2025年はAtomos社にとって重要な年である。2025年5月4日、ピーター・バーバー氏が同社の最高経営責任者(CEO)に就任した。NAB 2025では、ヘッドフォン、PTZカメラ、ワイヤレスビデオシステム、クラウドベースの制作エコシステムといった新たな製品群が注目を集めた。これらの動向を踏まえ、Atomos社の新CEOであるピーター氏に今後の事業方針について尋ねた。

ATOMOSを選んだ理由と映像業界を巡る半生

――ピーターさんは2024年2月からATOMOSの最高執行責任者(COO)兼執行役に着任されました。なぜBlackmagic DesignからATOMOSに入社されたのか、Blackmagic Design以前の経緯も含めてお聞かせください。

ピーター氏:

私はBlackmagic DesignからATOMOSに移籍したわけではありません。私のキャリアを知らない人のために少しばかりお話しさせてください。実は80年代半ばにスポーツ中継のカメラマンからキャリアをスタートしました。競馬とかサッカーなど、イベントの撮影です。最終的にはポストプロダクションの仕事をするようになりました。 オーストラリアのメルボルンでポストプロダクションを始めたのですが、当時はビデオテープの編集でした。1インチのビデオテープで、Sony、 Grass Valley、 Cinemaxと、当時のAmpexタイプの機材を組み合わせて使ってました。それを数年間やっていました。

その後、同じ仕事でシンガポール最大のポストプロダクション会社で、当時Video Headquartersと言う企業にヘッドハンティングされて移籍しました。そこは世界初の完全デジタル施設のひとつでした。私は、アジア太平洋地域のハイエンドなテレビコマーシャルを担当しました。

その後、当時Discreet Logicに移籍しました。Discreet Logicは現在Autodeskの傘下にあります。私は何年も前に、アジア太平洋地域で初めてDiscreet LogicのFlameシステムのデモンストレーション・トレーニングやエバンジェリストを担当しました私は数年間、同社でその仕事を行い、ビジネスを立ち上げる手助けをしました。その後、私はシンガポールで自分のポストプロダクションを立ち上げたのです。それはシンガポール初のノンリニア・ポストプロダクションでした。

その仕事を数年間続けました。その後、アップルコンピュータから、アジア太平洋地域でFinal Cut Proビジネスを成長させるために協力してほしいと打診されました。そこで私は、アジア太平洋地域の市場開発マネージャーとしてアジア各国を担当することになったのです。 日本を除く、中国、台湾、韓国、香港、インド、タイ、シンガポール、インドネシア、マレーシアを含む東南アジアからオーストラリア、ニュージーランドまでが私の担当でした。

私たちは、DVDを含むFinal Cut Pro、プロフェッショナル・ビデオ・ソリューション・ビジネスを数年間育てました。2001年以降のことです。しかし、同時にBlackmagic Designも起業しました。 Appleで働きながら、私の給与でBlackmagic Designという小さな会社を立ち上げ、その資金を援助していたのです。 Appleで3年ほど働いた後、退職し、Blackmagic Designにフルタイムで専念できるようになりました。

Blackmagicはキャプチャーカードを手がけ始め、やがてコンバーターも手がけるようになりました。しかし、会社が本当に成長し始めたのは、私が買収を始めたときです。最初の買収はDaVinci Resolveでした。DaVinci Resolve、つまりカラーコレクションですね。

それから1年後くらいに、2社目だったと思いますが、EchoLab、ATEMスイッチャーを買収しました。それからTeranex、フィルム・トランスファーのCintel、それからコンポジットのカナダのEyon社のFusion-ioを統合しました。その次がUltimateだったと思います。それから、オーディオのFairlightで、つまり約7年間で7つの買収を行いました。

その一方で、Blackmagic Designのグローバル・マーケティングにも力を入れました。だから、かなり大変でした。私はワーカホリックだったので、学校を卒業してからこの会社を立ち上げるまで、ずっと働き続けてきました。

私は会社を非常に強力に築き上げ、ビジネスに多大な貢献をしたと考え、2017年に引退することを決めました。そうすることで、まだ子供たちが幼く、学校に通っている期間に、もっと子供たちと一緒の時間を過ごすことができるようになりました。

当時幼い家族もいたので、今こそ一歩下がって、しばらくの間、子供たちに集中する時だと思ったのです。子供たちが私と一緒にいたいと思ってくれているうちに、いい父親でいられるようにと思いました。そして私は子供たちの学校生活をサポートしました。

2017年に一歩退いて、子供たちの成長を見守りながら、他の小さなビジネスやシンガポールでの社会奉仕活動もやっていました。

そして2年弱前、ATOMOSの創設者Jeremy Youngから、ATOMOSの再建のために戻ってこないかと誘われました。というのも、当時ATOMOSはCOVID-19の後、リーダーシップの問題やそのほかいくつかの困難に見舞われていたからです。そこで彼は、ATOMOSに戻ってきて、会社の再建を手伝ってくれないかと頼んできました。私はATOMOSを再建する手助けができるかもしれないと考え、今、そのことに注力しています。

子供たちが英国の大学に進学したところだったので、私生活としてはとてもいいタイミングでした。私は子供たちに若者としての一歩を踏み出させることができました。だからまた、フルタイムで仕事に打ち込むことができるようになりました。そこで私は、ATOMOSの再建に携わることを引き受けたのです。

ピーター氏:

私はATOMOSの投資家でもあるので事業の資本増強を支援し、事業に新たな資金を投入しました。ATOMOSへの投資も支援したのです。だから事実上、私は両社の投資家なのです。現在もBlackmagic Designのオーナーであり、ATOMOSの投資家でもあります。ATOMOSでは第2位の株主です。約9%を占めています。Blackmagic Designは、3分の1弱です。

そのため、両社は私にとって非常に重要ですし、両社にはぜひ頑張ってほしいと思っています。 事実、私は両社が競合相手とは思っていません。Blackmagic Designは、ポストプロダクションから放送、編集、カラーコレクション、そしてすべての機材にいたるまで、非常に多様な製品を提供しています。 一方、ATOMOSは非常に映画制作に特化した会社で、様々なカメラメーカーと仕事をしています。本当に最高のモニターレコーダーを持っていて、様々なカメラの基準で記録できるのは非常に特徴的です。

最初の仕事がカメラマンだった私にとって、この業界に再び携わることはとても魅力的でした。だから、私はこの2つの会社をまったく異なるタイプの会社として見ていて、まったく重なる部分がないと思っています。

なので、Jeremyが何年も前に始めた素晴らしいブランドを引き継ぎながら、もうひとつのオーストラリア企業を強くする手助けをするのは、とてもいい挑戦だと考えたのです。

直面した課題とCEO就任への決意

――最高執行責任者(COO)兼執行役として入社されたときに感じた課題は何でしたか?

ピーター氏:

ATOMOSに入社した時はいろんなところで課題がありました。最初に気が付いたのは資金に関する問題で、私は新たな資金を提供し、事業を再建するために資本を増強しなければなりませんでした。また製品の問題も解決しなければなりませんでした。 在庫の問題もありましたが、その一部はCOVID-19の問題に起因するものでした。また、以前の経営陣のミスに起因するものもありました。そして、Jeremyに会社再建のためのチーム編成を依頼された理由もそこにあります。

そのため、最初にしたことは、事業規模を縮小し、赤字から脱却して再び収益を上げるようにすることでした。在庫とサプライチェーンを改善し、販売チャネルを改善するために、製品を再集中させました。つまり、第一期として中核的なことに取り組んだのです。

――CEOに就任に付くことへのプレッシャーはありましたか?

ピーター氏:

どんな仕事にもプレッシャーはあります。私には、プライドもあります。 私はこのブランドをとても誇りに思っています。良い会社に築き上げたと思いますね。 NINJAやSHOGUN、SUMOといったレガシー製品と、それを今も使ってくれている多くのユーザーの存在は、とても誇らしいものです。

その責任感を持ち続けたいと思っています。軽々しく考えているわけではありません。会社を再建するためにやるべきことはたくさんあります。私は、ATOMOSが重要なブランドであることを誇りに思います。 そして、私たちはATOMOSを以前よりもはるかに発展させることができると確信しています。ある程度の時間があれば、初期の頃よりも大きな会社になるでしょう。そしてその発展の一部は知っての通りです。

NAB 2025で示された製品多様化の戦略とは?

――NAB 2025のATOMOSブースを拝見し、新しい多様化を感じました。ピーターさんが実際に手掛けられた製品やサービスをぜひご紹介ください。

ピーター氏:

NABでは、より多様な製品を提供することで、多くの人々を驚かせることができたと思います。これは私にとって重要なことです。これは明らかに私の事業の方向性の一部であり、私たちはモニター・レコーダーで中核となるフィルムメーカーのお客様に焦点を合わせており、それらは引き続き私たちの中核事業です。

しかし、カメラの周りにエコシステムを構築するためには、それが重要だったのです。これまで、お客様がATOMOSからモニター・レコーダーを購入し、お気に入りのカメラと組み合わせる場合、カメラの周辺にあるマイク、ヘッドフォン、トランスミッター、その他の付属機器を別に探していました。 ですから、ATOMOSがこれらの製品も提供するのは理にかなったことなのです。 私はオーディオにとても情熱を注いでおり、それで昨年フランスのレコーディング会社を買収しました。そのオーディオ技術の一部をATOMOSの製品ラインに導入するつもりです。ヘッドフォンとかマイクロフォンとか、これからもいろいろなことをやっていくつもりです。

その秘密をすべてお話しすることはできませんが、私たちはこの方向性にとても興奮しています。つまり、より大きなエコシステムを構築するということです。そしてそれは、私たちがクラウドで行っていることも含まれます。

それらは人々が私たちに求めていた機能なのです。ですから、それをエコシステムに追加することは理にかなっています。もちろん、ATOMOSは中立的な会社ですから、私たちからそれらのソリューションを購入することもできますし、他社から購入してプラグアンドプレイすることもできます。重要なのは、この業界はオープンでなければならないということです。

皆さん自分の好きなカメラを選んだり、様々な理由から好きなブランドのカメラを持っていたりします。ですから、ATOMOSのレコーダーがそれらすべてで使用でき、プロジェクトに応じてマイクやお気に入りの他の補助機材を使用できるようにする必要があるのです。 ATOMOSのDNAは、中立であること、すべての人と協力することです。

だからといって、中核となる領域を忘れてしまったわけではありません。新製品が登場する一方で、研究開発にも再投資してきました。今年は、研究開発で取り組んできた新製品を主力製品にも投入する予定です。そのため、私たちは本当に懸命に取り組んでいます。 そして、準備ができたら、私たちが取り組んでいるすべての新しいことについて、PRONEWSやPRONEWSの読者の皆さんにお伝えしたいと思っています。そうすることで、どのように製品がラインアップされているか、おわかりいただけるでしょう。

私たちはモニターレコーダーの分野でリーダーシップを維持することに注力しています。また、それを進化させ続け、エコシステムを構築し続けるつもりです。

Blackmagic Designとの連携の可能性と顧客へのコミットメント

――ATOMOSのCEOに就任されて以降、以前在籍されていたBlackmagic Designとの連携の可能性やすでに接触はありますか?

ピーター氏:

なぜそのことにこだわるのか分かりません。違う会社がお互いに違うことをやっているのだから、連携するという理由も、しないと言う理由もない。それがシンプルな答えだと思います。

だから、Blackmagicには大いに頑張ってほしいですし、Atomosにも頑張ってほしいです。しかし、テクノロジーについての話を続けなければなりません。中立であるというこの理念は、クラウドにも移行しています。

ATOMOSphereという新しいクラウド製品は、すべてのAtomos NINJAやその他の録画機器から簡単にアップロードできるように設計されていますが、完全にオープンです。だから、どんなカメラやレコーダーからでも、どんなファイル形式でも、直接ファイルを取り込むことができます。静止画、ビデオ、Raw、オーディオ、PDFも可能です。ファイル形式は問題ではありません。ATOMOSphereに読み込んで、共同制作者やクライアントと共有し、お気に入りの編集ソフトや配信プラットフォーム、あるいは他のクラウドプラットフォームとの間で行き来することができます。

私たちは、手頃な価格で中間に位置するオープンでコラボレーティブなエコシステムを目指してATOMOSphereを作りました。Frame.ioは明らかにハイエンドでスタジオタイプのワークフロー向けで、もう一方はDropboxのような基本的なファイルストレージ向けです。ATOMOSphereはその中間に位置し、メディアフレンドリーなクラウドストレージの共有承認とアーカイブソリューションを提供しています。これは、私がAtomosでエコシステムを構築していく上で重要な取り組みです。私たちは、今後もこの取り組みを続けていきます。

例えば、顧客の視点からいうと、BlackmagicにはBlackmagic BRAWがあり、ATOMOSはProRes RAWに対応していて、DaVinci ResolveはまだProRes RAWに対応していません。顧客にとっての使い勝手の良さが重要です。そして、ATOMOSとBlackmagicがより良いコラボレーションをすることを期待しています。そうすることで、顧客側での使い勝手が向上するでしょう。それが利点のようなものです。

そして、もし私が顧客だったら、同じことを求めると思います。ATOMOSはAppleと密接に協力し、多くのカメラにProResとProRes Rawを提供してきました。私たちが取り組んできたことのおかげで、本当にオープンになっています。DaVinci ResolveがProRes Rawをサポートしない理由は、私にはわかりません。私には非論理的に思えます。

DaVinci ResolveはProRes Rawをサポートすべきだと思います。Blackmagicが望むのであれば、ATOMOSのレコーダーにもBRawを搭載しても構わないと、私たちはすでに言っています。しかし、それはBlackmagicが決めることです。彼らに尋ねてみてください。

全クリエイターを繋ぐエコシステムと多角化戦略

――最後に、ピーターさんが目指す「新生ATOMOS」のビジョンについてお聞かせください。

ピーター氏:

まず、私たちが会社を再建している間、ATOMOSを大いにサポートしてくれたすべての顧客とユーザーの皆様に感謝を述べたいと思います。 彼らのおかげで素晴らしい製品を作り続けることができました。今後もモニター・レコーダーを進化させながら、彼らをサポートし続けるつもりです。そして、エコシステムを構築し、真にコラボレーティブなクラウドを作り上げたいと考えています。 ATOMOSのビジョンは、クリエイティブ業界をサポートする幅広い製品を持つ会社になることです。私たちのコアマーケットは、ミラーレスカメラを使用するクリエイティブな映画制作者ですが、インフルエンサーやポッドキャスターの市場も拡大しており、私たちはそれらもサポートしたいと考えています。

また、放送局をベースとした顧客向けのソリューションも構築しています。つまり、ATOMOSの市場は、中核となる映像制作者、インフルエンサー、そして放送局の3つに広がっているのです。私たちはこの3つの市場を横断してブランドを構築し、全ユーザーベースに広がる互換性のある製品を持つ、より強力で多様性のある企業を構築していきます。

そして、繰り返しになりますが、顧客のサポートとフィードバックがなければ、ここまで来ることはできませんでした。私たちはそのすべてを受け止めたいと考えています。また、研究開発に再投資してきたことで、そうしたポジティブ・フィードバックの結果をご覧いただけると思います。私たちはそれに期待しています。