EOS C500 Mark II(左)と拡張ユニットの「EU-V2」(右)
※EOS C500 Mark IIの写真は開発中の試作機。外装印字などは製品版と異なる

EOS C500 Mark IIはEOS C700 FFと同じフルフレームセンサーを搭載

キヤノンは9月6日、5.9Kセンサーとさまざまな撮影スタイルに対応できるデジタルシネマカメラ「EOS C500 Mark II」を発表した。発売は2019年12月下旬で、希望小売価格はオープン。市場想定価格はボディのみで税別約176万円。

EOS C500 Mark IIは、小型軽量ボディに5.9Kフルサイズセンサーを搭載し、外部レコーダーを使用せずにRAWデータを本体内部に記録可能な意欲的な新モデルといえるだろう。

キヤノン株式会社の執行役員 大川原裕人氏とイメージソリューション事業本部の鳥居信之介氏に話を聞くことができたので紹介しよう。

左からシネマカメラの開発を担当したイメージソリューション事業本部の鳥居信之介氏、執行役員の大川原裕人氏、ディスプレイの開発を担当したイメージソリューション事業本部の永嶋義行氏

――小型でありながら、フルサイズセンサー搭載、RAWの内部記録を実現するなど、「こんな機種を待っていた」みたいなシネマカメラを発表されました。EOS C500 Mark IIを実現する上で、最大の課題は何でしたか?

大川原氏:EOS C500 Mark IIの開発では、基本性能を上げつつ、フレキシビリティをいかに製品形態の中に持たせていくかを、一番の課題と考えました。

ここで言うフレキシビリティとは、運用スタイルの自由度や撮影スタイルの自由度、将来の拡張性に対しての布石などのことです。これらを踏まえて本体の形状や機能、アクセサリーを含めてのシステム展開など、いかにフレキシビリティを上げていけるかをテーマに開発させていただきました。

左は新製品のEOS C500 Mark II、右はフラグシップモデルのEOS C700 FF
※EOS C500 Mark IIの写真は開発中の試作機。外装印字などは製品版と異なる

――EOS C500 Mark IIは、フルフレームセンサー搭載も大変大きなニュースです。搭載の背景を教えてください。

大川原氏:当社は2008年にデジタル一眼レフカメラ「EOS 5D Mark II」を発売しました。このEOS 5D Mark IIがきっかけで、多くのシネマ業界の方々にフルフレームによるボケ味が認知されたと思います。

そして2011年11月、映像制作用のレンズやカメラで構成するCINEMA EOS SYSTEMを新たに立ち上げ、2012年1月にスーパー35mmセンサー搭載のシネマカメラ「EOS C300」を発売しました。しかし、その当時から「なぜ、EOS 5D Mark IIのようにフルフレームではないのか?」と、フルフレーム搭載のリクエストをずっといただいておりました。

このご要望にお応えする意味で、弊社のフラッグシップモデルのEOS C700にフルフレームを搭載するモデル展開をさせていただきました。EOS C700は、映画撮影のAカメかつ最上位のトップエンドを狙って開発したモデルですので、金属外装を採用し、堅牢性や信頼性は高めましたが、ポータビリティという面に関しては改善の余地がありました。

これまでEOS C300シリーズをお使いになられているお客様からは、機動性に関してはさらなる向上を期待する声をいただくことがありました。そこで、EOS C500 Mark IIでは、ポータビリティの実現とEOS C700 FFのフルフレームセンサーを継承したボディをまとめさせていただきました。

EOS C500 Mark IIは、フルフレームセンサーを採用。NDフィルターで見えないが、奥に17:9のEOS C700 FFと同じセンサーを搭載している
※EOS C500 Mark IIの写真は開発中の試作機。外装印字などは製品版と異なる

――新製品は、EOS C500の後継ラインナップとして誕生しました。EOS C500はかつてのキヤノンのデジタルシネマカメラにおける最上位モデルでしたが、そのシリーズを継承した意味を教えてください。

大川原氏:EOS C500 Mark IIでは、1台でローバジェットからハイバジェットまでの仕事にすべて適用できることをコンセプトとしました。EOS C700 FFのフルフレームセンサーを受け継ぎながら、コンパクトなボディや拡張性のあるアクセサリーとの組み合わせで、チームでの撮影やワンマンオペレーションにも使用できます。

初代EOS C500では当社初の4K映像をRAWデータで出力可能とし、外部レコーダーを使用することで4K RAW記録が可能でした。RAWは映像クオリティと情報量が高く、その後のポスプロ処理のグレーディングの自由度がもっとも稼げる記録形式だと認識しております。

ですので、RAWをメインコーデックとして、かつEOS C700を下支えするモデルとして、フルフレームで4K RAWを内部収録できるということで、EOS C500の位置づけとしました。

EOS C500 Mark IIは、当然RAW収録だけではありません。当社のラインナップの中のEOS C200では、RAWの内部収録の実現と同時にファイルサイズの小さいMP4の圧縮コーデックに対応を特徴としていました。しかし、Cinema RAW Lightでは、60Pで10ビット、30Pで12ビットの記録が可能ですが、MP4ではYCC4:2:0の8ビット対応で、その差がありすぎるとご指摘を多数いただきました。

EOS C500 Mark IIでは、それらのリクエストにもお答えするために、内蔵RAWに加え、EOS C300との互換性の高いXF-AVCのH.264のIntraとの組み合わせを最初にお使いいただくコーデックの種類とさせていただきました。

EOS C500 Mark IIを手に持つ大川原裕人氏。本体は小型、軽量、コンパクトデザインを実現。重量は約1,750g

――EOS C500 Mark IIは、メモリーカードにCFexpress 2.0を採用しました。なぜ、CFastではなく、CFexpressを採用したのでしょうか?

大川原氏:5.9K60PをそのままRAWの内部収録するのにはこれまでのCFastではスピードが足りませんでした。ですので、さらに上位のスピードクラスを選ぶ必要がございました。

そこで、将来のことも考えると、例えばCinema RAW Light の4K120PだとCFastカードでは収録ができません。8KもHEVCであれば収録できるかもしれませんが、H.264のままでは8Kは対応できるメディアではないというのも理由です。ですので、エンジンを「DIGIC DV 7」に一新させていただいたこの機会に、記録メディアも将来の展開を含めてスピードが担保できるCFexpressに切り替えさせていただくこととしました。

メモリーカードにはCFexpress 2.0を採用
※EOS C500 Mark IIの写真は開発中の試作機。外装印字などは製品版と異なる

――RAWの内蔵記録はEOS C500 Mark IIの大きな特徴ですが、内蔵記録にこだわった部分を教えてください。

鳥居氏:EOS C500やEOS C700では、外部レコーダーの搭載によってシステムが一回り大きくなってしまう問題がありました。後ろに伸びれば伸びるほどバランスを取るのも難しいので、軽量化してコンパクトにしてほしいというご要望を多数いただきました。そういった問題の解決として、内蔵記録の実現を重点的に考えました。

――EOS C700とEOS C500 Mark IIの違いについて気になります。その中でもRAWの違いについて教えてください。

大川原氏:EOS C500 Mark IIはCinema RAW Lightで、EOS C700はCinema RAWを採用しています。Cinema RAWはフルな状態のデータ量を持っており、Cinema RAW Lightはある程度軽くさせた収録が可能で、データ量の違いが大きな点です。ただ、画でそれだけのクオリティの差がでるかというと、それほどの違いはありません。

EOS C200で実装したCinema RAW Lightはご覧になっていただいていますが、皆様からCinema RAWとの差はわからないと言っていただくほどの高い評価をいただいております。

――キヤノンでは、WebサイトでCinema RAWとCinema RAW Lightのサンプルデータを公開していますが、屋外のシーンの約5秒のデータでEOS C700約3.42GB、EOS C200約592MBでした。まったく容量が違いますね。

鳥居氏:ドッキングに対応したHDDレコーダーを外部に設けないと大容量がさばけなく、その容量があってRAW映像を記録ができました。このデータ量が巨大なのも我々の中でも課題だと認識しておりました。

いかにデータ量を軽くするかを検討させていただいたうえで、EOS C200ではCinema RAW Lightを搭載させていただきました。Cinema RAW Lightは、映像クオリティをできるだけ落とさないでデータ量が多いRAWを軽くしたテクノロジーの進化の部分だと認識しています。

EOS C500 Mark IIが外部レコーダーなしで、RAWの内部記録が可能
※EOS C500 Mark IIの写真は開発中の試作機。外装印字などは製品版と異なる

――マウント交換ができるマウントシステムもEOS C500 Mark IIの大きな特徴です。どのような経緯でマウントシステムを実現することとなったのでしょうか?

大川原氏:EOS C300を最初に発売した際は、PLマウントの「EOS C300 PL」、EFマウントの「EOS C300」と、異なるモデルとして発売をしました。購入後はサービスへの持ち込みで、フランジバックの性能を担保しつつ、マウントを交換させていただく形で対応させていただいておりました。

しかし、スチルレンズやシネマレンズをいろいろ使いたいから、お客様自身でマウントを交換したいという要望を多くいただきました。自分たちで交換したいと希望する一部のディーラーさんやレンタルショップに対しては、交換キットを提供させていただきましたが、お客様自身となると性能の担保がなかなかできず、そこまでのご要望に対して踏み込んだかたちでご提供ができませんでした。

今回はそのご要望に対して検討させていただき、EOS C500 Mark IIではお客様自身でマウント交換ができるようになりました。

鳥居氏:EOS C500 Mark IIで実現したマウント交換システムは、マウントの高い精度と強度の確保を実現することが設計の中ではポイントでした。マウントの取り付け面を金属部品で構成し、かつ精度を追い込める加工にしておりまして、一点一点の部品寸法精度を上げております。

それ以外にも、傾きなどが生じても補正しやすい構造を実現しております。具体的には、シムと呼ばれるスペーサーの形状を再設計し、精度の確保を実現しつつ、着脱しやすくするような工夫を盛り込みました。

また、PLマウントの「EOS C700 GS PL」からCooke/i Technologyに対応しております。このようにマウントからの通信を実現する電気接点がありますが、お客様には意識せず、簡単にマウントを交換していただける工夫をしております。EFマウントとPLマウントを交換すると、内部でどちらのマウントかを自動的に判別して、メニュー等も対応するマウント用に自動で切り替わる工夫を盛り込んでいます。

このようにお客様が実際に交換する作業を考えてお使いいただけるレベルに改めて再設計しつつ、機械的な強度を担保したことが一番のポイントです。

大川原氏:マウント交換には、EFマウントにロック機構を備え付けたシネマロックタイプの「EFシネマロックマウントキット」も用意しております。シネマロックタイプでは、レンズ交換の際にレンズを回転装着する必要はありません。つまり、マットボックスやリグを組んでカメラからレンズを回せない状態のときは、ロックを外していただくだけで前方からレンズ交換が可能です。大型ズームレンズを使った撮影の際に好まれる機構です。

一方、ワンマンオペレーションでドキュメンタリー撮影の際には簡単にレンズ交換が可能な従来のEFの形がお勧めです。EFマウントは、交換レンズをボディに差し込んで回転させるだけで完了します。本体とレンズに視線を向けなくても交換が可能なほど、手軽に交換が可能です。

左がPLマウントキットの「PM-V1」、右がEFシネマロックマウントキットの「CM-V1」

――最後に、これまでご紹介いただいた以外のEOS C500 Mark IIのアピールポイントがあればご紹介をお願いします。

大川原氏:EOS C500 Mark IIは、モジュール構造の採用で、予算に合わせてこれ一台でワンマンオペレーションの撮影からクルーを組んで撮影するといった撮影スタイルの広さが特徴です。

たとえば、AFの応答の速度だとか、ピン送りの味付けなどを、カスタマイズができるようにしてあります。また、ビューファーをお使いいただく際、暗いシーンで被写体を見たいのに、画面の周りの情報表示が眩しすぎて瞳孔が小さくなって見えないというご指摘をいただきましたので、情報表示の明るさをコントロールできる透過度調整機能を搭載しました。お客様が慣れ親しんだ使い方にこのカメラが対応できるよう、色々なパターンを入れさせていただき、フレキシビリティを持たせております。

鳥居氏:あとは防振です。ワンマンオペレーションで撮る方がジンバルなしでも使えるように防振を搭載してほしいというご要望をいただきました。それならばぜひ入れてみようと考え、CINEMA EOS SYSTEMとして初めて、5軸手ブレ補正が可能な動画電子ISを入れさせていただきました。我々はレンズやセンサーも一緒に手掛けていますので、最適な性能が出せるのではないかと考えて入れさせていただいています。

また、EOS C500 Mark IIでは、これまでのラインナップ同様に、低ISO側を100まで使えるように拡張しております。今年6月より順次発売しているPLマウントの単焦点レンズシリーズ「Sumire Prime」と合わせ、低感度ISOとフルフレームセンサーによって、より開放のボケ感と、柔らかい画を実現しやすい組み合わせでお使いいただけると考えています。ぜひ、EOS C500 Mark IIとSumire Primeの組み合わせも使っていただきたいと考えております。