20220331_bmd_top

Blackmagic Designによると、映像作家のジョナサン・グリフィス氏の最新VR作の編集に、DaVinci Resolve Studioが使用されたという。また、同作のマルチカム・ステレオスコピックVRイメージの処理にはFusion Studioが使用された。

3月3日に公開された、2部構成のVR作「Alex Honnold:The Soloist VR」は「フリーソロ」で取り上げられた、カリフォルニア出身のロッククライマー、アレックス・オノルド氏の姿を追っている。二つの大陸に渡って、人里離れた手付かずの自然の中で、単独登攀する姿を映し出している。Jonathan Griffith Productionsによる同作は、Oculus TVにてMeta Quest VRヘッドセットを使用することで視聴可能。

「Everest VR」で成功を納めたグリフィス氏は、単独でのロッククライミングに関する作品を制作したいと考えていた。それを実現するには、単独登攀でその名を馳せるオノルド氏にアプローチするのは最も論理的なステップだった。しかし、その最初の一歩から先に進むにあたって、VRの世界の素晴らしさを同氏に理解してもらうこと自体が制作過程の一つとなったという。

グリフィス氏:VRにおけるチャレンジの一つは、優れたVRでは驚異的な経験ができると理解してもらうことです。しかし、アレックスに「Everest VR」を見てもらうことさえできれば、その良さを確実に理解してもらえると分かっていたので、ヘッドセットを送りました。「Everest VR」を見たアレックスはVRの素晴らしさに魅了され、単独登攀のVRを優れたものにするための様々なアイデアを得たようでした。

質の高いロッククライミングVRを制作する上でのチャレンジは、ドキュメンタリーの対象に、適切な人物を選ぶことだけではなかった。多数のスタッフや多様な機材を使用せずに、オノルド氏が極限の状況でロッククライミングする姿をリアルに捉えるには、複雑で技術的な計画を事前に行う必要があったという。

グリフィス氏:従来型のメディアで撮影する場合は、ロッククライマーを見下ろすショットと、断崖絶壁でロープを握るクライマーとその下に広がる景色を写したショットが一般的です。

しかし、こういったショットはVRでは使えません。被写体の周囲360°のパノラマショットを撮影しなければならないので、可能な限り崖から離れた位置からカメラで撮影する必要があります。私たちの用いている制作手法では、大きなリグは使用せずに、私が運べる限りの物を使用して撮影しています。映像に出てくる山々を私も登る必要があり、自分でリグ組みする必要があるので、多大なチャレンジが伴います。

グリフィス氏は、360°のビューを捉えるように作られた、8つのレンズを搭載したVRカメラで撮影を行い、8クリップがそれぞれ3840×2880の解像度で収録された。これらのアングルは、その後スティッチングされ、完全な360°のステレオスコピック・イメージが作成された。

エディターのマット・デジョン氏は、DaVinci Resolve Studioを使用して、トップアンドボトムのステレオスコピックの左右の目用に7680×7680解像度のタイムラインを作成した。空間オーディオやマイクトラックの同期などを含む、セットアップを完了させることで、ようやく編集作業を開始できる準備が整った。

20220331_bmd_01

VR制作における重要事項に注意を払うことで作業は円滑に進み、DaVinci Resolve Studioのエディットページ内でFusionの機能を使用できることは、ポストプロダクションにおいて極めて重要だったという。

デジョン氏:VRでは方向が非常に大切で、多くの場合、ショットごとに調整する必要があります。最も重要なことは、視聴者が見るであろうと推測される場所の前に被写体のショットを置くことです。

例えば、ショットAで、被写体が視聴者の前を歩いて、右90°の位置に移動するとします。ショットBの被写体は、同じ場所である中央から右90°の位置にいるべきです。こういった方向の調整は、自分で作成したFusion FXテンプレートを使用しました。これは、Resolveのエディットページから使用でき、カスタムメイドのプラグインのように機能してくれました。

DaVinci Resolve Studioは柔軟性が高く、複雑なワークフローにおいて、作業が楽に行えたという。

デジョン氏:ポストプロダクションのほとんどの作業においてDaVinci Resolveのみを使用したことで、引き継ぎ作業を最小限にできたので大変助かりました。

DaVinci Resolveは、編集、合成、VFX、カラーグレーディング、サウンドの作業に使用できる機能を豊富に搭載しています。グレーディング中に編集作業を行えます。古い編集ソリューションでは、これは絶対にできないことでした。私がカットを微調整し、VFXを調整し、VRの変更を行い、ステレオスコピックの変換を行うと同時に、他のアーティストが同じタイムラインを使用して、別の作業を実行できました。

8つのカメラフィードをスティッチングする作業にも多くの困難が伴ったが、Fusion Studioがその作業をこなした。VRポストプロダクションVFXアーティストのジェームズ・ドナルドとキース・コロドの両氏は、ベースのスティッチングを行い、その後エレメントをFusion Studioに取り込み、クリーンアップとステレオの作業を行った。

コロド氏:まず、ステレオの縦方向のずれと、奥行きに問題が生じている部分があるかチェックし、グリッドワープとFusionの視差ステレオアラインメント・ツールを使用して、それらを修正しました。

Fusion Studioのステレオを視覚化できる機能は、コロド氏やドナルド氏のようなアーティストにとってボーナスだという。

コロド氏:インターレースのステレオモニターがあることで、この作業をスピードアップできました。Fusionはインターレース・ステレオのビューに対応しているので、作業中にヘッドセットを付けたり、外したりして映像を確認する必要がありませんでした。また、ヘッドセットのビューもサポートしているので、次の作業に移る前にステレオのアラインメントをすばやくチェックできました。

ドナルド氏も、Fusion Studioのステレオ機能が非常に役立ったと語る。

ドナルド氏:Fusionのステレオ認識ツールをVRツールと組み合わせて使用することで、他のシステムより安定性と信頼性が高く、型にとらわれないパワフルな機能を多数使用できます。また、個人のアーティストにとっては、手に届きやすい価格でありながら、機能面に優れていることも大きなメリットです。

特に、Oculus VRヘッドセットとの統合機能を頻繁に使用しました。これにより、ステレオでスプラインやマスクを調整したり、ステレオのアラインメントやペイントの微調整をしながら、リアルタイムでプレビューができました。

20220331_bmd_02

ドナルドとコロドの両氏は主にFusion Studioで作業を行ったが、ドナルド氏はFusionがDaVinci Resolve Studioの一部であることにも助けられたという。

ドナルド氏:Fusion Studioではビューをカスタマイズできるので、DaVinci ResolveのFusionページより、そちらを多く使用しましたが、GPUアクセラレーションResolveFXをフルに使用する必要がある場合は、DaVinci Resolveを使用しました。ResolveFXは、タイムラプスのワークフローに欠かせない機能でした。ResolveFX リバイバルのフリッカー除去とデッドピクセル修正ツールも便利で、DaVinci Resolveでは高速に機能します。

VRフッテージのクリーンアップは多くの場合、工数がかかる作業だが、Fusion Studioには作業を効率化できるツールが多数搭載されている。

コロド氏:三脚のリグとワイヤーをペイントノードで塗りつぶし、その後それを一つの目から別の目に変換して、その領域の自然なステレオにマッチするようにしました。

次に、天底と天頂のステレオの奥行きが極度になっている部分を調整しました。こういった要素は、ヘッドセットを使用している視聴者の目に非常に大きな負担を掛けます。それが終わったら、360°カメラの継ぎ目にまたがって写っている被写体の周囲を従来的なロトスコープとクリーンプレートのクリーンアップしました。

このように手の掛かる作業であったため、DaVinci Resolve Studioでは全ての段階が完了するまで、各段階において仕上げの作業を行う必要がない点をデジョン氏とグリフィス氏は気に入っているという。

デジョン氏:個人的に扱える範囲を超える作業を行えただけでなく、DaVinci Resolveでは他の人と協力して作業することを前提に作られているので、様々なプロセスのタイミングの可能性が広がりました。

例えば、カラーコレクションの日程が決まっていたのですが、最終的なスティッチング、最終承認、タイトルカード、クレジットなどが終わっていませんでした。これまでの方法では、おそらくカラーコレクションを遅らせる必要がありましたが、カラリストが私のアクティブな編集タイムラインで直接カラーコレクションを実行できたので、グレーディングの日程を変更することなく、私自身の作業を終わらせる前に、カラーコレクションを完了させることができました。

その後、そのカラーコレクションは私の編集タイムラインで引き続き使用され、最終的なVFX、スティッチング、タイトルカードを完了させたら、それらを必要な場所にドロップするだけで、ボタンを押して納品用に書き出しを行えました。

グリフィス氏にとって完成を待たずにポストプロダクションの段階でVRの映像を確認できる機能を搭載していることは、ポストプロダクション・ツールにとって重要だという。

グリフィス氏:作品が、各段階で成長を遂げていることを確認できた点を非常に気に入っています。編集が完了していなかったり、カラーコレクションが行われていないことを理由に、想像だけに頼る必要がないのは素晴らしいですね。

DaVinci Resolveでは、映写を待たずに、プロジェクトを構築しながら内容を確認できます。最終的な作品を見て、何か重要な要素をポストプロダクションに戻って、修正する必要があると気づくのは大きな障害となります。

複雑なテクノロジーが用いられている作品ではあるが、本作におけるグリフィス氏の最終的な目標は、VRヘッドセットを通して、視聴者にリアルな経験をしてもらうことだという。

グリフィス氏:VRは、非常にリアルで、手を加えない、そのままの姿を映し出し、偽造したり、見せ掛けたりするのが極めて難しいので、そういった点で愛してやまないジャンルです。

カメラを傾けて、崖の勾配が実際より険しいように見せることはできません。一つのアングルの空の彩度を極度に上げることもできません。リアルさが失われてしまいます。VRでは、その場に存在することが重要です。手の込んだショットやスピーディなカット割りは意味を成しません。そこに存在することを偽造することはできません。作品を視聴することで、その場にいると感じられるように構築する必要があります。

そういった面で、VRが好きなんです。単独でのロッククライミングに関する格好いい作品を撮影したいのであれば、自分自身が単独で格好いいロッククライミングを実際に行って、どうやって撮影するべきかを見つけ出す必要があります。それ以外の方法はありません。

20220331_bmd_03