txt:倉田良太 構成:編集部

キヤノンマーケティングジャパンは、東京都町田市にて、EOS-1D X Mark III(以下:1D X Mark III)を体験できる撮影体験会を開催した。プロフォトグラファー向けに開催されたイベントで、国内ラグビーの全国リーグ「ジャパンラグビートップリーグ」に参戦する「キヤノンイーグルス」の練習風景を被写体に、1D X Mark IIIの実力を体験できるというものだ。

会場には自由に使えるEF600mm F4L IS III USMやEF300mm F2.8L IS II USMなどの望遠レンズが多数用意され、それを普通に手に取るカメラマンの方々が大勢いた。

望遠レンズを自由に選んで体験できるようになっていた。それにしても、ここにある交換レンズの総額はいったいどのぐらいになるのか?気になってしまう

撮影体験会の会場となった町田のキヤノンスポーツパーク

やはり光学ファインダーにつきる

EOS-1D系のカメラは、まさにプロ向け。特に今夏の東京2020オリンピック・パラリンピックなど、スポーツの写真を撮るために要求される性能を満たしたプレミアムフラグシップモデルである。ミラーレスのデジタルカメラが増えている中、1D X Mark IIIは一眼レフの伝統を受け継いだ光学ファインダーを搭載している。

EOS-1D X Mark III。キヤノンオンラインショップの価格は税込880,000円

フィルム時代から続いている光学ファインダーは心地よくて安心感もある。ムービーカメラだってフィルム時代は光学ファインダーが主流だったんだ。とついつい昔話をしたくなるのは置いといて。

1D X Mark IIIは極論すると「これじゃなきゃダメ」という人向けのカメラだ。ライブビューでの機能も非常に充実してるけども、「光学ファインダー+望遠レンズで動きの激しい被写体を写真に撮る」という完全にスポーツや報道で求められる高い性能と信頼性を備えているところであろう。

1D X Mark IIIの特長をまとめて紹介しておこう。

  • 新開発の20.1M 35mmフルサイズCMOSセンサー
  • デュアルDIGIC 6+以上のパフォーマンスをもつ映像エンジン「DIGIC X」
  • 最大191点の測距点を備えた、新ファインダーAFシステム
  • 4K DCI/UHD 60P/フルHD 120P動画記録
  • カメラ単独でのFTP転送などを実現するWi-Fi通信機能

    メモリーはCFexpressカードのデュアルスロット

    CFexpressメモリーカードを採用

    「スマートコントローラー」が非常にいい!

    1D X Mark IIIは、スポーツ写真や報道写真の現場向けのカメラだが、筆者は映像のカメラマンとして動画撮影機能を検証してみた。

    1D X Mark IIIは、AFの自動追尾の機能も充実しているが、筆者の場合、単純にフォーカスを合わせたい場所を1点選択してそこに合わせたいと思っていた。そこで、今回新たに搭載された「スマートコントローラー」は非常に便利だ。

    押すとAF開始。そのままスライド操作すると測距点が動く。スライド操作というのは、撫でるというかドラッグするというか触りながら動かすという感じ。これは便利だ。

    ボタンがON、OFFのスイッチ機能と移動を兼ねており、AFスタートとコントロールのタイムラグがない。素晴らしいアイデアだ。ぜひコンシューマークラスにも搭載して欲しい。キヤノンEOS 20DやEOS 40Dといった頃から使っている身としては、一番感激した機能であった。

    1D X Mark IIIのスマートコントローラーでAF選択

    1D X Mark IIIのタッチ操作でAFフレーム移動

    1D X Mark IIIのオートフォーカスの機能は、動画撮影中でも29.97コマや24コマの動画撮影時にも使える。ただし、RAWや4KやUHDの59.94pと50pでは残念ながら使えない。

    小さい液晶ではフォーカスの確認が難しくピーキングなど工夫が必要だが、オートフォーカスなら安心だ。特に引き画のフォーカスはもうオートの方が非常に楽。フォーカス送りのスピードは調整できるので、ゆっくりフォーカスを送るということも可能。

    またキヤノンは専用のスマートフォンアプリケーション「Camera Connect」というスマートフォンアプリを公開している。スマホでライブビュー画面を見ながらフォーカス位置を変えることができる、非常に便利なアプリだ。1D X Mark IIIでも問題なく使えた。

    1D X Mark IIIのスマートフォンアプリケーション「Camera Connect」を使ったAF選択

    フルサイズで5.5K 12bitのRAW動画の内部記録が可能

    ■RAWのDaVinci Resolveの対応は?

    本題に入ろう。1D X Mark IIIはなんとフルサイズで5.5K 12bitのRAW動画の内部記録ができる。これには、「えええ~、本当に?」と驚いた。この撮影体験会に行くにあたり、まずこの情報をキヤノンWebページで確かめたところ、本当だった。これまで、写真用のデジタルカメラの動画撮影機能はH.264などの圧縮率が高いコーデックと相場が決まっていたが見事に覆された。

    4K60Pの5.5K RAW動画がボディ内部に記録可能だ

    ここで思い出すのは2008年発売のEOS 5D Mark IIの衝撃だ。一眼レフのカメラに搭載された動画機能。今でこそデジタルカメラの動画機能は一般的になっているが当時の衝撃は大きかった。

    あれから11年の時が過ぎて、カメラの立ち位置や環境は大きく変わってきているが、その中で伝統的な一眼レフのカメラにRAW動画の内部記録機能がついたことはエポックメイキングな出来事だと思う。

    RAWの詳細をみてみる。5.5K 12bitのRAW動画の内部記録の仕様は、

    • 5.5K RAW(59.94p/50.00p):約2600Mbps
    • 5.5K RAW(29.97p/25.00p/24.00p/23.98p):約1800Mbps

    ざっと計算してみたが、非圧縮ではない。1/4くらいの圧縮率のようだが、もしかしてCINEMA EOS SYSTEMでおなじみの収録フォーマット「Cinema RAW Light」では?とも思った。

    会場に行って、メーカーのスタッフに聞いてみると「似てるけど少し違う」ということらしい。拡張子は.CRMで一緒のようだ。

    確かに1D X Mark IIIのWebサイトの説明には一言もCinema RAW Lightという言葉が出てこない。撮影データを持ち帰れたので、DaVinci Resolveで開いてみた(バージョンは最新の16.1.2)。

    https://www.pronews.jp/pronewscore/wp-content/uploads/2020/02/200214_canon1DMKIII_-06.png

    ※画像をクリックすると拡大します

    Canon C200 RAWと認識しているようだが、色がおかしい。再生はできたが、RAW現像のパラメータの調整ができない。このあたりはまだ発売前ということもあり、DaVinci Resolve側の早急な対応を望みたい。

    自分のようなDaVinci Resolveでなければダメな人は、Canon Logを使うという手もある。今回RAW撮影の衝撃ですっかりテストし忘れてしまったがCanon Log記録は10bit 4:2:2なのでこちらも相当嬉しい記録方式だ。

    短時間でのテストではコントラストや色について追い込んでチェックできなかったが、機会があればRAWやLogでの表現力もじっくりテストしてみたい気にさせるデータ量である。

    現状、RAW撮影データはDPP(Digital Photo Professional 4)で現像できる。RAW動画ツールを使用する。このアプリはマシンスペック必要かもしれない。筆者の古いPC環境では結構重かった。またFCP XとAvid Media Composer用にはキヤノン純正のRAWプラグインが用意されている。

    https://www.pronews.jp/pronewscore/wp-content/uploads/2020/02/200214_canon1DMKIII_-09.png

    ※画像をクリックすると拡大します

    EOS C500 Mark IIと比較してみると

    キヤノンCINEMA EOSの新世代機種として昨年末に発売されたばかりのC500 Mark IIと比べてみる。あくまでも純粋な映像用途としての比較になるが

    C500 Mark IIの利点として、

    • EVF(別売りではあるが)
    • 内蔵ND
    • EFからPLマウントへ交換可能(別売り)
    • HD-SDIアウト … ビューイングLUTなど充実している
    • Vマウントバッテリー用拡張ユニット(別売り)
    • 音声入力端子など

    こう書くとやはり映像専門のカメラとしてのC500 Mark IIは最新機種ということで素晴らしい仕様だ。最初のCINEMA EOS C300から歴代のカメラを使用しているが、多くの面で進化が感じられる。

    しかし別売りのものも多く、全部揃えると結構高額になるだろう。

    1D X Mark IIIにシンプルなリグをつけて、外付けモニターをつける。EF24-70mm F2.8L II USMとEF70-200mm F2.8L IS III USMのレンズを2本にして両方にバリNDフィルターを装着しておく。こうしておけば内蔵NDがないのはカバーできる。コストパフォーマンスがかなり高い機材の組み合わせになるのではないか?と思う

    それにしても、この一眼レフで撮影できる企画、作品も多いのではないか?ノーマルスピード撮影(29.97コマや24コマ)なら使いやすいフォーカスコントロールもあるしドキュメンタリーやドキュメンタリータッチの撮影にいいかもしれない。

    単レンズでRAW記録と合わせてがっちり撮るというのも面白い。これは純粋にセンサーの質によるのだが、可能性は感じる。どれくらいの画質になるのか?

    上記のように執筆時点では、DaVinci Resolveが対応していないので、カラーグレーディングでどこまでコントロールできるか、これまでの経験との比較ができていない状態ではあるが、早くRAWデータをじっくり触ってみたいものだ。

    GDローパスフィルターやDIGIC Xといった最新技術も合わせて、1D X Mark IIIは実際に動画としてどれくらいの映像を撮影できるか?非常に気になるカメラである。