てはまらない自己流で進む場合は、天才肌かまったく仕事として相手にさてないかのどちらかになるいう。ではどのようにして自分のスタイルを確立するのか?自身の体験談をこう語った。
僕も最初に選んだのは憧れている写真を意識をして、「こういうのものがかっこいい」「こう撮れば正しいのではないか」と思って撮っていた時期もありました。これだけでも精度の高いかっこいい写真が撮れましたので、仕事を頂けました。しかし、それだと「長山というカメラマンは何なのかわからない。ほかにもこれ撮れる人がいる」というふうになってしまいます。やはり流行を追っても仕方がないのです。
となると、「人と違うことをしよう」と考えます。流行と逆の思考で行動を起こすと、今度は「あの人作品が変わったね。変わったから動きがあっていいね」と受け入れられて仕事を頂く場合もあれば、逆に「ふらふらしていてどっちつかずで全然ダメだね」と評価される場合もあります。
そして流行も逆行も意識をしない自己流で進むことにしました。次第に経験を積むと、流行をまったく意識しない自分がいて、自分で好きな答えを出せるようになりました。
ですが、流行も逆行もやらずに自己流ができるかといえば、たぶんできないと思います。思考錯誤しながら「自分はなぜその場所で撮るのか?」「なぜこの人のこういう表情を撮りたいのか?」「なぜこの色なの?」いろんなものがあるのですけれども、すべて自分の答えがないと人は説得できません。
自分の答えが出せると、その答えを欲しがる人に声をかけられたり、喜んでくれる。その結果、相乗効果が生まれて、それを欲しいという人がまた集まってきます。つまりとても需要なのは、自分を知ること。ようするに自分の好きなものを説明ができることなのです。
自分らしいドキュメンタリー写真とは?
今回の講座の中では、1億画素の中判カメラ「ハッセルブラッドH6D-100c」を使用して撮影したドキュメンタリー写真の解説も行われた。なぜドキュメンタリー写真かというと、仕事でファッションや広告の撮影をしていると、ゴールの答えを出す方法はだいたい似たような結果になってしまうことに危機感を感じ、自分発信であることや自分だけでコントロールできる写真を撮りたい思いがきっかけになったという。
自身初の個展「ON THE CORNER NYC」を4月に渋谷ヒカリエでで開催したが、取材時にはハッセルブラッドストア東京でもラージプリントの回想展が行われていた
舞台はニューヨークの交差点で、交差点をたまたま撮った写真に見えるが、実は歩行者は合成をしたものだ。長山氏自身が、面白いと思った歩行者を記録して合成をして、もしこの人がここにいたら面白いだろう、という写真を実現している。また、1億画素のカメラを使ってすべて細かいところまで見える圧巻の高精細さを実現しているのも特長だ。
ドキュメンタリー写真の撮影に関しても「自分しか撮れない写真とはなにか?」「何をしたら自分しか撮れないドキュメンタリー写真になるのか?」を考えたという。PRONEWSの読者の方は映像系のカメラマンが多いと思うが、「自分を知る」「自分らしく」という長山氏のブランディングの話は十分参考になったのはないかと思う。